梅毒の初期症状と治療法、感染経路と予防策について
梅毒は梅毒TPという細菌によって引き起こされる性感染症で、性感染症は性行為で移る病気です。性的接触がなければ、梅毒の人と一緒に食事をする、おしゃべりをするなどでは感染しません。
そのため、梅毒の人がまわりにいても必要以上に警戒しないようにしてください。日常生活を送るなかで、知らないうちに梅毒に感染する、ということはほとんどありません。
ただし、コンドームを使用しない、不特定多数の性的パートナーがいるなど、梅毒感染のリスクの高い生活をしている人は要注意です。
梅毒は、初期症状として陰部などにしこりが出現することがあります。しかし、この症状は自然に治癒することがあり、見逃され治療を受けないままでいると、梅毒は静かに体内で進行。
気づかぬうちに手遅れになることも。病状が進行すると、ばら疹と呼ばれる発疹をはじめとした皮膚の症状が現れることがあります。
梅毒は早期発見と治療が非常に重要で、診断は血液検査によって行われ、治療は抗生物質を用いた内服薬や注射です。
適切な治療を受けない場合、病気が進行しいろいろな症状が現れます。予防することが大切で、予防方法は、コンドームの使用や性行為の回数を減らすことです。
本記事では、梅毒の感染経路と治療法、そして早期発見の重要性について、詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
梅毒とは?日本では若者の間で流行中
梅毒は、Treponema pallidumという細菌によって引き起こされる性感染症(STI:Sexually Transmitted Infection)です。
抗生物質の内服や注射で根治できる病気ですが、治療せずに放置すると深刻な事態となることがあります1)。世界中で感染者がみられますが、日本国内では2014年ごろより男女とも増加傾向に。
2021年12月、国立感染症研究所感染症疫学センターが公表した内容によると、2021年に梅毒と届け出があった症例数は6940例で、昨年の同時期の約1.4倍でした。
年代別でみると、男性は25歳~29歳(男性全体の14%)、女性は20歳~29歳(女性全体の34%)であり、若い世代で増えています。
引用元:日本医師会
性感染症(STI)は、文字通り、主に性行為によって感染する病気です。セックスだけでなく、口を使ってのオーラルセックスやキスなどでも感染します。
性行為がなくても、病気によっては、注射器の回し打ちなどにより血液感染したり、母親が感染者の場合に子どもへ母子感染したりすることが。
梅毒は通常、1期、2期、3期、4期という4つの段階を経て進行します。末期になると有効な治療法がありません。
梅毒の症状
梅毒の症状は大きく4期に分けられ、感染力の強い1~2期を早期梅毒、3~10年後に発症する3期以降が晩期梅毒です。
世界保健医療機関(WHO)では、感染後2年以内の早期梅毒とその後の晩期梅毒の2期に分けて考え方ます。
梅毒は病期によって症状がさまざまで、はっきり症状があらわれない人もいるので要注意です。
病期ごとに順を追って説明していきますが、全員が教科書どおりの病期を辿るわけではないことを覚えておいてください。
引用元:Community Care Resouces of FL
第1期梅毒、初期症状とは?
梅毒の第1期ではTP(梅毒の原因菌)が感染したその部位、あるは所属リンパ節で増殖。感染してから3週間くらいでその部位に初期硬結という小さな赤い斑点、あるいはしこりがあらわれます。
しこりの表面の皮膚がめくれて、ただれや潰瘍となることも多く、これが硬性下疳です。これらには痛みやかゆみなどの自覚症状がありません。
そのため気づかれずにそのまま放置されてしまうことがあり、さらにやっかいなことに、放置していても約3週間で自然に症状が消えてしまいます。
ですが、症状が消えても梅毒が治るわけではなく、梅毒は静かに体の中で増殖を続けているのです。ここで発見が遅れると、梅毒は血流にのって全身に広がり第2期梅毒へと進行します。
また、梅毒感染の初期には局所の皮膚の症状ともに、所属リンパ節の腫脹も。性器だと太もものリンパ節が腫れ、口に感染すると首のリンパ節が腫れます。ただし、こちらも痛みはありません。
引用元:American Academy of Dermatology Association
第2期梅毒は、ばら疹など全身に発疹がでることも
第2期梅毒は、梅毒TPが感染局所から血行性に全身に広がる時期です。皮膚の発疹をはじめとするさまざまな症状がみられます。代表的なものをいくつか紹介しましょう。
・梅毒性ばら疹
第2期梅毒の症状として、最もよく知られているのが梅毒性ばら疹です。単にばら疹と呼ばれることも。
梅毒性ばら疹は、うすいピンク色の発疹で、体のどこにでも現れますが、手のひらや足の裏などに多く見られます。かゆみはありません。
『手のひらや足のうらのかゆみのない発疹は、梅毒をまず疑うように』、と私は皮膚科1年目の時に先輩から教わりました。皮疹だけでなく、軽い発熱や全身倦怠感を伴うこともあります。
・丘疹性梅毒
ばら疹とは異なり、こちらは盛り上がりのあるぶつぶつです。これもかゆみがないことがほとんどです。
・梅毒性乾癬
梅毒性乾癬は名前のとおり、乾癬という皮膚の病気によく似ており、肘や膝などにすこし盛り上がった赤い発疹ができ、表面は少しカサカサした見た目になります。
引用元:First Derm
・扁平コンジローマ
陰部や肛門、口など粘膜部にイボができることもあり、これを扁平コンジローマといいます。
尖圭コンジローマというウイルス性のイボと見分けがつきにくいことがあるので、必ず皮膚科や産婦人科、泌尿器科で受診してください。
この扁平コンジローマの中には梅毒TPが多量に存在しており、感染源となりやすいので注意が必要です。
・梅毒性粘膜疹
梅毒では、口、鼻、喉、性器などの粘膜に症状が出ることもあります。この発疹は、赤色または白色の斑点として現れ、ただれや潰瘍を伴うことが。
粘膜病変があると、食事や会話、性生活に支障をきたすことがあります。また、このような粘膜病変にも梅毒TPはたくさん含まれており、感染力が強いので注意が必要です。
・脱毛
第2期梅毒では脱毛もみられます。後頭部や側頭部に虫食い状に脱毛斑が多発する小斑状梅毒性脱毛症と、後頭部の毛がごっそり抜けるびまん性梅毒性脱毛症があります。
時には眉毛やまつ毛、陰毛など、体の他の部分でも脱毛がみられることも。
これらの症状がある場合は、皮膚科や婦人科、泌尿器科を受診するようにしましょう。第2期まで進行した梅毒は通常、血液検査で診断。
第2期梅毒は適切な治療を受ければ、感染がより深刻な段階に進むのを防ぐことができます。
第3期梅毒
梅毒を治療しないままにしておくと、症状は消失しても体内で梅毒TPが増殖し続ける潜伏期に移行します。この段階は何年も続き、それ以上感染が進行しないケースも。
しかし、未治療の場合の約15~30%で、第3期梅毒まで進みます。第3期梅毒は感染後約3年程度で始まり、比較的大きな発疹が発生。
第2期梅毒とは違い、傷あとや変形が残るように。ただし、第3期になると、病変部には梅毒TPはほとんど見られなくなるので、感染源となることは少ないとされています。
・結節性梅毒
腕や脚、体に数センチ程度の赤褐色のしこりのような発疹ができ、集まって大きな結節を作ることも。真ん中が潰瘍となることもあります。
引用元:eSchlorship
・ゴム腫
結節性梅毒よりもっと皮膚の深部に赤紫~茶褐色の硬いしこりができ、中央の皮膚がえぐれて噴火口のような潰瘍に。
筋肉や骨にも病変は及び、鼻にできた場合は鼻中隔や鼻骨が破壊され鞍鼻と呼ばれる状態になります。
第4期梅毒
感染後10年以上経過すると心臓や大血管、神経系に症状がでるようになります。ペニシリンが発見されるまでは、梅毒で命を落とす人が多くいました。
鬼滅の刃でも、妓夫太郎と堕姫の母親は梅毒で亡くなったという描写がありましたが、現在の日本では第4期梅毒まで進行する人はほとんどいません。
第3期梅毒とあわせて晩期梅毒と呼ばれることもあります。
<心血管梅毒>
・上行大動脈の動脈瘤、動脈解離
大動脈の壁が膨らみ、瘤(こぶ)のようになります。瘤のように膨らんだ部分は脆く、破裂すると体内で大出血となり命を落とすことも。破裂しないまでも、動脈の壁の内層が裂けることを解離といいます。
・大動脈弁の閉鎖不全
弁がしっかり閉じなくなり、血液がそこから漏れることで心臓の働きが低下します。
・冠動脈の狭小化
心臓を栄養する冠動脈が狭くなり、狭心症や心筋梗塞につながります。
<神経梅毒>
・無症候性神経梅毒
軽度の髄膜炎が生じますが、ほとんど症状はありません。治療しないまま放置すると、5%は症候性の神経梅毒に発展すると言われています。
・髄膜血管型神経梅毒
感染後5~10年を経て、梅毒により脳または脊髄の血管が炎症を起こすことにより発症します。症状がはっきりしないものから、脳出血や脳梗塞などに進展するものまでさまざまです。
初期の症状としては、頭痛、項部硬直、めまい、異常行動、集中力低下、記憶障害、倦怠感、不眠症、霧視などがあります。
脊髄が侵されると、腕や脚が動かしにくくなる(麻痺)、力が入りにくくなる(脱力)、または尿失禁や便失禁が出ることも。
・実質型神経梅毒
進行麻痺、あるいは麻痺性認知症ともいわれ、梅毒による慢性髄膜脳炎により大脳皮質が破壊されることにより起こります。感染から15~20年を経て発症すると言われ、通常は50代以降です。
怒りっぽくなり、集中困難となり、記憶力や判断力が低下します。けいれん発作や振戦(ふるえ)、失語、抑うつ状態となることも。一見すると精神疾患や認知症と見分けがつかないことも多いです。
・脊髄癆
脊髄癆は歩行性運動失調ともいわれ、脊髄の後ろ側がゆっくり変性していくことをいいます(もとには戻りません)。梅毒に感染してから20~30年後に発生しますが、機序は不明。
最も特徴的な症状は、背部あるいは下肢の激しく刺すような痛みです。下肢の振動覚や反射がなくなり、歩けなくなることもあります。また、膀胱の感覚がなくなり尿意がわからなくなることも。
第4期梅毒まで進んでしまうと、梅毒TPに効果のある抗生物質を使っても治ることはありません。梅毒TPにより変性してしまった神経や脳や血管は元には戻らないのです。
このような恐ろしい事態に進行するまでに、疑わしい症状がある場合は医療機関で診察や検査を受けるようにしましょう。
先天梅毒、早期先天梅毒と晩期先天梅毒、ハッチンソン3徴候について
先天性梅毒は、妊娠中に胎児が梅毒に感染した母親から梅毒に感染することで発症します2)。胎盤の完成する妊娠4か月末以降に胎盤を介して母体から胎児にTPに感染。
妊娠初期の感染では多くの場合、流産や早産となりますが、生まれた場合は症状が重くなります。胎児への経胎盤感染のリスクは全体で約60~80%。妊娠後半に感染リスクが高くなります。
母親が無治療の第1期または第2期梅毒であれば、母子感染が生じることが多いですが、潜伏梅毒や第3期梅毒からの母子感染率は約20%です。
生後2年間に症状が現れる「早期先天梅毒」と、2歳以降に症状が現れる「後期先天梅毒」の2種類に分類することができます。
早期先天性梅毒3) | 晩期先天性梅毒4) |
皮疹、貧血、肝脾腫、黄疸、呼吸困難、粘膜障害、発育不全、骨・関節異常 | ハッチンソン三徴、サーベルシン(剣状脛)、前頭部突出、鞍鼻変形、クラッタン関節、神経学的合併症 |
晩期先天梅毒の症状は、早期先天梅毒よりも重篤だとされています。
中でも特徴的なものに
- ハッチンソン三徴
- ハッチンソン歯(永久歯の異常発育)
- 実質質性角膜炎(角膜の炎症)
- 内耳性難聴
があります。
妊婦の梅毒を早期に診断し、適切に治療することで、先天性梅毒を予防し、その乳児の重篤な合併症のリスクを低減できます。
多くの場合、妊娠中の母親に適時にペニシリン系抗生剤物質を投与することで、効果的に感染症を治療し、胎児への感染を防ぐことができます5)。
検査・チェック方法(セルフチェック)
梅毒の検査は、早期診断、治療、病気に伴う合併症の予防のために極めて重要です。梅毒感染の検査にはいくつか種類がありますが、血液検査がもっとも一般的
ただし、梅毒は感染後すぐだと正確な検査結果が出にくく、感染していても陽性反応が出ないことがあります。感染機会(セックス等)から6週間経過してから検査を受けるようにしましょう。
感染が疑われるけれど、血液検査で陰性だった場合は、少し時間をあけてから再検査をすることもあります。
梅毒TPを直接観察する方法
硬性下疳(陰部などの初期病変)や扁平コンジローマ、粘膜疹には多量の梅毒TPが。その部位を擦ったり、拭ったりして検体を採取し、梅毒TPがいないか顕微鏡で直接観察します。
症状があって受診した場合は有効な検査ですが、検体を取る病変がない場合はこの検査はできません。
血液検査、見逃し期間に注意
梅毒に感染した場合、体内に抗体が生成されるので、血液中の抗体を調べることで、梅毒感染の有無を判断することができます。
血液検査には、非特異的抗体検査と特異的抗体検査が。特異的とは、梅毒TPのみを検出するという意味です。
・STS法(非特異的抗体検査)
非特異的抗体を検出する検査法で、梅毒感染を診断するために広く用いられています。梅毒に感染してから約6週目から陽性に。
この検査法は、梅毒感染に特異的な診断法ではありませんが、検出率が高く、臨床経過をよく反映するため頻用されています。
・TP抗原法(特異敵抗体検査)
梅毒TPに対する特異的抗体を検出する検査法で、FTA-ABSテストとTPHAテストが。
TP抗原法は高い特異性を持ち、非特異的な反応を引き起こす可能性が低いため、STS法と比較して正確性が高いとされています。
ただし、陽性になるのがSTS法に比べて2~3週遅いので、早期診断には向かないことも。
PCR検査
梅毒菌のDNAを検出することができる検査法です。感染初期の段階や、梅毒TPの少ない神経梅毒や先天性梅毒の診断に有用です。
自宅でのセルフチェック
梅毒は自分で症状に気づける場合も多いので、セルフチェックも是非行いましょう。
以下のような症状がみられる場合、梅毒の可能性があります。
- 感染部位(陰部や口腔内)に痛みを伴わないしこりやびらん
- かゆみのない発疹、発熱、倦怠感、リンパ節腫脹、粘膜病変、扁平コンジローム
これらの症状が見られる場合は、早期に医療機関を受診し、適切な検査、診断、治療を受けるようにしましょう。
治療方法と治療薬
ペニシリンが発見されるまでは、有効な治療法が確立されておらず、梅毒は不治の病と恐れられていましたが、現在では梅毒で死に至ることはほとんどなく、発見が早ければ比較的簡単に治療ができる病気です。
治療方法①:飲み薬による治療
梅毒はペニシリン系抗生物質(アモキシシリン)を飲むことで治療することができます。ペニシリンにアレルギーがある場合はマクロライド系抗生物質を使うことも。
一般的な治療期間は、第1期では2~4週間程度、第2期では4~8週間程度、第3期だと12週間程度で、1日3回、毎食後に服用します。
症状が治まったからと途中で薬の服用をやめてしまうと、梅毒が完全に消失せずに症状が再発することもあるので、必ず医師の指示に従い、処方されたお薬は飲み切るようにしましょう。
治療方法②:注射による治療
アメリカなどで梅毒の治療に広く使用されていた筋肉注射が、2021年に日本でも承認されました。ファイザー製の「ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ」という薬剤です。
注射の中身は内服と同じ、梅毒TPに対する抗菌薬。この注射は持続性ペニシリン製剤で、注射部位からゆっくり有効成分が放出されるため、1回の筋肉内投与でも薬剤の有効血中濃度が持続します。
初期の梅毒(感染から1年未満)であれば、注射1回で治療することが可能ですが、感染から1年以上を経た場合は3回投与が必要です。
内服薬だと飲み忘れが心配な方にはよいですが、内服薬と比較すると薬剤の価格が高額になります(後述)。また、ペニシリンにアレルギーのある方は使用できません。
日本感染症学会梅毒委員会は2021年11月に、この注射薬について、「神経梅毒を除く活動性梅毒の治療薬として、本剤を従来の第一選択薬であるアモキシシリン内服製剤と同等の位置づけとする」という声明を出しています。
治療費
梅毒の治療や検査には保険適応があり、ここでは、保険診療の場合にかかる費用の目安を紹介します。
症状があり医療機関を受診し、医師が必要と判断すると保険診療が適応となり、3割が自己負担です。
ただし、なんとなく不安だから検査を受けたいという場合は保険適応にはならず、その場合は自費診療として全額自己負担になるので注意してください。
診察費
保険診療の場合、診察と検査と処方箋発行で自己負担額は約6000円程度で、飲み薬は別途薬剤代がかかります。
自費の場合はクリニックごとに違いますが、保険診療よりも安くなることはないと思ってください。
治療薬の価格(3割負担の場合です)
・飲み薬
薬代 約1000円(4週間分)
処方料や薬剤管理料などが別途かかる可能性があります。
・注射
注射1回:約3000円
注射処置代が別途かかります。
治療の副作用(デメリット)と再発
梅毒は抗生物質で治療します。副作用として一番多いのは抗生物質によるアレルギー性の薬疹です。
抗生物質による薬剤性肝障害なども時々みられますが、多くの場合は一過性で薬剤投与をやめれば改善します。そして、梅毒特有の副反応としてJarisch-Herxheimer反応が。
梅毒特有の副反応、Jarisch-Herxheimer反応
Jarisch-Herxheimer reaction(JHR)は、梅毒などをはじめとするスピロヘータ感染症に対する抗筋薬治療開始数に起こる、よく知られた副反応です6)。
JHRは、通常、治療開始後24時間以内に起こり、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、既存の皮膚病変の悪化などが7)。
JHRのはっきりした原因はまだ不明ですが、抗生物質の投与によりスピロヘータが死滅し、炎症を誘発する生理活性物質が大量に放出されることが原因ではないかと考えられています8)。
Jarisch-Herxheimer反応が起こるのは梅毒治療者でも一部の人だと言われていますが、誰にでも起こりえることなので、治療開始時には医師から説明があるでしょう。
JHRは発症後24~48時間以内に消失します9)。
JHRの症状
- 発熱
- 悪寒
- 頭痛
- 筋肉痛
- 皮膚病変の増悪
- 頻脈(心拍数が早くなること)
- 低血圧
JHRは、患者さんにとってはつらい副反応ですが、感染症に対して体内で強い免疫反応が起こっている証であり、一般に予後良好な兆候と考えられています10)。
JHRの管理は、解熱鎮痛剤(例:アセトアミノフェン)の投与、十分な水分補給などが中心です11)。反応が重篤で合併症を伴う場合には、昇圧薬やステロイドなどの追加介入を考慮することもあります12)。
梅毒は再発することも
梅毒の治療をしても残念ながら再発してしまうことが。梅毒治療後の再発は、不十分な治療、再感染、治療失敗など、いくつかの要因で起こります13)。
まれですが、適切な治療な治療を行っても原因菌である梅毒TPが体内に残留していることが症状の再発の原因となることも14)。
このような事態を防ぐためには、治療終了後に効果判定の血液検査を必ず受けるようにしましょう。
また、抗菌薬を投与しても投与量や投与期間などが不十分な場合は、再発することが1)。この場合、完治させるために再度治療を行う必要があります。
さらに梅毒は治療をして完治しても、その後梅毒に感染したパートナーと性的接触を持つことで再度感染する病気です。一回かかれば大丈夫、というものではないので注意してください。
梅毒と診断された人は、適切な治療を受け、病気の拡大を防ぐ、つまり人にうつさないようにするにはどうすればよいかしっかり理解することが大切です1)。予防方法については、このあと詳しく説明。
何らかの原因で梅毒TPに対して抗菌薬が効かなかった場合(胃腸障害により腸からの吸収がうまくいかなった、耐性ができたなど)も梅毒が再発することがあります15)。
治療に失敗した場合、代替の抗生物質や治療戦略を検討する必要が。
梅毒治療後の再発リスクの上昇の要因は、以下のものが挙げられます。
– 不十分な治療内容
– 決められた処方の用法、用量、内服期間を守れなかった
– 感染者との性的接触による再感染
– 抗生物質耐性などによる治療失敗
梅毒の感染経路と予防
梅毒TPは精液や膣分泌液、血液などの体液に含まれており、粘膜や傷口などと直接接触することで感染します。
実際の感染経路の多くは、性行為やそれに準ずる行為で、一回の性行為で感染する確率は20%程度です。粘膜に傷があったり、他の性病があったりすると、感染リスクはさらに高いものとなります。
梅毒の感染経路
【感染リスクのある行為】
- セックス
- オーラルセックス(フェラチオ、クリニングス)
- アナルセックス
- キス
特に、わずかな刺激でも傷のつきやすいアナルセックスは、梅毒の他、HIVなど他の性感染症も含め、感染リスクが高いです。
オーラルセックスやアナルセックスでも必ずコンドームを着用し、粘膜同士の接触をさけることが予防には有効。
梅毒の母子感染
妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形などが起こることがあります(先天梅毒)。
梅毒の日常生活での感染リスク
梅毒は日常的な接触で感染するリスクは限りなくゼロに近いと言われています。ウォシュレットや温泉などでの感染の報告はありません。
しかし、性的に活発な人や複数のパートナーがいる人は、定期的に梅毒を含めた性感染症の検査を受けることをお勧めします。梅毒は早期に発見できれば治療が可能な病気です。
さらに、コンドームをきちんと正しく使用するなどの安全な性行為を実践することで、梅毒や他の性感染症に感染するリスクも減らすことができます。
梅毒になるとHIV感染のリスクが増大
梅毒の他、淋菌やクラミジアなどの性病に感染していると、粘膜に傷ができやすくなるためHIVへの感染リスクが数倍高まります。
そのため、梅毒の感染が疑わしい場合は、HIVを含めたほかの性感染症の検査も一緒に受けましょう。また、HIV感染がある場合、薬の用量などが通常より多く必要になります。
まとめ
梅毒は性行為で感染する梅毒TPという細菌によって引き起こされる性感染症です。
適切な治療を受けることで治癒することができますが、再発や抗生物質耐性の問題も。未治療の場合、数十年の経過を経て重篤な合併症、神経障害や心臓病を引き起こす可能性があります。
抗菌薬治療が効果的ですが、再発や感染再発もあるのが梅毒です。予防対策と定期的な検査をお勧めします。
参考文献
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15)Stamm LV. Global challenge of antibiotic-resistant Treponema pallidum. Antimicrob
Q&A(質疑応答)
A: 主に性行為を通じて感染しますが、母子感染や血液感染もあります。
A: 感染部位に痛みのない潰瘍が現れることが一般的です。
A: 適切な抗菌薬治療を行うことで、完治することができます。
A: 治療が不十分だったり、再感染があると再発する可能性があります。
A: コンドームを正しく利用した安全な性行為、性感染症検査の定期受診、パートナーとの情報共有が予防に有効です。
A: 血液検査や患部の検体検査で行われます。
A: 医師の指示に従い治療を受け、パートナーにも感染を伝えて治療を受けてもらうことが重要です。
A: 進行すると、神経障害、心臓病、視力障害などの合併症が起こる可能性があります。
A: 治療終了後も定期的な検査が必要です。再発や感染再発を早期に発見することが大切。
A: 胎児にも感染し、先天性梅毒のリスクがあります。流産や早産、新生児死亡の危険性も上昇。
A: 母子感染や血液感染がありますが、比較的まれです。
A: 皮膚科や泌尿器科、性感染症専門のクリニックを受診しましょう。
A: 感染が判明した場合、パートナーにも検査と必要に応じた治療が必要です。
A: 初期、二次、潜伏期、そして三次梅毒の段階を経て進行します。
A: 医師と相談し、アレルギーのない抗生物質や代替治療法を検討することが必要です。
A: 性的に活発な人、複数の性的パートナーがいる人、性器に傷がある人が感染リスクが高くなります。
A: 性行為の際の対策(コンドームの着用)、性感染症検査の定期受診、症状に気付いたら速やかに医師の診断を受けることが重要です。
A: ワクチンは開発されていません。予防には安全な性行為や定期検査が重要です。