男性型脱毛症

髪が抜ける病気はAGAだけじゃない?あまり知られていない脱毛症の原因とそれぞれの特徴

薄毛相談
藤井 麻美

TVや街中で、最近AGAという言葉をよく耳にすると思います。AGAは、成人男性にみとめられる脱毛症ですが、AGAのほかにも病的な脱毛症は多く存在。

実は脱毛の原因は全く別のところにあり、効果的な治療方法が存在していた、ということも考えられます。

自分はAGAだから脱毛が早いんだ、歳をとったから脱毛が進んでいるんだ、と思い込む前に、一度ご自身が病的な脱毛でないか、この記事をよんで、ぜひ確認してみてください。

脱毛症とは

私たちの毛髪は、一定のヘアサイクルを保ちながら”抜けては生える”を繰り返しています。しかし、何らかの原因で抜ける毛髪が多くなってしまう状態、これが「脱毛症」です1)

脱毛症の種類はたくさん

脱毛症は、発症の原因や、毛包(髪を作る根元の部分)がどの程度破壊されるか、などで分類され、各々脱毛のしかたが異なり、治療法も異なります。

脱毛症患者さんのほとんどは、円形脱毛症と男性型/女性型 脱毛症(いわゆるAGA)ですが、ご自身がどの病気なのか、まずは確認してみましょう。

円形脱毛症

円形脱毛症

円形脱毛症では、前触れなく、境界明瞭な脱毛が突然発症。下記のように、見た目でいくつかの型に分類されます。

・通常型

単発型:コインのように円い3㎝くらいの脱毛が一か所に認められます。

多発型:円い脱毛が複数か所に認められます。

・蛇行性型

頭髪の生え際に帯状に脱毛が認められます。

・全頭型

頭全体の脱毛が認められます。

・汎発型

頭のみならず全身に脱毛が認められ、難治性で、一度治っても再発が多いです2), 3), 4)

(病態・原因)

円形脱毛症の脱毛部では、毛包が縮んで休止期のようになっており、毛が脱落して無くなっています。脱毛の原因は、成長期の毛包が炎症細胞の攻撃を受けて破壊されるためです。

精神的ストレスなどが原因となり、毛包をターゲットとした自己免疫性疾患が誘発されるため、脱毛が起こるといわれています。また、円型脱毛症は家族内発生が認められることもあり、遺伝の要素も関与2), 3), 4)

(頻度)

あらゆる年代で発症しますが、全体の1/4は15歳以下の若年がであり、重症例(全頭型・汎発型)は、小児に多く認められます。男女間での性差は特にないようです2), 3), 4)

(治療)

脱毛が少ない場合

自然治癒することが多いです。

脱毛が多い場合

治療が必要になり、範囲が広いと治療が長く続くこともあります。ステロイドの塗布・局所免疫療法・紫外線(PUVA)療法を行うことが多いですが、重度の場合はステロイドや免疫抑制剤の内服をすることもあります2), 3), 4)

男性型脱毛症(AGA)

AGAは「Androgenetic Alopecia」の略で、日本では男性型脱毛症といわれています5)

思春期以降の成人男性を好発とした、額の生え際や頭頂部の髪が徐々に薄くなる脱毛症のことです5)

(原因)

AGAが発症する原因は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンの存在です。男性ホルモンのテストステロンが体内で作られ、血流に乗って頭皮(とくに頭頂部や前頭部)に運ばれると、5αリダクターゼの作用で、より強い男性ホルモン作用を持つジヒドロテストステロンに変化。

これが毛球に作用することで、ヘアサイクルのうちの「成長期」が短縮してしまい、太く長い毛になれず、細い短い毛が早々に脱毛してしまう、脱毛症を引き起こしてしまいます5)

(治療)

内服薬と外用薬の併用で治療されることが多いです。

・内服薬:デュタステリド、フィナステリド

これらは「5α還元酵素阻害薬」と呼ばれ、テストステロンがジヒドロテストステロンに変化するのを妨げる効果が。これにより髪の成長期の短縮を抑えることができ、毛の密度や太さなどの変化を実感することができます。

・外用薬:ミノキシジル

頭皮に直接塗布することで血流を促進することで、太く長い髪への成長を期待します5)

女性型脱毛症(FAGA)

 FAGA 女性

FAGAは「Female Androgenetic Alopecia」の略です。 AGAの女性版という意味でFAGAと名付けられました。 FPHL(Female Pattern Hair Loss)とも呼ばれています5)

FAGAは頭頂部を中心に、広い範囲で均等に毛の密度が下がり、髪が細くなる、髪のボリュームがなくなるといった症状が徐々に進行して認められます。AGAのように髪の生え際が後退するという症状はあまり認められません5)

(原因)

かつては、AGAと同様に男性ホルモンが原因と考えられていましたが、 現在は男性ホルモンの働きでは十分に説明できないことがわかり、遺伝的素因、環境的要因、さらに他のまだ解明されていない要因の組み合わせが原因になっていると考えられています5)

(治療)

・外用薬:AGAと同様にミノキシジルを塗布します。

頭皮に直接塗布することで血流を促進し、太く長い髪への成長を期待。

・内服薬:ホルモンバランスを整える低用量ピル、アミノ酸・タンパク質・ビタミンB群含有のサプリメントなど5)

先天性脱毛症

いくつかの種類に分けられています。

・先天的無毛症

生まれたときに毛があっても、数か月~思春期までに、毛が完全になくなってしまう状態。

・先天的乏毛症

生まれたときに毛があっても、徐々に脱毛が進み、細い毛がまばらに生えている状態。

・先天性汎発性無毛症

髪の毛だけではなく体毛が全く見られない状態6) 。他の先天異常を伴うことが多く、皮膚・歯・爪の発育不全や発汗異常を伴うこともあります。

(原因)

原因となる遺伝子が明らかにされていて、遺伝子異常により発症します4)

(治療)

遺伝子の異常のため、根本的な治療法はなく、子供のころからカツラなどを使用します4)

粃糠性脱毛症

頭部粃糠疹(いわゆるフケ)と脱毛が合併したもので、思春期以降の男性によく起こります。フケが大量に発生することで毛穴をふさぎ、毛穴にもともといる菌が繁殖し、髪の発育が阻害されることで脱毛が進行6)

(原因)

髪の洗いすぎや洗い残し、頭皮に合わない整髪料の使用で、頭皮環境が悪化し、大量にフケが発生してしまうことが原因です6)

(治療)

髪の洗いすぎや洗い残しをまず改善します。それでも良くならなければ、ステロイドの塗布や抗生物質が使用されます6)

抜毛症(トリコチロマニア)

自分の毛を抜くことを繰り返し、抜毛により髪が失われることで脱毛が。

主にこどもに多く、円形脱毛症と似ている脱毛を認めます。自身で頭髪を抜く癖に気づいていない場合や、癖を認めない場合が多くあります。円型脱毛症との違いは、円形ではなく周囲との境界が不明瞭な脱毛という点です4), 6)

(原因)

精神的ストレスが関与するといわれています4)

(治療)

原因となるストレスを軽減したり、精神科に相談しながら治療します6) 。円形脱毛症や頭部白癬と混同しやすいので、注意が必要です4)

瘢痕性脱毛症

けが、やけど、放射線治療を施された部分に一致して脱毛が認められます6)

(原因)

けが、やけど、放射線治療などによって毛包の炎症がおこり、瘢痕がつくられ、毛包が壊されてしまい、元に戻らないことが原因です。自己免疫疾患も関与するといわれています6)

(治療)

自己免疫疾患が原因の場合は、原因の治療。一度毛包が破壊されてしまうと、再度毛が生えることは難しくなります6)

栄養障害、内分泌疾患、妊娠による脱毛

赤ちゃん 女性

それぞれの原因により、頭部全体の脱毛がおこります7)

(原因)

亜鉛欠乏/鉄欠乏の状態や、欠乏を引き起こす疾患(クロンカイトカナダ病、腸性肢端皮膚炎など)、内分泌機能の障害(下垂体・甲状腺・副甲状腺)、妊娠出産によるホルモンバランスの変化で起こるとされています7)

(治療)

亜鉛や鉄分を多く含む食品を摂取したり、サプリメントの内服を行います。内分泌疾患があればそちらの治療を行うことで脱毛は改善でき、妊娠出産に伴うものは妊娠が終了した後にホルモンバランスが整うと発毛してくることがほとんどです7)

膠原病による脱毛

膠原病で治療中にみられる脱毛で、前頭部~側頭部を中心に全体的に毛が抜けます6)

(原因)

全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎などの自己免疫疾患が関与しています6)

(治療)

一般的には、自己免疫疾患が改善してくることで、脱毛も同じく改善します。自己免疫疾患の治療は、膠原病内科にてステロイドや免疫抑制剤を使用することが多いです6)

薬剤による脱毛

錠剤 タブレット

原因となる薬を投与されたあと約10日で頭部全体の脱毛が起こります6)

(原因)

抗がん剤、血液をサラサラにする抗凝固薬、甲状腺の治療薬などを使用していると発症することがあります6)

(治療)

原因となる薬をやめることで脱毛は改善します6)

感染による脱毛

梅毒による脱毛の場合、後頭部~側頭部にかけて虫食い状に脱毛が起きます。白癬菌による脱毛の場合、フケを伴った円型脱毛症のような脱毛を認めることが多いです6)

(原因)

梅毒の原因菌のTreponema pallidumの感染や、白癬菌の感染が原因です6)

(治療)

抗生物質を使用することで改善することが多いです6)

抜け毛の原因を見分けるには?

脱毛で病院に来られる方は、AGAか円型脱毛症が多くを占めます。いずれも見ただけで診断することは比較的容易ですが、円型脱毛症は似たような疾患があり、鑑別が必要です。

円型脱毛症に似た疾患には、上記で挙げた❶トリコチロマニア、❷頭部白癬、❸瘢痕性脱毛症があります。いずれも治療法が大きく異なるので、医師の診察が必要不可欠です。

自身の判断で薬を使用すると、治療が遅れて発毛できなくなってしまう可能性もありますので、脱毛が気になる場合は、一度受診してみてください3)

上記の脱毛症が好発する年齢や性別をまとめると以下のようになります。

・小児→先天性脱毛症、トリコチロマニア

・若年男性→AGA、粃糠性脱毛症、

・若年女性→妊娠出産による脱毛症

・中年男性→粃糠性脱毛症

・中年女性→FAGA、膠原病による脱毛症

瘢痕性脱毛症、栄養障害・内分泌障害による脱毛症、薬剤性脱毛症、感染による脱毛症は、どの年代でも発症することがあります6)

病院を受診する目安は?

ハゲ おでこ

髪の毛は、1日に約数十本自然に抜けるといわれています。いつもより抜け毛の量が増えた、部分的に脱毛が進んでいる、かゆみやフケを多く伴っているなどの症状がありましたら、皮膚科を受診してください。AGAと診断された場合、治療は自費診療になります。

まとめ

脱毛にもいろいろな種類があることがわかっていただけたかと思います。

髪の毛が薄くなると、第一印象に大きな影響を与える可能性が。間違った治療方法を行なってしまうことがないよう、少しでも脱毛に悩まれる方は、皮膚科へご相談ください。

参考文献

  1. 板見智. ヘアサイクル.Bella Pelle 3巻2号:92-95,2018
  2. 日本皮膚科学会. 円形脱毛症診療ガイドライン2017年版. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AA_GL2017.pdf
  3. 円形脱毛症と鑑別疾患の見分け方. 大山 学. 日本臨床皮膚科医会雑誌 38巻4号. 611-617,2021.
  4. 日本皮膚科学会. 「脱毛症」
    https://www.dermatol.or.jp/.
  5. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
  6. 標準皮膚科学. 第8版.西川武二. 医学書院. 2007
  7. あたらしい皮膚科学. 第1版. 清水宏. 中山書店. 2010
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