皮膚の病気

アトピー性皮膚炎を発症するのはスキンケアが原因?悪化させないために正しい治療を

アトピー性皮膚炎
藤井 麻美

子供の肌が赤くなってかゆそうにしている時、非常に心配になってインターネットで検索すると、必ず「アトピー性皮膚炎」という言葉が出てきます。

実際に、自分の周りの人を良く見てみると、アトピー性皮膚炎に悩まされている人は非常に多くおり、比較的なじみのある病気ではないでしょうか。

ただ、アトピー性皮膚炎に関してはさまざまな情報があふれており、どれが本当に有用な治療なのか、本当のステロイドの副作用はどのようなものかなど、大切な情報がわかりにくくなっているのが実情です。

この記事では、本当のアトピー性皮膚炎とはいったいどのような病気なのか、現時点での最新の治療法などについて、わかりやすく解説していきます。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎とは、良くなったり悪くなったりすることを繰り返しながら進行する病気で、非常に強いかゆみを伴う皮疹が左右対称性に広がることが特徴1)

多くの人では、「アトピー素因」と呼ばれる素因(病気になりやすい体質)を持っており、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの病気が診断されていたり、家族の中にアトピー性皮膚炎の人がいたりすることが多いです。

アトピー性皮膚炎は、一般的に乳児期に最も多く発症し、年齢とともに徐々に改善していくことが多いといわれています1)

実際に、日本の過去の研究では、アトピー性皮膚炎の患者さんは、4か月児の12.8%であるのに対し、大学生では8.2%と、年齢とともに徐々に低下していきました2)

また、1歳未満でアトピー性皮膚炎と診断された子供のうち、51%の子供が4年間で改善し、34%の子供では消失していたという報告があります3)

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎は「多因子疾患」と呼ばれ、いくつかの原因が合わさって生じる病気です。

どの因子が最も影響が強いのかは患者さんごとに異なりますが、アトピー性皮膚炎の原因は主に以下の3つに分類され、治療の時にはそれぞれに対処することが重要になります。

皮膚のバリア機能低下

まず、アトピー性皮膚炎の発症原因の一つとして指摘されているものが、皮膚のバリア機能の低下です。

アトピー性皮膚炎図解

皮膚は体の外の物質が中に入ってこないようにするためにバリア機能を持っていますが、そのバリア機能が炎症反応や遺伝子異常などによって低下することで、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなることがわかってきています。

特に近年、フィラグリンというたんぱく質を作る遺伝子の異常がアトピー性皮膚炎の発症に関与していることがわかってきました4)

フィラグリンというたんぱく質は、角質細胞を丈夫にする働きをするたんぱく質です。実際に、アトピー性皮膚炎の患者さんの20%程度にフィラグリン遺伝子の異常がみられることも報告されています5)

アレルギー反応

皮膚のバリア機能低下が起こると、アレルゲン(抗原)が皮膚の中に入り込みやすくなり、免疫反応が起こります。アトピー性皮膚炎の患者さんでは、そのアレルゲンに対する免疫反応、炎症反応が過剰に起こることで、アレルギー反応に。

このアレルギー反応の起こりやすさには、「アトピー素因」というアレルギー反応を起こしやすい体質が関与している、といわれています。

また、過剰なアレルギー反応を起こしたときに発生する化学物質(炎症性サイトカイン)が皮膚に影響を与えることにより、アトピー性皮膚炎の特徴の一つである「かゆみ」も発生。

環境因子・悪化因子

人によって、どのアレルゲンに対して強く反応するのかは異なりますが、ダニやカビ、ハウスダストなどの刺激や石鹸やウール繊維などが悪化因子として多いことが報告されています6)

また、飲酒や心理的ストレスなども悪化要因となることが知られており、アトピー性皮膚炎のコントロールには、これらの環境因子や悪化因子のコントロールも重要に。

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎は、

  • かゆいこと
  • 年齢ごとに特徴的な皮疹
  • 慢性的に良くなったり悪くなったりすること

の3つが特徴です。

アトピー性皮膚炎腕

特に皮疹が体のどこにできやすいかは、年齢によって変化し、2歳未満の乳幼児のほとんどは、頬や額などに赤い湿疹として出現し始めます。

次第に耳の周囲や口の周りなど顔面全体に広がり、そのあと、やや遅れて、わきの下や肘・膝などの擦れやすい部分にも。

幼児や学童児(2-12歳頃)になると、顔面の皮疹は少なくなり、首や肘・膝・手首足首などにみられます。

思春期以降(13歳以上)は、顔面や首・背中など上半身に多く見られるように。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療は、

  • 薬物療法
  • 保湿などのスキンケア
  • 悪化因子の対策

の3つを柱として行っていきます。

薬物療法

アトピー性皮膚炎の薬物治療は、炎症を抑える塗り薬を適切に使用することが基本方針です。

現在アトピー性皮膚炎に対して使用できる塗り薬は、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏など)、デルゴシチニブ外用薬(JAK阻害薬;コレクチム軟膏など)があり、これらを組み合わせた治療が行われます。

ステロイド外用薬

ステロイドの塗り薬には非常に豊富な使用経験があり、ガイドラインでも適切な使用を推奨。

アトピー性皮膚炎

ステロイド外用薬は、ステロイドの強さにより5段階に分類され、症状の強さや皮疹の部位などを考慮して、適切な強さのステロイド治療が行われます。

ステロイド外用薬の1日1-2回の使用で、しっかりと皮膚の炎症を抑えることで良好な治療効果が。

ステロイド外用薬による副作用として、毛細血管拡張や多毛、皮膚の色素沈着などの症状がおきることも7)

一方で、全身性の副作用(感染症になりやすくなる、骨粗しょう症になってしまうなど)は、長期間強いステロイド外用薬を使用しない限り、比較的稀です8), 9)

これらの副作用は、皮疹の程度や部位、年齢などを考慮して適切な強さのステロイドを選択し必要な期間に限定することによって頻度を下げ、安全に使用することができます。

また、これらの副作用は一時的で、ステロイドの使用をやめると元に戻ることも多いので、医師の処方通りに適切に使用することが大切です。

タクロリムス外用薬

ステロイド外用薬とは全く異なる作用で、炎症を抑制することができる外用薬です。副作用を心配してステロイドの治療が難しかった人でも、安全で有効性が高い治療ができるようになりました。

特に顔や頚部の皮疹に対してよく使われる薬ですが、掻き壊しなどにより皮膚がじくじくしてしまっている所には使用できず、また安全性の観点から2歳未満の小児には使用できません。

塗った部分には、ほてった感じがすることから、人によっては続けて使用することが難しい場合があります。

デルゴシチニブ外用薬(JAK阻害薬)

非常に強い免疫抑制作用を持つ外用薬で、中等度以上のアトピー性皮膚炎に対して使用されることがあります。皮疹やかゆみなどを比較的すぐに改善させることができる薬です。

ただし、過剰に使用すると全身性に影響が生じる可能性があり、注意が必要。必ず処方した医者の指示通りに使用してください。

これらの塗り薬に加えて、症状が強い場合はかゆみ止めの内服薬や漢方薬などが使用されることも。

また、2018年より重症アトピー性皮膚炎に対しては「デュピルマブ」などの生物学的製剤を使用することもできるようになってきています。

主治医の先生とよく相談し、適切な薬を併用することで、症状が緩和されることも期待できるでしょう。新薬も多く出てきていますので、ご相談ください。

プロアクティブ療法

上記のように、さまざまな外用薬や内服薬などを使ってアトピー性皮膚炎の治療を行っていきますが、いったん症状が治まっても(寛解状態)、何度も再発してしまうのがアトピー性皮膚炎という病気です。

そんな状況を改善するために、アトピー性皮膚炎を再発させないような治療法が研究されていました。

このような中で生み出されたのが、プロアクティブ療法です9)

ステロイドの外用薬やタクロリムス外用薬を安全かつ効果的に使うことで、予防的にアトピー性皮膚炎を抑えることができるようになりました。

アトピー性皮膚炎は、いったん治ったように見えていても、皮膚は炎症が起きやすい状況が続いています。何かのきっかけで再度炎症がおきてしまうと、また最初から治療が必要に。

そこで一見落ち着いている状態の時に、さらにステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を1日おき、あるいは2日おきに塗ることで、その痒みが再発する前に抑えることができるようになる、というのがプロアクティブ療法の考え方です。

また、この使い方であればステロイドなど外用薬による副作用・合併症のリスクを下げることができるとされています。

アトピー性皮膚炎の症状を抑えながらも、副作用の頻度を下げることができる治療として、現在広く行われている治療法です。

スキンケアや悪化因子の管理と組み合わせることで高い有用性が期待できます。

スキンケア

アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能とともに保湿作用も低下しています。皮膚は乾燥することで痒みを感じやすくなり、またアレルゲンも皮膚から侵入しやすくなってしまうので、保湿・スキンケアも外用薬と合わせて非常に重要な治療です。

ワセリン

1日2回、そのうちの1回は入浴直後に保湿効果の高い軟膏を塗るようにしてください。

尿素製剤(ケラチナミンコーワクリームなど)やヘパリン類似物質クリーム(ヒルドイドクリームなど)などが保湿効果の高い軟膏としてよく知られています。

また、皮膚バリア機能が低下してしまっている部分に対しては、ワセリンなど皮膚保護作用のある軟膏が有用です。

悪化因子の管理

汗や髪の毛との接触、衣類との摩擦などでアトピー性皮膚炎が悪化してしまうことがあり、また、金属や食べ物、精神的なストレスなども悪化因子として知られています。

患者さん一人一人、悪化因子は異なるので、それぞれに合わせて悪化因子と触れる機会を少なくする生活を心掛けてください。

まとめ

アトピー性皮膚炎は、かゆいこと、年齢ごとに特徴的な皮疹、慢性的に良くなったり悪くなったりすることを特徴とする疾患です。

治療のためには、丁寧なスキンケアと、適切な強さおよび量のステロイド外用薬などの使用で、より早く寛解状態にして、プロアクティブ療法やスキンケアを中心とした治療へと進めていくことが重要。

ぜひ一緒に治療をしていきましょう。

参考文献

1) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 2018年.

2) Saeki H, et al. Prevalence of atopic dermatitis in Japanese elementary schoolchildren. The British journal of dermatology. 2005;152(1):110-114. doi: 10.1111/j.1365-2133.2004.06271.x.

3) Ohshima Y, et al. Early sensitization to house dust mite is a major risk factor for subsequent development of bronchial asthma in Japanese infants with atopic dermatitis: results of a 4-year followup study. Annals of allergy, asthma & immunology : official publication of the American College of Allergy, Asthma, & Immunology. 2002;89(3):265-270. doi: 10.1016/S1081-1206(10)61953-9.

4) Cabanillas B, et al. Atopic dermatitis and filaggrin. Current opinion in immunology. 2016;42:1-8. doi: 10.1016/j.coi.2016.05.002.

5) Kono M, et al. Comprehensive screening for a complete set of Japanese-population-specific filaggrin gene mutations. Allergy. 69(4):537-540, 2014. doi: 10.1111/all.12369. Epub 2014 Jan 28.

6) Hirota T, et al. Genome-wide association study identifies eight new susceptibility loci for atopic dermatitis in the Japanese population. Nat genet. 2012;44(11):1222-1226. doi: 10.1038/ng.2438. Epub 2012 Oct 7.

7) Takeda K, et al. Side effects of topical corticosteroids and their prevention. Drugs. 1988;36 Suppl 5:15-23. doi: 10.2165/00003495-198800365-00005.

8) Coondoo A, et al. Side-effects of topical steroids: A long overdue revisit. Indian dermatology online journal. 2014;5(4):416-425. doi: 10.4103/2229-5178.142483.

9) Haeck IM, et al. Low bone mineral density in adult patients with moderate to severe atopic dermatitis. The British journal of dermatology. 2009;161(6):1248-1254. doi: 10.1111/j.1365-2133.2009.09327.x.Epub 2009 Jun 4.

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