AGAの対策を始めるために知っておきたい毛髪のしくみ
最近では、いろいろなクリニックが増え、AGA(男性型脱毛症)という言葉も馴染みのあるものになってきました。ただ、病名に馴染みは出てきていても、毛髪のしくみを解剖学的・生理学的に熟知している方は少ないのではないでしょうか。
毛髪は目に見える部分であるせいか、多くの方がヘアケアに気をつけて、脱毛や薄毛に対する意識が高まっています。毛髪のしくみを理解していると、さらにヘアケアの重要性や脱毛に対する注意点などが明確に。
そこで、今回は、AGAを深く理解するために知っておきたい毛髪のしくみについて、ご説明しましょう。
頭皮の構造は3層に分けて理解しよう
頭皮は、体の表側(外側)から、表皮・真皮・皮下組織の3層構造。
頭皮の一番外側である表皮は、さらに外側より角層・顆粒層・有棘層・基底層の4層構造となっています。
一番下の基底層から細胞が分裂し、頭皮(表皮)ができていきます。最後に表皮表面の角質層で垢(アカ)となって頭皮が脱落するまでに、45日1) 。つまり、頭皮が生え変わるのに45日かかるということです。表皮は主な機能として、外からの刺激から守るという役割をしています。
真皮は、動物ではレザーとして使われている部分です。表皮の下にあり、外側より乳頭層・乳頭下層・網状層の3層構造。真皮の機能としては、皮膚の弾力などを生み出しています。
真皮の下が皮下組織です。ほとんどが脂肪細胞で構成。皮下組織の役割は、脂肪の貯蔵や物理的外力に対するクッション、体温喪失の遮断、熱産生といった保温機能が。毛根は皮下組織にあり、そこから毛髪が体表に向かって伸びているのです。ちなみに、人体の中で一番皮脂が分泌される場所が頭皮。
- 表皮
- 角層
- 顆粒層
- 有棘層
- 基底層
- 真皮
- 乳頭層
- 乳頭下層
- 網状層
- 皮下組織
- 脂肪細胞
- 毛根
頭髪(毛髪)の構造はちょっと複雑だけど大切
毛とそれを囲む組織である毛包をあわせて毛器官と呼びます。毛器官は、唇・手・足の裏・粘膜を除く全身に。触覚装置として知覚神経の触られた感じの補助的役割や、頭部では外力や光線からの保護、高温や低温からの保温を担っています。
ちなみに、頭髪には毛穴が4万個あると言われており、一つの毛穴から2-3本の毛が。つまり、頭皮には約10万本前後毛髪が存在しているのです。
毛を取り囲む組織の事を毛包(毛囊)といい、皮膚面に対し、毛はななめに生えています。毛包は二重構造を取り、内側は上皮性成分、外側は結合組織性成分。
上皮性成分は内毛根鞘と外毛根鞘に分かれ、さらに、内毛根鞘は鞘小皮・Huxley層(ハックスレー層)・Henle層(ヘンレ層)に分かれます。
毛根の一番下の部分が毛球です。ここに、毛母細胞という細胞があり、この毛母細胞から毛が発生。毛は、ここから細胞分裂を行い、上方に発育し伸びていきます。
毛の断面は3層構造になっています。外側からヘアキューティクル(毛小皮)・ヘアコルテックス(毛皮質)・メデュラ(毛髄)と呼ばれます。
ヘアキューティクルは扁平な細胞が重なり合い、ヘアコルテックスの表面を覆って保護の役割を。シャンプーのCMなどで言われている「キューティクル」がこれです。ブラッシングやパーマ液などの刺激が強いと、ヘアキューティクルは損傷を受け、自然のツヤが消滅。
ヘアコルテックスは、縦方向に張原細線維が並んでいます。毛髪が縦に裂けるのは、線維が縦に並んでいるからです。毛髪の乾燥などが出てしまうのは、このヘアコルテックスの水分などが抜けてしまうから。
メデュラは、毛髪の中心部分で、メデュラは毛髄顆粒というものを作り、後は空洞となります。
髪の硬さには個人差があり、よく剛毛や軟毛と呼ばれ、その名の通り、硬い毛か柔らかい毛かの違いは、キューティクルの厚さとコルテックスの構造で決まるのです。剛毛はキューティクルが厚く、コルテックスも密に。軟毛はキューティクルが薄く、コルテックスも粗になっています
髪の太さの平均は大体0.08mmです。太さはコルテックスの量によって決まります。
髪の毛の色を決めるメラニンという物質は、コルテックスやメデュラに。メラニンはメラノサイトという細胞から作られます。ヘアカラーで髪の色が変わるのは、コルテックスにあるメラニンが反応しているからです。
メラノサイトの機能が低下してしまうとメラニンが作られなくなり、毛母細胞にメラニンを渡せなくなります。結果、髪の毛の色素が無くなり白髪に。メラノサイトが機能を低下してしまう原因は、加齢・遺伝・ストレス・薬の副作用などがあります。
毛髪の形状は、直毛・波状毛・捻転毛・縮毛・連珠毛。波状毛・捻転毛・縮毛・連珠毛がいわゆるクセ毛とよばれるものになります。
直毛は、真っ直ぐな毛。
波状毛は、ゆらゆらと波をうつような毛。
捻転毛は、コイル状に捻れている毛。
縮毛は、その名の通り縮れた毛。
連珠毛は、太さが一定ではなく、数珠が連なったような形状の毛。
毛髪は、毛周期(hair cycle)とよばれる一定の周期をもって発育し、成長期(anagen)・退行期(catagen)・休止期(telogen)の順を繰り返して、移行していきます。
抜け毛の原因はたくさんあります
抜け毛の原因として、特定の一つのものがあるわけではなく、さまざまな要因があげられます。
具体的な例としては、以下の通りです。
- 頭皮での血行不良
- 頭皮へのダメージ
- 加齢
- ストレス
- 睡眠不足
- 食生活などの生活習慣
- 喫煙
- 飲酒
- ホルモンバランスの異常
髪は血管から栄養をもらっていますので、頭皮での血行不良は脱毛の原因になります。特に、毛の発生の根源となる、一番下部の毛乳頭での血流が大事に。
ヘアカラーやパーマなどを繰り返していると、薬剤によって頭皮や髪が痛み、抜け毛が増える原因となります。また、発毛を促進する育毛剤などによりかぶれてしまい、それが原因で逆に脱毛になってしまう事も。
ストレスでも、自律神経の異常などにより血流が低下し、脱毛の原因になる事があり、さらに睡眠不足は、毛髪や頭皮環境が悪化する可能性が高く、やはり脱毛が起こる事があります。
食生活などの生活習慣でも、脱毛になる可能性が。高脂肪食の食事を続けると血行が悪くなり、抜け毛が増える事もあります。毛髪の材料となるたんぱく質が不足すると、良い毛が作られなくなり、やはり脱毛につながる可能性が。
喫煙や飲酒により、頭皮での血行不良が起こり脱毛してしまう事もあります。
ホルモンバランスも脱毛に関わる重要な要因です。遺伝と男性ホルモンが関係するのがAGA(男性型脱毛症)となります2) 。
髪の毛は普通の人でも1日に数十〜100本は抜けますが1) 、100本抜けるのは正常範囲内ですので、脱毛症にはなりません。逆に言えば、100本以上抜けるのは異常と考えていただくと良いと思います。
また、先ほど説明しましたが、髪の毛の太さはコルテックスの量によって決定。たんぱく質が不足してしまうと、コルテックスの量も減少してしまいますので、髪の毛が細くなり薄毛になる事もあります。
頭髪が気になる方は、睡眠時間や食事に気をつける、喫煙・飲酒習慣の見直し、頭皮のダメージを避けるなどの基本的な生活習慣の対策が必要です。短期的に効果が出るものではありませんが、長期に継続することにより効果が出てきます。
加齢に伴う髪の変化
体内の臓器は、加齢によって機能が低下してきます。毛も加齢にしたがい細くなり、減っていきます。毛包幹細胞は毛周期ごとに分裂しますが、加齢によって自己複製しなくなり、毛を作る細胞を生み出す代わりに角化細胞となり、皮膚表面からフケ・アカとして脱落3) 。
年齢別では、20代は皮脂が多く、またヘアカラーやパーマなどにより頭皮のダメージが出てしまい、脱毛になってしまうことがあります。頭皮を刺激から守り、健康な頭皮の状態を維持することが必要に。
30代は、ストレスや食生活の乱れが起きやすい年齢です。また、AGAが発生しはじめる年齢でもありますので、日常でのヘアケアが必要となってきます。
女性では、産後脱毛なども発生する事があり、脱毛が気になる方は育毛剤などの使用も考えてもいいでしょう。
40代は、更年期などホルモンバランスが崩れ、髪が薄くなったり、細くなったりする事があります。
50代は、全般的に機能が低下してくる年代。それに伴い脱毛が出てくる可能性も高いです。
男性ホルモンは男らしさに必要ですが、頭に限って脱毛を引き起こします
一般的に、男性ホルモンは骨・筋肉の発達を促し、髭や胸毛などの毛を濃くする方向に働きますが、前頭部や頭頂部などの男性ホルモン感受性毛包においては、逆に軟毛化現象を引き起こします。
男性の前頭部や頭頂部に脱毛が多いのは、男性ホルモンの影響です。男性ホルモンの代表であるテストステロンは II 型 5α―還元酵素の働きにより、さらに活性が高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合。
シヒドロテストステロンは、思春期以降では、男性型脱毛・前立腺肥大・ニキビなど、好ましくない症状を引き起こします。
まとめ
毛髪のしくみを解剖学的・生理学的にご説明しました。
頭髪は一番根っこの毛乳頭で、毛母細胞が毛細血管から栄養をもらい、成長していきます。
脱毛の要因としてはさまざまなものがありますが、生活習慣で改善できるものもありますので、もう一度自分のライフスタイルを見直してみましょう。
私達の大事な器官である毛髪の理解に繋がれば嬉しいです。
参考文献
- あたらしい皮膚科学 第3版. 清水宏著. 中山書店. 2018年.
- Hamilton JB. Male hormone stimulation is a prerequisite and an incitant in common baldness. Am J Anatomy 71(3):451-480, 1942. DOI: 10.1002/aja.1000710306
- Matsumura H, et al. Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis. Science 351(6273): 575-589, 2016. doi: 10.1126/science.aad4395. Epub 2016 Feb 4.