皮膚の病気

頭皮に湿疹・かさぶた・かゆみなど炎症ができる原因と対処法

脂漏性湿疹
藤井 麻美

毎日きちんとシャンプーをしているのにかゆい、フケが気になる、など頭皮のトラブルを抱えている人は少なくありません。

髪の毛で覆われた頭部や、生え際にみられる湿疹は頭皮湿疹と呼ばれ、

  • 頭皮にかゆみがある
  • 頭皮に赤いぽつぽつができる
  • シャンプーや整髪料がしみる
  • かさかさ、あるいはべたべたしたフケが出る
  • 頭皮がべたつく、あるいはひどく乾燥する

などの症状が。

ここでは、頭皮に湿疹・かさぶた・かゆみなど炎症ができる原因と対処法について書いていきます。

頭皮に湿疹など炎症ができる原因

頭皮湿疹はさまざまな原因によって起こり、代表的なものは、

  1. 接触皮膚炎:染毛剤やパーマ液、シャンプーなどの成分に対して刺激性、あるいはアレルギー性皮膚炎を起こす
  2. 脂漏性湿疹:頭皮内の皮脂が過剰になり、常在菌のバランスが崩れて皮膚炎を起こす
  3. ドライスキン(乾燥肌):過度な洗髪や洗浄力の強いシャンプー剤の使用などにより、皮脂が必要以上に落とされて頭皮が乾燥し、皮膚炎を起こす
  4. アトピー性皮膚炎、乾癬などの皮膚の病気:アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚の病気は頭皮にも症状があらわれることがあります
  5. 膿痂疹(のうかしん)、真菌などの感染症:毛穴に黄色ブドウ球菌や真菌が感染を起こして皮膚炎を起こす

があります。

接触皮膚炎

接触皮膚炎は染毛剤やパーマ液、シャンプーや整髪料など、直接頭皮についた(接触した)物質によって起こる皮膚炎。接触皮膚炎には一次的刺激性(primary irritant)とアレルギー性があります。

一次的刺激性の接触炎は、一定の刺激を超えれば初回接触でも、誰にでも起こるもので、染毛剤やパーマの後に頭皮がかぶれた、という場合はこのタイプの接触皮膚炎のことが多いです。

一方、アレルギー性の接触皮膚炎は、感作といってその物質に反応する抗体が作られるプロセスが必要。そして一旦感作が成立すると、その物質に接触するたびに皮膚炎が起こります。

シャンプーや整髪料による接触皮膚炎はこのアレルギー性の接触皮膚炎のことが多く、『このシャンプー、初めはよかったけど、だんだん合わなくなってきた。』というのが典型的な経過です。

皮膚炎は頭皮のどの部位にも起こりますが、薬剤やシャンプーのすすぎ残しの多い生え際や耳の周り、後頚(けい)部に多くみられます。

紅斑や丘疹(こうはんやきゅうしん:赤みやぶつぶつ)、鱗屑(りんせつ:フケ)、痂皮(かひ:かさぶた)、が起こり、症状がひどい場合は水疱(すいほう:水ぶくれ)に。かゆみやひりひりするような痛みを伴うこともあります。

治療方法

接触皮膚炎を起こしたら、原因物質の使用を中止し、医療機関を受診してください。早い段階で十分な効き目のあるステロイド外用剤を使用することで、慢性化を防ぐことができます。

なお、頭皮の場合は軟膏やクリームは塗りにくいため、ローションタイプの外用剤を使用することが多いです。

染毛剤などで繰り返し接触皮膚炎を起こす場合や、原因がひとつに絞れないような場合は、医療機関でパッチテストなどを受けて接触皮膚炎の原因をはっきりさせることも大切になってきます。

脂漏性湿疹

頭皮湿疹の中で一番多いのが、脂漏性湿疹です。脂漏性湿疹は、頭の生え際や顔の鼻まわりなど、あぶら分(皮脂)の多い部位に、黄色から白色のフケなようなものが出たり、赤みが出たりする皮膚炎。かゆみを伴うこともあります。

脂漏性湿疹には赤ちゃんにできる『乳児型』と思春期以降にみられる『成人型』があり、乳児型は、正しいスキンケアのみで自然に治っていくことが多いです。成人型の脂漏性湿疹は、一度発症すると良くなったり悪くなったりを繰り返します。

成人型は40~50歳以降の男性に多いとされていますが、女性でも若い年代の人でもみられる症状です。皮膚の常在菌や皮脂分泌の異常、肥満、ストレス、紫外線、ビタミン不足など、さまざまな生活習慣の乱れや環境要因などがかさなって発症。

 

頭皮は体の中でも、皮脂の分泌が盛んな部位で、皮脂を栄養とするマラセチア菌という皮膚常在菌(カビの一種)がいます。

ほどよい皮脂分泌は頭皮に潤いをもたらし、またマラセチア菌は有害な細菌の侵入を防ぎ、頭皮の状態を健康に保つ役割が。

ところが、何らかの原因で皮脂分泌が多くなりすぎると(脂漏:しろう)、マラセチア菌が増殖する過程で作られる物質が過剰になり、皮膚を刺激し、炎症を起こします。また、脂漏性湿疹の患者さんは、ビタミンB群が不足しているという報告も。

さらに秋から冬にかけて空気が乾燥すると、脂漏性湿疹の患者さんが増加します。他にも、精神的ストレスや肥満、紫外線、特定の病気(パーキンソン病)などによっても脂漏性皮湿疹が悪化するようです。

治療方法

脂漏性湿疹の治療は、薬物治療と生活習慣の改善の2つを基本に行っていきます。

①薬物療法

主にステロイド外用剤と抗真菌外用剤を組み合わせて治療します。

ステロイド外用剤は炎症を抑える薬で、頭皮の病変にはローションタイプのものを使用します。即効性がありますが、長期間使用することによって皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)や毛細血管拡張、感染症にかかりやすくなるなどの副作用も。

抗真菌外用薬(ニゾラール®)はマラセチア菌が増えないようにする薬で、症状が軽い場合はこの抗真菌外用薬のみで治療することもあります。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の飲み薬を使うことも。

医療機関を受診される時点で皮膚炎がかなり強い人が多いため、ステロイド外用剤と抗真菌外用剤を併用して治療をスタートし、症状が落ち着いてきたら抗真菌外用剤のみでいい状態を維持していくのを目標にします。

また、抗真菌薬の配合されたシャンプー(コラージュフルフルネクストシャンプー®)の使用も効果的。残念ながら日本では保険で認められていないため自費になりますが、重症の方にはこのシャンプーも一緒に使うようにご案内しています。

②生活習慣の改善

脂漏性湿疹を悪化させる要因を取り除くためには、生活習慣を改善することも大切です。日常生活において、睡眠不足や過労、ストレスは症状を悪化させます。不規則な生活にならないように気をつけましょう。

また、適度に休養をとり、気分転換をしてストレスを発散させるようにし、偏った食生活や暴飲暴食は避け、ビタミン類を含めてバランスのよい食事をとるようにしてください。動物性脂肪や糖分の取りすぎは、皮脂の分泌に悪影響を与えるのでひかえましょう。

具体的にはビタミンB群を多く含む、豚肉、レバー、牛乳、ホウレンソウ、トマト、キャベツ、シイタケ、しじみなどの食品は積極的に採り、ナッツやコーヒー、アルコールや香辛料などは控えめにするとよいと言われています。

便秘によっても脂漏が悪化するので、食物繊維の多い玄米や麦、豆、野菜、いも類、海藻やきのこ、果物などもおすすめです。また、たばこも症状を悪くすることが知られています。なるべく控えましょう。

皮脂汚れがたまると症状が悪化するので、できるだけ毎日洗顔、洗髪してください。強くこすらないようにやさしく丁寧に洗浄し、鱗屑(りんせつ)を取り除き、石鹸やシャンプーなどが皮膚にのこらないように十分にすすぎます。

リンスやトリートメントは毛先に必要な分だけつけるようにしましょう。洗顔、洗髪後は皮膚のバリア機能が失われないように保湿剤を使用し、髪はすぐにドライヤーで乾かします。

医療機関で外用剤をもらっている場合、髪を乾かしたらにすぐにつけ、普段から、病変部をかかないように注意してください。

ドライスキン(乾燥肌) 皮脂欠乏性湿疹

頭皮が乾燥することでバリア機能が低下し、少しの刺激で皮膚炎を起こすタイプの頭皮湿疹をドライスキンによる頭皮湿疹、または皮脂欠乏性湿疹といいます。洗浄力の強いシャンプーで洗髪を過度に行うことや、湿度の下がる冬場に起こることが多いです。

洗いすぎがあると、夏場でも発症します。頭皮の乾燥によりバリア機能が低下し、またマラセチア菌のバランスが崩れることも原因。

脂漏性湿疹でみられる、すこしべたついた黄色っぽいフケ(鱗屑)とは異なり、白っぽい細かい粉状のフケが目立つことが多く、頭皮に赤みは出ますが、症状としては脂漏性湿疹よりは軽いことが多いです。

治療方法

ドライスキンによる頭皮湿疹は、乾燥が原因とは気づかず、洗髪が不十分なせいだと考え1日に何回も洗髪することで悪化することがあります。日本人は清潔好きなので、洗いすぎによるこのタイプの頭皮湿疹の人の割合はかなり多いかもしれません。

乾燥肌の人向けのシャンプーも販売されているので、そちらを使用するのもお勧めです(画像参照)。過度な洗髪をやめ、頭皮の環境を整えるだけで改善していくことが多いですが、皮膚炎がひどいときはやはり医療機関を受診し、きちんと治療をうけましょう。

炎症が強い場合はステロイド外用剤を使用します。極端に乾燥がひどい場合はローションタイプの保湿剤を使うこともありますが、もともと頭皮は皮脂が多く、適度にケアをしていれば乾燥は改善していくことが多いです。

アトピー性皮膚炎 乾癬

アトピー性皮膚炎は繰り返すかゆみのある湿疹病変を特徴とする病気。アトピー性皮膚炎の方は皮膚のバリア機能が低下しやすく、皮脂や汗などの刺激によって頭皮にも湿疹病変ができやすいです。

また、アトピー性皮膚炎の方の皮膚の常在菌には黄色ブドウ球菌の割合が多いことがわかっており、湿疹から黄色ブドウ球菌などの細菌感染を起こし、次で紹介する伝染性膿痂疹(のうかしん)になることも。

乾癬(かんせん)は炎症性角化症と呼ばれる皮膚の病気で、炎症(赤み)と角化異常(皮膚のターンオーバーの亢進)が起こります。

皮膚のターンオーバーは約45日で、基底細胞が角質(垢)となって剥がれ落ちますが、乾癬ではこの期間が4~7日と著しく短縮しており、角質が剥がれ落ちずに皮膚の上に分厚く溜まっている状態(鱗屑:りんせつ)。

乾癬の症状は、頭皮にもでることがあり、多くの場合は頭皮の乾癬は難治です。脂漏性湿疹もアトピー性皮膚炎もステロイド外用剤で炎症を抑えますが、乾癬の場合は炎症を抑えるだけでは改善しないことが多く、角化を抑える薬(ビタミンD製剤)も併用。

アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴うことが特徴ですが、乾癬ではかゆみの出ない人も多く、頭皮にしか乾癬の皮膚炎がない場合などは『少しフケが多いな』くらいに考えている人もおり、かなり進行するまで気づかないこともあります。

脂漏性湿疹などの他の頭皮湿疹と診断され、ステロイド外用剤を使用しているのになかなかよくならない、赤みやかゆみなどの炎症は取れたけど、フケがなかなかよくならない場合は、皮膚科専門医の診察を受けて乾癬ではないか診てもらいましょう。

治療方法

アトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用剤とかゆみを抑える抗ヒスタミン薬の内服が基本です。

乾癬ではステロイド外用剤と角化を抑えるビタミンD3外用薬の混合剤が発売されており、それぞれ別々に塗るよりも、治療効果がより高いことが分かっています。

また、この混合剤には頭皮に塗りやすいようにゲル状になったものが(ドボベットゲル®:画像参照)。

ドボゲットゲル
くすりのしおり

睡眠不足や過労、ストレスが症状を悪化させるのはアトピー性皮膚炎でも乾癬でも同じです。

不規則な生活にならないように気をつけ、適度に休養をとり、ストレスをためないようにして十分な睡眠をとり、バランスのよい食生活を送ることはアトピー性皮膚炎や乾癬にもプラスに働きます。

伝染性膿痂疹  ケルスス禿瘡

伝染性膿痂疹(のうかしん)は、細菌による皮膚の感染症で、黄色ブドウ球菌や溶連菌などが原因菌です。接触によりうつり、火事の飛び火のようにあっという間にひろがるため『とびひ』とも。

頭を強く掻く、爪を立ててシャンプーをする、強い力でブラッシングするなどにより頭皮のバリア機能が低下し、その部位に細菌が感染して起こります。

頭皮が赤く腫れ、小さな膿疱が生じ、じゅくじゅくしたびらんとなったり分厚い痂疲(かひ:かさぶた)になり、痛みやかゆみを伴うことが多いです。

皮膚のバリア機能が低下しやすい、アトピー性皮膚炎の頭皮湿疹によく合併しますが、誰にでも起こりえます。また、ステロイド外用剤の副作用でも細菌感染や真菌感染が起こるので注意しましょう。

細菌感染とは別に、マラセチア以外の真菌(カビ)が頭皮に感染して皮膚炎を作ることが。ステロイド外用剤を長期使用している人や、ペットを飼っている人、レスリングなどのcontact sportをする人に起こります。

頻繁にみられる病気ではありませんが、ひとたび感染してしまうと非常に厄介です。頭皮にぶよぶよした赤い斑点ができ、その部位の毛が抜けてしまい、そこからは二度と毛が生えなくなってしまいます

医学的にはケルスス禿瘡(とくそう)と呼ばれます。皮膚科医がみれば一目でわかる病気なので、頭皮が赤くなってぶよぶよして、その部位の毛が抜けたら急いで医療機関を受診してください。

治療方法

伝染性膿痂疹は、ごく軽い場合は抗菌薬外用で済みますが、通常は抗菌薬の内服を併用。セフェム系抗生物質を使用します。なかなか良くならないときは、耐性化(抗菌剤が効かなくなること)が起こっていることも。

そのため、抗菌剤を始める前に、細菌培養をして原因菌を調べつつ、薬剤感受性検査(どの薬が効くか調べる)のがよいとされています。

ケルスス禿瘡は、抗真菌薬の内服が必要です。外用のみでは改善しません。抗真菌薬の内服を開始する前も、真菌の培養検査は行うほうがよいでしょう。

どちらの場合も、シャンプーの仕方やブラッシングの方法を見直し、頭皮に負担をかけないようにしましょう。

まとめ

頭皮のかゆみ、湿疹といってもいろいろな原因があることがわかりました。

スキンケアや生活習慣の改善など、ご自身で改善できる部分もありますが、それでも改善しないときは医療機関を受診し、どのタイプの頭皮湿疹なのか診断を受け、正しい治療を受けるようにしましょう。

参考文献

1) 皮膚科学第10版、大塚藤男他 金芳堂
     
2) 日本皮膚科学会HP

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