皮膚の病気

患者さんに応じて異なる全身性エリテマトーデス(SLE)の治療

全身性エリテマトーデス(SLE)
藤井 麻美

全身性エリテマトーデス(SLE)はどのような病気か、みなさんご存じでしょうか?

SLEは、さまざまな臓器に多様な障害が起こる可能性のある病気で、重症な場合は命にかかわることもあります。

しかし、昨今では新しい検査・治療薬の進歩もあり、早期に診断・治療を行い、普通の生活を送ることができる病気に。

SLEのどのような症状に対して、どのような治療が有効であるか知っておくことは、SLE患者として治療が必要になったときに、よりよい治療を受けることに繋がると考えます。

SLEとは

英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEといわれます。

”systemic”とは「全身の」という意味で、この病気が全身のさまざまな臓器に症状を起こすことからこのような名前が。

”lupus”とはラテン語で狼を指す言葉で、この病気で起こる発疹が、狼に噛まれたあとのように見えることからきています。

男女比は1:9程度で、女性の患者さんが圧倒的に多く、とくに20-30代の女性の発症、妊娠・出産に関連した問題が生じることも多いです。

SLEは、本来であればウイルスや細菌といった外敵から体を守る働き(免疫といいます)に異常が起こり、自分自身を攻撃して炎症を起こしてしまう、「膠原病」「自己免疫疾患」といわれる病気のひとつ1), 2)

発症にはいくつかの「遺伝的要因」と「環境因子」が関係していると考えられています。

SLEの治療

SLEの治療目標は、さまざまの臓器(例:腎臓、脳神経など)のダメージを防ぎ、SLE患者さんが良好なQOL(日常生活の質)を保ちながら、健康に長生きできるようにすることです。

最近では、これらの目標達成のために、関節リウマチなどと同様にSLEにおいても総合的評価指標(SLEDAI,BILAGなど)をモニタリングしながら、その目標を達成するように心がけて治療する、”treat to target(T2T)”という概念が提唱されています3)

治療は、SLEと診断がついている患者さんですべて同じ内容というわけではありません。どのような臓器に、どの程度のダメージが起こっているかということを医師が判断し、それに応じてどのような治療法を選択するかを決定4, 5, 6)

以下に、SLEの治療に用いる薬剤について説明していきます。

  • ステロイド
  • ヒドロキシクロロキン(プラケニル)
  • 免疫抑制薬
  • 生物学的製剤

ステロイド

ステロイド(副腎皮質ステロイド)は、もともと体内で毎日作られているホルモンという物質です。これを人工的に作って薬剤にしたものが、自己免疫疾患の治療に使われます。

よく使用する薬剤としては、プレドニゾロン(プレドニン®︎)。ステロイドは異常を起こしている免疫の細胞に働きかけることにより、SLEによって起こっている臓器のダメージを改善する効果があります。

プレドニン

投与方法としては飲み薬として内服することが一般的ですが、臓器のダメージが非常に重い場合には、「ステロイドパルス療法」という点滴で大量のステロイドを3日間ほど投与する方法がとられることも。

ステロイドはよくその副作用がクローズアップされるため、怖いイメージが強い薬ですが、古くから使われているくすりであり、逆にその副作用についてもすでによく知られているため、対策は取りやすいともいえます。

副作用としては、骨粗鬆症・骨折、感染症、白内障、消化管出血、糖尿病、副腎不全(からだのステロイドが足りなくなることによって起こる異常)などが。

ステロイドは以上のような副作用を防ぐために、必要最小限の量で治療することが求められます。しかし、現実的にはさまざまな理由で減量が困難な場合も多く、以下に説明する免疫抑制剤の併用を検討することに。

ヒドロキシクロロキン(プラケニル)

欧米では60年以上前から関節リウマチやSLEの治療薬として使われている薬剤ロキシクロロキン(商品名プラケニル®︎)は、SLEに対しての有効性はたしかなものであり、WHOの指定する必須医薬品のひとつでもあります。

プラケニル

日本では、1955 年に類似薬クロロキンが、重篤な副作用である網膜症に関する警告の遅れにより深刻な薬害を引き起こし、1974 年に販売中止となったという経緯が。

そのため、長年ヒドロキシクロロキンを使用することができませんでしたが、2015年7月から承認され、使用できるようになりました。

SLEのさまざまな症状に対する効果や再燃予防に加えて、生存率改善(寿命を延ばす)効果も報告されており、特に禁忌(ぜったいに使ってはいけない理由)や副作用がないかぎり、すべてのSLE患者さんに投与するべき薬剤です。

網膜症などの副作用予防のため、最大投与量は5 mg/kg/日にするべきとされています。

初期に注意が必要な副作用として、消化器症状(腹痛、下痢、吐き気・嘔吐など)、皮膚過敏反応、霧視(眼のかすみ)・視調節障害(見え方の障害)が。

長期に注意が必要必要な副作用として、網膜症(後ほど詳しく説明)、ミオパチー・ニューロパチー(筋肉や神経の異常)、心毒性(心臓の障害)、低血糖、骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板などが減少します。

さらに感染症に弱くなったり、貧血の症状が出たり、血が止まりにくくなったり、皮膚の色素沈着なども。

いちばん注意したい副作用が、眼の網膜というところに異常が起こる「網膜症」です。視力低下・視野欠損(見えるところが欠ける)・色覚異常などがあったら、すぐにヒドロキシクロロキンの内服を中止し、眼科を受診してください。

定期的な眼科受診をし、検査の段階で異常を見つけることができれば、その段階でヒドロキシクロロキンを中止することで症状は進行しないといわれています。

免疫抑制剤

SLEでは多くの種類の免疫抑制薬(自己免疫の異常を抑えるくすり)を使用します。以下に代表的なものを説明します。

シクロホスファミド(エンドキサン®︎)

ループス腎炎・精神神経ループス・肺高血圧症のなど、重症のSLE患者さんで使用することが多いくすりです。

催奇形性があり、生殖可能年齢の女性で使用する場合は、卵子凍結保存などをおこなったうえで、シクロホスファミドによる治療を開始することもあります。ほかに出血性膀胱炎、発癌性、消化器症状、骨髄抑制などの副作用もあります。

タクロリムス(プログラフ®︎)

日本で開発された薬剤です(茨城県筑波山の土壌細菌から分離された物質です)。日本や中国などから、ループス腎炎に対する有効性が多く報告されています。

腎障害、高血糖、高血圧、振戦(手などのふるえ)といった副作用が。

ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)

日本ではループス腎炎に使うことができるくすりです。骨髄抑制、消化器症状などの副作用があります。

生物学的薬剤

米国では、この数十年間SLEに対する新しい薬剤が承認されていませんでした。しかし、この数年間で2種類の生物学的製剤が新規承認され、日本を含めた世界中で使用できるように。

生物学的製剤とは、バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬剤で、ある特定の物質(分子)をターゲットとした治療のために使われます。

生物学的製剤は、高分子の蛋白質であり、内服すると消化されてしまうため、点滴静脈注射あるいは皮下注射で投与。バイオあるいはバイオ製剤とも呼ばれます。以下にSLEで使用できる生物学的製剤について説明。

ベリムマブ(ベンリスタ®︎)

ベリムマブ

SLE患者さんでは、Bリンパ球の異常により自己抗体が産生され、自身を攻撃してしまう可能性がいわれています。

ベリムマブは可溶型Bリンパ球刺激因子(BLyS、別名:B cell activating factor belonging to the TNF family(BAFF)およびTNFSF13B)という分子に選択的に結合し、その活性を阻害する完全ヒト型抗BLySモノクローナル抗体製剤です。

日本では2017年9月に点滴静脈注射用製剤と皮下注射用製剤がSLEに使えるようになりました。

もともとはSLEにおける複合的評価項目(SRI4)の改善がみられて、SLEに対する保険承認がなされました。その後ループス腎炎の寛解導入(最初の治療)に有効であるというデータも出てきており(7)、期待されています。

アニフロルマブ(サフネロー®︎)

SLE患者さんで起こる免疫の異常のひとつとして、「I型インターフェロン」という炎症に関わる物質が多くなることが知られています。

アニフロルマブはI型インターフェロンα受容体のサブユニット1(IFNAR1)に結合し、I型インターフェロンの受容体への結合を阻害し、またIFNAR1の細胞内移行を誘導することによってその発現レベルも低下。

I型インターフェロンのシグナル伝達を阻害する抗IFNAR1ヒト型免疫グロブリンG1κ(IgG1κ)モノクローナル抗体です。

日本では2021年9月にSLEの適応が承認されました。この薬剤も、SLEにおける複合的評価項目の改善がみられて、SLEに対する保険承認がなされました。

とくに皮疹や関節症状に有効とのデータもあり、これらの症状に悩むSLE患者さんに対する治療として期待されています。

I型インターフェロンは、ウイルス感染から自分を守る働きも。そのため、これを抑えてしまうことによる副作用として、帯状疱疹や新型コロナウイルス感染症などのウイルス感染症が増える可能性には注意が必要です。

薬剤以外の治療・予防

SLEに対する薬物治療以外に、SLE治療で気をつけるべきことをまとめていきます。

・紫外線対策
日光は、SLEが悪くなる原因になります。SPFが高い日焼け止めを使用する、直射日光を避けるといった工夫が大切です。

・心血管系リスク対策
SLEによる血管の炎症や、ステロイドなどの薬剤副作用により、動脈硬化が進み心筋梗塞・脳梗塞になる可能性が高くなります。生活習慣病(高血圧症・糖尿病・脂質代謝異常症)の予防・治療や、禁煙などが重要です。

・ワクチン
インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、ヒトパピローマウイルス(HPV)などのワクチンは、禁忌がなければ接種することがすすめられます。

・骨粗鬆症予防
骨密度検査によるスクリーニングと、必要があれば治療をおこなうべきです。

まとめ

SLEは治療が難しい病気ですが、それぞれの患者さんの状態に応じて薬剤を選択し、最適な治療をおこなっていきます。

患者さんとしても決められた薬をきちんと服用することや、日光対策など日常生活で注意するべきことを守るようにしてください。

参考文献

1) Rahman A, et al. Systemic lupus erythematosus. N Engl J Med. 2008 Feb 28;358(9):929-939. doi: 10.1056/NEJMra071297. 

2) Ippolito A,et al. An update on mortality in systemic lupus erythematosus. Clin Exp Rheumatol. 2008 Sep-Oct;26(5 Suppl 51):S72-9. 

3) van Vollenhoven RF, et al. Treat-to-target in systemic lupus erythematosus: recommendations from an international task force. Ann Rheum Dis. 2014 Jun;73(6):958-967. doi: 10.1136/annrheumdis-2013-205139. Epub 2014 Apr 16. 

4) Gordon C, et al. The British Society for Rheumatology guideline for the management of systemic lupus erythematosus in adults: Executive Summary. Rheumatology (Oxford). 2018 Jan 1;57(1):14-18. doi: 10.1093/rheumatology/kex291. 

5) Fanouriakis A, et al. 2019 update of the EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus. Ann Rheum Dis. 2019 Jun;78(6):736-745. doi: 10.1136/annrheumdis-2019-215089. Epub 2019 Mar 29. 

6) Dörner T, et al. Novel paradigms in systemic lupus erythematosus. Lancet. 2019 Jun 8;393(10188):2344-2358. doi: 10.1016/S0140-6736(19)30546-X. Epub 2019 Jun 6. 

7) Furie R, et al. Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis. N Engl J Med. 2020 Sep 17;383(12):1117-1128. doi: 10.1056/NEJMoa2001180.

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