皮膚の病気

赤ちゃんの赤いあざ、ヘマンジオール、レーザー、イチゴ状血管腫

乳児血管腫
藤井 麻美

乳児血管腫とは、赤ちゃんの顔や腕などに赤いあざができる病気です。あざは表面が少しでこぼこすることもあり、鮮やかな赤色を呈するため、以前はイチゴ状血管腫と呼ばれていました。

乳児血管腫とはどのような病気なのか、治療が必要になるのはどんなときか、治療のメリットやデメリットなどについてこれから詳しく説明していきます。

名前 / Name  
藤井 麻美 

プロフィール / Profile
あさ美皮フ科亀戸駅前 院長
皮膚科専門医/医学博士
略歴:愛媛大学医学部を卒業後に大阪大学医学部皮膚科へ入局。退役軍人病院(米国ロサンゼルス州)皮膚科、岐阜大学医学部付属病院皮膚科を経て当院を開業。

所属:日本皮膚科学会/日本レーザー医学会/日本乾癬学会/日本アレルギー学会/江東区医師会

乳児血管腫とは 

乳児血管腫は赤ちゃんの顔や腕などにみられる赤いあざの一種です。

赤いあざにもいくつか種類がありますが、乳児血管腫は生後しばらくしてからうっすらと赤いしみのようなものができ、だんだんそれが大きくなって盛り上ります。

ときにはイチゴを乗せたような見た目になることもあり、以前はイチゴ状血管腫とよばれていました。乳児血管腫は生後6か月~1歳くらいまでに大きくなって、その後数年かけて自然に消退していきます。

そのため、かつて乳児血管腫はwait and see policyと言って、何もせずに様子をみるのが一般的でした。

しかし、最近はレーザー機器が発達し、またあざのタイプによっては有効な内服薬も開発されたため、早期から積極的に治療をしたほうがよい場合もあります。

もしレーザー治療を希望される場合は、0歳のうちに開始するのが理想的とされているので、赤ちゃんの赤あざが気になる保護者の方ははやめに皮膚科専門医にご相談するのをお勧めします。

乳児血管腫の原因

乳児血管腫は良性の血管性腫瘍です。未熟な毛細血管が増殖し、その中を流れる血液中の赤血球の赤い色素『ヘモグロビン』によって、その部分の皮膚が赤く見えます。

日本人の発症率は0.8~1.7%とされており、病因は不明ですが、早期産児や低出性体重児に多いことがわかっています。

頭頚部にできるのは全体の60%ともっとも多く、体幹が25%、四肢が5%と言われています1)

乳児血管腫の症状、分類

乳児血管腫は、生まれてまもなくのころは症状がないことがほとんどです。症状がある場合もうすいピンク色のあざ程度。

生後2週間くらいから赤いあざがはっきりしてきて、生後2~3ヶ月で急激に大きくなり、生後6か月ごろにだいたいピークの9割くらいの大きさになります。

生後6か月~1年くらいにあざの大きさはピークを迎え、その後数年かけてあざは小さくなっていきます。

局面型といって盛り上がりが少ないタイプだと小学校入学くらいまでに自然消退することが多いですが、腫瘤型では膨らんで伸びた皮膚が皺やたるみとなって残ることが多いです。

乳児血管腫のタイプ性状治療
局面型(扁平型)隆起が5㎜以下あざの場所、膨らみの大きさによってはレーザー治療を検討
腫瘤型もこもこと盛り上がるレーザー治療を検討腫瘤が大きい場合は、βブロッカー内服(へマンジオール®)の使用も
皮下型皮膚の深部で血管腫が増殖レーザー治療腫瘤型と同様にβブロッカーの内服を検討することも

乳児血管腫の診断と検査

乳児血管腫は問診や視診で診断がつくことがほとんどで、いつ頃発生したか、いつから大きくなってきたかが重要です。

視診や触診で血管腫の赤みや盛り上がりの程度をみます。

皮膚の深い部位に血管腫がある場合は単純性血管腫や海綿状血管腫など他の血管奇形と区別するため、エコー検査やCT、MRI撮影などを行うことも。

乳児血管腫の治療

すべての乳児血管腫に治療が必要なわけではありませんが、治療が必要な場合はできるだけ早期(レーザーならなるべく0歳のうち、内服なら生後3か月くらまで)に開始するほうがよいとされています。

乳児血管腫が疑われる場合ははやめに皮膚科専門医、形成外科専門医の診察を受けるようにしましょう。

レーザー治療

乳児血管腫の対するレーザー治療は広く行われています。

レーザー治療は乳児血管腫の表面の赤みを早く引かせる効果が。生後2~3か月以内にレーザー治療を開始できれば、乳児血管腫のピーク時の大きさを小さくとどめる効果も期待できます。

ただし、乳児血管腫で使用する595ナノメートルの波長のレーザー光線は深さ1mmまでしか到達しないので、すでに1mmを超えて大きくなっている腫瘤型に対する効果は限定的です。

乳児血管腫に対しては、皮膚レーザー照射療法というのが保険診療で認められていています。シネロン・キャンデラ社のVbeamあるいはVbeanⅡという機械で保険承認が。

この機械から発振される波長595ナノメートルのレーザー光は、血液中のヘモグロビンに選択的に吸収される特徴があります。

毛細血管が凝集した病変部では、ヘモグロビンがレーザーの光エネルギーを吸収し、熱変換することで血管内壁が熱破壊されて血管を閉塞。

レーザーを当てるとその場所に輪ゴムをパチンとはじいたような痛みがあるため、レーザー治療の前にはあらかじめ麻酔のテープを貼って、痛みを少なくします。

局所麻酔テープ

レーザーをあてた部位は一時的に赤くなり、数日残ることもあります。炎症は起こり、まわりが少し腫れることも。

また、血管腫が破壊されることにより紫斑(内出血)がみられることもありますが、これは10日から2週間で自然に吸収されます。

レーザー治療は1回で終わるわけではなく、2~3か月に一回の治療を5~6回は繰り返しです。

レーザー治療の効果は、皮膚がうすく、メラニン色素が少なく、回復力の強い赤ちゃんの頃が最もよく、治療の効率がよいとされています。

レーザー治療を希望される場合は、ぜび早めに専門医にかかることがお勧めです。

キャンデラ社Vbeam

内服治療(へマンジオル®シロップ)

乳児血管腫は大きくなるものもあり、その場合こすれたりして表面がただれたり、出血することがあります。また、目や鼻の近くにできる場合、目や鼻を塞いでしまうことも。

首などに血管腫ができ、気道や食道を圧迫して呼吸や食事の妨げになるなど、機能や発達に障害を及ぼす場合、または血管腫が急激に大きくなってきている、残りやすい場合などに内服治療が行われます。 

乳児血管腫で使用されるヘマンジオル®シロップはプロプラノロールを主成分とするお薬で、血管腫の増殖をおさえる効果が。

プロプラノロールは1960年代から高血圧や不整脈などの治療薬として広く使われてきたものです。そのため、血圧を下げたり、心拍数を減らしたりする作用があります。

また、小さい子がこの薬を使用するときにもっとも気をつけないといけないのは低血糖です。そのため、この薬を飲んでいていつもとお子さんの様子が違うときはすぐに主治医に相談してください。

ヘマンジオル®シロップは対応できる施設も限定的です。多くの場合は小児科の先生と皮膚科医が連携して治療を行います。

私がレーザー外来を担当していた時も小児科の先生にはこのヘマンジオル®を使用するときには大変お世話になりました。

ヘマンジオル
ヘマンジオル

注意点とまとめ

赤ちゃんによくみられる赤いあざ、乳児血管腫について説明しました。

かつて乳児血管腫はwait and see policyといって自然に消えるものだから何もせずに様子を見ましょうというのが一般的。

今はレーザー機器の発展や内服の治療も開発され、従来のようなwait and see policyが必ずしもよいよは言えなくなってきています。

赤ちゃんの赤いあざに悩む方は、まずは専門医と相談し、その子にとってベストな治療を選択していってほしいです

参考文献

1) 難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査報告班:血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン 2017

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