皮膚の病気

やけどの応急処置・対処方法|種類・症状・基礎知識を紹介

流水で患部を冷やす
藤井 麻美

やけどは医学的には熱傷(burn)といい、熱によって皮膚や粘膜が障害を受けることをさします。熱源の温度や、接触時間により、熱傷の深達度は異なり、重症度は熱傷の深達度と受傷面積によって規定。

小さな範囲の熱傷は、軟膏(なんこう)処置のみで治ることがほとんどですが、広範囲の熱傷の場合は、3次救命センターなど医療機関の集中治療室での治療や手術が必要となり、最悪の場合は命を落とすことも。

ここでは、やけどの応急処置と対策方法を書いていきます。

やけどの種類と原因

やけどは「温度・電撃・化学物質・低温などによる急性の皮膚障害」と言い換えることができます。また、赤くなって腫れるほどの日焼け(sun burn)も、過度の紫外線暴露による急性の皮膚障害です。

日焼けは厳密に言うと光線性皮膚症というカテゴリーに入りますが、日常よく起こる皮膚障害であり、熱傷と症状や対処法がよく似ているため、一緒に説明します。

やけどの種類原因
温熱やけど高温の気体(火炎を含む)・液体・固体に触れて生じる皮膚および粘膜の障害。
電撃やけど通電による直接損傷(重症)と電気火花によるやけどがある。
化学やけど産業災害(化学工場の爆発など)や化学物質の取り扱いミスで起こる皮膚障害酸やアルカリ、芳香族化合物(フェノールなど)、脂肪化合物(灯油など)、金属とその化合物、あるいは非金属とその化合物などによることが多い。中でもフッ化水素酸が最も強い酸で痛みも強く、進行性に深い潰瘍を生じる。
低温やけど凍傷ともいい、低温により血液が停滞し、血栓を形成することに加え、組織液、細胞自体が凍結されることで皮膚が障害され、壊死に至る。温度+風力で冷凍力が規定される(冬の雪山の嵐)。ただし、-26℃以下では無風でも起こる。
日焼け過度の日光暴露(紫外線)によって生じる急性の皮膚障害、作用波長としては主にUVB。海水浴・アウトドアスポーツ・戸外労働などが原因。

やけどは、以上のように原因別に分けられ、それぞれ熱や化学物質などによって皮膚が障害され発症します。熱傷を例に、やけどのメカニズムについて説明しましょう。

過度な熱は皮膚や粘膜の組織にダメージを与え、特に血管内皮細胞を障害して血栓(血の塊)をつくり、さらに血栓ができることにより血流が妨げられ、局所のうっ血と浮腫が起こります。

また、熱傷部位では『炎症反応』が起こり、血管の透過性が亢進(こうしん)して水疱(すいほう)形成や組織の壊死へ進行。

広範囲熱傷では全身の血管の透過性が亢進して、血漿(けっしょう)成分の血管外漏出を起こし、循環血液量低下により血圧が低下。ショック状態となるため、皮膚の処置だけでなく、呼吸循環動態を含めた全身管理が必要となります。

<そもそも炎症って何?>

炎症は病変部が「燃える」ようにみえることから名づけられました。カやハチなどの虫に刺されると、刺された部位(局所といいます)は赤く脹れ上がり、熱をもって痒みや痛みを感じます。

このような何らかの刺激や侵襲に対して、私たちの体がその部位(局所)に起こす反応を炎症(inflammation)といいますが、どうしてこのような反応が起こるのでしょうか。

炎症は、私たちの体になにか障害が生じた際(熱傷の場合は熱による皮膚の障害)に、その障害を局所にとどめて有害物質やその作用を除去して、損傷部位をいちはやく修復し、体全体を守る役割を果たしているのです。

赤く腫れて、痛いときは、体が炎症を起こして頑張っていると思ってください。そして炎症が起こると、次のような4つの徴候が出現します。

  • 発赤(redness):患部が赤くなること。血管が拡張して局所血液量の増加(充血)することによって起こる。 
  • 発熱(fever):患部が熱をもつこと。これも血管が拡張して局所血液量が増加(充血)することによって起こる。
  • 腫脹(ぼうちょう)(swelling):患部が脹(は)れること。血管の壁には調節可能な穴が開いていて、血管内と血管外で血漿成分(血液の液体成分)や白血球などの細胞のやり取りが行われており、炎症が起こると、血管外に水分や白血球を出す方に働き、これを「血管の透過性が亢進する」と表現。 
  • (とう)痛 (pain):患部が痛むこと。充血や浮腫によって組織が物理的に圧迫されて痛むのと、疼痛性起炎物質(ブラジキニンなど)が産生されることによって起こる。   

上記の4つの徴候に、炎症に伴う痛みや腫れなどで、その部位が動かせなくなること(機能障害)を加えて、炎症の5徴候とする考え方もあります。

やけどは熱や低温、化学物質などによって皮膚や粘膜が障害され、血栓ができうっ血や炎症を起こし、赤くなり腫れ、痛みをもち、血管から水分が漏れ出てくる状態です。

それにより水疱(すいほう:水ぶくれのこと)を作り、ダメージの程度によっては壊死(えし:細胞自体が死滅すること)することもあります。 

症状による重症度の分類

やけどの重症度は、やけどの面積(BSA:burned body surface area)とやけどの深さによって決定されます。

以下、やけどの深さについて表にまとめました。

分類症状
Ⅰ度熱傷表皮熱傷(EB: epidermal burn)ともいい、紅斑(こうはん:赤みのこと)と浮腫、ひりひりした痛みが出ます。数日で治癒し、一過性に色素沈着を残しますが、それ以上の後遺症はありません。
Ⅱ度熱傷(浅達性)真皮浅層熱傷(SDB: superficial dermal burn)とも呼ばれます。Ⅰ度熱傷よりも紅斑や浮腫が強く、24時間以内に水疱(すいほう)を形成します。水疱の中は、はじめはさらさらとした液体ですが時間が経つにつれ、ゼリー状に。水疱が破れるとびらんとなり、表面に分泌物(汁)が多くなり、痛みをもちます。2~3週間でびらんは痂皮(かひ:かさぶた)がはって、上皮化といって表面が乾燥した状態となり治癒。
Ⅱ度熱傷(深達性)真皮深層熱傷(DDB: deep dermal burn)ともいい、水疱を形成するのはSDBと同じですが、深層熱傷はしばしば潰瘍(かいよう:皮膚の深い欠損)となり、治癒にまで長期間を要すことに。治癒した後も、色素沈着が長く残り、瘢痕(はんこん)といって、傷跡が残ります。
Ⅲ度熱傷皮下熱傷(deep burn)ともよばれます。皮膚全層(表皮と真皮)および皮下組織(脂肪織)に至る損傷であり、皮膚は壊死し黒褐色の焼痂(しょうか:やけたかさぶたのこと)に。知覚はなくなるので、痛みは感じません。1~2週間で皮膚の壊死した部位と正常な部位の境界がはっきりし(分界化)し、焼痂は脱落。その部位は潰瘍となり、肉芽(にくげ)組織が生じて上皮化しますが、かなり強い瘢痕やケロイドを残し、関節などでは拘縮(こうしゅく)といって皮膚が硬くなって伸びなくなり、機能障害を残します。また、熱傷瘢痕には10~30年後に熱傷瘢痕癌(ねっしょうはんこんがん)を生じることも。
熱傷深度
Medical Note

軽傷でも範囲が広い場合は注意が必要

やけどの重症度は、やけどの面積とやけどの深さによって決定され、Artzの基準といいます。

Artxの基準

やけどの深度と面積分類対応方法
体表面積15%以下の第Ⅱ度熱傷、2%以下の第Ⅲ度熱傷。軽症熱傷外来通院での治療
体表面積15~30%の第Ⅱ度熱傷、顔や手、足、外陰部を除く部位の第Ⅲ度熱傷。中等度熱傷入院して治療
体表面積30%以上の第Ⅱ度熱傷、10%以上あるいは顔や手、足、外陰部の第Ⅲ度熱傷。呼吸器障害、骨折などの合併症を有するもの。電撃傷、深い化学熱傷。重症熱傷高次救命センターなどでの専門医療機関での入院加療

Artzの基準以外に、熱傷指数という指標もあります。

熱傷指数( burn index:BI )は、

第Ⅲ度熱傷%(体表面積)+1/2第Ⅱ度熱傷%(体表面積)

で算出し、これが10~15になると、重症熱傷として扱います。

また、熱傷指数に年齢を加えたものを予後的熱傷因子(prognostic burn index; PBI)といい、

  • PBI<70 は大部分救命可能
  • 70<PBI<100 は半数が救命可能(半分は死亡)
  • 100<PBI 救命は極めて困難

とされています。さらに、高温の空気を吸い込んで、鼻やのど、気管支や肺といった気道に熱傷があると、命を落とす確率は格段に (20~50%) 上昇。医師は、顔に熱傷がある場合は、鼻などに症状がないか必ず確認します。

鼻毛が焦げるなどの気道熱傷のサインがある場合は、高次救命センターに転院となることも。

さらに、顔や手背、陰部、足などの特殊な部位に熱傷を起こすと、整容的(見た目)の問題と機能の問題(手が拘縮して使えなくなるなど)があり、かなり厄介です。

やけどの受傷面積は、次の①~③のやり方で算出します。

  • 9の法則:身体の主な部位を、9をひとつの単位として分割したものです(ただし成人のみ)。もっとも簡単なので、救急の初療室ではこの9の法則で大まかな受傷面積を計算し、治療を開始します。治療を行いながら、次に述べるBerkowの数でより正確な値を出していくことが多いです。
  • Berkowの数:より詳しく受傷面積を出すのに最適な方法。A、B、Cの部位は年齢による差が大きく、成長するにしたがって脚の比率が大きくなり、頭顔の比率が低くなります。
  • 5の法則:Berkowの数はやや複雑なので、年齢差を考慮してより簡易化したものにし、幼児、小児、成人にわけて考えます。

Ⅰ度熱傷の処置方法

やけどをしたら、なによりまずはすぐに流水で患部を冷やしてください。冷やすことによりやけどが深くなるのを防ぎ、痛みを和らげることができます。また、傷を洗うことにもなり一挙両得です。

部位や範囲にもよりますが、水道水で最低5分は冷やしてください。小範囲であれば水道の流水で、広範囲であればお風呂のシャワーで冷やすとよいでしょう。体や顔などで直接水をかけるのが難しい場合は、濡れたタオルやアイスノンで冷やしても。

濡れたタオルはこまめにとりかえ、アイスノンは直接皮膚に当たらないようにタオルやガーゼを巻いて使用。アイスノンなどは冷やし過ぎには注意してください(凍傷を起こすことがあります)。

Ⅰ度熱傷であれば、冷却のみで痛みや熱感がおさまれば、そのまま放置してもかまいません。紅斑(こうはん)や痛みが強い場合は炎症を抑えるステロイド軟膏を使用したり、ワセリンで保護したりします。

症状が強い場合や、範囲が広い場合はⅠ度熱傷であっても、医療機関を受診して処置を受けましょう。水疱は少し時間が経ってから出現してくることもあるので、はじめはⅠ度熱傷と思っていても実際はⅡ度以上のこともあります。

熱傷の治療は、

  1. 感染源となる壊死組織を除去
  2. 損傷部位を修復
  3. 感染防止

の3つが基本になります。

Ⅱ度熱傷(浅達性)

やけどをしたら、応急処置として冷やすのはⅡ度熱傷でも同じです。しっかり冷やして、すでに水疱(すいほう)ができている場合は破らないようにし、清潔なガーゼやタオルをあてて医療機関を受診してください。

厳密な決まりはないですが、水疱が3㎝を超える場合は、医療機関を受診したほうがよいとされています。

医療機関では、水疱が大きく破れていなければ、針を刺して内容を吸引します。水疱が汚れている、あるいはすでに破れている場合は、水疱の蓋を清潔なハサミで切除することも。小さい水疱はそのままにしておくこともあります。

水疱をどうするかは、医師の間でも意見が分かれますが、大きな水疱はガーゼをあてている時にずれて破れることが多いため、私自身は初療時に大きな水疱は清潔な状態でつぶし、水疱蓋をなるべく残すようにしています。水疱蓋が残っていると痛みが少ないからです。

傷口に感染のリスクが低いと診断されると、創傷被覆材(そうしょうひふくざい)で傷を覆います。後に触れますが、傷口を治すには適度に湿度がある状態がよいからです。湿潤環境において、皮膚の再生を待ちます。

創傷被覆材を使用せずに、ワセリンなどの軟膏を塗って皮膚のバリアを保護しながら、ラップで覆って湿潤環境する、というやり方をしている施設も。ただし、ラップを使用する時は必ず医師の指導を受けてください。

自分の判断で使用するのはやめましょう。感染を起こしてかえって傷の治りが悪くなることが非常に多いです。

近年ではさまざまな種類の創傷被覆材が開発されています。皮膚の湿潤環境を保ちながらも、ある程度水分を蒸散させることができるものや、殺菌作用を有しているものなどがあり、ラップよりもこういった文明の利器を使用するほうがよいでしょう。

治療開始時あるいは治療を開始してからも、傷口に感染しているような兆候があれば、傷口を毎日きちんと洗浄して表面の細菌の量を物理的に減らします。

同時に、抗生物質を含んだ軟膏(ゲンタシン軟膏®やフシジンレオ軟膏®)やスルファジアジン銀含有クリーム(ゲーベンクリーム®)を塗り、ガーゼで傷口を覆って保護(ガーゼも被覆材)。

ガーゼは、Ⅱ度以上のびらんを伴う傷口にはくっついてしまい、はがす時に痛みを感じたり、せっかく再生した組織もはがしてしまうという難点があります。

そのため、やけどの処置の際はメロリンガーゼ®という、表面をつるつるに加工した、くっつかない(非固着性)のガーゼを使用。メロリンガーゼ®はAmazonなどインターネットで購入することもできます。

一方、開放療法(exposure method)といい、水疱をすべて除去し、消毒、無菌の状態にして、軟膏や被覆材などで覆わずに露出して乾燥させ、痂疲(かひ:かさぶた)を作って治癒を待つ方法も。

特に顔面や外陰部のやけどの際は、この方法で治療することがあります。

浅いⅡ度熱傷は、感染をおこさなければ2週間程度で治癒。治癒したあとは、色素沈着や色素脱失となることがありますが、瘢痕(はんこん)を残すことはありません。

Ⅱ度熱傷(深達性)

やけどをしたら、応急処置として冷やすのは深いⅡ度熱傷でも同じです。ただし、水疱ができているけれど、あまりヒリヒリ痛くないというときは要注意です。

痛みや触覚、温度などを感じとる部分は、皮膚の表面に近い部位に多く存在します。そのため、一般的に深いやけどより、浅いやけどのほうが痛みは強く、あまり痛くないときは、やけどが深い可能性が高いのです。

深いⅡ度熱傷の場合は、真皮の深い部位まで損傷されるため、一部は壊死組織となります。その場合は、その壊死組織をハサミやメスなどで除去(デブリドマンといいます)する処置が必要です(おいておくと細菌の餌になり、皮膚の再生の妨げに)。

Ⅰ度や浅いⅡ度熱傷のように、傷が治る環境を整えさえすれば、自力で治ってくる、というわけではなく、傷口の状態にあわせて、塗り薬や処置のやり方をきめ細やかに変えていく必要があります。

また、浅いⅡ度熱傷よりも治癒期間が長く、3~4週間くらいかかることや、皮膚が再生してこない場合は植皮手術を行うことも。そのため、深いⅡ度熱傷の場合は範囲がそれほど大きくなくても、医療機関をはじめから受診することをお勧めします。

また、深いⅡ度熱傷はやけどが治ったあとも傷跡が赤く盛り上がる肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)や、場合によっては傷の範囲を超えて赤い傷跡が広がるケロイドとなることも。

Ⅲ度熱傷

Ⅲ度熱傷は、必ず医療機関を受診してください。やけどをした部位が真っ白で痛みがない状態です。Ⅲ度熱傷では水疱(すいほう)は形成されず、受傷した部位は「羊皮紙様感(ようひしようかん)」と呼ばれる状態になります。

触るとカサカサして乾燥した感じで、皮膚の柔らかさがなく、つまむことができません。また痛覚がないので触っても痛みがありません。白く見えるのは血管が障害されているからです。

家の中で熱いお湯をこぼした程度だとⅠ度やⅡ度のやけどで済むことがほとんどですが、すぐに冷やすことができなかった場合にはⅢ度に進行してしまうこともあります。

私が実際に診療した患者さんは、部屋で転倒した際に、ストーブの上にあったやかんのお湯をかぶって受傷。ご高齢であったため、転倒するとそのまま動けなくなり、家族が帰宅して発見されるまでそのままの状態でした。

その患者さんが、「はじめは熱くてヒリヒリしていたけど、そのうち痛くなくなってきました。」とおっしゃっていたのが印象に残っています。応急処置として冷やすのが大切なのは、Ⅲ度熱傷でも同じです。

ただし、衣服に火が燃え移った、ガスボンベで火をつけようとしたら爆発したなど、軽いやけどで済みそうでない場合はただちに医療機関を受診するようにしてください。

Ⅲ度熱傷の治療は、死滅した組織を除去(デブリドマン)し、損傷した部位に植皮手術を。なるべく早期に行うのがよいとされていますが、Ⅲ度熱傷で範囲が大きい場合は、まずは呼吸や血圧といった生命維持に不可欠な機能を回復させる治療が、優先して行われます。

植皮手術は、別の部位から正常な皮膚を持ってきて、やけどで欠損している部位に文字通り「皮膚を植える」手術です。自分の皮膚であれば、別の部位からもってきた皮膚でもきちんと生着しますが、他人の皮膚は使えません。

やけどの傷を植皮片で閉鎖することにより感染や体液漏出(ろうしゅつ)、瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)を防止し、治療期間を短縮できます。植皮面が広いときは皮膚を網状に加工してメッシュ植皮を行うことも。

広範囲熱傷には、培養皮膚移植も行われていて、植皮がきちんと生着してくるのは2週間程度です。広範囲の手術の場合は、植皮片のすべてが生着しないことも。また、感染を起こした場合は高い確率で植皮片は生着せず、脱落します。

やけどの処置での注意点

慌てて服を脱がない

服を着た部分をやけどした場合は、服の上から水をかけて冷やしてください。あわてて無理に服を脱がせると、皮膚がめくれたりするので、やめましょう。

水ぶくれができている場合にはできるだけ破らないようにして病院に。やけどの部位はだんだん腫れてくるので、指輪などのアクセサリーは早めに外しておきましょう。

薬や消毒液は安易に使用しない 

やけどをしてすぐに自分の判断で軟膏や消毒液を使うのはやめましょう。医師の診察の際に、軟膏が塗られていると、正しい重症度がわからなくなることがあります。また、やけどの傷口に消毒液を使用すると、痛いだけで、傷口をかえって悪くすることが多いです。

ひりひりするのでどうしても何かを塗りたい場合は、香料など不純物の入っていないワセリン軟膏を薄くつけるようにしてください。

幼児、子供、高齢者の場合は冷やし過ぎに注意

幼児や子供は体表面積が小さいため、広範囲を冷やし過ぎると低体温症をおこすことがあります。また、高齢者も、体温調節機能が低下していることが多く、小児の場合同様、冷やし過ぎると低体温症になるので注意してください。

おばあちゃんの知恵ですが、アロエ、味噌、馬油はやめましょう

アロエは分厚い果肉がひんやりして、やけどに昔からよく使われますね。しかし、やはりやけどは流水あるいは濡れたタオルなどで冷やすのが一番です。それに、アロエの葉も果肉も無菌ではなくたくさんの雑菌がついています。

冷蔵庫に入っている味噌ならペースト状に冷やすのによいと考えたのでしょうか。味噌が傷口にへばりついて取れなくなることもあるのでやめましょう。やはり、流水でひやすのがいいと思います。

馬由も同じく、メリットとデメリットでいうとデメリットのほうが大きいため、やめておきましょう。

やけどについてのQ&A

やけどの応急処置は、患部を冷やすこと。水道水(蛇口を開きっぱなしにすること)で冷やすのがベストです。目安は20分と言われていますが、受傷直後に少しでも冷やすとやけどの進行を防ぐことができます。

手足は、水道水で冷やすことができても、体や顔など直接水をかけるのが難しい場合は、濡れたタオルやアイスノンで冷やすのでもよいでしょう。濡れたタオルはこまめにとりかえ、アイスノンは直接皮膚に当たらないように(凍傷を起こすことが)。

また、冷却スプレーは怪我などの際に瞬間的に使用する目的で作られており(使用時間は数秒程度)、決められた時間以上に使用すると過冷却による皮膚損傷のリスクがあがるため、やけどの応急処置としては不適切です。

服を着た部分をやけどした場合は、服の上から水をかけてください。あわてて無理に服を脱がせると、皮膚がめくれたりするので、やめましょう。

また、子供は大人と比べると体が小さいため、冷やし続けると体温低下を起こしてしまうので、冷却は大切ですが冷やしすぎないように気をつけてください。やけどが深く、広範囲な場合は、まずはすぐに病院に行くようにしましょう。

ヒリヒリと痛みが続く場合はどうしたらいいの?

ヒリヒリ痛みが続く場合は、患部を冷やすと楽になることが多いです。水疱が破れて、ヒリヒリしている場合は患部をきれいに洗って、ワセリンなどがあればつけるものよいでしょう。痛みが続く場合はがまんせず、医療機関を受診することをお勧めします。

その場合、夜間や休日の救急外来はあくまで応急処置を受けられるだけだと理解してください。なるべく日中に、皮膚科専門医のいる医療機関を受診するようにしましょう。

やけどの水ぶくれは破ってもいいの?

やけどの水ぶくれ(水疱:すいほう)は、自分では破らないようにしてください。理由は二つあります。ひとつめは、私たちの手には無数の常在菌が付着しており、必ずしも清潔とはいえないため、自分で水疱を破ることにより細菌感染を起こすことがあるからです。

もうひとつは、水疱の中には傷を治す成分がたくさん含まれているため、水疱が小さく、感染のリスクが低い場合は、天然の絆創膏として敢えて水疱は潰さず、そのまま治すこともあるからです。

やけどの水泡

繰り返しますが、自分で水疱を破るのはやめましょう。やけどで水疱ができている部位は、表皮がない状態です。表皮がない皮膚はバリア機能を失い、細菌などに感染しやすくなっています。

絆創膏よりラップの方がいいって聞いたけど本当?

 

ラップ療法、一時期大流行しましたね。湿潤環境が創傷治癒によいことは間違いありませんが、適切に使用するのが難しいため、創傷治療のプロではない人にはあまりお勧めできない、というのが皮膚科医の本音です。

「傷がなかなか治りません」と皮膚科を受診、あるいは紹介されてくる患者さんの傷口にラップが巻かれていたら、皮膚科医はたいていがっかりした顔になります。なぜなら、たいていの場合はラップの下にはびっしり菌が繁殖しているからです。

まず、ラップ療法について簡単に説明します。ひと昔前までは、「傷は乾かして治す」のが基本でした。乾かすことによって細菌の繁殖を防ぐことができるからです。実際に傷を治す際の最大の妨害因子は細菌の繁殖。

ですが、創部を乾燥状態にすると、創部にいる細胞にもダメージを与えるため、傷を治すのに必要な線維化細胞や表皮細胞の増殖が進まず、傷の治りが悪くなります。傷口は適度に湿らせた環境にしておくのがよいとわかり、登場したのがラップ療法です。

ラップ療法は自宅でも簡単にできて、しかもラップ自体は安価なものなので、大流行しました。ただし、ラップ療法をする際には、「傷口はよく洗って、菌を減らす」ということが非常に重要です。

言い換えると、細菌感染のリスクがない、というのが大前提。傷口を湿らせておくということは、傷の治りを促進する環境であると同時に、細菌にとっても繁殖しやすい環境なのです。

傷口から出る水分(滲出液:しんしゅつえき)が多い場合や、壊死組織と呼ばれる死滅した細胞の塊が傷口に残る場合は、ラップ療法は大変危険。

傷口をラップで覆ってしまうと、適度に温かく、水分があって、餌になるたんぱく質(壊死組織)があるという3拍子揃ってしまうため、爆発的に細菌が繁殖してしまうからです。

増えた細菌は局所で感染を起こすだけでなく、傷口から血液中に入りこみ、全身に菌が回って敗血症とよばれる重篤な状態となり、最悪の場合死亡することもあります。

傷の状態をきちんと評価して、管理できない人が、簡単で安価だからと、気軽にラップ療法を行うのは非常に危険。医師の中にもラップ療法を安易に行って、かえって患者さんの傷の状態を悪化させる人がいるのは非常に残念です。

ラップ療法は、皮膚科医の立場からするとおすすめできないものであると知っておいてください。

軽傷だったら放置しても大丈夫?

Ⅰ度熱傷であれば、紅斑(あかみ)のみの場合は、しばらく流水などで冷やして、そのまま放置しても大丈夫なことが多いです。

ただし、やけどは時間経過とともに真の重症度がわかるようになってくることもあるため、途中で治りがよくない場合は、やはり医療機関を受診することをお勧めします。

医療機関でやけどの治療

やけどをはじめとする外傷は少なからず精神的なショックを伴うものです。医療機関を受診して、適切な処置が開始されれば、ショックや不安もやわらぐと思います。

やけどの跡が残ってしまった…どうすればいい?

熱による損傷が皮膚の深い部位まで及んだ場合(深達Ⅱ度やⅢ度)、やけどの傷が治癒しても皮膚のひきつれが残ることが。深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、皮膚の表皮から真皮まですべて損傷されています。

真皮内の汗腺などの付属器はほとんど失われ、皮膚は線維化といって硬く縮んで(拘縮:こうしゅく)しまい、こうした治癒のし方(瘢痕治癒:はんこんちゆ)は引きつれの原因に。

ひきつれを治すには、範囲が狭い場合は塗り薬や貼薬、ステロイドの注射などを行うことがありますが、大きいひきつれの場合は「瘢痕形成術」という手術による治療が中心です。

まとめ

やけどの種類や治療方法などについて説明してきました。やけどは、痛みを伴うもので、治療に時間がかかり、場合によっては傷跡やひきつれを残す厄介な疾患です。

やけどの原因として、

  1. 高温の液体は、ヤカンや鍋のお湯、天ぷら油、コーヒーやお茶、味噌汁などの熱い飲み物、カップ麺などが多く報告されています。そのほかに高齢者や小児では高温の浴槽での事故も。
  2. 固体は、ストーブやアイロン、ホットプレートなどがあります。
  3. 直接の炎は、調理中の着衣への引火、仏壇のロウソクから着衣への引火、火災によるなどの報告があります。
  4. その他お子さんでは花火によるものや、乳幼児では炊飯器やポットの蒸気に手をかざしてしまって受傷することも。

特に小さいお子さんがいらっしゃるご家庭は、注意するようにしましょう。

参考文献

1) 日本皮膚科学会 熱傷診療ガイドライン

2) 皮膚科学 金芳堂

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