血管性浮腫と蕁麻疹はどう違う?
ありふれた病気である蕁麻疹によく似たものとして、「血管性浮腫」があります。
蕁麻疹も血管性浮腫も、急に皮膚が赤く腫れる病気です。どちらも、体のどこにでもできる病気で、跡を残さず腫れはひきます。
蕁麻疹は聞いたことのある病気だと思いますが、血管性浮腫は、別名クインケ浮腫とも呼ばれ、この名前は聞いたことがない方がほとんどではないでしょうか。
蕁麻疹は、アレルギー反応の1つで5人に1人くらいの方が一生に一度はなると言われている比較的良く見られる病気です。
食べ物や薬だけでなく、自分自身の汗や物理的な刺激、温度刺激などでも蕁麻疹は起こります。血管性浮腫も、病態は蕁麻疹と似ており、蕁麻疹の一種です。
今回は、血管性浮腫と通常の蕁麻疹の違いや治療についてお話ししていきたいと思います。
血管性浮腫は蕁麻疹の特殊型
まず、血管性浮腫の症状、病態と分類について解説いたします。
血管性浮腫の症状
血管性浮腫は、主にまぶたやくちびる、舌や手足が腫れることが特徴です。蕁麻疹も血管性浮腫も血管から血液の成分が漏れ出して皮膚が腫れます(皮下に浮腫が起こります)が、蕁麻疹は皮膚の浅い部分の血管でおこるのに対して、血管性浮腫は深い部位で。
そのため、蕁麻疹では明らかに皮膚の一部が赤く腫れ、ぼこぼことした見た目になりますが、血管性浮腫は単なる限局性のむくみのようにも見えます。
また、蕁麻疹は強いかゆみを伴いますが、血管性浮腫はあまりかゆみは伴いません。むしろ灼熱感を訴える方が多い印象です。そのほかにも、蕁麻疹の腫れは24時間以内に消失しますが、血管性浮腫の腫れは2日から5日ほど続きます。どちらも湿疹などとは違って跡は残しません。
血管性浮腫は、通常の蕁麻疹の症状を伴うこともあります。また、口や鼻の粘膜にも浮腫が生じるため、呼吸困難となる場合が。その際は緊急の処置、治療が必要となります。
また、のど以外の腸の粘膜にも浮腫を起こすことがあり、その場合は突然お腹が痛くなったり嘔吐や下痢をすることも。
血管性浮腫の病態と分類
血管性浮腫や蕁麻疹で皮膚に起こるむくみは、皮膚の中を走る小さな血管が拡張し、血漿(血液の液体成分)が血管の中から漏れ出ることで起こります。先ほども話したように、蕁麻疹は皮膚の浅い部分を走る血管が拡張するため赤く見えるのです。
血管が拡張する原因は、おもに皮膚に存在する肥満細胞が放出する化学物質によるものと遺伝的な要因で起こるものの2つがあります。遺伝性のものは、遺伝性血管性浮腫と呼ばれ、日本では十数家系しか認められておらず非常にめずらしい病気です。
遺伝性血管性浮腫の症状は、他の血管性浮腫と同様に全身のどこにでも起こる可能性があります。その中でも、のどの粘膜に起こった場合は気道が塞がってしまい重篤な状態に。このような発作を1年の間に何度もくり返す人もいれば、数年に1回しか起こらない人もいて、本当にさまざまです。
血管性浮腫の原因
遺伝性の血管性浮腫は10代の頃から外傷や精神的なストレスなどさまざまなことを契機として、血管性浮腫を繰り返します。
C1エステラーゼインヒビター(C1 INH)が欠損している、もしくは機能異常があるため、C1 INHが正常に働かず、ブラジキニンなどの血管に作用する化学物質が増加することで浮腫が発生。
非遺伝性の血管性浮腫は、ほとんどが特発性で原因がわからないことが多いです(蕁麻疹も食べ物や薬剤によるアレルギー反応と思われていることが多いですが、その半数以上が特発性で原因がわかりません)。
また、アレルギーやアスピリンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬、物理的な刺激や発汗によって起こる刺激誘発型の血管性浮腫もあります。特発性と刺激誘発型の血管性浮腫はそれぞれ特発性の蕁麻疹や刺激誘発型の蕁麻疹と合併することも。
中年以降で血管性浮腫を繰り返す場合は、何らかの影響でC1INHの活性が低下している可能性があります。後天的にC1 INHの活性が低下する原因は、悪性リンパ腫などの血液疾患やSLEなどの自己免疫性疾患などです。
そのほかに、血圧を下げる薬のACE阻害薬やペニシリンなどの抗菌薬でも、血中のブラジキニンの増加をきたし、血管性浮腫を引き起こすことが。これらをブラジキニン起因性の血管性浮腫と呼びます。
血管性浮腫の治療
次に、血管性浮腫の治療について。
非遺伝性血管性浮腫の治療
・特発性の血管性浮腫
非遺伝性の血管性浮腫の治療は、おもに抗ヒスタミン薬とトラネキサム酸の内服です。抗ヒスタミン薬には眠くなってしまうものもあるため、患者さんの生活に合わせた薬を選びます。
また、通常量で効果がない場合は適宜倍量に増やしたり、他の抗ヒスタミン薬を追加し併用。それでもコントロールが困難な場合は、ステロイドの内服や抗アレルギー薬を追加することもあります。
・刺激誘発型血管性浮腫
刺激誘発型血管性浮腫の治療も、おもに抗ヒスタミン薬、トラネキサム酸の内服となりますが、はっきりとした誘因があるのなら、その誘因を回避することが重要となります。
アレルギー性であれば原因の食べ物などの摂取を避ける、物理的な刺激が原因であれば極力刺激を受けることを避けるなどしましょう。
これらの2つは、特発性蕁麻疹、刺激誘発型蕁麻疹の治療とほとんど同じです。
・ブラジキニン起因性の血管性浮腫
上記の2つは抗ヒスタミン薬の効果が期待できるのに対して、こちらは抗ヒスタミン薬は基本的に効果がありません。悪性リンパ腫などの悪性腫瘍やSLEなどの自己免疫性疾患が背景にある場合は、そちらの治療を行えば血管性浮腫の症状は改善します。
薬剤が原因の場合は、可能な限り薬剤を別のものに変更するなどして対応。
遺伝性血管性浮腫
遺伝性血管性浮腫は、先ほども述べたように、突然のどに発作が起こってしまった場合、命にかかわることも。治療としては、発作時の治療、短期予防目的の治療、長期予防目的の治療があります。
・発作時の治療
原則C1インヒビターの補充療法を行います。C1インヒビターが入手困難であった場合は、トラネキサム酸を用いることも。
のどの腫れが強く呼吸ができない場合は、気管内挿管や気管切開をおこない、気道を確保します。軽症であってもその後重症化するリスクがあるため、経過観察目的で入院することがほとんどです。
・短期予防目的の治療
遺伝性の血管性浮腫は、先ほども述べたように外傷やストレスで発作が起こります。そのため、歯科治療や手術など体に侵襲が加わる時は、あらかじめ発作が起こらないように薬を投与。
*小さな歯科治療などの小ストレスがかかる場合
C1インヒビターをあらかじめ準備しておき、発作が起こった場合に備えます。あらかじめの薬は使用しません。
*侵襲が大きい歯科治療や外科手術など大きなストレスがかかる場合
術前1時間前にC1インヒビターを補充します。また、2回目の補充に備えてC1インヒビターを準備。
・長期予防目的の治療
1ヶ月に1回以上、1ヶ月に5日以上の発作期間、のどに症状が出たことがあるなどの既往があれば長期予防の治療をします。
治療は、トラネキサム酸の内服とダナゾールの内服です。ダナゾールは男性ホルモンの薬であるため、子供や妊婦、授乳婦の方は使用できません。
そして、副作用として男性化があります。それ以外の副作用として、高血圧、脂質異常、肝障害があるため、定期的に血液検査や画像の検査を行う必要が。
病院を受診する目安をチェック
突然血管性浮腫の発作が起こった場合、どのような症状があれば緊急で受診するべきか判断が難しいときがあるかもしれません。
特に、あまり発作が起こらないような人であればなおさらパニックになり判断が困難になるでしょう。
病院を受診すべき場合
- くちびる、まぶた、舌、口の中が大きく腫れてきた。
- のどがつまる、話しにくさがある(息苦しさがある場合は直ちに救急要請しましょう)。
- お腹が痛む、下痢・嘔吐がある。
- 手や足が普段と比べてはれている。
遺伝性血管性浮腫の治療薬であるC1インヒビターを常備していない病院もあります。
遺伝性血管浮腫の方は国内でも少ないため、遺伝性血管浮腫の腫れと認識されずきちんと治療が行われないこともあるかもしれません。
そのため、緊急時にも遺伝性血管性浮腫であることを医師や救急隊に伝えるように、緊急連絡カードを常備するようにしましょう。
まとめ
血管性浮腫は、蕁麻疹と同じ病態の病気で、体のさまざまな場所の血管が腫れる病気です。特発性の血管性浮腫や刺激誘発型の血管性浮腫では、蕁麻疹に準じた治療でコントロールすることが可能。
遺伝性血管性浮腫はまれな疾患で、なおかつ発作により命に危険が及ぶこともあります。
しかし、診断さえできれば有効な治療法もあり、発作予防を行うこともできます。少しでも疑う症状があれば病院を受診しましょう。
参考文献
1. あたらしい皮膚科学. 第3版. 清水宏. 中山書店
2. 今日の皮膚疾患治療指針. 第5版. 医学書院
3. 皮膚科学. 第11版. 大塚藤男ら. 金芳堂
4. 遺伝性血管性浮腫ガイドライン. 改訂2019年版. 一般社団法人. 日本補体学会
5. HAE情報センター.
https://csl-info.com/hae-info/other/outline.html