皮膚の病気

全身性エリテマトーデス(SLE)とは?多彩な症状と診断基準について解説

SLE
藤井 麻美

全身性エリテマトーデス(SLE)という病気を耳にしたことがありますか?

珍しい部類の病気であるため、周囲の方にSLEを発症している方がいない限り、ご存じないという方も少なくないでしょう。

SLEは、さまざまな症状が出現し、いくつもの障害が起こる可能性のある病気で、重症な場合は命にかかわることもありますが、昨今では検査・治療薬の進歩もありイメージは変わりつつあります。

早期の診断及び適切な治療を受けることができれば、薬を飲みながら健康なひととほぼ同様の生活を送ることがでる、という認識です。

SLEがどのようなひとに起こりやすいか、どのような症状が現れたときにSLEを疑うかについて、よく知っておくことが大切。

今回は、SLEの症状と診断の仕方について解説していきます。

SLEとはどんな病気?

英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLE。”systemic”とは「全身の」という意味で、この病気が全身のさまざまな臓器に症状を起こすことからこのような名前が。

”lupus”とはラテン語で狼を指す言葉で、狼に噛まれたあとのように赤い発疹が特徴的であることからつけられています。

SLE患者さんの特徴

日本における推定患者数は、約6-10万人。2019年にSLEとして難病の申請をしている方は約6万人ですが、実際にはこの2倍程度のSLE患者さんが存在すると考えられています。

男女比は1:9程度で、女性の患者さんが圧倒的に多いという特徴が。とくに20-30代の女性の発症が多いため、妊娠・出産に関連した問題が生じやすくなります。

また、最近ではSLE患者さんの年齢分布自体が以前より高齢に。これは、高齢でSLEを発症する患者さんが増えたこともありますが、昔からSLEと診断されている患者さんが「長生き」するようになったことも理由です。

実際に、SLE患者さんの5年生存率は、かつては50%以下だったのが、2000年台に入り90%を超えてきており、さらなる改善を続けています1)。これには、治療薬の進歩などが関係。

ただ、このような高齢のSLE患者さんでは、生活習慣病などの合併症が多くなり、SLEの治療が難しくなってしまうことがあるといった問題も出てきています。

実際にSLE患者さんでは、心筋梗塞や脳血管障害が多いといった報告もあり2), 3)、SLEだけでなくこれらの生活習慣病についてもきちんと診断・治療することが大切です。

SLEの原因は2つ

SLEは、本来であればウイルスや細菌といった外敵から体を守る働き(免疫といいます)に異常が起こり、自分自身を攻撃して炎症を起こしてしまう、「膠原病」という病気のひとつです。

「自己抗体」という、自分の体の成分に反応して攻撃してしまう物質が出現4)

なぜSLEで免疫に異常が起こり、自己抗体ができてしまうのかについて、はっきりとした原因はわかっていませんが、いくつかの「遺伝的要因」と「環境因子」が関係していることいわれています。

遺伝的要因:

「遺伝子によって血の繋がりのある家族に引きつがれる病気のなりやすさ」のことをいいます。双子で2人ともSLEになる確率が、一卵性で二卵性よりあきらかに多いというデータ5)などから、SLEという病気に遺伝が強く関係していそうだと言われていました。

最近では、病気に関係する遺伝子を研究する方法が進歩し、50種類以上の遺伝子がSLEに関係していそうだと報告されており、これらの大部分は「免疫」に関係したものです6)

しかし、ある特定の遺伝子があるから絶対にSLEになるというものではなさそうで、別の報告では「遺伝的要因」が関係するのは約4割で、残りは次に述べる「環境要因」であるといわれています7)

環境因子:

紫外線は、SLEの発症・増悪の原因としてよく知られています。そのため、日常生活で日光を避けるような工夫が必要です。また、いくつかの薬がSLEの原因になることも(薬剤性ループス)。

通常は薬を止めることだけでよくなりますが、改善せずSLEとしての治療が必要になることもあります。

ほかには、喫煙、ウイルス・細菌感染、妊娠・出産、外科的手術、過度のストレス、アルファルファスプラウトの摂取、化粧品、有機溶剤への曝露などがSLE発症に影響。

SLEの症状

SLEでは全身に多彩な症状が出現します。病名のもとになった顔の皮疹が有名ですが、そのほかにも、

  • 皮膚・粘膜症状
  • 関節症状
  • 腎症状
  • その他(全身症状・精神症状・心、肺症状)

が見られます。

皮膚・粘膜症状

さまざまな皮膚症状が起こるのがSLEという病気の特徴で、患者さんが最初の症状として気がつくことが多いのも皮膚症状であることが多いです。

以下に、SLEに特徴的な皮膚症状について説明します。

蝶形紅斑:

これは、顔の頬から鼻にかけてできる赤い発疹で、蝶のようなかたちにみえることからこの名前がついています。

SLE

日光過敏:

紫外線にあたることで、発疹や水ぶくれなどができることがあります。

口腔内潰瘍:

口や頬の粘膜に潰瘍(へこみ)ができることがあります。SLEの口腔内潰瘍は痛みがないことも多く、患者さんが気づいていないことも多いです。

脱毛:

いわゆる脱毛のことも多いですが、頭皮にSLEによる発疹ができることによって毛が抜けることもあります。

Raynaud現象:

寒冷刺激やストレスによって、細い血管がダメージを受けることにより、指先・足先の色が変わる(白→紫→赤が典型的)現象のことをいいます。

SLE

その他の皮膚症状:

「円盤状皮疹」といわれる円形の皮疹、蕁麻疹のような発疹、紫色の発疹、皮膚潰瘍など、さまざまな皮膚症状が起こる可能性があります。

関節症状

全身のさまざまな関節に痛みがみられることがあります。痛みだけでなく、実際に関節に炎症が起こって腫れる状態(関節炎)になることも。

関節リウマチという病気とは違い、骨の破壊が起こることは少ないといわれていましたが、最近の報告では関節症状のあるかたの40%に骨びらん(骨の虫食い像)がみられるという報告もあり8)、関節リウマチがSLEに合併することもあります。

関節の痛みが続く場合は、定期的なX線検査が必要かもしれません。

腎症状

SLE患者さんの約2割で腎臓になんらかの障害が起こり、「ループス腎炎」といわれます。尿検査で蛋白や潜血などの異常がみられたときに疑います。

重症の場合には、尿にタンパク質が多く出てしまうことで「ネフローゼ症候群」といわれる状態になることもあり、血液のタンパク質が少なくなることによっていろいろな症状(足のむくみなど)が出てくることも。

ループス腎炎は、進行してしまうと腎臓の機能が低下し、透析が必要になることもあるため、しっかりと診断・治療することが重要な症状です。

その他の症状

全身症状:発熱、疲れが強くなる、食欲がなくなるといった症状が起こることがあります。

精神神経症状:脳や脊髄に炎症が起こることで、精神症状(うつ病や統合失調症のような症状)、けいれん、頭痛、手足のしびれや麻痺が起こることが。まれにSLEが関係して脳の血管に異常が起こることで、脳梗塞・脳出血になることもあります。

心臓・肺の症状:心臓の周りの膜(心膜)や筋肉に炎症を起こすと「心膜炎」「心筋炎」に、また肺の周りの膜(胸膜)に炎症を起こすと「胸膜炎」という状態になることがあります。

発熱や胸の痛みが症状として出ることが多いですが、血液検査・胸部X線検査や心電図検査の結果で疑われることも。

SLEと診断されるには|3つの分類基準

SLEは、さまざまな症状が出てくる病気です。そして、それぞれの患者さんで、出てくる症状やその症状の程度には違いがあります。ある患者さんをSLEかどうかと判断するために用いられるいくつかの基準が。

いずれも臨床研究などで対象とする患者を抽出するための「分類基準」であり、「診断基準ではない」のですが、実際の診療現場においてSLEと診断する際にも十分に役立ちます。

そして、この分類基準は絶対的なものではなく、SLEを強く疑う所見や症状があり、他の疾患が除外できる場合には、分類基準を満たしていなくても臨床的にSLEと診断して対応することが求められるのです。

SLEの分類基準としては、これから説明する3つのものがよく使われます。

1997年改訂ACR分類基準

表1:1997年改訂ACR分類基準

テーブル

自動的に生成された説明

(文献9、10より改変引用)

アメリカリウマチ学会が1982年に作成し、1997年に改訂した分類基準です。世界中で広く使われている基準であり、日本でも難病(特定疾患)申請のときに参考にするのはこの基準になります。

2012年SLICC分類基準

表2:2012年SLICC分類基準 臨床的項目

テーブル

中程度の精度で自動的に生成された説明

免疫学的項目

テーブル

自動的に生成された説明

(文献11より改変引用)

1997年改訂ACR分類基準と比べると、

・多様な皮疹や神経症状が含まれた。

・免疫異常の項目を必ず一つ満たすことを条件とした。

・病因を反映させて、低補体の項目が含まれた。

・ループス腎炎の規定を別に設けて独立させた。

ことなどが違いになります。

皮疹の取り扱いがより専門的であり、蝶形紅斑以外の急性ループス皮疹(日光過敏も含む)や、亜急性ループス皮疹、円盤状皮疹以外の慢性ループス皮疹が項目に入っており、これらの評価のためには皮膚科の先生の診察が重要です。

また、骨びらんを伴うSLEの関節炎が実際存在することから、関節炎からは旧基準の「non-erosive」の文言が消えています。

尿蛋白は定性検査(試験紙法)ではなく、スポット尿あるいは蓄尿測定が必要となりました。血球系異常は溶血性貧血、白血球、血小板の3項目に細分化。

自己抗体も抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体の3項目に細分化され、抗リン脂質抗体の定義は詳細になりました。

2012年SLICC分類基準は、1997年改訂ACR分類基準と比べて、感度は高くなりましたが、特異度はやや低くなっています(1997年改訂ACR分類基準:感度83%特異度93%/2012年SLICC分類基準:感度97%特異度84%)。

つまり、より多くのSLEを分類することができるが、SLEでない患者さんも含めてしまう可能性が高い分類基準になっています。

2019 年EULAR/ACR分類基準

表3:2019 年EULAR/ACR分類基準

エントリー基準抗核抗体 80倍以上(Hep-2細胞または同等の検査)が一度でも陽性
追加基準SLEよりも他により説明しやすい病態が考えられる場合には該当スコアは算定しない各基準については一度でもあればよい少なくとも臨床的基準の1項目を含む10点以上でSLEと分類される各基準は同時に満たさなくともよい各領域の最高点数のみを合計スコアに算定する
臨床的領域と基準点数免疫学的領域と基準点数
全身症状 発熱(>38.3℃)
抗リン脂質抗体 抗カルジオリピン抗体中等度以上陽性or抗β2GPⅠ抗体陽性 orループスアンチコアグラント陽性



血液症状 白血球減少(4000/mm3未満) 血小板減少(100,000/mm3未満) 自己免疫性溶血性貧血
344
補体 C3低値またはC4低値 C3低値かつC4低値
34
神経精神症状 せん妄 精神病症状 痙攣
235
特異抗体 抗dsDNA抗体陽性または 抗Sm抗体陽性

皮膚粘膜症状 非瘢痕性脱毛 口腔潰瘍 亜急性皮膚エリテマトーデスまたは円板状ループス 急性皮膚エリテマトーデス(蝶形紅斑または紅斑丘疹型ループス)
224
漿膜炎症状 胸水または心嚢液貯留 急性心膜炎
56
筋骨格症状 関節症状:1)2つ以上の関節における滑膜炎(腫脹または関節液貯留)または2)2つ以上の関節における圧痛かつ30分以上の朝のこわばり



腎症状 蛋白尿>0.5g/日 腎生検でClassⅡorⅤのループス腎炎 腎生検でClassⅡorⅤのループス腎炎
48
10

(文献12より改変引用)

・2019 年EULAR/ACR分類基準は、2012年SLICC分類基準の高い感度を保ちつつ、特異度を上げることを目的として作成(感度96%特異度93%)。

抗核抗体陽性(80倍以上)がエントリー基準となり、7つの臨床項目と3つの免疫学的項目の各々2−10点に重みづけされたスコアの合計が10点以上で分類されます。

・新基準では発熱が臨床項目として含まれました。感染症など他の発熱の原因が除外できる場合にのみ算定します。

・新基準では、腎の組織所見に応じてスコアに傾斜がつけられて、ClassⅢもしくはⅣのループス腎炎の場合は他の項目に関係なくSLEと分類されるようになりました。

まとめ

SLEは、20-30代の女性に多い病気です。

診断が難しい病気ですが、臨床医は上記の分類基準を参考にしつつ、臨床症候と検査所見から総合的に判断してそれぞれの患者さんをSLEと診断していきます。

SLEは皮膚、関節、腎臓、その他多くの臓器にダメージを起こして、さまざまな症状が出てくる可能性が。とくに腎臓については、治療が遅れると透析が必要になる可能性もあります。

疑われる場合は、早めに専門科を受診しましょう。

参考文献

1) Ippolito A,et al. An update on mortality in systemic lupus erythematosus. Clin Exp Rheumatol. 2008 Sep-Oct;26(5 Suppl 51):S72-9. 

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