「最近、シャンプーのたびに排水口にたまる髪が増えた」「分け目が目立ってきた気がする」――そんな悩みを抱える女性は少なくありません。薄毛の原因はさまざまですが、見落とされがちなのが甲状腺の働きと栄養の関係です。
甲状腺ホルモンの生成に必要なヨウ素(ヨード)や、甲状腺を酸化ストレスから守るセレンは、髪の毛の成長にも大きく影響を及ぼします。不足しても過剰でも、甲状腺の機能が乱れれば髪にダメージが出かねません。
この記事では、甲状腺と髪の健康を栄養面からどう守ればよいのか、毎日の食事に取り入れやすい具体的な情報とともにお伝えしていきます。
甲状腺の不調が抜け毛を引き起こす原因は、ホルモンバランスの乱れにある
甲状腺ホルモンの分泌量が多すぎても少なすぎても、髪の毛は正常に育ちにくくなります。とくに女性はホルモンの変動が大きいため、甲状腺トラブルによる脱毛を経験しやすいといえるでしょう。
甲状腺ホルモンが毛髪の成長サイクルに深く関わっている
髪の毛は「成長期→退行期→休止期」というサイクルを繰り返しながら生え変わっています。甲状腺ホルモンは、このサイクルの中でもとくに成長期の維持に関与しています。
甲状腺ホルモンが正常に分泌されているとき、毛母細胞の分裂は活発に行われます。しかしホルモン量が低下すると成長期が短縮され、休止期に移行する髪が増加してしまいます。その結果、全体のボリュームが減り、薄毛として表面化するのです。
甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症、それぞれで起こる脱毛の違い
甲状腺機能低下症では、代謝全般が落ち込みます。髪が乾燥してもろくなり、全体的にまばらに抜けるびまん性脱毛が典型的な症状です。一方、甲状腺機能亢進症では毛髪の細さや柔らかさが目立ちやすくなります。
どちらのケースでも、甲状腺の治療を行いホルモン値が安定すれば、髪の回復が期待できます。ただし回復には数か月の時間がかかるため、焦らず経過を見ることが大切です。
甲状腺機能異常と脱毛タイプの比較
| 甲状腺の状態 | 脱毛の特徴 | 毛髪の質感 |
|---|---|---|
| 機能低下症 | びまん性脱毛(全体的に薄くなる) | 乾燥・粗い |
| 機能亢進症 | 細毛化・軟毛化が進む | 細くて柔らかい |
| 橋本病 | びまん性脱毛+円形脱毛症の合併も | 乾燥・切れやすい |
女性に多い橋本病が薄毛の原因になるケースは決して少なくない
橋本病は自己免疫によって甲状腺が慢性的に炎症を起こす疾患で、女性の発症率が圧倒的に高いとされています。甲状腺機能が徐々に低下するため、初期段階では疲れやすさや冷え性などの症状が前面に出ます。
脱毛は比較的進行してから気づかれることが多く、「年齢のせいだろう」と見過ごされがちです。しかし甲状腺抗体の値を調べることで早期発見が可能になるため、薄毛が気になる方は一度検査を受けてみるとよいかもしれません。
ヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの材料であり、髪の健康にも直結する栄養素
ヨウ素は甲状腺ホルモンであるT3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)の構成要素そのものです。ヨウ素の摂取量が適正でなければ、甲状腺の働きは乱れ、髪の成長にも悪影響が及びます。
ヨウ素が不足すると甲状腺ホルモンの生成が滞り、髪が痩せていく
ヨウ素が足りないと、甲状腺はホルモンを十分に作ることができません。体は甲状腺刺激ホルモン(TSH)を増やして甲状腺を刺激しようとしますが、材料がなければホルモン量は回復しないでしょう。
その結果、毛母細胞への栄養供給が滞り、髪のハリやコシが失われていきます。世界的に見ると、ヨウ素欠乏は甲状腺疾患の原因として依然として大きな問題とされています。
日本人のヨウ素摂取量は世界的に見ても多いが、過剰摂取にも注意が必要
日本は海藻を日常的に食べる食文化があり、ヨウ素の摂取量は世界平均を大きく上回っています。そのため日本ではヨウ素不足よりも、むしろ摂りすぎによる甲状腺への影響が懸念されることもあります。
ヨウ素の過剰摂取は一時的に甲状腺ホルモンの生成を抑制することが知られており(ウォルフ・チャイコフ効果)、長期間の過剰が続くと甲状腺機能低下症のリスクを高めかねません。
海藻の食べ過ぎがかえって甲状腺に負担をかけることもある
昆布にはとくに多量のヨウ素が含まれています。昆布だしを毎日大量に使う食生活を続けていると、気づかないうちにヨウ素の上限量を超えてしまう場合があります。
だしの使い方を工夫するだけでもヨウ素の摂取量は調整できます。たとえば、かつおだしとのブレンドに切り替えるなど、小さな工夫で過剰摂取のリスクを下げられるでしょう。
主な食品に含まれるヨウ素の目安量
| 食品 | 1食あたりの量 | ヨウ素量(目安) |
|---|---|---|
| 乾燥昆布 | 5g | 約10,000μg以上 |
| わかめ(乾燥) | 5g | 約400~800μg |
| 焼き海苔 | 3枚(約3g) | 約60μg |
| たら | 100g | 約350μg |
| 卵 | 1個 | 約15~20μg |
セレンは甲状腺を守る抗酸化ミネラルであり、育毛と抜け毛予防に結びつく
セレンは体内の組織の中でも甲状腺に高い濃度で存在しており、甲状腺ホルモンの代謝と甲状腺組織の保護という二つの面で大きな働きを担っています。セレンが不足すると髪だけでなく、甲状腺そのものにも深刻な影響が出る可能性があります。
セレンが甲状腺ホルモンの活性化(T4→T3変換)を担っている
甲状腺から分泌されるホルモンの大部分はT4という不活性型です。このT4を全身で使えるT3に変換する酵素「脱ヨウ素酵素(デイオジナーゼ)」は、セレンを含むセレノプロテインの一種です。
つまり、セレンが十分に存在しなければ、ヨウ素を使って作られたT4が効率よくT3に変わらず、体の代謝が全体的に低下してしまいます。毛髪の成長に必要な細胞分裂のエネルギーも不足しやすくなるのです。
セレン不足が自己免疫性甲状腺疾患を悪化させ、抜け毛につながる
セレンにはグルタチオンペルオキシダーゼという抗酸化酵素の構成成分としての働きもあります。この酵素は、甲状腺がホルモンを作る過程で発生する過酸化水素から甲状腺細胞を守っています。
セレンが欠乏すると抗酸化防御が弱まり、甲状腺への酸化ダメージが蓄積しやすくなります。橋本病やバセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患が悪化するリスクが高まり、結果として脱毛が進む恐れもあるでしょう。
セレンに関連する甲状腺関連酵素
| 酵素名 | おもな働き | セレン不足時の影響 |
|---|---|---|
| 脱ヨウ素酵素 | T4をT3に変換する | 活性T3の産生低下 |
| グルタチオンペルオキシダーゼ | 酸化ストレスから甲状腺を保護する | 甲状腺組織への酸化ダメージ増加 |
| チオレドキシン還元酵素 | 細胞内の酸化還元バランスを維持する | 免疫調節機能の低下 |
セレンの1日あたりの推奨摂取量と上限量を押さえておこう
成人女性のセレン推奨摂取量は1日あたり約25μg(日本の食事摂取基準)とされ、耐容上限量は330μgです。海外の基準では55~70μgが推奨されていることもあります。
通常の食事であればセレン不足になることはまれですが、極端な偏食やダイエットを続けている場合は注意が必要です。逆に、サプリメントなどで過剰に摂取すると脱毛や爪の変形といった中毒症状が現れることもあるため、適量を心がけましょう。
ヨウ素とセレンのバランスが崩れると、甲状腺と髪の両方にダメージが出る
ヨウ素とセレンはそれぞれ単独で甲状腺に作用するだけでなく、互いに影響し合いながら甲状腺ホルモンの合成・代謝・抗酸化防御を支えています。どちらか一方が欠けても、もう一方の働きが十分に発揮されにくくなります。
ヨウ素だけを補ってセレンが不足すると甲状腺の炎症が加速する
ヨウ素を甲状腺に取り込んでホルモンを合成する際には、過酸化水素が発生します。通常であればセレン依存性の抗酸化酵素がこの過酸化水素を無毒化しますが、セレンが足りない状態ではそれがうまくいきません。
その結果、甲状腺組織が酸化ストレスにさらされ続け、炎症や自己免疫反応が促進されるリスクが高まります。ヨウ素をしっかり摂っているのに甲状腺の調子が悪い、という場合にはセレン不足が隠れているかもしれません。
セレンとヨウ素は「二人三脚」の関係であり、片方だけでは力を発揮しにくい
研究では、セレンとヨウ素の比率が適正に保たれている場合に甲状腺の機能がもっとも良好に維持されることが示されています。片方の栄養素だけを意識して補給しても、バランスが崩れれば期待どおりの効果は得られないでしょう。
とくに自己免疫性甲状腺疾患を抱えている方は、セレンの補給が甲状腺抗体の値を下げるという報告もあります。ただし、まず医師に相談し、自分の栄養状態を正確に把握してから対策を始めることが重要です。
サプリメントで単独補給する前に、まず食事全体を見直すべき理由
セレンやヨウ素に限らず、栄養素は食品の中で他の成分と共存しながら体に吸収されています。食事からまんべんなく栄養を摂るほうが、サプリメントで一種類だけ補うよりも安全性が高く、吸収効率も良好な場合が多いのです。
もちろん、医師の判断でサプリメントが必要とされるケースもあります。しかし自己判断での摂取は過剰摂取のリスクを伴うため、まずは日々の食卓を整えることから始めてみてください。
- ブラジルナッツ1~2粒で1日分のセレンを手軽に補給できる
- わかめや海苔は昆布に比べてヨウ素含有量が穏やかで摂りやすい
- 魚介類は良質なタンパク質とともにヨウ素・セレンの両方を含む
- バランスのよい和食は甲状腺に必要なミネラルを総合的にカバーしやすい
甲状腺と育毛を同時にケアする食事法|ヨウ素・セレンを含む食品を毎日の食卓に
特別なサプリメントを使わなくても、日常の食材を意識して選ぶだけで甲状腺と髪に必要な栄養を確保できます。とくにヨウ素・セレン・鉄・亜鉛・ビタミンDの組み合わせを意識することがポイントです。
ヨウ素を適度に摂取できる食品と調理のポイント
ヨウ素の摂取源として日本人になじみ深いのは海藻類ですが、先述のとおり昆布は含有量が突出して高いため注意が必要です。わかめや海苔、ひじきなどを中心にすれば、過剰になりにくい範囲で摂取を続けやすいでしょう。
魚介類からも適度なヨウ素を得ることができます。たら、ツナ、えびなどを週に数回食事に取り入れるだけで、ヨウ素不足を防げるはずです。加熱調理でヨウ素が大幅に減ることはないため、調理法をそこまで気にする必要はありません。
セレンを手軽に摂れるおすすめ食品
セレンの含有量がとくに高い食品はブラジルナッツです。1粒あたり約70~90μgのセレンを含むため、1日に1~2粒を間食として食べるだけでも十分な量を補えます。
そのほかにも、まぐろ、かつお、鶏卵、豚レバー、にんにくなどにセレンは含まれています。和食の献立であれば、焼き魚と味噌汁という組み合わせだけでも相当量のセレンを摂取できるでしょう。
セレンを含む食品と1日の摂取目安への寄与
| 食品 | 1食あたりの量 | セレン量(目安) |
|---|---|---|
| ブラジルナッツ | 1粒(約5g) | 約70~90μg |
| まぐろ(赤身) | 80g | 約80μg |
| かつお | 80g | 約75μg |
| 鶏卵 | 1個 | 約15μg |
| 豚レバー | 50g | 約35μg |
鉄・亜鉛・ビタミンDなど、甲状腺と育毛に関わるそのほかの栄養素
甲状腺と髪の健康を支えるのは、ヨウ素とセレンだけではありません。鉄は甲状腺ペルオキシダーゼの活性に必要であり、不足すると甲状腺ホルモンの合成効率が下がります。亜鉛もまた、甲状腺ホルモン受容体の構造を維持するうえで欠かせないミネラルです。
ビタミンDは免疫の調節に関与しており、自己免疫性甲状腺疾患との関連が報告されています。これらの栄養素は魚介類、赤身の肉、卵、きのこ類に含まれているため、日々の献立にバリエーションをつけることで自然に補えるでしょう。
甲状腺に関わる抜け毛を感じたら、まず血液検査で数値を確認しよう
薄毛の原因が甲状腺にあるかどうかは、自己判断で見極めることが難しいものです。血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べれば、原因の特定に大きく近づきます。
TSH・FT3・FT4・甲状腺抗体の検査で何がわかるのか
甲状腺機能を評価する基本的な検査項目はTSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT3(遊離T3)、FT4(遊離T4)の3つです。TSHが高くFT4が低い場合は甲状腺機能低下症、TSHが低くFT4が高い場合は甲状腺機能亢進症が疑われます。
さらに、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体を測定することで、橋本病やバセドウ病などの自己免疫性疾患を早い段階で見つけることが可能です。脱毛の原因を突き止めるために、これらの項目を一通り調べてもらうとよいでしょう。
栄養不足による抜け毛と甲状腺疾患による抜け毛を見分けるポイント
栄養不足による脱毛は、鉄欠乏性貧血やタンパク質不足が代表的であり、全身の倦怠感や爪の変形を伴うことがあります。一方、甲状腺疾患が原因の場合は、むくみ・体重変動・体温の変化・月経異常といった全身症状が一緒に現れるケースが少なくありません。
「髪だけの問題」と片づけず、体全体のサインに目を向けることが早期発見のカギになります。気になる症状が複数ある場合は、放置せず医療機関を受診してください。
受診するなら内分泌科や甲状腺専門外来がおすすめ
甲状腺の検査は多くの内科で受けられますが、より詳しい評価や治療を望む場合は、内分泌科や甲状腺専門のクリニックを選ぶと安心です。エコー検査で甲状腺の大きさや形状を確認できるため、血液検査と合わせて総合的な評価が受けられます。
薄毛で皮膚科を受診するのももちろん有効ですが、甲状腺が疑われる場合には専門医への紹介を依頼してみてください。
- 健康診断ではTSHしか測定しないことが多いため、FT3・FT4・抗体検査も追加で依頼する
- 女性は妊娠・出産・更年期のタイミングで甲状腺機能が変動しやすいため定期的なチェックが有用
- 食事内容やサプリメントの使用状況を医師に伝えると、より正確な診断につながる
セレンやヨウ素の過剰摂取が逆に抜け毛を招く危険もある
「甲状腺によい栄養素だから、たくさん摂ればそれだけ髪にもよいはず」と考えるのは危険です。セレンもヨウ素も、摂りすぎれば甲状腺に害を及ぼし、脱毛を悪化させる可能性があります。
セレンを1日400μg以上摂取すると脱毛などの中毒症状が出る
セレンの耐容上限量は成人で1日400μg(国際的な目安)とされており、これを継続的に超えるとセレン中毒(セレノーシス)を引き起こすことがあります。代表的な症状は脱毛、爪の脆弱化、吐き気、神経障害です。
とくにブラジルナッツを大量に食べ続けたり、高用量のセレンサプリメントを重ねて服用したりすると、知らず知らずのうちに上限を超えてしまうケースが報告されています。適量を守ることが何より大切です。
セレンとヨウ素の安全な摂取量の目安
| 栄養素 | 推奨量(成人女性) | 耐容上限量 |
|---|---|---|
| セレン | 25μg/日(日本基準) | 330~400μg/日 |
| ヨウ素 | 130μg/日 | 3,000μg/日(日本基準) |
ヨウ素の摂りすぎが甲状腺機能を低下させて抜け毛につながる
日本人にとってヨウ素過剰は身近な問題です。毎日の昆布だし、昆布の佃煮、昆布茶など、昆布を多用する食事は1日のヨウ素摂取量を数千μg~数万μgにまで引き上げてしまうことがあります。
ヨウ素を大量に摂取し続けると甲状腺機能低下症を招くことがあり、それに伴って抜け毛が増える可能性も否定できません。甲状腺に不安がある方は、海藻の種類と量に意識を向けてみてください。
自己判断のサプリメント利用を避け、医師と相談してから始める
インターネット上には「髪によいサプリメント」として、セレンやヨウ素を含むさまざまな製品が紹介されています。しかし、自分の体に本当にその栄養素が不足しているかどうかは、血液検査をしなければ正確にはわかりません。
不足していないのにサプリメントで上乗せすれば、過剰摂取のリスクが高まるだけです。甲状腺と髪の健康を守りたいなら、まず医師に栄養状態を確認してもらい、必要に応じて適切な種類と量の補給を指導してもらいましょう。
よくある質問
セレン不足の場合は、甲状腺の抗酸化防御が弱まることで甲状腺の炎症が進行し、間接的に脱毛を引き起こします。どちらの場合も、栄養状態を改善し甲状腺ホルモンの値が正常に戻れば、数か月かけて髪の回復が見込めるでしょう。
とくにセレンが不足していない方がサプリメントを摂取しても、追加的な効果は期待しにくいと考えられています。まずは血液検査でセレンの値を確認し、医師の判断を仰いだうえで補給の要否を決めることが大切です。
一般的には3~6か月ほど経過を見る必要があるとされています。回復を早めるためには、甲状腺の治療と並行して食事内容を整え、髪に必要な栄養を十分に摂ることも心がけてください。
甲状腺に問題がない方であっても、昆布だしを主体とした食事を長期間続けている場合は、一度甲状腺機能の検査を受けておくと安心でしょう。ワカメや海苔はヨウ素含有量が比較的穏やかなため、通常の食事量で過剰を心配する必要は少ないといえます。
実際の食事では、魚介類を中心としたメニューに海藻を適量加えるだけで、両方の栄養素をバランスよく摂取できます。サプリメントで同時に補う場合には過剰摂取のリスクがあるため、必ず医師に相談したうえで利用してください。
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