過度のダイエットは薄毛の原因?ダイエットが悪影響とならないためにポイントを押さえよう

現在ダイエットに取り組んでいる方はいらっしゃいますか?
食事のバランスを整えてダイエットをすることは、健康的でよいことです。ただ、過度なダイエットで栄養バランスが偏ってしまうと、薄毛の原因になります。“過度”な基準はどこにあるのでしょう?
ダイエットする際には、どのような点に気をつければ良いのでしょうか。今回この記事では、これらのダイエットに関する疑問について深掘りしていこうと思います。
極端な栄養不足状態は、髪の毛の状態にも悪影響が及ぶ

ダイエットとは、食事の量を調節したり、運動をしたりして体重を落とすことです。
息をしたりする基礎代謝に、運動などで消費されるエネルギーを加えた消費エネルギーが、食事で摂取するエネルギーを上回ると、体の脂肪がエネルギー源として利用されるため体重が減っていきます。
基礎代謝は、成人男性では約1,500kcal、女性は約1,150kcalで、これに運動の強度と継続時間分のカロリーが消費エネルギーとして加算1) 。医学的に適正なダイエットの目安は、国際的な標準指数であるBody Mass Index(BMI)=体重(kg)÷身長(m)2が用いられます。
BMIが18.5〜25以内にあれば、普通の体重。ただし、BMIだけでは筋肉や脂肪の量を直接測定はできないため、最近では体脂肪率を測定できる体重計が売られています。測定法や機械によって誤差が生じるため、体脂肪率の正確な測定を行うことは難しいのですが、ダイエットの指標の一つに。
BMIや体脂肪率が正常範囲内にあっても、見た目でもっと痩せたいと思う基準は、医学的な指標よりも低い傾向に。テレビや雑誌からの情報で、「痩せなくては」という呪縛に囚われている方も多く見受けられます。
医学的には、低体重に入るのに、見た目をよくする目的で体重を落としてしまうと、過度なダイエットとなり健康上の問題が。
過度のダイエットでは、体の必要な栄養素が食事から供給されず不足。体重が落ちる以上に、からだの全ての臓器の代謝が飢餓状態になり、活動を停止して命を守ろうとします。
神経性やせ症という、思春期に起こりやすい過剰な食事制限や嘔吐などによる病的なやせ症がありますが、ホルモン異常による月経停止、骨粗鬆症、肝機能障害、腎機能障害、うつなどの精神科的な合併症など、さまざまな障害も2) 。
薄毛、脱毛も特徴的な症状です。髪は、80-90%がケラチンというタンパク質からできています。そのタンパク質を構成するのがアミノ酸で、食事からしか摂取できない必須アミノ酸は、髪を作るのには必要な成分です。
過度な食事制限をして必須アミノ酸が不足した場合、ケラチンが作れず髪が弱々しくなってしまいます。タンパク質やアミノ酸以外にも、ビタミン類、亜鉛、鉄などの微量元素も髪の毛の成長には必要な成分で、不足すると薄毛の原因に。
食事の中には、ホルモンの原料になる必須脂肪酸という成分が含まれますが3) 、過剰なダイエットにより脂肪の吸収が不足することで、ホルモンバランスの乱れが起こることもあります。
ホルモンバランスの乱れにより、男性ホルモンの活性が優位になると、ヘアサイクルの成長期が極端に短くなり薄毛、脱毛の原因に。
薄毛を予防したいなら過度なダイエット、特に食事制限は禁物です。
効果的な糖質制限ダイエットとは、バランスよく栄養素を摂りながら糖質を減らすこと

糖質ダイエットは、名前の通り糖質を制限して食事のカロリーを減らすダイエット法です。糖質制限ダイエットにはいくつか種類がありますが、その中でAtkins法は医学的な研究などで効果が検証されています。
Atkins法は、最初の数ヶ月は1日20gまで糖質制限を行い、その後1日120gまで制限を緩めて糖質制限を行うという方法です。Atkins法では、脂肪やタンパク質の制限はなく、糖質以外は制限なく食べることができます。
過度の糖質制限の影響
糖質は、タンパク質、脂質と並んで3大栄養素のひとつである炭水化物の一種です。
脳、神経組織、赤血球などは、通常ブドウ糖(グルコース)という糖質しかエネルギー源として利用できないため、糖質は人間が生きていくためには必要な栄養源。
糖質はさまざまな食品に含まれており、特にお米が主食の日本人は過剰摂取になりがちです5) 。過剰なものをダイエットで正常にすると、体重は減っていきます。
ただし、生命維持には最低1日100gの糖質が必要です。これを下回らないように気をつけましょう。糖質を制限しすぎて必要最低限の糖質が補充されないと、体は飢餓状態に。ある程度は体内でグルコースが合成されるのですが、合成分も尽きてしまうと最終的には体内の糖質が枯渇します。
すると、脳や筋肉などの体の重要な臓器へのエネルギー不足が起こり、副作用として低血糖や命の危険性も6) 。頭皮の髪の毛などは、基本的に生命維持に必要なものではないため、体が飢餓状態にある時には、頭髪に栄養をあげる余裕がなくなり、薄毛になります。糖質制限は下限を守りましょう。
逆に、必要以上に糖質を摂りすぎると、肥満に加え、頭皮の皮脂分泌が増加します3) 。皮脂は頭皮に正常時もいるカビの一種(マラセチア)の餌になるため、皮脂分泌が過剰だとカビも増え過ぎてマラセチア皮膚炎という病気を。
皮脂が分解され脂肪酸が合成されると、それ自体も頭皮への刺激となり、炎症を起こします。頭皮の炎症、皮膚炎は脱毛の原因になりますので、注意が必要です。
また、糖質を摂りすぎると、肝臓でタイプ1インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor-1;IGF-1)という物質の合成が抑えられます。IGF-1は毛の成長にもかかわっているため、IGF-1が低下することで薄毛の原因になるのです。
カロリーさえ減らせば良いというだけではないダイエット方法の種類

ダイエット法は大きくわけて糖質制限、脂肪制限の2種類に分けられます。
Atkins法以外の糖質制限には、1日あたりの糖質摂取を130g程度に抑えるBernstein法7) などがありますが、糖質ゼロなどの極端な制限も、少し糖質を控えめにする場合も、糖質制限に。
Atkins法のように、糖質を最初の2ヶ月は1日20gなど極端に制限する方法が、体重の減量には最も効果があることがわかっていますが8)、低血糖や死亡例の報告もあります。極端な糖質制限は自己判断で行うよりも、管理栄養士などに相談しながら行いましょう。
次は脂質制限です。脂質は体内のホルモンの原料であり、食事からしか取ることができない必須脂肪酸を含んでいます。脂質を過剰に制限しすぎると、ホルモンバランスが崩れて不健康な状態になり、さまざまな症状を起こし、薄毛・脱毛の原因になることも。
脂肪は食事のエネルギーの25-30%ほどになってしまいがちですが5) 、脂肪制限では10%ほどに減らしていきます。脂質のうち、避けるべき脂質としては古く痛んだ油や、人工的に合成された油脂(マーガリンやショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸)が。
逆に、魚油(ω-3多価不飽和脂肪酸)や植物性油脂(ナッツ油やオリーブオイルなど)はむしろ健康に良いとされています。どの脂質をカットするかはよく選ぶ必要がありますね。
糖質制限と脂肪制限、どちらも過去の研究では半年で8kgほどの減量効果があり4) 、いずれも減量法としては効果が実証されたダイエット法です。
基本的には半年から1年など、長いスパンで体重を減らす方法。体重を1ヶ月に何%落とすのがよいかははっきりした医学的根拠はありませんが、体重の3-5%が目安。
また、次のようなポイントを取り入れると、より効果的です。
夜食・暴飲暴食・早食いを控える

夜間は食事を取らない時間が最も長く、本来であれば血糖値が低めの時間帯です。夜食や暴飲暴食をすることで、食後の血糖値が急上昇します。
エネルギー源として使われなかった分の糖質は、脂肪として体内に蓄積。食後高血糖を防ぐことは、ダイエットで重要なポイントです。夜食で血糖値が上がっても、夜に運動をしない限り睡眠中の代謝量は低いままなので、過剰な糖質はもれなく脂肪に置き換わってしまいます。
また、過剰な糖質によって起こる糖化ストレスは、動脈硬化やアルツハイマー病の悪化、骨折の増加、皮膚の老化、白内障などの発症に関与9) 。薄毛・脱毛も老化現象の一つですから、糖化ストレスで発症、進行する可能性が。
暴飲暴食も、糖質・脂質の過剰から、肥満につながります。早食いも食後の高血糖と脂肪の蓄積を招きます。ダイエットのためにも、薄毛・脱毛などの老化予防のためにも、夜食、暴飲暴食、早食いは避けたいですね。
朝食を抜かず、バランスの良い食事

厚生労働省の調査では、朝食を食べない人は20歳代で最も高く、男性で3割、女性では2割ほど。体内にある体内時計は、日光を浴びることで脳にある中枢時計が調節され、朝食を食べることで肝臓、心臓、血管などの全身にある末梢時計が調節10) 。
中枢時計と末梢時計が調節されることで、適切な日内リズムを保つことができることがわかっています。朝食を抜くと、日内リズムが調節されずに崩れ、1日のカロリー量が増えて肥満になりやすいという研究結果も11) 。朝食は、抜かずに必ず食べましょう。
朝食で何を食べるかも大切です。ついついパンやご飯などの糖質ばかりに偏ってしまいがちですが、タンパク質、脂質、果物、野菜などバランスが大切です。中でも、食物繊維は食後の高血糖を改善させる役割があります13) 。
食物繊維が豊富な野菜、海藻、きのこ類を積極的に取り入れましょう。食べる順番も重要です。野菜、魚、肉を先に食べると食後の高血糖を抑えることができます14) 。
ダイエットのためも、朝食は抜かず、バランスの良い食事と食べる順番に気をつけながら食べましょう。
代謝を上げる運動を行う

ダイエットには、食事だけではなく運動習慣も大事です。基本的には、摂取した過剰なカロリーを運動で燃焼して、バランスが±0になると体重は変わりません。食べた以上に燃焼すれば体重が減っていくという仕組みになっています。
必要な運動量や強度は、年齢や活動量によって変わってきますが、全ての人に毎日10分ほどのウォーキングと活動量を少しでも増やす工夫が有効です。週2日以上30分の運動習慣に加え、ダイエット目的であれば有酸素運動を加える必要があります。
ウォーキング、自転車エルゴメーター、ジョギング、水泳などの有酸素運動は、エネルギー消費量も高くおすすめです15) 。
どれくらいの運動時間が必要かについては、20分以上継続しないと脂肪燃焼が始まらないという説もありますが、実際にはトータルの運動時間が重要。1日に30分の運動を行うのと、10分間の運動を3回に分けて行うのも、減量効果は同じということです。
正しい範囲内での糖質制限、おすすめの糖質制限ダイエット
糖質制限の減量効果が高いことはわかっていますが、糖質制限を継続し続けることはなかなか難しいです。そのような場合には、緩やかな糖質制限(ロカボ)がおすすめ。ロカボは、1食あたりの糖質を20g以上40g以下として、食事以外の間食で糖質を1日10g、1日量としては70g以上130g以下に。
Atkins法のように20gという極度の糖質制限からみると、かなりハードルは低そうですね。食品としては、食後の血糖値を上げにくいとされる低Glycemic Index(GI)食を取り入れるのもよいかもしれません。
GI値は、低GI (≦55)、中GI(55〜70)、高GI(70<)に分けられます。白いごはんや食パンはGI=70前後、砂糖は65、果物は20程度と言われており、食物繊維が豊富な葉物野菜は低GI食です。
低GI食は、総じて食物繊維、特に不溶性食物繊維が豊富で血糖値の低下などの変化があったという報告もあります。ただし、低GI食は、低いだけで糖質ゼロではないため、摂りすぎた場合には食後高血糖になりますし、万能ではありません。上手に取り入れましょう。
まとめ
ダイエットと薄毛、脱毛について解説しました。
ダイエット法もいくつか種類がありますし、健康のために食事や運動を取り入れるのはとても大切です。ただし、過度に制限しすぎたり、運動強度を上げすぎたりして健康を害してしまっては元も子もありません。
基本的には、朝食を抜かずにバランスの取れた食事、食物繊維を多めに意識、運動習慣できれば1日30分以上など、ポイントを押さえて今の生活に取り入れてみてください。
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