皮膚の病気

多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)の原因と治療法(ステロイド)

多形滲出性紅斑(口)
藤井 麻美

多形滲出性紅斑とは、境界のはっきりとした紅斑(ときには水疱)が突如出現し、拡大する病気です。

腕や脚など、症状が部分的に出るだけの軽症型も多いですが、発熱などの全身症状や、くちびるや陰部のただれや目の充血を伴い、紅斑が体全体に広くみられる多形滲出性紅斑重症型(EEM major)の発症も。

さまざままな原因で発症しますが、単純ヘルペスウイルスの感染、マイコプラズマや連鎖球菌などの細菌感染、薬剤に対するアレルギー反応と考えられています。

薬剤によって起こる場合は重症化することが多く、注意が必要です。多形滲出性紅斑の原因や治療、また重症薬疹についてくわしく解説していきます。

多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)とは

多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)とは、円形の少し縁が隆起した赤いぼつぼつが、突如腕や脚などに出てくる病気で、かゆみはあることも、ないことも

主にウイルス感染に伴うアレルギー反応として出現しますが、他のさまざまな原因でも起こるため、疾患名ではなく症状を表す名称として使われています。誰かにうつったりする病気ではありません。

多形滲出性紅斑には、皮膚の狭い範囲に限局して出現する軽症型と、広範囲の皮膚、粘膜、内臓に病変が及ぶ重症型があり、軽症型は決して稀な病気ではなく、皮膚科の受診する患者さんでは時々みられます。

多形滲出性紅斑
引用元:healthline

多形滲出性紅斑の原因

多形滲出性紅斑の原因はさまざまなものがありますが、主にウイルス、細菌、真菌などの微生物や薬剤に対するⅢ型アレルギーが原因と考えられています。

ウイルスでは単純ヘルペス感染症、細菌ではマイコプラズマ感染症や溶連菌感染症のあとによく出現。また、薬剤アレルギーとして発症することも。

一方で原因がはっきりしない患者さんも一定数いらっしゃいます。原因がはっきりしない多形滲出性紅斑は、春から夏にかけて、若い女性によく発症。

私が以前病院に勤務していた時に担当した患者さんは、30代、40代、50代とおおよそ10年に1回に発症を、繰り返していました。毎回、詳しい検査をして多形滲出性紅斑と診断され、治療により改善しますが、発症のきっかけはいつも不明。

10年前の入院記録が、当時の指導医の先生が研修医時代のものであり、驚いたのを覚えています。

多形滲出性紅斑は主にウイルスや細菌、薬剤などに対するⅢ型アレルギー反応だと考えられていますが、一部の症例ではⅣ型アレルギーの要素もあるようです。

多型滲出性紅斑の原因(まとめ) あたらしい皮膚科学 第3版 清水 宏著 より

原因詳細
感染症ウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)、細菌(連鎖球菌、マイコプラズマ、非結核性抗酸菌など)、白癬、クラミジア、リケッチアなど
薬剤アレルギー抗菌薬、NSAIDs、抗けいれん薬、抗悪性腫瘍薬など
膠原病・アレルギー性疾患昆虫アレルギー、膠原病(特にSLE)、サルコイドーシス、クローン病など
その他の原因寒冷刺激、造血器腫瘍など

アレルギーとは

私たちの体には、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体やがん細胞などの異物に反応して撃退するシステムがあり、これを免疫といいます。

しかし何らかの原因によって、通常身体にとって無害な物質を異物と判断して攻撃することがあるのです。これをアレルギー反応といいます。

アレルギーには、I型からIV型までの4種類。

Ⅰ型アレルギーは即時型アレルギーとも呼ばれ、アレルゲンが体内に侵入した直後から数時間以内という短い時間で反応が起こり、IgE抗体が原因で発生します。

一般的なアレルギー疾患の多くがⅠ型に分類され、代表的な疾患は花粉症やアトピー性皮膚炎、じんましん、気管支ぜんそく、食物アレルギー。

また、強いアレルギー反応が皮膚や呼吸器、内臓にいたる全身に症状があらわれ、急速に症状が拡大し、命にかかわることもあるアナフィラキシーショックもⅠ型アレルギーによるものです。

一方、IV型アレルギーは遅延型アレルギーとも呼ばれ、アレルゲンが体内に侵入してから半日~数日経って反応が起こります。

IV型アレルギーでは抗体は関与しておらず、血液内に存在するT細胞がサイトカインというタンパク質を産生。

これによりマクロファージや好中球活性化され、周囲の細胞や組織を攻撃してアレルギー反応が起こります(代表的な疾患は、接触性皮膚炎や金属アレルギー、ツベルクリン反応など)。

Ⅲ型アレルギー 

Ⅲ型アレルギーは、アルサス型や、免疫複合型とも呼ばれ、血液中のタンパク質がアレルゲンとなり、それに対してIgG抗体やIgM抗体が反応して結合し免疫複合体を形成することから始まります。

免疫複合体が、血液中を流れて補体を活性化させ、補体の作用によって集まってきた好中球が血管や細胞を攻撃して起こるアレルギー反応です。

代表的な疾患には、自己免疫疾患として知られる全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチなどがあります。

Ⅲ型アレルギー
引用元:MACROPHI

多形滲出性紅斑では、ウイルス、細菌、真菌などの微生物や薬剤に対するⅢ型アレルギーが原因と言われています。同じ感染症、薬剤の摂取があっても、症状が出現するかどうかは、宿主(患者さん)側の体質によるところが大きく、また症状の強さも個人差が。

皮膚にのみに部分的に症状があらわれる軽症から、全身の皮膚、粘膜、内蔵に至って症状が出て重篤になる場合までバラバラです。

多型滲出性紅斑紅斑の症状 

一つ一つの皮疹は、小さな赤い丘疹(きゅうしん)ではじまり、次第に同心円状に拡大し、辺縁が隆起し、中心がへこみ、射撃の標的や眼の虹彩のような丸い形になり、標的状病変(target lesion)あるいは虹彩状(iris formation)と呼ばれる状態に。

多形滲出性紅斑(肩)
引用元:DermNetNZ



水疱(水ぶくれ)になることもあり、顔や肘、膝、手のひら、足の裏などに左右対称性に出現します。かゆみはあることが多いですが、あまりかゆくないという人もいます。

多形滲出性紅斑(手のひら)
引用元:DermNetNZ

重症の場合は眼が赤くなったり、唇や口内、陰部がただれたり、といった粘膜症状が。また、発熱や関節痛などの全身症状も出現します。

多形滲出性紅斑(口)
引用元:DermNetNZ

紅斑とは

紅斑(こうはん:erythema )は皮膚科で用いられる用語で、皮膚の赤い斑のことです。皮膚の末梢毛細血管が拡張し、充血する(血がたまる)ことで起こり、そこに炎症があることを示すサインとなります。

毛細血管拡張

炎症の勢いが強く、浮腫性変化があると紅斑は皮膚面よりなだらかに盛り上がり、そこに水分がたまって、ぶよぶよ触れる(浸潤を触れる)ようになり、滲出性紅斑(しんしゅつせいこうはん:exudative erythema)と呼ばれます。

多形滲出性紅斑はこの滲出性紅斑がみられることからつけられた名称。欧米では多形紅斑(Erythema multiforme: EM) と呼ばれることが多いです。

日本語で書かれた教科書では多形滲出性紅斑(Erythema exudativum multiforme;:EEM)と書かれており、日本の皮膚科医が滲出性紅斑の概念に非常に重きをおいていることがわかります。

軽症型と重症型

多形滲出性紅斑は、軽症型と重症型では治療方法やその後の経過が大きく異なります。軽症の場合は、紅斑にステロイド外用剤を塗り、かゆみがあれば抗ヒスタミン薬を内服し、そのまま症状が引いてくるのを待ち、大体1~2週間で完治。

一方、重症型では全身の皮膚に紅斑が多発し、目や口、陰部などの粘膜に症状が出たり、発熱や関節痛などが出ることもあります。重症型では塗り薬では追い付かず、ステロイド薬の内服あるいは点滴治療となり、基本的に入院が必要に。

ですが、症状の出始めの時期は軽症のままで終わるのか、重症になっていくかの判断が難しく、皮膚科クリニックで軽症型の治療を行いながら数日経過をみて、皮膚の症状の程度や、発熱などの症状がでてきた時点で総合病院に紹介、となることも多いです。

多形滲出性紅斑(背中)
引用元:MERCK

多型滲出性紅斑の皮膚症状は特徴があり、トレーニングを受けた皮膚科医であれば、見るだけで多くの場合は診断できます。ただし、全身の紅斑が出る別の病気ときちんと鑑別するために、皮膚生検と言って皮膚を一部切除し病理検査に出すことも。

スティーブンスジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome; SJS )と中毒性表皮壊死症( Toxic epidermal necrosis; TEN ) 

多形滲出性紅斑の重症型はEEM majorとも呼ばれますが、全身に多発する紅斑、粘膜症状、発熱などの症状は、スティーブンスジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)という重症薬疹(薬剤によるアレルギー性発疹症)と非常によく似ています。

ただし、SJSではより粘膜症状や臓器障害が強く、全身倦怠感や高熱(38℃以上)、関節痛、筋肉痛、胸痛、胃腸障害といった全身症状も。

SJSでは、被疑薬は直ちに中止する必要があり、場合によっては高容量ステロイドの点滴(ステロイドパルス療法)あるいは、血漿交換(透析のように全身の血液を体外に一度出して、有害なタンパク質を除去する治療)などの高度医療が行われます。

そして全身の皮膚の10%以上が水疱やびらんとなると、中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrosis: TEN )呼ばれます。SJSやTENはステロイドパルス療法や血漿交換などの高度な治療が行われても死亡することもあり、緊急性の高い病気です。

死亡率はTENで20%、SJSでも数%と言われています。また、目の粘膜障害では視力障害などの後遺症を残すこともあり、早期診断がとても重要です。

少し前までは多形滲出性紅斑の重症型であるEEM majorとSJS、TENは一連の疾患であり、EEM majorからSJS、TENに進展すると考えられていましたが、現在は、これらは全く別の疾患であるという考え方が一般的。

私が実際に経験した症例では、初診時より粘膜症状が目立ち、全身の紅斑は遅れて出てきた、ということが。これは、EEM majorがさらに重症化してSJSになるのではない、ということを強烈に実感した出来事でした。

SJSの紅斑は、非典型標的状紅斑(flat atypical target lesion)と呼ばれ、多形滲出性紅斑とは異なり、盛り上がりのない平らな標的状紅斑が特徴であり、水疱や出血、痛みをしばしば伴います。ただし、症状の初期では皮膚科医でも判別が難しいことも。

いずれにしても、SJSを疑うほどの多形滲出性紅斑の場合は入院加療が必要になりますので、早めに皮膚科専門医のいる医療機関を受診してください。

薬を内服した後に体中に赤い発疹が出て、かつ目が痛い、目やにがひどい、口の中や唇や陰部がひりひりするなどの粘膜症状があれば、SJSやTENといった重症薬疹の可能性があります。

命に関わる場合や後遺症を残すこともあるので、できるだけ早く医療機関を受診する必要がある、ことを覚えておいてください。

多型滲出性紅斑の治療

通常全身症状を伴わない場合には、抗ヒスタミン薬の内服とともに、かゆみがあれば紅斑にステロイド外用剤を使用します。

病因を解明することが再発を防ぐ意味からも重要であり、ウイルス抗体値の測定や、薬のアレルギー検査を行うことも。検査により感染症が原因であると判明したら、その治療を行います。

特に単純ヘルペスウイルスが原因の場合は、再発予防のために抗ウイルス薬内服を検討することも。

軽症の場合は、普段どおりの生活を続けていくのでよいですが、紅斑が全身に多発する、発熱や倦怠感などの全身症状がある場合は、自宅安静(仕事は休む)や、入院加療が必要です。

入院となった場合は、全身の免疫反応を抑えるために内服または点滴でステロイド薬の投与が行われます。

薬剤が原因の場合は、その薬剤の使用を必ず中止してください。抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬 、抗けいれん薬、造影剤などが原因となることが多いですが、その他どのような薬剤でも起こりえます。

医薬品副作用救済制度 

薬疹として多形滲出性紅斑やSJS/TENなどになり、入院加療が必要になった場合は、『医薬品副作用被害救済制度』という医療費給付制度があります。

薬剤は正しく使用していても、副作用発生は完全には防げないため、薬剤の副作用のため入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合に、医療費が国から支給される仕組みです。

病院や診療所で医師が処方した薬剤だけでなく、薬局などで自身が購入して使用したものも含まれますが、あくまで薬剤を適正に使用した場合に生じた副作用に限ります。

自費診療などで、適応外使用(ダイエット目的の糖尿病薬他)を行っていた場合に重篤な副作用が起きても救済制度は適応となりません。

まとめ

多形滲出性紅斑では、突如赤い発疹(紅斑)が出現するため、びっくりして皮膚科を受診する方が多いです。重症になる場合もあり、慎重に経過をみる必要がありますが、軽症で終わる人も多いので、慌てず治療を続けるようにしましょう。

きちんと治療を受けていても症状が改善するまでは2~3週間かかることが。多形滲出性紅斑は皮膚の症状がかなり目立つため、心理的なダメージが大きく、心配になる方も多いようです。

多形滲出性紅斑は必ず治る病気であり、誰かにうつるわけではないので、必要以上に悲観的にならず、リラックスして過ごすようにしましょう。

参考文献

皮膚科学 第10版 大塚 藤男他 金芳堂

あたらしい皮膚科学 第3版 清水 宏著

重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン 2016 日本皮膚科学会

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