皮膚の病気

壊疽性膿皮症とはどんな病気?

壊疽性膿皮症
藤井 麻美

壊疽性膿皮症という皮膚の病気があります。聞き慣れない病気ではありますが、さまざまな他の病気と合併することが多い皮膚症。

典型的には、足などをぶつけた後から広い範囲に痛みのある潰瘍ができて、治っても再度潰瘍が出現して、症状を繰り返す病気です。

膿ができることもあり、感染症が原因と思われるかもしれません。実は、感染はしておらず、膿を作る好中球の働きに異常があっておこる病気であることがわかっています。

今回は、壊疽性膿皮症と合併する病気などについて詳しく解説しましょう。

原因は不明だが、好中球の異常がポイント

壊疽性膿皮症の原因は、まだはっきりわかっていません。外傷などの外からの刺激に対して反応する免疫系の異常が原因で起こる自己免疫疾患の一つではないかと考えられています。

他の自己免疫疾患と合併することも多い病気です。免疫系の中でも特に好中球の活性化と機能的な異常があり、免疫系で重要な役割を果たす炎症性サイトカインという化学物質のバランスが崩れることも要因とされています1)

サイトカインの中でも、IL-8、G-CSF、GRO-α、TNF-αが関与している可能性が過去の研究でわかっており、その中の一部が治療薬として応用。炎症性サイトカインにより異常に活性化された好中球が、病変部に浸潤して病変を作ると考えられています。

壊疽性膿皮症
引用元:nature

また、壊疽性膿皮症を発症する遺伝的背景も。PAPA症候群という壊疽性膿皮症と化膿性無菌性関節炎、アクネ症候群(ニキビ)が主症状の難病があります2)

PAPA症候群ではProline-serine-threonine-phosphatase interactive protein(PSTPIP1)遺伝子の変異があることが最近わかりました。PSTPIP1が好中球の異常な活性化に関与している可能性が。

好中球は通常、細菌の感染によって活性化され、細菌を破壊する過程で膿を作り出します。壊疽性膿皮症でも膿が出てくるものの、いくら調べても壊疽性膿皮症の膿からは細菌が検出されません。壊疽性膿皮症では感染していないにも関わらず、自己免疫の異常から好中球が膿を作ってしまうのです。

壊疽性膿皮症の正確な患者さんの人数は不明です。起こりやすい年齢は20〜60歳といわれていますが、高齢者で起こることも。膠原病などと合併することが多いからなのか、女性にやや多くみられます。

基礎疾患を合併する場合が多い

壊疽性膿皮症は何らかの基礎疾患があるケースが多く、特に潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患や、膠原病の関節リウマチが代表的。

潰瘍性大腸炎は、主に大腸の粘膜が炎症を起こしてびらんや潰瘍を形成する原因不明の病気です3) 。難病指定されており、平成24年度の少し古いデータではありますが、日本では14万人の患者さんが難病指定を受け治療をされています。

はっきりした原因やメカニズムは不明で、遺伝的な要因と食事、ストレスなどの環境要因が複雑に絡み合って腸の粘膜が攻撃されてしまう病気です。

主な症状は、血便、粘血便、下痢や血性の下痢で、腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などを起こします。壊疽性膿皮症や結節性紅斑という皮膚疾患以外にも、関節炎や虹彩炎、膵炎などの腸以外の合併症を伴うことも。

クローン病は、大腸と小腸の粘膜に慢性の炎症を起こす病気です4) 。病変は小腸に起こりやすいですが、口から肛門に至る粘膜のいずれにも起こりえます。腹痛や下痢、血便、体重減少が主な症状。潰瘍性大腸炎とクローン病をまとめて炎症性腸疾患と呼びます。

潰瘍性大腸炎もクローン病も10歳代〜30歳代前半の若者で発症し、長期間症状の増悪と寛解(よくなること)を繰り返す疾患群です。炎症性腸疾患では、消化器症状に先立ち壊疽性膿皮症の皮膚症状がでることが。壊疽性膿皮症の治療中に調べてみたら、炎症性腸疾患が見つかったということもあります。

関節リウマチに壊疽性膿皮症を合併した場合、関節リウマチによる血管炎でも同じ様に足に潰瘍ができることも。治療法が異なるため、皮膚の病変がリウマチ性血管炎によるものか壊疽性膿皮症かを鑑別しなくてはいけません。

その他、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、骨髄性白血病などの血液疾患に合併することもあります。

腸管の手術などの後に好中球性皮膚症が誘発されることも。Bowel-associated dermatosis-arthrits syndromeと別名で呼ばれることがありますが、皮膚病変として壊疽性膿皮症が起こることがあります。

壊疽性膿皮症が、他の皮膚疾患に合併することも。手のひらや足の裏に膿がたまる掌蹠嚢胞症5) や、銀白色の皮膚の粉を伴う紅斑が全身にできる乾癬6) などの報告もあります。

遺伝素因が判明している自己免疫性疾患であるPAPA症候群(化膿性関節炎、壊疽性膿皮症、ざ瘡症候群:Pyogenic arthritis, Pyoderma gangrenosum,Acne)やPASH(壊疽性膿皮症、ざ瘡、化膿性汗腺炎:Pyoderma gangrenosus、Acne,Supprative hidradenits)も、まれな疾患ながら関連性を考える必要が。

症状は痛みを伴う潰瘍が多い

皮膚症状によって、病型が異なります。

最も頻度の高い潰瘍型と呼ばれるものは、小さな無菌性の膿疱、赤みがかった小丘疹、水疱などから始まって、急速に拡大して虫食いのように拡大して増えるという特徴が。

壊疽性膿皮症
引用元:MSD Manuals

深い潰瘍を作り、潰瘍の変炎は赤紫色の堤防のように盛り上がって中心は深掘れ状態になります。潰瘍の程度にかかわらず痛みが強いため、患者さんは辛いですよね。

盛り上がった部分がむくみ、本来は感染していないのに二次性に細菌などの感染を合併することもあります。多くはスネなどの下腿伸側に起こりやすいのですが、頭頸部や体、外陰部、指などにもみられることが。

潰瘍型以外にも、膿疱型、水疱型、増殖型、ストーマ周囲型があります。膿疱型は膿疱と周囲の紅斑が体や手足にでることが特徴。水疱型は血液疾患に合併することが多く、水疱が手背、腕、足に起こりやすいです。

増殖型は潰瘍ではなく上に隆起する病変が。ストーマ型は、腸の手術などで人工肛門(ストーマ)を作った場合、ストーマの周囲に病変がでるタイプです。

壊疽性膿皮症の発症・増悪する因子として、点滴や採血などによる注射針を刺す刺激や、手術などが知られており、特別に術後(post-operative、post-surgical)と呼ぶ場合もあります。手術は、癌の手術だけではなく、盲腸やヘルニア、帝王切開などの手術も壊疽性膿皮症の発症・増悪因子に。

薬剤によって誘発されることもあります。薬剤としては、血液成分を増やす効果のあるG-CSF、ビタミンAのレチノイド、抗がん剤のゲフィチニブ、スニチニブ、インターフェロンα、抗TNF製剤、抗うつ薬などとして使われるスルピリドなどが挙げられます。

さまざまな治療方法が検討されます。

壊疽性膿皮症の皮膚症状で潰瘍を作っている場合、基本的には患部を安静にする必要があります。痛みも強いため、入院が必要になることも。

潰瘍部分は石鹸を泡立てて優しく洗い、洗浄後は優しく水分を拭き取り、潰瘍部分は乾燥しないように清潔で湿った状態が最良です。

ドレッシング剤はフィルムやハイドロゲルといった水分を保持する製品を状態に合わせて使うことで、皮膚や血管の再生、皮下の膠原繊維の合成を抑制して感染に対して強くなります。

しかしながら、過剰に湿度が高すぎると周囲の皮膚がふやけたり滲出液が増えたり、細菌などの感染のリスクが高まるので注意が必要。

水分を吸収するハイドロコロイドなどフォーム剤や白糖・ポピドンヨード配合軟膏、カデキソマーヨウ素などの滲出液を適度に吸収して壊死物質などの除去にも優れる薬剤を使用することもあります。

壊疽性膿皮症の増悪因子として、手術などの侵襲的な刺激があるため、基本的には潰瘍などを手術で除去し植皮を行うことはおすすめされません。

ただし、薬物治療のうち、免疫抑制薬や抗TNFα抗体を投与されている場合には、植皮術などに一定の効果があるため治療法として選択されることがあります。

薬を用いた治療は、副腎皮質ステロイド、シクロスポリンなどの免疫抑制剤、生物学的薬剤の投与が中心。ステロイドは内服か点滴薬で行い、ステロイド外用薬を併用すると治療効果が得られます。

壊疽性膿皮症
引用元:Cureus

壊疽性膿皮症は自己免疫疾患の側面があるため、副腎皮質ステロイド、シクロスポリンは免疫抑制をすることで自己を攻撃する免疫力を下げて病状を改善。

壊疽性膿皮症は半数から70%が炎症性腸疾患や関節リウマチ、血液疾患などの基礎疾患を有するため、基礎疾患の病状が悪化している際は、基礎疾患の点滴や注射の治療が中心になります。

基礎疾患によって、潰瘍性大腸炎の場合には副腎皮質ステロイドの効果が低いため、抗TNF抗体製剤、アザチオプリン、メトトレキサート、関節リウマチの場合には副腎皮質ステロイド、シクロスポリンに抵抗性のため、抗TNF抗体製剤や抗IL-1製剤などを使用。

ただし、基礎疾患が薬剤抵抗性の場合には、予後が悪く治療成績も悪いのが現状です。 

基礎疾患が落ち着いている場合には、副腎皮質ステロイドの塗り薬を中心として、ステロイド内服・点滴やシクロスポリン内服・点滴を単剤や組み合わせて治療を行なっていきます。

コルヒチンは細胞の分裂する際に必須の役割をする微小管という構造を作るタンパク質であるチューブリンに結合し、微小管の形成を阻害することで細胞分裂を阻害する薬です。好中球が患部に集まったりする能力を阻害することで免疫力を抑える効果があります。

コルヒチンは副腎皮質ステロイドとは違う機序で免疫を抑制するため、ステロイドの内服と合わせて使われることが多い薬です。その他、抗菌薬であるミノサイクリンも好中球の機能を抑制し、炎症性サイトカインの産生を抑えるなどの作用があります。

ヨウ化カリウムや抗菌薬のエリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンにも、好中球の機能を抑制する効果があり、ステロイドや免疫抑制剤に追加して使われることが。

壊疽性膿皮症は基本的には感染を合併していませんが、患部に感染がある場合には抗菌薬が使われることもあります。

生物学的製剤として、アダリムマブ、インフリキシマブが壊疽性膿皮症に推奨。生物学的製剤は、壊疽性膿皮症で増える特定の炎症性サイトカインをピンポイントに抑える働きがあります。

アダリムマブ(ヒュミラ®)、インフリキシマブ(レミケード®)は抗TNF-αを阻害する薬剤です。壊疽性膿皮症の発症、増悪に関与しているサイトカインには、TNF-α以外にもIL-8やIL-17など複数知られています。

現時点で薬剤として使用できるものは、ウステキヌマブ(抗IL-12/23 p40抗体)、リサンキズマブ(抗IL-23 p19抗体)、グセルクマブ(抗IL-23 p19抗体)、アナキンラ(IL-1受容体アンタゴニスト)、カナキヌマブ(抗IL-1β抗体)、トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)、セクキヌマブ(抗IL-17A抗体)、ブロダルマブ(抗IL-17A受容体抗体)など多数。

壊疽性膿皮症に対する治療効果が期待されていますが、実際に効果があるかどうかは研究段階です。現在、壊疽性膿皮症の治療として生物学的製剤を使用しようとすると、アダリズマブ(ヒュミラ®)以外は保険適応外になります。

特定の分子を標的にした薬剤である分子標的薬のうち、ヤヌスキナーゼ阻害剤という薬剤は、壊疽性膿皮症の治療薬の選択肢です。

壊疽性膿皮症の治療薬として使用できるヤヌスキナーゼ阻害剤としては、トファシチニブ、バリシチニブがあります。残念ながら、分子標的薬もまだ保険適応外の治療です(2022年1月、ガイドライン記載時点)。

好中球は細胞内に顆粒を含んでおり、総称として顆粒球と呼ばれることがあります。血中の顆粒球を除去する顆粒球単球吸着除去療法が壊疽性膿皮症に対して効果的な場合が。

除去療法では顆粒球以外にも炎症性サイトカインも一緒に除去されるため、治療選択肢の一つになりますが、まだ保険適応外の治療法です。ただ、顆粒球単球吸着除去療法は潰瘍性大腸炎、クローン病では保険適応疾患であり、基礎疾患によっては治療法として積極的に行うケースもあります。

まとめ

今回は壊疽性膿皮症という病気について解説しました。

壊疽性膿皮症自体は患者さんの数が多い病気ではありませんが、他の病気と合併しやすく、生物学的製剤などの医学の進歩が目覚ましい領域です。

壊疽性膿皮症の診断をされて今後の治療にご不安がある場合には、記事でご紹介したような治療の選択肢があることを情報として知っていただき、かかりつけの医師に相談してみてはいかがでしょうか。

参考文献


1) 日本皮膚科学会.壊疽性膿皮症診療の手引き2022

2) 難病情報センター. 化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4795

3) 難病情報センター. 潰瘍性大腸炎.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/218

4) 難病情報センター. クローン病.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/218

5) 皮膚科Q&A. 掌蹠嚢胞症.
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa27/index.html

6) 皮膚科Q&A. 乾癬.
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa14/q01.html

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