皮膚の病気

強いかゆみを特徴とする痒疹(ようしん)とは?原因や病院での治療について

痒疹背中
藤井 麻美

痒疹(ようしん)とは痒疹丘疹(ようしんきゅうしん)と呼ばれるかゆみの強いぶつぶつ(丘疹)が皮膚に孤立性に広がってみられる病気です。一般的な湿疹とは少し性質の異なる皮膚炎であり、原因や治療法もまだよくわかっていません。

強いかゆみを引き起こし、なかなか治らないことも多いため密かに悩んでいる患者さんもいらっしゃると思います。痒疹のタイプや原因、治療法など現時点でわかっていることをわかりやすくまとめました

痒疹(ようしん)とは

痒疹(ようしん:prurigo)とは、非常にかゆい丘疹(きゅうしん:ぽつぽつした皮膚のもりあがり)や結節(丘疹よりも少し大きいもの)が皮膚にパラパラと散らばってできる病気です。

通常の湿疹とは違い、皮疹どうしがつながらないことが特徴。すねやお腹まわりだけにできるもの、体中にできるもの、発症しても1か月以内に治るものから、長く続く慢性のものまでさまざまなタイプがあります。

痒疹の原因

痒疹の原因は、今のところはっきりわかっていません

虫刺されや、アトピー性皮膚炎などの皮膚の病気、飲んでいるお薬、金属などのアレルギー、妊娠、慢性扁桃炎などの感染症(病巣感染)、心因性のものなどが原因と考えられていますが、この病気を発症する患者さんでは原因がはっきりわからない方も多くいらっしゃいます。

何らかの原因が皮膚に刺激を与え、その刺激に対して皮膚が炎症を起こしていると推測されているものの、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。

また、痒疹は悪性リンパ腫や白血病などの血液の病気、腎臓病、肝臓病、糖尿病の患者さんにもみられます。ただし、これらの病気がある患者さん全てに痒疹ができるわけではなく、因果関係はまだ不明です。

痒疹は症状によって、『痒疹』『多形慢性痒疹』『結節性痒疹』の3つに大きく分類されますが、妊娠に伴うものや先にあげた3つのタイプ以外のものもみられます。

血液検査では、白血球全体の数の異常はなくても、軽度好酸球が上昇していることが。血中の好酸球値はアレルギー疾患全般(薬剤アレルギー、喘息、アトピー性皮膚炎など)で上昇します。

また、もうひとつのアレルギー疾患の指標である血清IgE値は、痒疹では正常あるいは軽度上昇。IgE値が大きく上昇している場合は、アトピー性皮膚炎の痒疹型である可能性もあります。

アトピー性皮膚炎の痒疹型では、通常の痒疹の治療に加えてスキンケアをしっかり行うことも重要です。

またかゆみが特に強い場合や、皮疹が広範囲に及ぶ場合、治療に抵抗性がある場合、極めて難治で慢性に経過する場合は、『デルマドローム』の可能性を考え、全身検索を行うこともあります。

昔から「皮膚は内臓の鏡」といわれ、皮膚が内臓の変化のサインとなることが。このように、「皮膚病変と内部臓器の異常が、何らかの関連を有し、両病変が共存する疾患または症候群」を「デルマドローム」といいます。

内分泌疾患、代謝異常症、腎障害、肝・胆道系疾患、血液疾患、内臓悪性腫瘍(がん)などの全身性疾患を想定。くわしく問診を行い、これらの基礎疾患に応じた血液検査、画像検査などを行います。

妊娠前期~中期に現れる妊娠性痒疹はよく知られており、後に説明を入れていますが、排卵誘発剤やホルモン補充療法、男性におけるアンドロゲン欠乏症の際にも痒疹が生じることが。

また内分泌疾患では、痛風や糖尿病患者にも痒疹がしばしば発生。血液疾患では、Hodgkin病、リンパ腫、多血症で痒疹が生じることがあるため、血液検査を行います。

しかし、痒疹は中高年に好発する疾患であるため、痒疹の症状の程度が軽い場合には、仮にこれらの全身性疾患があったとしても、痒疹と関連があるのか(痒疹がデルマドロームとして出現しているか否か)の判断は難しいことが多いです。

痒疹の症状

痒疹では、強いかゆみのある赤いぶつぶつ(丘疹:きゅうしん)やしこり(結節:けっせつ、丘疹よりも少し大きいもの)がパラパラと散らばって皮膚にでてきます。

通常の湿疹は、かゆみで掻いてしまうと、赤いぶつぶつ同士がつながって大きな病変になり、その病変内にカサカサやじゅくじゅく、かさぶたなどさまざまなタイプの皮膚炎が混在するのが一般的です(これを湿疹三角といいます)。

一方痒疹では、ほとんどの場合は、一個一個の皮疹は孤立して存在し、病変はつながることはないのが特徴。ただし、高齢者によくみられる多形慢性痒疹(たけいまんせいようしん)では一部の皮膚炎がつながることや、さまざまなタイプの皮疹が混在することもあります。

多形慢性痒疹

多形慢性痒疹(たけいまんせいようしん)は、高齢者の側腹部や臀部、大腿の外側に好発する痒疹です。腰回りや下半身以外では、前胸部や肩甲骨の周囲などにもみられます。

痒みの強い蕁麻疹(じんましん)のような赤いぶよぶよした皮疹(浮腫性紅斑:ふしゅせいこうはん)ではじまり、時間が経つにつれ浮腫性紅斑だけでなく茶色の硬いぶつぶつ(充実性丘疹:じゅうじつせいきゅうしん) も。

さらに、湿疹のようなカサカサやじゅくじゅく、かさぶたなどが混ざった赤い皮疹などさまざまなタイプの皮疹が混在した病変となります。

蕁麻疹の浮腫性紅斑は数時間から1日で消失しますが、多形慢性痒疹の皮疹は短時間で消失せず、治るまで数週間続くことも。また掻くことによって、周囲に赤い部分がひろがっていくこともあります。

この病気は30代など若い患者さんはほとんどみられないため、加齢が影響していると思われますが、どうして発症するかはわかっていません。

結節性痒疹

結節性痒疹では、うでや脚に1㎝くらいのくすんだ茶色く硬いぶつぶつ(結節:けっせつ)がみられ、強いかゆみを伴います。多形慢性痒疹は高齢者に起こる病気ですが、結節性痒疹は中年以降の女性に多いとされています。

虫刺されのようなぶつぶつ(丘疹:きゅうしん)ではじまり、強いかゆみのため掻き破り、ぶつぶつの表面がじゅくじゅくしてきたり(びらん)、かさぶた(痂疲:かひ)になりますが、多形慢性痒疹とは異なり皮疹どうしはつながらず、孤立して存在するのが特徴です。

結節性痒疹も、多形慢性痒疹と同じく、症状が長引くことが多いです。

痒疹

日本皮膚科学会が出している『痒疹診療ガイドライン2020』によれば、多形慢性痒疹、結節性痒疹いずれにも該当しないものを痒疹(ようしん)と呼ぶとされています。

皮膚科の教科書にも、『痒疹は疾患単位としての定義、分類のあり方など議論の余地が多い』(皮膚科学 金芳堂 第10版 大塚 藤男他より)と記載。

かゆみのある皮疹で、湿疹とは異なる見た目(皮疹がバラバラに存在するなど)を持ち、かつ多形慢性痒疹でも結節性痒疹でもないものを便宜上、痒疹と呼んでいます。痒疹自体、なぜできるのか、どうすれば完治するのか、よくわかっていません。

そのため、私たち皮膚科医は患者さんごとに試行錯誤し、治療を行っています。痒疹はそれ自体で命に別状がある病気でなくても、患者さんはその強いかゆみのため、日常生活に支障が出ることも。

そのため、日本皮膚科学会は痒疹診療ガイドラインを作成し、多くの患者さんの利益になるように、効果のある治療法についてまとめています。

色素性痒疹 

色素性痒疹(しきそせいようしん)は、思春期の女性の背中やうなじ、鎖骨の周囲などの胸部に好発。

突然、強いかゆみのある蕁麻疹のような赤い斑点(膨疹:ぼうしん)が生じ、その後、赤いぶつぶつ(紅色丘疹:こうしょくきゅうしん)となり、そのあとに網目状の色素沈着を残すことから色素性痒疹と名付けられています。

洋服などによる擦れ等の物理的刺激や発汗、さらに糖尿病や無理なダイエットなどが引き金になるようです。色素性痒疹は、痒疹診療ガイドラインの中でも特殊なタイプの痒疹として、個別に紹介されています。

というのも、通常の痒疹であればステロイドの外用剤やかゆみを抑える抗ヒスタミン薬の内服である程度症状が改善しますが、これらの治療は色素性痒疹では効果がみられないのです。

そのかわり、色素性痒疹ではミノサイクリンという抗生物質やジアフェニルスルホン ( diaminodiphenyl sulfone:DDS )という薬がよく効きます。

DDSはもともとハンセン病の治療薬として使用されていましたが、その抗炎症作用を利用して皮膚科の炎症性疾患に幅広く使用。

内服ステロイドのような免疫抑制作用はありませんが、肝障害や溶血性貧血などの副作用が知られており、定期的に血液検査を行いながら使用していきます。

急性痒疹、小児ストルフルス

急性痒疹は、痒疹の中でも一ヶ月以内に治癒するものを指し、この病気は子供に起こる事が多いです。その場合は小児ストルフルスとも。

また、虫刺され後に発症しやすいこともわかっており、虫刺されに対する皮膚の免疫の過剰反応と考えられています。さらに、血液疾患や胃腸の障害などのような他の病気も原因に。

妊娠に伴う痒疹 

妊娠すると女性の身体のあらゆるところに変化が起こりますが、皮膚にもさまざまな変化が。ホルモンバランスの変化により色素沈着が起こりやすくなったり、多毛になったりすることはよく知られています。 

妊婦さんの皮膚はデリケートになり、少しの刺激でもかゆみを感じやすくなる人も多いです。また、妊娠に伴い痒疹が出現する人もいらっしゃいます。

妊娠に伴う痒疹は、女性ホルモン「エストロゲン」の増加が発症に関係しているといわれていますが、原因ははっきりとわかっていません。

妊娠性痒疹

妊娠初期(3~4か月)に腕や脚、あるいは背中やお腹にかゆみのある赤いぶつぶつ(丘疹)があらわれる痒疹を、妊娠性痒疹と言います。出産後に軽快することがわかっており、多くは二回目以降の妊娠で生じ、妊娠ごとに発症する傾向に。

多形妊娠疹

多形妊娠疹は、妊娠後期によくみられる痒疹です。妊娠性痒疹とは異なり、初産婦さんに多いとされています。特に双子を妊娠している場合にみられやすいです。

妊娠後期に強いかゆみを伴うぶつぶつ(小丘疹)、や赤み(紅斑)がお腹の妊娠線ができる部位に出現し、次第に四肢や体幹に拡大します。ただし、お臍には皮疹が出ないことが特徴です。こちらも、出産後数日以内に消退。

多形妊婦疹は、妊娠性そう痒性丘疹(pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy;PUPPP)とも呼ばれます。

多形妊娠疹
引用元:Glow

痒疹の治療

痒疹の治療は、皮膚炎を抑えるステロイド外用剤とかゆみを抑える抗ヒスタミン薬の内服が基本になります。

透析をされている方や肝機能障害のある方のしつこい痒みにはレミッチ®(ナルフラフィン)という薬が使え、効果も高いのですが、該当しない方は使えないのが難点です。

体中に痒疹の症状が出ている場合は、紫外線療法を行うこともあり、かゆみに対して効果があります。紫外線療法は1回の照射のみですぐ効果があらわれるわけではなく、週1~2回のペースで数か月通院する必要が。

結節性痒疹など、かたいイボのような結節がなかなか消えないときは、液体窒素による冷凍凝固療法も行われます。また、ビタミンD3軟膏が有効なことも。

痒疹治療フローチャート
引用元:日本皮膚科学会

あるいは、体質改善を目的とし漢方薬の内服を行うこともあります。皮膚のかゆみに効くとされる漢方薬には温清飲、越婢加朮湯、黄連解毒湯などです。

ただ、ステロイド外用剤と抗ヒスタミン薬の内服以外は残念ながら痒疹に対しては保険適応がありません。そのため、主治医と患者さんがよく相談しながら、治療方法を選んでいきます。

症状が非常にひどい場合は、ステロイドや免疫抑制剤(ネオーラル®)の内服も。短期間でかゆみは消失しても、この病気でこれらの薬を長く服用することは、メリットよりもデメリットの方が大きいため、短期間にとどめるべきです。

痒疹は、ステロイド外用剤と抗ヒスタミン薬の内服で、半数以上の人は強いかゆみがなくなりますが、治りにくい方もやはり一定数おられ、その場合は保険適応外の治療を色々試すことになります。

保険適応外の治療でも漢方薬や、液体窒素、紫外線療法などはそれほど大きな副作用はありません。



ただし、免疫抑制剤などの強い薬を使用すると、効果が強い分、副作用のリスクもあります。効果は早くあらわれますが、服用を中止すると症状が再燃することも多いです。

症状が長引く場合は、かゆみによる苦痛と薬による副作用のどちらを優先するか、患者さんと相談しながら治療を行っていきます。

家庭でできる対策

家庭でできる痒疹の対策は、他の皮膚疾患同様にスキンケアが中心になります。スキンケアは、まず皮膚を清潔に保つことから始めましょう。毎日のシャワーや入浴を習慣にし、汗や皮膚についた汚れはその日のうちに速やかに落とすことを心がけてください。

ただし身体を洗う際は強くこすらないように、石鹸をしっかり泡立てて泡でやさしく皮膚をなでるようにして洗いましょう。ナイロンタオルやタワシは使用禁止です。

石鹸やシャンプーのすすぎ残しがあるとかゆみの原因になるので、すすぎは十分行いましょう。また、熱すぎるお湯に入浴するとかゆみを引き起こします。なるべくぬるめのお湯につかるように。

お風呂やシャワーから上がったら、処方されたステロイド外用剤などを皮疹がある部位にすぐに塗るようにしてください。

そのほか日常生活では、室内を清潔に保ち、クーラーや暖房を使用し、適温、適湿を保つようにしましょう。爪を短く切って、なるべく掻かないように。包帯で皮疹のある部位を覆って掻けないようにする、寝るときに手袋を着用するなどの工夫もよいでしょう。

衣服や肌着の刺激がかゆみを誘発することがあるので、新しい肌着を使用する前には水洗いをするようにしてください。また、柔軟剤などに含まれる界面活性剤が刺激になることもあるので、製品を選ぶ際は界面活性剤の少ないものを選ぶように。

過度なアルコール、ストレス、睡眠不足などもかゆみを増悪させることがわかっているため、心当たりがある場合はなるべくしないようにしましょう。

まとめ

痒疹はどうして起こるのか、どうすればよくなるのかがまだよくわかっておらず、患者さんも皮膚科医も工夫をしながら治療を行っています。一日でもはやく、有効な治療法が見つかることを願ってやみません。

また、痒疹が特に難治で全身に症状がある場合はデルマドロームと言って内臓の病気を反映していることもありますので、たかが皮膚の病気と考えず、近くの医療機関を受診するようにしましょう。

参考文献

皮膚科学 第10版 大塚 藤男他 金芳堂

痒疹診療ガイドライン2020 日本皮膚科学会

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