じんましん様血管炎とはどんな病気?
蕁麻疹(じんましん)はありふれた病気で、実際にじんましんにかかった人は多いかと思います。
それでは、「じんましん様血管炎」という病気は、聞いたことはありますか?名前からすると、じんましんと同じような病気というイメージを持つかもしれません。
蕁麻疹様血管炎は、じんましんと名前だけでなく皮膚の見た目も似ているため、自分自身で区別するのが難しい場合があります。
しかし、蕁麻疹様血管炎とじんましんは発症原因や治療方法が異なる病気であり、蕁麻疹様血管炎には何らかの病気が隠れていることがあります。このため、早期診断が大切です。
今回は、じんましんと似ているようで似ていない病気であるじんましん様血管炎について解説します。
病気の概要
じんましん様血管炎の話をする前に、じんましんについて軽くお話します。
一般的なじんましんは、膨疹(ぼうしん)と呼ばれる皮膚の一部が赤く盛り上がる発疹が出現し、ほとんど24時間以内に消退し、跡を残さないのが特徴です。皮膚の赤みやかゆみを伴うことが多いとされています。
それでは、じんましん様血管炎はどのような病気でしょうか。じんましん様血管炎は、皮膚の所見ではじんましんのような発疹が見られますが、24時間以上続けて見られ、病変を顕微鏡でみると血管に炎症所見が見られます。
ちなみに、じんましんには血管炎の所見はありません。
原因
じんましん様血管炎は、明らかな原因が特定されない「一次性(原発性)」が多いとされていますが、何らかの基礎疾患や原因により発症する二次性(続発性)も一定の割合で存在。
※一次性(原発性)は教科書などにより特発性と記載されているものもあります。
一次性
じんましん様血管炎の多くは、原因のはっきりしない原発性です1)が、治療に対する反応もよく、予後は良好なことが多いとされています。
感染症
感染症がきっかけとなるじんましん様血管炎は、全体の12.5%前後2)。上気道感染や尿路感染症によって生じることがありますが、その他の感染症でも起こります。
薬剤
他の病気で治療に用いる薬によって、じんましん様血管炎が生じることもあります。薬剤によるじんましん様血管炎は、7.8-18.5%にみられます2, 3) 。
意外に思うかもしれませんが、原因となる薬剤は、解熱鎮痛剤としてよく使用される非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDsと呼ばれます)です。
薬剤によるじんましん様血管炎は、薬剤使用後3-10日後に認め、薬剤を中止すると1か月くらいで改善することが多いとされています。
自己免疫疾患
自己免疫疾患とは、本来ウイルスや細菌などの異物を排除するためのシステムである免疫系が正常に機能せず、免疫系が自分の組織を攻撃してしまう病気のことです。
自己免疫疾患は、じんましん様血管炎のうち10%前後といわれ、具体的な病気として具体的な病気として全身性エリテマトーデスが最も多いですが4)、シェーグレン症候群なども報告されています。
全身性エリテマトーデス:全身のさまざまな臓器に炎症や障害を起こす自己免疫疾患です。特に関節、皮膚、腎臓、神経などを中心に症状が現れます。原因ははっきりしておらず、20-40歳代の女性に多く認められるのが特徴です。
シェーグレン症候群:涙や唾液を作っている臓器などに炎症や障害を起こす自己免疫疾患。全身性エリテマトーデスと同じく、原因ははっきりしておらず、40-60歳代の女性に多く認められます。
特に、皮膚以外の症状を認める場合は、他の病気が隠れてしないかしっかり検査をしていくことが重要です。
悪性腫瘍
悪性腫瘍は、いわゆるがんです。じんましん様血管炎の5-7%とされています2, 4) 。じんましん様血管炎の原因となる悪性腫瘍は、特定の臓器の腫瘍が多いというわけではなく、さまざまな悪性腫瘍で生じます。
このように、じんましん様血管炎には多くの原因があります。特に、皮膚以外の症状を認めるケースでは、何らかの病気が隠れていないか調べていく必要があります。
分類
じんましん様血管炎の分類は、上記の説明のように、原因の判明しない「一次性(原発性)じんましん様血管炎」と原因の存在する「二次性(続発性)じんましん様血管炎」に分けられます。
また、じんましん様血管炎で行われる検査の一項目である補体の数値が正常な「正補体血症性じんましん様血管炎」と、補体が低下する「低補体血症性じんましん様血管炎」に分類されることもあります。
※補体:体に侵入した病原微生物などの異物を排除するための、免疫反応に関わるタンパク質。体の中で免疫反応が起こると、補体が消費されて血液の中の補体の数値が低下することが。補体が低下する代表的な病気は、全身性エリテマトーデスです。
症状
じんましん様血管炎の症状は、大きく分けて「皮膚症状」と「全身症状」の2つです。多くの場合、一次性じんましん様血管炎では皮膚症状のみ、二次性じんましん様血管炎では皮膚症状に加えて全身症状も認めます。
特に、低補体血症性じんましん様血管炎では、重篤な全身症状をきたしやすいので注意が必要です。
皮膚症状
見た目は通常のじんましんの皮疹と似ており、赤く盛り上がった膨疹のような発疹を認めます。この点が、じんましんとじんましん様血管炎を区別するのを難しくさせています。
それでは、じんましん様血管炎は通常のじんましんと違いはあるのでしょうか。以下にじんましんとじんましん様血管炎の違いを簡単に記載しました。
じんましん様血管炎 | じんましん | |
発疹の持続時間 | 24時間以上持続 | 24時間以内に一度は改善 |
痒み痛み | 痒みだけでなく痛みも伴う | 痒みはあるが痛みは少ない |
改善後の皮膚症状 | 色素沈着を残す | 跡は残らない |
膨疹以外の皮疹 | 紫斑を認めることが | 認めない |
※紫斑:皮疹の色が紫紅色、あるいは暗紫褐色のもので、皮膚内の出血を意味します。皮膚を圧迫しても色が消退しないのが特徴です。
じんましんだろうと考えていても、じんましん様血管炎に該当する症状があれば、本当にじんましなのか一度皮膚科を受診するようにしましょう。
全身症状
じんましん様血管炎で見られる全身症状は以下の通りとなります。
- 発熱
- 倦怠感
- 倦怠感
- 消化器症状(嘔吐、腹痛)
- 肺病変
- 腎病変
じんましんのような発疹に加えて、上記の症状があればじんましん様血管炎が疑われます。
検査
じんましん様血管炎が疑われる時、どのような検査をしてどのような結果があるのでしょうか。通常行われるのは、血液検査と病理組織学的検査。病理組織学的検査とは病変の一部を薄く採取して顕微鏡で観察する検査です。
血液検査
じんましん様血管炎は、その名の通り、血管の炎症によって生じる病気です。血管炎での血液検査所見では、白血球やCRPといった炎症を反映する項目の数値が上昇します。また、低補体血症性じんましん様血管炎では補体の数値が低下。
その他に、じんましん様血管炎の原因が全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患や悪性疾患などの場合、その病気特有の数値が変化することが。代表的なものとして自己免疫疾患では抗核抗体などが上昇します。
※抗核抗体:自分の細胞内にある成分に対する抗体。通常、自分は異物とは認識されないので抗体は産生されませが、自己免疫疾患などでは自分を異物と認識してしまい、自身の体を免疫が攻撃。そのため、自己免疫疾患では抗核抗体が上昇していることがあります。
病理組織学的検査
血管炎を証明するのに非常に有用な検査です。皮膚の真皮に存在する小血管に、血管炎で見られる核が破壊された白血球やリンパ球が集まっていることが確認されます。
さらに、赤血球が血管の外に漏れ出ている所見がみられることも(これが皮膚の紫斑としてみられます)。
もし、血管炎が軽度の場合、所見がはっきりしないことがあり、蛍光色素を使って観察することもあります(蛍光抗体直接法)。
治療
通常のじんましんとして抗ヒスタミン薬が用いられることがありますが、改善する例はほとんどなく、副腎皮質ステロイドホルモン剤を使用することが必要です5)。
全身症状が強い場合や、自己免疫疾患が基礎疾患として存在する場合は、免疫抑制剤を併用することもあります。
ポイントとして、じんましん様血管炎は通常のじんましんの治療とは異なるということに注意してください。
じんましん様血管炎の予後
分類の章で触れましたが、じんましん様血管炎は補体の数値により、「正補体血症性じんましん様血管炎」と「低補体血症性じんましん様血管炎」に区分。
正補体血症性と低補体血症性では予後が大きく異なります。正補体血症性じんましん様血管炎は、予後が良好です。仮に治療に難渋しても時間経過とともに改善し、皮膚以外の臓器の病変はないことがほとんど。
一方、低補体血症性じんましん様血管炎は、皮膚以外に肺や腎臓の病変を伴い、基礎疾患が存在することが多いです。そのため、早期から強力な治療を行い、治療終了後も定期的な経過観察が必要となります。
まとめ
今回は、じんましん様血管炎についてお話しました。じんましん様血管炎は、一見するとじんましんと同じような発疹であり、「治りにくいじんましん」として様子をみられていることも多い病気です。
しかし、じんましん様血管炎は原因や治療がじんましんとは大きく異なるため、早期診断・早期治療が大切。
しつこいじんましんがあったり、じんましん以外の皮膚症状、全身症状を認めた時は「おそらくじんましんだろう」と自己判断せず、皮膚科を受診することをおすすめします。
そうはいっても、じんましん様血管炎はなかなか理解しにくく、インターネットで調べても患者さん向けの情報は少ないので理解するのは大変です。今回の記事が皆さんの理解に少しでもお役に立てばと思います。
参考文献
1) Dincy CVP, et al. Clinicopathologic profile of normocomplementemic and hypocomplementemic urticarial vasculitis: a study from South India. J Eur Acad Dermatol Venereol 22(7):789-794, 2008. doi: 10.1111/j.1468-3083.2007.02641.x.Epub 2008 Mar 7.
2) Kulthanan K, et al.Urticarial vasculitis: etiologies and clinical course. Asian Pac J Allergy Immunol 27(2-3):95-102, 2009.
3) Calvo-Río V, et al. Henoch-Schönlein purpura in northern Spain: clinical spectrum of the disease in 417 patients from a single center. Medicine (Baltimore) 93(2):106-113, 2014. doi: 10.1097/MD.0000000000000019.
4) Kolkhir P, et al. Treatment of urticarial vasculitis: A systematic review. J Allergy Clin Immunol 143(2): 458-466, 2019. doi: 10.1016/j.jaci.2018.09.007.Epub 2018 Sep 27.
5) 新井達. 蕁麻疹様血管炎-当科12 例の経験も加えて-. 皮膚科診療 42(6):464-469, 2020.