失明することもあるベーチェット病とは? 皮膚や粘膜の症状は皮膚科で
口内炎を経験したことはありますか?多くの方が経験したことがあると思います。通常の場合、口内炎は大きな問題になることのない症状です。
しかし、口内炎を繰り返している場合、それは「ベーチェット病」による症状かもしれません。
「ベーチェット病」は、「自己炎症性疾患」という病気の中の一種です。いくつかの特徴的な症状が知られており、口内炎以外には、陰部の潰瘍、皮膚の症状や眼の症状などが特徴的です。
「自己炎症性疾患」というと、耳馴染みがなく、どんな病気か想像つかないというかたも多いかもしれません。ベーチェット病には、現在いろいろな治療法があり、多くの場合、病気とうまく付き合っていくことができます。
この記事では、ベーチェット病についての概要や、原因などの情報を記載しています。「もしかしてベーチェット病かな?」と思った場合には、是非医療機関を一度受診してみてください。
ベーチェット病とは
ベーチェット病は、1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科のHulsi Behçet教授によって初めて報告されました。
口内炎(口腔粘膜のアフタ性潰瘍)、皮膚の症状、眼の症状(ぶどう膜炎)、陰部の潰瘍を主な症状として、良くなったり悪くなったりを繰り返す全身性の病気です。
いくつかのタイプがあり、腸管型、血管型、神経型といった、ある特定の体の部位に影響を及ぼすものもあります。
ベーチェット病は、特定の検査だけで確定診断できるような病気ではなく、患者さんの症状により総合的に診断。
男女比はほぼ1:1とされており、男性の方が重症となる方が多く1) 、また、若くして発症した患者も重症になることが多くなっています1) 。
日本では、他国に比べてベーチェット病の患者さんが多いことが知られており、約2万人です2) 。世界的には、日本から地中海沿岸にかけて、かつてのシルクロード沿いに患者さんが集積しています。
ベーチェット病の発症機序はまだ不明
ベーチェット病の発症する機序は、まだ明らかになっていません。考えられているのは、何らかの遺伝的要因があり、そこに何らかの環境要因が加わることで、発症するのではないかと言われています。
遺伝的要因、環境要因について、これまでわかっていることを簡単に。
遺伝的要因
遺伝的な要因のなかで、最も関係が深いと言われているものが、「HLA-B51」です。HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)とは、白血球の血液型のようなものと思ってください。
HLAは、両親から半分ずつを遺伝的に受け継ぐことになっています。そのため、兄弟姉妹間では4分の1の確率で一致。
HLAにはさまざまな種類がありますが、「HLA-B」の中の「51」という数字のタイプのHLAを持っている人に、ベーチェット病がよく発症するようです。近年は、HLA以外にもこの病気に関連する遺伝子が発見されています。
遺伝的な要因があるのは間違いありませんが、「HLA-B51」を持っているからといって、必ずしもベーチェット病であるというわけではありません。
環境要因
ベーチェット病は、トルコやイタリアなどをはじめとする地中海沿岸諸国から、日本や中国などを含む東アジアといったシルクロード辺縁諸国に多発することが知られています。
しかし、遺伝的要因ですべてが説明できるわけではありません。これを裏付ける次のような事象が報告されています。
ベーチェット病の多発地帯であるトルコからのドイツへの移民の発症率は、ドイツ人より高頻度ですが、トルコにずっと定住している人と比べると少ないです2) 。これは疾患発症に遺伝、環境の双方が関与していることを示唆。
このことから、これらの地域に共通して存在するウイルスや細菌、農薬などの外来抗原、あるいは天候など環境ストレス因子なども免疫機能を介して、ベーチェット病の発症に影響を与えているのではと考えられています。
口腔内の細菌がベーチェット病に関連するとの研究もあり、毎日の歯磨きと定期的な歯科検診が大切です。また、タバコもベーチェット病の発症・増悪と関係するという報告もあり、禁煙もおすすめします。
一般的な話ですが、身体的・精神的ストレスや気候の変化が増悪のきっかけになることもあるため、ストレスを貯めずに規則正しい生活を送ることも重要です。
病型分類4つ
ベーチェット病には4つの主な症状が知られています。
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
- 皮膚の症状
- 眼病変
- 陰部の潰瘍
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
口唇、頬、舌、歯肉などの口腔粘膜に潰瘍が出現します。自覚症状としては、口内炎と捉えられることもあります。ほとんどのベーチェット病患者でみられ、その割合は96-100%と言われています1) 。
口内炎は誰しもできるものですが、再発を繰り返すことが特徴と言われています。
皮膚の症状
皮膚の症状も頻度が高く73-94%と言われています1) 。特徴的な皮膚の症状としては、腕や足に結節性紅斑という、皮膚の下にしこりのある赤く腫れ、痛みを伴った発疹、です。
また、足の静脈に血のかたまり(血栓)ができ炎症がおきる、表在性血管性静脈炎がみられるたり、顔、首、背中などには、痤瘡様皮疹といって“にきび”に似た皮疹が出ることも。
皮膚は過敏になり、かみそりまけを起こしやすかったり、採血などで針を刺したあとに赤くなったり腫れたりすることがあります(針反応と呼ばれています)。
眼病変
眼の病変は47-75%程度で認められ、ベーチェット病で最も重要な症状のひとつです1) 。多くの場合、両眼ともにみられます。症状が長く続き、繰り返すことでいずれ失明する可能性もあるため、十分に注意が必要です。
陰部の潰瘍
陰部の潰瘍、72-79%程度に認められます。男性では陰嚢、陰茎、女性では大小陰唇に、痛みを伴う潰瘍がみられます。女性の場合は、性周期に合わせて悪くなることが。見た目は口腔アフタ性潰瘍に似ていますが、治っても痕になることがあります。
以上の4つが主な症状ですが、この他に特徴的なもの(副症状と呼ばれます)として、関節が腫れて痛みを生じることや、男性の場合は睾丸に炎症をきたす副睾丸炎がみられることがあります。
副症状 特殊型
副症状の中で、臓器に障害を与え、重篤な症状をきたすおそれのあるものは特殊型と呼ばれていて、下記の3つが知られています。
- 腸管型
- 血管型
- 神経型
腸管型
頻度は3-25%程度です1) 。食道から大腸に至るまでの消化器に潰瘍を生じ、腹痛や下痢、下血がみられます。消化器のあちらこちらに潰瘍を生じ、再発を繰り返すことが特徴です。
潰瘍が深くなると消化管出血を起こすこともあり、腸管穿孔(腸管に穴が空いてしまうこと)を起こした場合には緊急手術が必要になります。
血管型
頻度は7-38%程度です1) 。太い血管に炎症がおき、血管が狭くなり、詰まったり(閉塞、血栓)、弱くなって膨れたり(動脈瘤)します。重要な血管が損傷されると生命にかかわる状態となりうるため、炎症を抑え血管病変を悪化させない治療が重要です。
神経型
頻度は8-20%程度です1) 。急性に起こる場合や慢性に起こる場合もあり、頭痛や、脳梗塞のような麻痺症状など、多彩な症状があります。
ベーチェット病の治療について
ベーチェット病は、上記のようにさまざまな症状がある疾患です。そのため、すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではありません。使用されるお薬は同じものもありますが、個々の患者さんの病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要があります。
以下には簡単にそれぞれの治療を記載していますが、この他にもいろいろな治療がありますので、医療機関でよく相談するようにしましょう。
皮膚の症状、口内炎、関節症状
ステロイドの塗り薬や「コルヒチン」という薬が基本的な治療になります。さらに、口内炎には「アプレミラスト」というお薬が最近用いられるようになりました。
目の症状
ステロイドの点眼薬や眼の注射による治療を行うことがあります。ステロイドの全身投与を行うことも。その他にも「コルヒチン」や免疫抑制剤を使用することもあります。
これらの治療でも効果がない場合には、TNF阻害剤と呼ばれる注射薬「インフリキシマブ」「アダリムマブ」を使用。
血管・腸管・神経の病変
ステロイドの全身投与を行うことがあります。その他、免疫抑制剤やTNF阻害剤を使用することも。使用量は、その病気の程度によりさまざまです。血管に血栓ができる場合には、抗血栓薬(血液サラサラの薬)を使うこともあります。
ベーチェット病の予後について
眼の症状や特殊病型を除けば、慢性的に症状を繰り返しますが、命にかかわることは少ないと言われています。
眼の症状では、上述しましたが失明が問題になりますが、治療が進歩してきたこともあり、最近は失明まで至る方は多くありません。
医療機関で適切な治療を受けることで、病気とうまく付き合っていくことが可能な疾患です。
まとめ
ベーチェット病とは、さまざまな症状をきたす全身性の病気です。特定の検査で診断できる疾患ではなく、症状により診断されます。
ベーチェット病の原因はまだ明らかになってはいませんが、遺伝的な要因、環境的な要因の両方が関連していると言われています。
多彩な症状を来しますが、特に口内炎(口腔潰瘍)など、よく認められる症状が知られています。いくつか思い当たる症状があれば、是非一度医療機関を受診いただくことをおすすめします。
参考文献
1) リウマチ病学テキスト. 第2版. 日本リウマチ財団. 診断と治療社. 2016年.
2) 難病情報センター. ベーチェット病. https://www.nanbyou.or.jp/entry/187