皮膚の病気

うっ滞性皮膚炎とは?下肢静脈瘤が原因となることがほとんど

うっ滞性皮膚炎(慢性的変化)
藤井 麻美

うっ滞性皮膚炎とは、長年の立ち仕事や肥満などで静脈の戻りが悪くなり、すねの下のほうが硬く黒ずんで、かゆみのある湿疹が出る症状です。

これからうっ滞性皮膚炎の症状や原因、治療方法などについて説明していきます。

うっ滞性皮膚炎自体は、それほど重篤な病気ではありませんが、放置すると進行しやがて小さな傷から潰瘍を作ることも。もし、思い当たる症状があれば皮膚科医師の診察を受けることをお勧めします。

うっ滞性皮膚炎とは

うっ滞性皮膚炎(stasis dermatitis)は、慢性的な静脈還流障害(うっ滞)によって生じる湿疹・皮膚炎をさします。

下腿(かたい:すね)の内側、下側1/3くらいまでの部位に好発し、還流障害が長期間にわたると、病気は徐々に進行して皮膚の深部、皮下脂肪織までダメージをうけるように。

皮下脂肪織までいくと、うっ滞性脂肪織炎(あるいは硬化性脂肪織炎)と呼ばれ、ちょっとした傷で潰瘍を形成(うっ滞性皮膚潰瘍)。下腿にできる潰瘍の約80%は静脈のうっ滞があると言われています。また、下腿にできた潰瘍は難治になることが多いです。

うっ滞性皮膚炎は中高年の女性に多く、遺伝性があります。立ち仕事(販売員、調理師、理美容師など)をしている男性にもよく見られます。私が担当していた男性の患者さんでは、料理人とホテルマンの人が多かったです。

妊婦さんや出産経験のある女性、便秘の方にもよく見られます。男女ともに肥満があるとこの病気になるリスクが高くなり、ダイエットのみで症状がよくなる人も。

うっ滞性皮膚炎の症状

うっ滞性皮膚炎では下腿の下1/3、とくに内側のくるぶしのやや上あたりに症状がでます。はじめは腫れぼったく赤くなり(浮腫性紅斑)、次第に茶色く表面に粉を吹いたようになり、やがて色素沈着。

かゆみがあり、掻いてしまってジュクジュクしている人(湿潤性紅斑)となっている人も多いです。慢性化すると逆に部分的色が抜けて白くなって萎縮(atrophie blanche)し、脂肪織炎になると脂肪が変性するため皮膚硬化(硬化性脂肪織炎 sclerosing panniculitis)となります。

うっ滞性皮膚炎(慢性的変化)
引用元:MSD マニュアル

うっ滞性皮膚潰瘍とは

うっ滞性皮膚炎が進行すると、皮下脂肪織まで炎症がおよび硬化性脂肪織となり、軽微な外傷(ちょっとした掻き傷など)から難治性の潰瘍を形成。これをうっ滞性皮膚潰瘍と言います。

どの病院の皮膚科外来にも、このなかなか治らない潰瘍で長く通院されている方がいらっしゃいます。潰瘍になるほど進行した場合は、そのベースに静脈還流障害があることがほとんどです。

そしてこの静脈還流障害は下肢静脈瘤があることが多いです(下肢静脈瘤については、別に項をもうけて説明)。下肢静脈瘤が基礎にあり、うっ滞性皮膚炎、うっ滞性皮膚潰瘍などの症状を呈するものをまとめて慢性静脈不全(chronic venous insufficiency: CVI)と呼んでいます。

うっ滞性皮膚炎(潰瘍)
引用元:MSD マニュアル

うっ滞性皮膚炎の原因

うっ滞性皮膚炎の原因は静脈還流障害(うっ滞)です。静脈還流障害(うっ滞)は静脈の流れが滞ることを指し、立ち仕事や肥満、下肢静脈瘤、妊娠などによって起こります

静脈のうっ滞が起こると、静脈内の圧が上がり毛細血管から出血しやすくなり、それにより紫斑(しはん:内出血のこと)ができる、あるいは色素沈着が起こることも。

また、静脈内の圧があがると動脈からの流れも悪くなり、組織にスムーズに酸素を供給できなくなるため、皮膚の角化細胞がダメージをうけて皮膚萎縮や皮膚バリア機能の低下につながるのです。

バリア機能が破壊された皮膚では、外来刺激に対して反応しやすくなり、小さな刺激で皮膚炎を起こし、湿疹病変を作ってしまうと考えられています。バリア機能低下→接触皮膚炎から自家感作性皮膚炎にも。

下肢静脈瘤とは?

肺で取り込んだ酸素を体のすみずみに行きわたらせる血管が動脈、一方で体のすみずみから心臓に帰っていく血管を静脈といいます。下肢静脈瘤は、脚の静脈が太くなって瘤(こぶ)状にボコボコ膨らんだ状態になる病気。

人は立って生活しており、脚の静脈に一番負担がかかるため、静脈瘤は下肢にできやすいです。脚の静脈の中の血液が心臓に戻るには、重力に逆らって血液を押し上げることが必要になります。

脚は第二の心臓と言われており、歩くことによりふくらはぎの筋肉が収縮し、血液を心臓に送るポンプの役割を。また、静脈の中には弁がついており、血液が逆流しないような仕組みになっています。

長期間立ちっぱなしで、筋肉のポンプ作用が働かなかったり、弁の機能が悪くなったりすると、静脈内に血液がたまり流れが滞り(静脈還流障害)、静脈内に血液がたまると静脈内の圧が高くなるのです。

静脈の壁は動脈よりも弱く、やわらかいため、血管の壁に力がかかり続けると、血管が伸びたり、曲がったり、膨らんで瘤を作ります。これを下肢静脈瘤といいます。

下肢の静脈には『表在静脈』、『深部静脈』、『穿通枝』( 穿通枝は深部静脈と表在静脈をつなぐ血管 )の3種類あり、下肢静脈瘤ができるのはおもに『表在静脈』。表在静脈は皮膚の下を流れる体表付近の静脈であり、深部静脈は筋肉の間やそれより深い部分の静脈です。

”脚は第二の心臓”のポンプの役割はこの深部静脈によって担われています。またこの深部静脈に血栓ができると、肺塞栓などを起こし、致命的になることも

詳しくは血栓性静脈炎とDVTのページをご覧ください。

下肢静脈瘤の症状 

下肢静脈瘤では下肢に静脈が透けてみえる、あるいはぼこぼこした瘤がみられます。

下肢静脈瘤はおもに4つのタイプに分類。

網目状静脈瘤皮膚のすぐ下にある小さな静脈(直径2~3㎜以下)が網目状にひろがって青く見えます。太ももや膝裏によくみられます。
くもの巣状静脈瘤網目状静脈瘤よりさらに細い、直径0.1~1㎜以下の情にゃくが皮膚直下で拡張したものです。日本では静脈瘤のひとつに分類されていますが、瘤ができているわけでなく、厳密には毛細血管拡張症になります。
側枝型静脈瘤伏在静脈(表在静脈の一番太い物)から枝分かれした側枝静脈に瘤ができるものをいいます。膝より下の部分に比較的多いです。側枝型静脈瘤がある場合は、本幹(伏在静脈)にも静脈瘤があることも多いとされています
伏在型静脈瘤表在静脈には、太ももから膝の内側にかけて走る『大伏在静脈』、ふくらはぎの後ろを走る『小状在静脈』があります。これらの伏在静脈が拡張したり、弁が機能しなくなったり、瘤ができるものを伏在型静脈瘤といいます。大伏在静脈の下肢静脈瘤の患者が最も多く、膝の裏側に症状が出ます。

一般に症状があり、外科的な治療などが必要になるのは伏在型静脈瘤です。他の3つのタイプは軽症で、外見上の問題のみとなることが多いです。

外見以外の症状としては、

  • 脚がだるい・重たい
    夕方になるとうっ滞の症状が悪化するため、症状が強くなることが多いです。
  • むくみ 
    これも夕方になると症状が強くなります。
  • こむらがえり
    夜間に脚がつることが多くなります。
  • かゆみ・湿疹・色素沈着・潰瘍 
    今回説明しているうっ滞性皮膚炎、うっ滞性皮膚潰瘍の症状です。

下肢静脈瘤の検査・治療

下肢静脈瘤の診断は、医師の問診、視診や触診(下肢静脈瘤の場所や膨らみ具合、むくみや硬化、圧痛、色素沈着がないかなど)に加えて、エコー検査(超音波検査)が必須です。

余談ですが私が皮膚科の研修医になったころ、私がいた病院では皮膚科で下肢静脈瘤の診察、手術、レーザー治療を行っていました。当時大阪大学では、皮膚科も形成外科も下肢静脈瘤を診療。

結婚して大阪を離れ、皮膚科が下肢静脈瘤を診ることは全国的にみると稀なケースだとはじめて知りました。一般的に下肢静脈瘤は血管外科にお願いすることが多いようです。

今のクリニックでは、エコー検査もやっておらず、ストリッピング手術やレーザー治療の設備もありません。下肢静脈瘤と診断して治療が必要と思われる場合は血管外科にご紹介することになりますが、少し残念な気持ちです。

下肢静脈瘤で治療が必要な場合は、

  • 皮膚炎、皮膚潰瘍がある(うっ滞性皮膚炎とうっ滞性皮膚潰瘍)
  • むくみやだるさ、足のつるなどの症状があり辛い
  • 外見が気になる

以上の3つです。

何科にかかればいいか迷った場合は、血管外科を受診してください。最近は下肢静脈瘤専門のクリニックもたくさんあるようです。

治療法特徴
保存的治療弾性ストッキングにより脚全体を程よい強さで圧迫し、ふくらはぎのポンプ作用を補助し、静脈のうっ滞を予防するものです。静脈瘤の進行を防ぎます。根治治療にはなりませんが、下肢静脈瘤がある人には基本的にすべて患者さんに着用をお勧めしています。
硬化療法静脈に薬剤(硬化剤)を注入し、静脈瘤をつぶしてしまう治療法です。血液が流れなくなった血管は徐々に縮小し、静脈瘤も消えていきます。外来で治療可能で、体への負担も少ないですが、大きな病変には十分な効果が期待できません。
手術療法(高位結紮術、ストリッピング術)手術には血管をしばる『高位結紮術』と、弁が壊れた静脈を引き抜く『ストリッピング手術』があります。高位結紮術では脚の付け根で血管を結紮(けっさつ;しばること)して、静脈血が逆流するのを防ぎます。一方、ストリッピング手術では、脚の付け根と膝の内側を数cm切開し、病変のある静脈にストリッパーという器具を挿入して縛り付け、器具ごと静脈を抜き取ります。大きな静脈瘤を根本的に治療することができます。腰椎麻酔や全身麻酔が必要であり、入院で行う施設が多いようです。この後説明する、血管内治療より術後の痛みや出血などのリスクがあります。
血管内治療(レーザー焼灼術など)病変のある血管内にカテーテルを通し、レーザー光線や高周波(ラジオ波)などによって血管を内側から焼いてつぶす治療法です。ストリッピング術よりも小さな傷で治療でき、体に対する侵襲が少ないとされています。日帰りで行っている施設も増えてきています。
外来で行っているクリニックも増えてきています。

家庭でできる下肢静脈瘤対策 

下肢静脈瘤では、できるだけ脚に血液をためないようにすることが大切です。適度な運動、バランスのとれた食事、休憩時には脚をあげるなど、日常の生活でもできることがあるのでいくつかご紹介します。

  • 食事:下肢静脈瘤の原因のひとつに肥満があります。肥満を予防するために、バランスのとれた食事を心がけてください。
  • デスクワークの人:1時間に1回はつま先を上げ下げする運動を意識的に行いましょう。最近はアップルウオッチなどのスマートウオッチは、1時間座りっぱなしだと体を動かしましょうとアラームしてくれるものが。非常に便利ですね。
  • 立ち仕事の人:1~2時間を目安に、脚を上げて休憩をとるようにしましょう。
  • 家に帰ってからのケア: 脚のむくみを改善する運動やマッサージを。
    具体的には、
    ①両脚を上げてブラブラさせる
    ②ふくらはぎあたりを、心臓方向にさするようにマッサージする
    ③寝るときは、枕や布団を膝の下まで入れ、足を心臓の高さ以上にするなどがお勧め
  • 歩く習慣をもつ:すでに静脈瘤がある方は、運動して筋肉を鍛えることが必要です。
弾性ストッキング
引用元:ALCARE

うっ滞性皮膚炎の治療

うっ滞性皮膚炎は静脈還流障害によって起こります。つまり、先ほど下肢静脈瘤のところで説明したのと同じように、できるだけ脚に血液をためないようにすることが治療に。

弾性ストッキングによる圧迫療法や、下肢の挙上、長時間のたちっぱなしや座りっぱなしを避ける、肥満を軽減する、などがあります。

湿疹や皮膚炎に対しては、炎症の程度に見合ったステロイド外用剤の使用、また表面がじゅくじゅくしている場合は、亜鉛華軟膏を併用。多少じゅくじゅくしていても、明らかに細菌感染がある場合以外は抗菌薬の外用はしないほうがよいとされています。

うっ滞性皮膚炎やうっ滞性皮膚潰瘍ではバリア機能が破壊されているため、経皮感作を起こしやすく接触皮膚炎になることがあるためです。

潰瘍になっている場合も、感染の有無や表面の状態、浸出液の量などに応じて細かく皮膚潰瘍治療薬を変更していく必要があります。

また、弾性ストッキングは、着用するタイミングも大切です。患者さんには、『お布団に寝ているとき以外はずっとつけるように』と説明。弾性ストッキングはむくむ前(起床時)に着用し、就寝時(お風呂に入るときでもよい)に外してもらいます。

弾性ストッキングは履くときに力がいるため、手の力が弱い人には台所用のゴム手袋を使う、あるいは補助具を使用するとよいでしょう。

また履いたあとは、ずれやしわがないかよく確認してください。ずれやしわがあると、摩擦の刺激によりかえって皮膚炎が悪くなることがあるからです。

もし、静脈だけでなく動脈に病気(末梢動脈閉塞性疾患)がある場合は、弾性ストッキングによる圧迫で血流障害を起こすため、弾性ストッキングの使用ができないこともあります。

うっ滞性皮膚炎やうっ滞性皮膚潰瘍のベースに下肢静脈瘤がある場合は、まずはその治療を行います。

潰瘍治療には植皮手術を行うことも

潰瘍は大きい場合は植皮手術を行うことがあります。植皮手術を行う場合は入院が必要に。太ももやお尻などから元気な皮膚を薄く剥いて、潰瘍のところに縫い付け圧迫すると、約2週間で生着します。

皮膚科では、腫瘍を切除したときに皮膚の欠損が大きく、縫い寄せることができない場合によく行われる手術です。

ただし、植皮手術は静脈還流障害が治療によりある程度改善していないと植皮しても皮膚は生着しないため、手術適応の見極めが大切になります。

まとめ

うっ滞性皮膚炎とその原因となる静脈還流障害、下肢静脈瘤などについて説明してきました。二足歩行をする私たちは、誰でもこの病気になりえることを頭の片隅に置いていただき、日常生活に予防対策を取り入れることをお勧めします。

私自身も、妊娠中と手術日(立ちっぱなし)は必ず弾性ストッキングを履いており、今回この記事を書いて、改めて自分も生活習慣を見直そうと思いました。

参考文献

日本皮膚科学会ガイドライン 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン

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