成人スティル病とは? 症状や治療法について深堀り解説します
「成人スティル病」という病気をご存じでしょうか?
成人スティル病とは、長く続く発熱や、出たり消えたりする皮疹、関節痛などを特徴的な症状とする疾患で、「自己炎症性疾患」という病気の中の一種です。
「自己炎症性疾患」というと、聞き馴染みがなく、なんだか怖い病気に思えてしまうかもしれません。
しかし、成人スティル病にはしっかりとした治療法があり、多くの場合、病気とうまく付き合っていくことができます。医療機関をしっかり受診していれば過度に心配する必要はありません。
よく問題となるのは、他の病気でも発熱、皮疹、関節痛は頻度の高い症状であることから、自分の症状が成人スティル病によるものかどうかわからない、ということです。
そこで、この記事では、成人スティル病の症状について詳しく解説しています。これを読んで、もしかして私は成人スティル病かな?と思った方は、ぜひ一度医療機関を受診してみてください。
成人スティル病とは
成人スティル病は、
- 熱が出たり下がったりを繰り返す
- 出たり消えたりする皮疹
- いくつもの関節に及ぶ関節痛
などを特徴的な症状とする疾患です。
子どもに発症する「若年性特発性関節炎」に良く似た症状を示し、これが大人(通常16歳以上)に発症する疾患を「成人スティル病」と呼びます。1971年に初めてその存在が報告されました。
成人スティル病の患者さんは、20〜40歳の若年成人に多いことが知られています1)。男女比は女性のほうが多く、1:2〜3程度です1)。
2011年時点で4760名の成人発症スティル病の患者さんがいると推定されており、人口10万人当たり3.7人となります2)。
成人スティル病の原因は、はっきりしていません。遺伝や環境による要因も報告されていますが、少なくとも家族性に強く発症することはなく、親が病気の場合に必ずしも子供に病気が発症するというような強い関係はないようです。
環境による要因については、さまざまなウイルス、細菌感染症が成人スティル病発症の引き金になることが多く報告されています。ウイルス、細菌感染症は、それ自体が成人スティル病のような症状を起こすこともあるため、見分けに注意が必要です。
成人スティル病は、「膠原病」という病気の中の一種で、「自己炎症性疾患」。多くの場合は膠原病内科で診療。
「膠原病」=「自己免疫疾患」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、成人スティル病は「自己免疫疾患」ではなく、「自己炎症性疾患」の一種。
「自己炎症性疾患」とは、定義はさまざまありますが、「自然免疫」と呼ばれる免疫の機能の一部に異常があり、起こる疾患を広い意味での「自己炎症性疾患」です。
「マクロファージ」という細胞がこの疾患において重要な役割を果たしていると考えられています。
一方で、自分で自分を攻撃する「自己抗体」という物質を作り出してしまい、自分の体の一部を攻撃してしまう病気を「自己免疫疾患」といいます。
成人スティル病は「自己免疫性疾患」ではないため、よく知られている「自己抗体」のリウマチ因子や抗核抗体などは陰性に。
成人スティル病の診断基準
成人スティル病を診断する際、特定の検査だけで成人スティル病と診断できるようなものはなく、患者さんの臨床症状により総合的に診断します。そのため、適切に自身の症状を医師にお伝えいただくのはとても重要です。成人スティル病の症状が出始めの頃には、熱の原因が分からないため「不明熱」と診断されることもあります。
成人発症スティル病は、以下の「山口らの分類基準」をもとに診断します。この基準には、4つの大項目、4つの小項目があります。大項目の2つ以上を含み合計5つ以上の項目が該当し、他の疾患でないと判断できる場合に「成人発症スティル病」と診断します。
<山口らの基準>
大項目:
- 39℃以上の発熱が1週間以上持続
- 関節痛が2週間以上持続
- 定型的皮疹
- 80%以上の好中球増加を伴う白血球増加(白血球 10000/μl以上)
小項目
- 咽頭痛
- リンパ節腫脹または脾腫
- 肝機能異常
- リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性
成人スティル病の症状
全身症状(主に発熱)、皮膚症状、関節症状が高頻度に出現し、成人スティル病の3主徴と呼ばれます。その他にも、特徴的に認められる症状がありますので、それぞれ解説していきましょう。
全身症状
発熱は必発であり、39℃に達する高熱が1日に1〜2度生じ、その間は解熱するという「スパイク状」の発熱(弛張熱といいます)が特徴的です1)。
発熱が長期間に及んでも、感染症などに比べて体力を消耗している印象は少なく、解熱した時は比較的元気。
発熱が原因であることも多いのですが、倦怠感を自覚したり、体重減少を認めたりすることもあります。
皮膚症状
皮疹は、60〜90%に出現し、典型的な皮疹は「リウマトイド疹」とも呼ばれます1)。少し紛らわしいのですが、関節リウマチとは関係ありません。
リウマトイド疹の所見は、サーモンピンクと表現され、数mm程度のできもので、色々なところに散らばってできたり、集まってできたりします。
体幹部や、四肢の体幹部に近いところにできることが多く、発熱と同時に認められることも多いです。痛みやかゆみを伴わないことが多いので、できていても気づかないことも。
皮膚症状が出たり治まったりを繰り返すので、もし見つけた場合は、写真などに収めておくと、診察の際に医師と共有できてとても良いと思います。
病気が長引くと、皮膚症状が消えにくくなることも。その他、成人スティル病の患者さんでは、正常な皮膚を引っ掻いたりすることで皮膚症状が出現することがあります(「ケブネル現象」といいます)。
関節症状
関節症状は70〜90%で出現し、手、膝、足などの比較的大きな関節に多く認められます1)。いろいろな関節で同時に起こり、関節症状も発熱時に認めることが多く、高熱時には痛みが激しくなって、関節に赤みを伴うことが。
レントゲン検査では異常を認めないことが多いですが、病気が長引いて、症状が長期に及ぶと、関節部分の骨が変化することもあります。
その他
全身症状、皮膚症状、関節症状に比較すると頻度は低いものの、その他にも成人スティル病でよく認められる症状はあります。
咽頭症状
発症してすぐや、病気が再度悪くなるときに、喉の赤み、咽頭痛がしばしばみられます。頻度は37〜66%程度です1)。扁桃炎や咽頭炎を疑って細菌の検査をしても、陰性の結果になります。
リンパ節腫脹
首や脇のリンパが腫れることがあります。押すと痛みを伴うことが多く、頻度は30〜70%程度です1)。
肝臓や脾臓の腫れ(肝脾腫)
超音波検査やCT検査で指摘されることがあります。頻度は30〜40%程度です1)。
心臓や肺の症状(心膜炎や胸膜炎、間質性肺炎)
頻度は低いながらも認めることがあります。頻度は2〜4%程度です1)。
血液検査の異常
成人スティル病に特異的な血液検査はありませんが、成人スティル病でよく異常値を来すものが知られています。まず、体の中で「炎症」が起こっていることを反映して、「白血球」の数値が上昇。
特に、白血球の中の一つの成分である「好中球」の割合が多くなることも知られています。
その他の血液検査の数値では、「フェリチン」や「CRP」という数値も、炎症を反映して上昇。他には、肝臓の機能異常を認めることも多く、頻度は60〜80%と言われています1)。
除外すべき疾患
感染症、悪性腫瘍、成人スティル病以外の膠原病は、ときに成人スティル病に似たような症状が現れます。成人スティル病の診断のためには、これらの疾患でないか慎重に判断することが必要。
成人スティル病に特異的な検査はありませんが、成人スティル病以外の疾患には、特徴的な症状、血液検査所見(腫瘍マーカー、自己抗体など)、画像検査所見(CTなど)があることが多いです。成人スティル病の診断は、これらの疾患を除外した後に行われます。
十分に検査を行うことが必要となり、検査は長期間(数週間など)に及ぶことも。
感染症:ウイルス感染症(特に皮膚症状を伴うもの)、重篤な細菌感染症(血液中に菌が入り込むものや、膿の固まりを作ってしまうもの)などは、成人スティル病と同様の症状を呈することがあり、診断が難しい場合はあります。
ウイルス、細菌の検査を十分行うことが必要です。特に、伝染性単核球と間違われることがあるので、注意が必要。
悪性腫瘍:悪性リンパ腫など、特に血液に関連する悪性腫瘍の場合、成人スティル病と同様の症状を呈することがあります。病名としては、悪性リンパ腫、白血病、血管内リンパ腫などとの鑑別が必要になります。
成人スティル病以外の膠原病:特に血管に障害を及ぼす膠原病(「血管炎」)で、成人スティル病と同様の症状を呈することがあります。病名としては、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などとの鑑別が必要です。
成人スティル病の治療
成人スティル病は、免疫の異常で起こっている病気なので、免疫を抑えることが治療の基本となります。成人スティル病の治療の中心となる薬は、「副腎皮質ステロイド」です。
重症度に応じて投与量を調整し、症状の改善を見て徐々に減量していきます。再燃する場合や副腎皮質ステロイドの減量が困難な場合、「免疫抑制薬」や「生物学的製剤」と呼ばれる薬を使用することが。
日本で保険適応になっているお薬では、「生物学的製剤」の「トシリズマブ」というお薬が使用可能です。副腎皮質ステロイド、トシリズマブについての説明は下記の通りです。
副腎皮質ステロイドについて
副腎皮質ステロイドとは、体内に存在するさまざまなホルモンのうちの一つで、副腎皮質で産生。これを治療薬として使用すると、強力な免疫抑制作用と抗炎症作用を発揮します。
その強力な作用から、多くの膠原病で用いられ、薬として用いられる場合、一般的に「ステロイド」と呼ばれるのです。
ステロイドはホルモンの薬であり、抗炎症作用と免疫抑制作用だけでなくさまざまな副作用があります。
ステロイドの主な副作用は、易感染性、糖尿病、高脂血症、高血圧症、消化性潰瘍、骨粗鬆症、満月様顔貌、精神症状、白内障、緑内障、ステロイド筋症、生理不順、痤瘡など。
副作用の出現には個人差があり、多くの場合副作用を予防する薬を併用。
また、ステロイドを長い間使用すると、身体の中でステロイドホルモンを作る力が弱くなります。長期間ステロイドを使用している途中で急に服薬を中止すると、ステロイドホルモンが足りなくなり「ステロイド離脱症候群」になる場合が。
吐き気、低血圧、倦怠感、血圧低下などの症状が出現しますので、自己判断での内服中止は控えてください3)。
トシリズマブについて
成人スティル病だけでなく、関節リウマチでも使用されているお薬です。トシリズマブとは、「IL(インターロイキン)-6」を阻害することで炎症を抑える薬剤です(IL-6阻害薬)。
IL-6は炎症に関わる生理作用がある、「サイトカイン」と呼ばれる物質の一種です。
トシリズマブはIL-6が働くための受け皿(受容体)に結合することで、IL-6の働きを抑えます。2週間に1回、点滴で使用し、病状により、1週間に1回の点滴となることも。
トシリズマブを使用することで、病状が改善し、副作用の多いステロイドを減量できることが多いです。
一方で、トシリズマブにも副作用があり、注意が必要。注意する点としては、特に感染症にかかりやすくなります。
予防のために、積極的に肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種しましょう。感染を疑う症状がある時は、早めに医師に相談してください。
また、体の中でくすぶっていた結核やB型肝炎などの微生物が再燃してくることもあります。トシリズマブを始める前には、必ずそれらの検査が必要ですので、よく医師と相談してください。
その他、腸管に「憩室」という穴があると言われている人は、腸管穿孔(腸が破けること)のリスクがあるので、注意が必要です。これについても、よく医師と相談しましょう。
まとめ
成人スティル病の症状、治療を中心に説明してきました。成人スティル病は、全身症状(主に発熱)、皮膚症状、関節症状が高頻度に出現する病気ですが、その他の症状を認めることもあります。
免疫の異常で起こる病気であり、免疫を抑える治療が必要となり、薬としてはステロイドやトシリズマブが用いられます。
成人スティル病では、多くの場合、病気とうまく付き合っていくことができるので、もしかして成人スティル病かな、と思われた方は、是非一度医療機関を受診してみてください。
参考文献
1) リウマチ病学テキスト. 第2版. 日本リウマチ財団. 診断と治療社. 2016年.
2) 難病情報センター. 成人スチル病.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/132
3) 日本リウマチ学会. 副腎皮質ステロイド.
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/fukujinhishitsusteroid/