皮膚の病気

自分にあった薬と出会うために ベーチェット病に対するさまざまな治療法を紹介

ベーチェット病
藤井 麻美

ベーチェット病は、さまざまな特徴的な症状が知られており、口内炎、陰部の潰瘍、皮膚症状や眼症状などが代表的です。

現在いろいろな治療法があり、多くの場合には病気とうまく付き合っていくことができます。医療機関をしっかり受診し、適切な治療を受けていれば過度に心配する必要はありません。

今回の記事では、ベーチェット病の治療について詳しく説明していきます。症状が当てはまるため、ベーチェット病ではないかと心配な方、医療機関でベーチェット病と診断された方は、ぜひ一度お読みください。

また、現在ベーチェット病の治療中の方で、「この治療法は私には試せないのだろうか?」と思った場合には、是非かかりつけの医療機関でご相談を。ベーチェット病の原因や症状については別の記事もありますので、よろしければそちらもご参照ください。

https://asami.clinic/bechets-disease-symptoms/

ベーチェット病の治療

ベーチェット病の治療は、症状や重症度により異なります。すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではありません。

1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科Hulsi Behçet教授によって初めて報告された疾患で、良くなったり悪くなったりを繰り返す全身性の病気です。

体のいろいろなところで臓器の障害が起こる病気ですが、その発症する原因・機序は、まだ明らかになっていません。それだけでベーチェット病と診断されるような特徴的な検査がなく、症状を見て総合的に診断します。

症状としては、口内炎(口腔粘膜のアフタ性潰瘍)、皮膚の症状、眼の症状(ぶどう膜炎)、陰部の潰瘍といったの頻度の高い4つの「主症状」と呼ばれるもの。

ベーチェット病
引用元:WikEM

そして、頻度は低いもののベーチェット病によく見られる関節炎、消化器病変、神経病変、血管病変、精巣上体炎といった5つの「副症状」が。

どの症状があるかによって、完全型、不全型、特殊型に分けられます。

ベーチェット病の症状の出方には、皮膚粘膜症状が主である軽症な例から、ぶどう膜炎による失明をきたす重症例、さらには、消化器症状、血管症状、神経症状により生命予後にかかわるものまでさまざまです。

まずは症状別に治療について、その後、代表的な治療薬について解説します。

皮膚粘膜症状、関節炎

口腔内潰瘍(アフタと言います)、陰部潰瘍には、ステロイド含有の軟膏、疼痛対策として痛み止めのゲルを使用します。病変がある部位は、清潔を保ちましょう。

ベーチェット病
引用元:healthline

毛嚢炎様皮疹(にきびのようなできもの)については、抗菌薬で治癒することが。コルヒチンという薬が、結節性紅斑、女性の陰部潰瘍、関節炎に有効と報告されています1)

口腔内潰瘍には、コルヒチンの他、アプレミラスト(オテズラ®)という薬も使用されます。関節炎に対しては、サラゾスルファピリジンという薬も使用されることが。

皮膚粘膜症状、関節炎については概ね軽症のことが多いので、あまり集中的な治療をする頻度は高くありませんが、難治例は副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤が使用されることもあります。

眼症状

眼症状の治療は、発作時の治療と発作の予防の2つに分けられ、また、眼症状の起こる場所は眼の前部と眼の後部に分かれています。

発作時の治療

眼の前部に病変がとどまる発作の場合には、副腎皮質ステロイドの目薬や、副腎皮質ステロイドの結膜下注射を行います。後遺症(虹彩癒着)を残さないための目薬(散瞳薬)も使用。

眼の後部の病変の場合には、副腎皮質ステロイドの局所注射および内服や点滴での全身投与を行います。

ベーチェット病眼
引用元:DermNet NZ

発作予防の治療

コルヒチンやシクロスポリンAが使用されます。これらの治療でも発作が起きてしまう場合には、生物学的製剤を使用。

腸管病変

報告は乏しいものの、炎症性腸疾患に準じた治療が行われることが多いです1) 。軽症から中等症にはサラゾスルファピリジンなど、中等症から重症例には副腎皮質ステロイドや生物学的製剤の使用を行います。

腸管穿孔、高度狭窄、膿瘍形成、大量出血などが起こった場合には、外科手術が必要です。

血管病変

血管の病変には、内服や注射での副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制剤が用いられます。難治性の場合には生物学的製剤を使用。

静脈血栓症には、抗凝固療法も用いられますが、血管病変のなかには出血をきたすものもあるので注意が必要です。大動脈の病変、動脈瘤には手術が必要となることもあります。

中枢神経病変

生命予後に関わる重要な病変であり、概ね強力な治療を必要とします。脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の病変には内服や注射での大量の副腎皮質ステロイド療法(「ステロイドパルス療法」を含む)が使用されることが多いです。

改善後にも、再発予防として治療の必要があり、コルヒチンが用いられることが多々あります。

慢性的に進行する神経症状、精神症状、人格変化や認知機能低下などには、免疫抑制剤(特にメトトレキサート)が使用されることが多いです。急性でも慢性でも難治性の場合や、再発を繰り返す場合には生物学的製剤が考慮されます。

また、免疫抑制剤のシクロスポリンAは、神経症状を誘発することがあり、神経症状のある方や、神経症状の既往がある方には使用が避けれられることが多いです。

ベーチェット病の治療法・治療薬について

代表的な以下の治療法・治療薬について解説します。

  • 生活習慣の改善
  • 副腎皮質ステロイド
  • コルヒチン
  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
  • 免疫抑制剤
  • 生物学的製剤
  • 経口PDE4阻害薬

生活習慣の改善

一般的なことですが、しっかりと休養をとり、ストレスを軽減させることが欠かせません。また、歯磨きなどで口腔内を清潔に保ち、虫歯や歯肉炎がある場合には治療も必要です。

皮膚病変がある場合には、病変部を清潔にしましょう。また、喫煙は病気の悪化因子と言われています。ベーチェット病と診断された場合には、禁煙は必須です。

禁煙

食事については、特に禁止される食べ物はありませんが、バランスのとれた、栄養が十分ある食事を摂るように心がけてください2)

副腎皮質ステロイド

副腎皮質ステロイドとは、体内に存在するさまざまなホルモンのうちの一つで、副腎皮質で産生されます。これを治療薬として使用すると、細胞の「核」に作用して、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を発揮。

その強力な作用から、多くの膠原病で用いられ、薬として用いられる場合、一般的に「ステロイド」と呼ばれます。

ステロイドはホルモンの薬であり、抗炎症作用と免疫抑制作用だけでなく、さまざまな副作用が。

副作用は患者さんにより出現頻度が異なり、予防薬も使いながら、慎重に管理していきます。ステロイドを長期間内服した場合、急に薬を中止するとステロイド離脱症候群がみられる場合が。

これは、内服により体内のステロイドホルモン合成能が低下し、薬の中止によって低血糖、吐き気、倦怠感、血圧低下などの症状が起こるものです3)

コルヒチン

コルヒチンは、一般的には痛風発作に対して使用されているお薬です。

ベーチェット病にも効果があり、ベーチェット病のさまざまな症状に対して処方されます。白血球の機能を抑える作用をもち、ベーチェット病の病状を改善。

最も頻度の高い副作用は下痢症状です。また、白血球数減少や血小板数減少を生じる可能性があります。頻度は低いのですが、催奇形性(胎芽や胎児に影響を与え、形態的な異常を来すこと)があるため、男女ともに避妊が必要です。

NSAIDs

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とは、ステロイド以外の解熱鎮痛作用を有する薬物の総称です。プロスタグランジンなどの物質を抑制することによって、解熱作用、鎮痛作用、抗炎症作用を発揮します。

一般に「痛みどめ」と称されることの多い薬剤です。病気そのものを良くするお薬ではなく、症状を抑えるお薬になります。

副作用には、比較的頻度が高いものに胃潰瘍、胃腸障害が。また、頻度は少ないものの、喘息や腎機能障害を起こすこともあります。その他、妊娠中の使用には注意が必要です4)

免疫抑制薬

免疫抑制薬は、体の中の免疫反応や炎症反応を抑える薬です。ステロイドだけでは効果が乏しい場合にステロイドと一緒に使用して治療効果を高めたり、先述のステロイドの副作用のため、ステロイド減量の必要がある時に使用されたりすることが多いです。

ベーチェット病でよく用いられる免疫抑制薬には、シクロスポリンA、メトトレキサートがあります。

シクロスポリンA

カルシニューリン阻害薬と呼ばれる薬の一つです。リンパ球の活性化を抑制して、免疫抑制効果を示します。副作用として、腎臓の機能低下や高血圧症がみられることが。

その他、高血糖、肝障害、高カリウム血症、歯肉の肥厚、多毛などが認められることも。

また、シクロスポリンAの使用でベーチェット病の神経症状が誘発あるいは増悪する可能性があります。多くの場合、神経症状がある方や、神経症状の既往のある方には投与しません

メトトレキサート

関節リウマチの薬として世界中で最も広く使用されている薬で、ベーチェット病にも処方。リンパ球や白血球などの機能を抑制することで免疫抑制作用を示すと考えられています。内服の方法が特殊で、週に1回、1~2日に分割して内服。

メトトレキサート
引用元:沢井製薬

妊娠中・授乳中の場合、胸水・腹水を認める場合、間質性肺炎(特殊なタイプの肺炎)がある場合、腎機能障害がある場合などは内服できないことがあるので、主治医の先生とよく相談しましょう。

副作用には、皮膚や消化器症状(口内炎、嘔気、下痢など)、肝臓機能障害、血液の成分の減少、間質性肺炎、リンパ種などがあるため、注意が必要です。内服中は避妊が必要なので、妊娠を計画するときは必ず医師に相談してください。

生物学的製剤

生物学的製剤とは、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製造された薬剤で、特定の分子を標的とした治療のために使われ、点滴あるいは皮下注射で投与されます。

ベーチェット病で使用される生物学的製剤には、TNF阻害薬が。

TNF阻害薬

体の中で起きている炎症の中で重要な働きをしているTNF-αという分子を抑制することによって抗炎症作用をもたらします。いくつかのTNF阻害薬が日本で使用可能です。薬の種類によって投与方法が異なります。

特に感染症に注意が必要です。予防のために、積極的に肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種しましょう。感染を疑う症状のある時は早めに医師に相談してください。

また、体の中でくすぶっていた結核やB型肝炎などの微生物が再燃してくることもあります。生物学的製剤を始める前には必ずチェックが必要ですので、よく医師と相談するようにしてください。

経口PDE4阻害薬

アプレミラスト(オテズラ®)は、PDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害剤とよばれる種類の飲み薬です。ベーチェット病による口腔潰瘍に対して使用されます。

PDE4とは、細胞に存在する酵素で、炎症に関連。PDE4が正常よりも多く存在することで、免疫バランスの異常が生じ、炎症をきたすと考えられています。

アプレミラスト(オテズラ®)はPDE4を阻害することで炎症を抑えて、ベーチェット病による口腔潰瘍に効果が。

副作用には、飲み始めの頃に吐き気や下痢、頭痛などが挙げられ、ほとんどの場合、飲み始めてから2週間以内に現れ、4週間以内におさまると言われています。

感染症や過敏症、重度の下痢を起こすことも。副作用の症状が持続する場合は、医師に薬の中止を相談してください。

また、内服の量について、最初の2週間は内服の量が少しずつ変わるので、処方を受けた際に医師・薬剤師の説明をよく聞くようにしましょう。

まとめ

ベーチェット病の治療について解説しました。ベーチェット病は、体のいろいろな臓器にダメージを与える病気で、その原因・発症機序は明らかになっていません。

治療は、その症状や重症度に応じて行われ、単一の治療はありません。治療法・治療薬については、医療機関でよく相談するようにしましょう。

参考文献

1) リウマチ病学テキスト. 第2版. 日本リウマチ財団. 診断と治療社. 2016年.

2) 難病情報センター. ベーチェット病.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/187

3) 日本リウマチ学会. 副腎皮質ステロイド.
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/fukujinhishitsusteroid/

4) 日本リウマチ学会. 非ステロイド抗炎症薬.
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/nsaids/

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