エクソソーム

皮膚再生医療の最先端 エクソソーム点滴の効果とデメリットについて

エクソソーム
藤井 麻美

医学は日進月歩。私が医学生だったころ、学生講義で未来の夢の治療法として紹介されていた遺伝子治療や再生医療が2020年代に入り現実のものになりつつあるのです。

特に再生医療の進歩は目覚ましく、中でもエクソソームは有望な再生医療として大きな注目を集めています。

エクソソーム点滴で期待できる効果やデメリット、副作用についてわかりやすく説明していきましょう。

名前 / Name  
藤井 麻美 

プロフィール / Profile
あさ美皮フ科亀戸駅前 院長
皮膚科専門医/医学博士
略歴:愛媛大学医学部を卒業後に大阪大学医学部皮膚科へ入局。退役軍人病院(米国ロサンゼルス州)皮膚科、岐阜大学医学部付属病院皮膚科を経て当院を開業。

所属:日本皮膚科学会/日本レーザー医学会/日本乾癬学会/日本アレルギー学会/江東区医師会

エクソソーム点滴とは?皮膚科における再生医療の可能性ついて

エクソソームは皮膚科領域において、大きな可能性を秘めており、皮膚のアンチエイジング、創傷治癒、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患の治療に効果が期待されています。

エクソソームとは何?

エクソソームは、細胞から生成される小さなカプセル状の物質1)で、体内を循環。

内部には元の細胞由来のタンパク質や遺伝情報を含んでおり、細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たしています。

エクソソームは、組織の修復や再生を促し、炎症を抑え、免疫系を調節する能力があることから、再生医療分野での可能性が期待されているのです。2)

エクソソームと幹細胞上清液との違いは?

エクソソームと幹細胞上清液が注目を集めていますが、この二つの違いがよくわからない人も多いのではないでしょうか。それもそのはず、エクソソームと幹細胞上清液には重なる部分も多いからです。

エクソソームは、細胞から分泌される小さなカプセル状の物質で、遺伝情報などの分子を含み、細胞間でやりとりされ、メッセージを伝達する役割があります。

そして、幹細胞もエクソソームを分泌する細胞のひとつです。

一方、幹細胞上清液は幹細胞を試験管内で培養した時にできる上澄み液。この幹細胞上清液の中には幹細胞から分泌される成長因子やサイトカインなどのシグナル伝達分子が含まれていて、その中にはエクソソームも。

幹細胞上清液から成長因子やサイトカイン、細胞のかけらなどの不純物を取り除いてエクソソームは生成されます。

エクソソーム

幹細胞上清液とエクソソーム、どちらがより効果的であるか定まった評価はありません。

エクソソームは粒子のサイズがとても小さく、細胞膜という丈夫な膜でできているため安定性が高く、保存や輸送の際の劣化のリスクが低いと考えられています。

また、エクソソームは特定の組織や細胞への直接メッセージを仕える仕組み化が比較体簡単にでき、免疫拒絶反応などの副作用のリスクが低い可能性も。

ただし、幹細胞上清液の中には肌にとって、有害なシグナルとなりえるサイトカインも含まれているという指摘もあります。

エクソソームも幹細胞上清液も有望な再生医療ですが、まだまだ研究途上であると言わざるを得ず、長期的な安全性についてはさらなるデータの蓄積が必要です

エクソソーム点滴療法とは?

エクソソーム点滴療法は、エクソソームの力を利用して皮膚のアンチエイジングを目指すものです。安全なドナー(通常は胎盤組織や培養幹細胞)採取からエクソソームを患者さんに投与3)

肌の自然治癒力や再生力を高める働きがあり、肌のきめが整い、老化の兆候が抑えられ、若々しい肌を取り戻す効果が期待できます。

エクソソーム点滴のメリット

エクソソーム点滴により期待できる肌のアンチエイジング効果やメリットは以下のようなものです。

肌の若返り:エクソソーム点滴により肌の若々しさやみずみずしさを取り戻すことができると考えられています。エクソソームはコラーゲンの生成を促進し、細胞の再生を促すため、小じわやシミの減少に4)

抗炎症効果:エクソソームには抗炎症作用があり、ニキビや酒さなど、さまざまな炎症を伴う皮膚疾患に伴う赤み、腫れ、不快感を緩和する可能性があります5)

創傷治癒:エクソソームは、傷や傷跡の治癒プロセスを促進し、肌の質感の向上や傷跡の軽減につながるかもしれません6)

育毛促進:エクソソームは、毛包を刺激し、健康な髪の成長に必要な栄養素を供給することにより、髪の成長を促進することが期待されています7)

エクソソーム点滴のプロセス

エクソソーム点滴を開始する前に、エクソソーム点滴が患者さまの肌の悩みに適した治療法であるか徹底したカウンセリングを行います。適切と判断された場合にのみ、エクソソーム点滴を施術。

エクソソームは点滴で全身に投与する以外に、どのような肌の悩みを解決したいのかによって、マイクロニードル(ダーマペン)や注射、局所塗布など、さまざまな方法があります。

マイクロニードルや注射は、治療後に軽い赤みや腫れが出ることがありますが、通常数日で治まるでしょう。

エクソソーム

ほとんどの患者さんが数週間以内に肌の見た目の改善を実感し、その後の複数回の治療で満足感を得られる可能性が高いといわれています。

参考文献:

1)Clotilde Théry et al, Minimal information for studies of extracellular vesicles 2018 (MISEV2018): a position statement of the International Society for Extracellular Vesicles and update of the MISEV2014 guidelines. Journal of extracellular vesicles, 7(1),2018  1535750. J Extracell Vesicles
. 2018 Nov 23;7(1):1535750.
doi: 10.1080/20013078.2018.1535750. eCollection 2018.

2)Colombo, M., Raposo, G., & Théry, C. (2014). Biogenesis, secretion, and intercellular interactions of exosomes and other extracellular vesicles. Annual review of cell and developmental biology, 30, 255-289.

3)Phinney, D. G., & Pittenger, M. F. (2017). Concise review: MSC-derived exosomes for cell-free therapy. Stem cells, 35(4), 851-858.

4)Oh, M., Lee, J., Kim, Y. J., Rhee, W. J., & Park, J. H. (2018). Exosome-based delivery of super-repressor IκBα relieves sepsis-associated organ damage and mortality. Science Advances, 6(15), eaaz6980.

5)Wang, L., Hu, L., Zhou, X., Xiong, Z., Zhang, C., Shehada, H. M., … & Zhu, H. (2017). Exosomes secreted by human adipose mesenchymal stem cells promote scarless cutaneous repair by regulating extracellular matrix remodelling. Scientific reports, 7(1), 1-14.

6)Zhang, B., Wang, M., Gong, A., Zhang, X., Wu, X., Zhu, Y., … & Jiang, D. (2015). HucMSC-exosome mediated-Wnt4 signaling is required for cutaneous wound healing. Stem cells, 33(7), 2158-2168.

7)Shin, H., Ryu, H. H., Kwon, O., Park, B. S., & Jo, S. J. (2017). Clinical use of conditioned media of adipose tissue-derived stem cells in female pattern hair loss: a retrospective case series study. International Journal of Dermatology, 54(6), 730-735.

この章のまとめ

エクソソーム注入は、再生能力を利用して、いろいろな皮膚症状を改善し、皮膚全体の健康を促進する最先端の治療法。

大切なのは、医療行為と同様に、適切な治療法であるかどうかを判断するために、資格を持つ皮膚科医に相談することです。

皮膚の若返り、炎症の軽減、治癒の促進が期待できるエクソソーム注入が、皮膚科の悩みを解決してくれるかもしれません。

アンチエイジングのためのエクソソーム点滴の潜在的なリスクとデメリット

物事には常に良い面と悪い面があり、バランスの取れた視点を患者さんに提供することが、皮膚科専門医としての責務だと考えています。

エクソソーム点滴は、皮膚の健康と見た目の改善に効果が期待できるものですが、同時にこの治療に関連する潜在的なリスク、デメリット、副作用を考慮することが欠かせません。

ここでは、おそらく普段あまり語られることのないエクソソーム点滴の負の側面について説明します。エクソソーム点滴を選ぶ際のヒントになれば幸いです。

限られた研究結果

エクソソーム点滴は、実験室での研究や初期の臨床試験では可能性が示されていますが、まだ比較的新しい治療法です1)

そのため、エクソソーム点滴の長期的な安全性と有効性に関する研究は限られています。最も効果的な投与量、投与方法など、最適な治療を確立するためには、さらなる研究が必要です。

規制上の課題

エクソソーム点滴は革新的な治療法であるため、この治療法を取り巻く規制の状況は日々変化しています。

米国では、FDAがエクソソームによる治療法の開発と使用に関するガイドラインの確立に取り組んでいます2)が、日本ではガイドラインはまだ作られていません

再生医療において、幹細胞そのものを取り扱うためには再生医療法上の免許や認可が必要ですが、幹細胞上清液やエクソソームは細胞ではないため規制がない状態です。

エクソソームを取り巻く環境はまだ流動的であり、今後の治療の利用に対する制限や規制が大きく変わる可能性があります。

コスト(費用)

エクソソーム点滴に使用するエクソソームは、きちんとしたドナーから採取、安全に生成するには多額のコストがかかるため、費用は高くなりがちです。

また、しっかり効果を出したい場合は複数回あるいは定期的な投与が必要であることが多く、さらに高額な治療費になる可能性があります。

現在、エクソソーム点滴に対する保険適用はないため、全額自費診療です。

エクソソーム点滴の副作用

エクソソーム点滴は一般的に安全とされていますが、一部の患者さんには治療後に副作用が出ることがあります。

軽度の赤みと腫れ

エクソソーム点滴や注入後、治療部位に軽度の発赤や腫れが生じることが。ただしこれらの副作用は通常短時間、数日以内におさまります3)

感染リスク

エクソソーム点滴や注入には感染のリスクが伴います。このリスクを軽減するために、正しい殺菌と施術医からの治療後のケアに関する指示に従ってください。

アレルギー反応

まれにですが、エクソソームや、消毒液、麻酔クリーム、マイクロニードルなどに対してアレルギー反応を起こす患者さんがいます。

アレルギーの既往がある場合は、エクソソーム点滴や注入を受ける前に皮膚科医と相談することが重要です。

この章のまとめ

エクソソーム点滴は、皮膚の健康と見た目を改善することが期待できる革新的な治療法です。

しかし、この治療法が自分に適しているかどうかを判断する前に、リスク、デメリット、副作用をメリットと比較検討することがとても重要になってきます。

どのような医療行為にも言えることですが、エクソソーム点滴が最も適した治療法であるかどうかを、それぞれのニーズと病歴に基づいて判断できる資格を持った皮膚科医に相談することが不可欠です。

参考文献:

1)Colombo, M., Raposo, G., & Théry, C. et al., Biogenesis, secretion, and intercellular interactions of exosomes and other extracellular vesicles. Annual review of cell and developmental biology, 30, 255-289.  2014

2)U.S. Food and Drug Administration (2020). FDA Warns About Stem Cell Therapies. Retrieved from https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/fda-warns-about-stem-cell-therapies

3)Phinney, D. G., & Pittenger, M. F.  Concise review: MSC-derived exosomes for cell-free therapy. Stem cells, 35(4), 851-858. 2017 

エクソソーム治療による皮膚疾患治療を受けた患者さんの体験談(口コミ)

ここで、エクソソーム治療による皮膚疾患療法を受けた患者さんの体験談をご紹介します。

35歳の女性。中等度から重度のアトピー性皮膚炎(湿疹)の病歴を持ち、エクソソーム治療を行っているクリニックへ。

ステロイド外用薬や免疫抑制剤など、さまざまな治療を試みたものの、症状は改善せず、顔や首に紅斑(赤み)、びらん、かさぶたがたくさんあり、常にかゆみや痛みなどの不快な症状も伴っていました。

皮膚の状態と病歴を考慮し、エクソソーム療法を検討することに。患者さんはエクソソーム治療後に肌の状態が大きく改善された人の評判を聞いていたため、この革新的な治療法を試してみたいと考えていました。

治療に先立ち、エクソソーム治療に伴うリスク、ベネフィット、副作用についてカウンセリング1)

さらに治療法が比較的新しいものであり、結果が個人によって異なる可能性について話し合い、インフォームドコンセントのもと、治療計画を進めました。

マイクロニードルによる局所注入法を選択し、数週間の間隔をあけて、複数回施術することに。

マイクロニードルによって皮膚に小さな溝を作ることで、エクソソームを効率的に送り込み、治癒を促進できることからこの方法を選びました2)

患者さんはエクソソーム注入直後、軽い赤み、腫れ、不快感がありましたが、これらの副作用は数日でおさまり、肌の外観と質感が著しく変化。

3回の施術後、湿疹に伴う炎症、かゆみ、赤みが軽減され、肌の状態や見た目が全体的に改善されました。

その後数カ月間、エクソソーム注入療法を継続。徐々に良い結果を得ることができました。

湿疹の発生頻度は以前より大幅に減り、肌はより健康的でバランスの取れた外観を保つように。さらに、湿疹の症状を管理するためのステロイド外用薬やその他の薬への依存を減らすことができました。

この体験談はすべての患者さんにあてはまるわけではありませんが、従来の治療がうまくいかなかった場合、エクソソーム治療が有力な選択肢になりえる可能性を示しています。

ただし前述したように、エクソソーム治療が患者さん個人のニーズと病歴に基づいた適切な治療法かどうかを判断するために、資格を持った皮膚科医に相談することが非常に重要です。

また、長期的な安全性についてはまだ解明されていないことも多い、ということを知っておいてください

参考文献:

1)Phinney, D. G., & Pittenger, M. F.  Concise review: MSC-derived exosomes for cell-free therapy. Stem cells, 35(4), 851-858. 2017

2)Wang, L., Hu, L., Zhou, X., Xiong, Z., Zhang, C., Shehada, H. M., … & Zhu, H.  Exosomes secreted by human adipose mesenchymal stem cells promote scarless cutaneous repair by regulating extracellular matrix remodelling. Scientific reports, 7(1), 1-14. 2017

まとめ

エクソソーム点滴は、皮膚の若返り、炎症の軽減、創傷治癒など、皮膚の健康や見た目を改善するための可能性を秘めています。

しかし、限られた研究、規制上の課題、コスト、副作用など、デメリットを考慮することが不可欠です。

エクソソーム注入が自分の肌の状態に適した治療法かどうかを判断するためには、資格を持った皮膚科医に必ず相談してください。

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