皮膚の病気

眼や口腔の乾燥が気になる? その症状はシェーグレン症候群かもしれません

シェーングレン症候群
藤井 麻美

眼(目)の乾燥(ドライアイ)や、口の乾燥(ドライマウス)というのはとても頻度の高い症状で、多くの方が経験したことがあると思います。

ほとんどの場合、一過性に治ってしまうことが多い症状です。しかし、皆さんの中にドライアイやドライマウスが長く続いている方はいませんか?

長く続くその症状は、「シェーグレン症候群」かもしれません。

「シェーグレン症候群」は「自己免疫疾患(≒膠原病)」という病気の中の一種です。「自己免疫疾患」というと、耳馴染みがなく、なんだか怖い病気に思えてしまうかもしれません。

シェーグレン症候群は、多くの場合怖い病気ではなく、医療機関をしっかり受診し、症状に注意していれば過度に心配する必要はありません。

この記事では、シェーグレン症候群についての概要や、治療法、合併症などの情報をご紹介していきます。

シェーグレン症候群は自己免疫の病気

シェーグレン症候群は、自己免疫疾患と呼ばれる病気の中の一種です。自己免疫疾患とは、免疫の機能の異常によって起きる病気。

シェーングレン症候群
引用元:Our Eye Health

免疫とは、通常、細菌などの外敵が体に入ってきた時に反応するものです。自己免疫疾患でおきている免疫の異常とは、この免疫が、自分の体の一部を攻撃するようになってしまっている状態。

シェーグレン症候群の原因は、遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、免疫異常、更に女性ホルモンの要因などが考えられていますが、まだはっきりしておらず、何か一つの原因で起きるわけではありません。

シェーグレン症候群は女性に多く、その男女比は男1:女17とも言われています。好発する年齢は50歳代が多いですが、小児からご高齢の患者さんまで発症。

日本では、1年間に病院などを受診した患者さんは約6万8000人とも言われています。潜在的な患者さんを含めると、この数よりも多いことが推測され、10~30万人と推定されることも1)

他の自己免疫疾患に合併することが多いことが知られており、例えば関節リウマチの患者さんの約20%にシェーグレン症候群が発症します。

他の自己免疫疾患として、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病なども合併することが。

他の自己免疫疾患に合併しているものは二次性シェーグレン症候群、合併していないものは原発性シェーグレン症候群と呼ばれています。

シェーグレン症候群の標的とされる体の一部は、涙腺(涙を作るところ)と唾液腺(唾液を作るところ)が圧倒的に多いです。これらの部分を標的とすることで、ドライアイやドライマウスの症状を起こします。

他にも、例えば関節や肺、腎臓やリンパ節などを標的として、全身性の症状を起こすこともあります。

シェーグレン症候群の乾燥以外の症状

シェーグレン症候群は以下のような多彩な症状が出現。代表的なものについてそれぞれ解説します。

  • 関節炎
  • レイノー現象
  • 皮膚の病変
  • リンパ節腫脹
  • 肺病変
  • 神経病変
  • 慢性甲状腺炎

関節炎

全身の関節痛、関節腫脹はシェーグレン症候群の患者さんの30~60%に認められると言われています2) 。関節リウマチとの鑑別が困難なことがありますが、関節リウマチと異なり関節の炎症や骨の病変(関節の破壊)が認められることは少ないです。

レイノー現象

レイノー現象とは、手が冷たくなった時や緊張したときなどに、指先が白くなったり、赤紫色になったりする現象のことです。

血管が収縮して指先の血流が少なくなるため起こり、シェーグレン症候群でも、三分の一の患者さんに起こると言われています1) 。レイノー現象を起こさないためには、防寒が重要です。

皮膚の病変

レイノー現象の他にも、皮疹が現れることがあります。代表的なものとしては、紫色の皮疹(紫斑)や、丸く赤い皮疹(環状紅斑)が。

その他、シェーグレン症候群の患者さんは、薬剤アレルギーが多いことがよく知られています。薬剤への過敏性反応として、皮疹が出ることも。

リンパ節腫脹

全身の一部または多数のリンパ節腫脹が認められることもあり、頻度は約30%です2) 。リンパ節が腫れるだけでなく、悪性リンパ腫を発生してしまうことも、シェーグレン症候群の方はそうでない方に比べて高いと言われています。

悪性リンパ腫がないかどうか、画像の検査や血液の検査で調べることが可能です。

肺病変

シェーグレン症候群の患者さんでは、間質性肺炎(肺の一部が固くなってしまう肺炎)と呼ばれる特殊な肺炎を認めることがあり、頻度は20~25%です2) 。この肺炎になってしまった場合、ステロイド治療や免疫抑制薬が必要となることも。

その他、間質性肺炎がない方でも、シェーグレン症候群の患者さんでは、慢性的な咳を認めることもよく知られています。

神経病変

末梢神経障害(手のしびれや足のしびれなどの神経症状)を認めることがあります。頻度としては10~20%と言われていますが2) 、実際には多くの患者さんでしびれの症状を自覚している方が多い印象です。

手や足だけではなく、脳や脊髄などの中枢の神経にも傷害を認めることがあり、症状が重篤な場合には、ステロイド治療や免疫抑制薬が必要となることも。

慢性甲状腺炎

シェーグレン症候群の患者さんでは、自己免疫性甲状腺疾患(慢性甲状腺炎=橋本病やバセドウ病)の合併が多いことが知られていて、頻度は25~40%とも言われています2)。シェーグレン症候群と診断されたら、これらの合併がないかを調べるようにしましょう。

シェーグレン症候群の検査

シェーグレン症候群の診断のための検査には、以下のようなものがあります。

  • 口腔検査(ドライマウス)
  • 眼科検査(ドライアイ)
  • 血液検査(抗体検査)
  • 病理組織検査(生検検査)

上記の検査を組み合わせて、総合的に診断を行います。

口腔検査

シェーングレン症候群
引用元:Review of Optometry

唾液の分泌量を見るための検査です。サクソンテスト、ガムテストがよく行われます。

サクソンテスト:分泌された唾液をガーゼに吸収させ、吸収した唾液の重さを測定する検査です。2分間で2g以下であれば、唾液分泌量が低下していると判断。

ガムテスト:ガムを10分間かんでもらい、分泌される唾液を容器にとって測定する方法です。10分間で 10ml以下であれば、唾液分泌量が低下していると判断。

眼科検査

眼科の検査としては、涙液の分泌量を見るためのシルマー試験、乾燥性角結膜炎(結膜および角膜の慢性的な乾燥)の有無を検討するためのローズベンガル染色、フルオレセイン染色があります。

シルマー試験:涙液量を測定する方法で、シルマー試験紙という濾紙を、下まぶたに5分間引っ掛けておき、5ml以下であれば、涙液分泌量が低下していると判断。

ローズベンガル染色、フルオレセイン染色:ローズベンガル液、フルオレセイン液を点眼し、特殊な顕微鏡で観察。ドライアイでは結膜または角膜が障害されており、それぞれの色素による染色が認められます。染まった程度を見て、ドライアイの程度を判断。

血液検査

血液検査では、シェーグレン症候群に関連性の強い抗体である、「抗SS-A抗体」「抗SS-B抗体」を確認。自己免疫疾患では、免疫の異常により、異物ではなく自分の体に対して「抗体」を作ってしまいます。

抗体とは、特定の物質に特異的に結合して、その異物を生体内から排除するための分子です。これらを確認することは、自己免疫疾患の診断の根拠となります。

また、その他の自己免疫疾患を合併している場合は、それぞれの疾患の「抗体」が陽性になることも。

病理組織検査

シェーグレン症候群では、唾液腺や涙腺に「リンパ球」という免疫細胞の一種が入り込むことで、組織を破壊してドライマウスやドライアイが起きます。

シェーグレン症候群の診断のために、唾液腺や涙腺の一部を取り、顕微鏡でリンパ球の入り込みが起こっているのか実際に見ることも。

小唾液腺という口唇にある唾液を作るところや、涙腺の一部を取ります。これは最も決定的な診断方法ですが、体の一部を取らなければいけない負担があるので、全ての患者さんに行うわけではありません。

シェーグレン症候群の治療

シェーグレン症候群の治療は、大きく乾燥症状の治療とそれ以外の合併症の治療の2つに分けられます。

乾燥症状の治療

シェーグレン症候群を根本的に治癒させる治療法はありません。ドライアイやドライマウスについては、「対症療法」が中心です。

ドライアイについては、角膜を保護する目的や不快感の軽減のために、人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムの点眼を行います。ドライマウスについては、こまめに水分を摂取したり、唾液を分泌する人工唾液を使用したりすることが基本です。

唾液を分泌させるようなたべもの(レモンなど)も有効で、その他には、唾液を分泌するムスカリン性受容体に作用する飲み薬を使用して、唾液分泌を促すこともあります。

合併症治療

ドライアイやドライマウスのみであれば、上記のように対症療法を行いますが、その他の臓器症状があり、活動性が高い場合には、ステロイド、免疫抑制薬などの治療を行うことがあります。しかし、ステロイドや免疫抑制薬を使用しても改善しないことも。

乾燥症状以外の臓器障害の治療については、さまざまな方法があるので、医療機関に相談するようにしましょう。その他、慢性甲状腺炎、悪性リンパ腫やその他の膠原病などの合併については、それぞれの病気に対する個々の治療が必要になります。

まとめ

シェーグレン症候群は、自己免疫疾患の一つです。ドライアイやドライマウスが最も一般的な症状ですが、他にもさまざまな臓器症状を引き起こす可能性が。

診断は口腔検査、眼科検査、血液検査、病理検査などで行われます。ドライアイやドライマウスに対しては対症療法を行い、その他臓器症状に対してはステロイドや免疫抑制薬を使用することも。

「もしかしてシェーグレン症候群かな?」と思った場合、症状を改善させるためには、まずは診断をつけることが重要です。是非医療機関を一度受診してみてください。

参考文献

1) 難病情報センター. シェーグレン症候群.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/111

2) リウマチ病学テキスト. 第2版. 日本リウマチ財団. 診断と治療社. 2016年.

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