アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、皮膚のトラブルの中でも最も一般的な慢性疾患の一つです。
この疾患は、しつこいかゆみや湿疹などの症状を引き起こし、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼします。
特に乳幼児や子供に多く見られますが、成人になっても継続することが。
皮膚の状態が良い時期と悪い時期を繰り返すことが多く、患者さんにとって精神的な負担となります。
私は日本専門医機構認定皮膚科専門医として、多くのアトピー性皮膚炎の患者さんの治療に携わってきました。
この疾患の特徴や、適切なケアについて理解を深めることで、患者さんがより快適な生活を過ごすことができるようになることを願っています。

アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の症状は、患者さんの年齢、皮膚のタイプ、持っているアレルギー疾患(食物アレルギーやアレルギー性鼻炎)などにより異なることがあり、ここでは主要な症状について解説します。
症状
- かゆみ: アトピー性皮膚炎の患者さんのほぼ100%に見られ、特に夜間にひどくなることが多い。
- 皮膚の赤み(紅斑:こうはん): 皮膚に炎症が起こるため赤くなり、疾患の典型的な兆候。
- 湿疹(湿潤性紅斑:しつじゅんせいこうはん):皮膚炎のところに小さな水疱(すいほう)ができ、破れると透明な液体がでて、じゅくじゅくした見た目に。
- 乾燥とひび割れ: 皮膚バリア機能が損なわれ、乾燥し、ひび割れることが。
年齢による特徴
アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によっても異なり、以下のような特徴があります。
年齢 | 特徴 |
---|---|
乳児 | 頬、額、体の出っ張った部分に皮膚炎が見られることが一般的 |
幼児 | 肘や膝の内側など、関節に皮膚炎が発生しやすい |
成人 | 顔に上半身を中心に皮膚炎が見られることが多く、顔が全体に赤黒くなることも |
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因は複雑で、遺伝的な要素や環境の影響、アレルギー反応、免疫システムのバランスの乱れなどが関与していると考えられます。
主な原因をそれぞれ解説してみましょう。
- 遺伝的背景
- 環境的要因
- 心理的要因
- 生活習慣
遺伝的背景
アトピー性皮膚炎の発症には遺伝的な要素が関与し、特定の遺伝子変異が、皮膚のバリア機能の低下につながり、炎症を引き起こすことが研究で示されています。
環境的要因
外部からの刺激や環境も皮膚のバリア機能の低下をもたらし、アトピー性皮膚炎の発症に影響を与えます。以下の表に環境的要因をまとめました。

要因 | 影響 |
---|---|
乾燥した気候 | 皮膚の乾燥、炎症の増加 |
細菌、ウイルスの感染 | 免疫系の過剰反応 |
アレルギー物質 | 特定の食品、花粉などの反応 |
心理的要因
心理的ストレス免は疫システムに変化を引き起こし、炎症反応を促進する可能性があり、アトピー性皮膚炎の発症や悪化に影響を及ぼすことが確認されています。
特に、長期にわたる慢性的なストレスは、重症度を高めることが。
生活習慣
下記のような生活習慣も、アトピー性皮膚炎の発症や悪化につながる可能性があります。
項目 | 詳細 |
---|---|
食生活 | 食品のアレルギー反応など |
スキンケア | 不適切なスキンケアや過剰な洗浄 |
睡眠 | 睡眠不足や睡眠の質 |
掻破 | 皮膚を掻くことが癖になっている |
アトピー性皮膚炎の原因は複合的な要因が複雑に絡みあっており、患者さんそれぞれの状況に応じた適切な診断が必要です。
アトピー性皮膚の診断
アトピー性皮膚炎の早期診断と治療開始は、患者さんの生活の質の向上につながります。
患者さんご自身及び保護者の方が皮膚の状態を注意深く観察し、異常が見られた場合は速やかに医師の診断を受けることをおすすめします。
患者さんのセルフチェック
下記のような症状がみられる場合は、専門医による診療を受けましょう。

- 皮膚の乾燥やかさつき
- 強く継続するかゆみ
- 発疹、赤み
皮膚科医による診察
1.視覚的評価
医師は患者さんの皮膚の状態を注意深く観察し、赤みの程度、乾燥の度合いや質感などを評価。
2.アレルギー検査
アトピー性皮膚炎の人はアレルギーをもっていることが多く、それにより症状が悪化している場合もあります。アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)の特定のためにアレルギー検査を行うことも。
- パッチテスト: アレルゲンの特定
- 血液検査: 特定抗体の測定
3.病理組織学的検査
アトピー性皮膚炎と他の病気(皮膚のリンパ腫など)と鑑別するために、場合によっては、皮膚を一部メスで切り取り、顕微鏡下で確認し細胞の変化や炎症の程度を精密に評価。
アトピー性皮膚炎の診断は、患者さんの自覚症状と医師による専門的な診察をもって行われ、それぞれの皮膚の状態に応じた治療計画を考えていきます。
治療方法と治療薬について
アトピー性皮膚炎の治療方法と治療薬について、患者さんそれぞれの状況に応じて、下記の治療が行われます。
- 保湿治療: 皮膚を保湿し、バリア機能を高めることで刺激から守り、かゆみを抑える1)。
- 炎症の抑制: 主にステロイド外用薬を用いて皮膚の炎症を抑える2)。
- アレルギー対策: アレルギーの原因となるものを避ける。
治療薬
アトピー性皮膚炎には、以下のような治療薬が用いられることが一般的です。
薬物の種類 | 効果 |
---|---|
ステロイド外用薬 | 炎症を抑え、症状の軽減に効果 |
非ステロイド外用薬(タクロリムスなど) | ステロイド薬の使用を避けたい場合に選択 |
抗ヒスタミン薬 | かゆみやアレルギー反応を抑える |
経口免疫抑制薬 | 過剰になった免疫反応を抑える |
抗体製剤 | アトピー性皮膚炎に特異的な抗体をブロックします。 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
治療薬の副作用のデメリットについても正しく理解することが重要です。
- ステロイド外用剤:長期使用で皮膚が薄く、赤くなる。
- 非ステロイド外用薬:タクロリムスは灼熱感。
- 抗ヒスタミン薬:眠気、頭痛。
- 経口免疫抑制薬:感染症にかかりやすくなる、帯状疱疹、費用が高い。
- 抗体製剤:費用が高い。
また、光線療法など他の治療方法もあります。
副作用は、適切な使用と医師の指導により最小限に抑えることができます。患者さんがご自身でおかしいな、と気が付いたら医師に相談しましょう。
保険適応
アトピー性皮膚炎の治療は長期にわたることも多く、患者さんの経済的負担を考慮すると保険適応となっている治療方法を選ぶことをお勧めします。

アトピー性皮膚炎では保湿剤、ステロイド外用剤、非ステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤、光線療法、免疫抑制薬、抗体製剤などが保険適応となっており、選択肢も多いので、医師とよく相談しましょう。
アトピー性皮膚炎の治療期間
アトピー性皮膚炎の治療期間は患者さんそれぞれの状況によって違いますが、数週間から数年に及ぶこともあります。
また一旦よくなっても再燃することが多く、長期的に付き合っていく必要のある慢性疾患です。治療期間の違いは、下記のような要素が絡んできます。
- 患者さんの年齢と性別
- 症状の程度
- 合併症の有無
- 個々の生活環境とストレスレベル
- 治療コンプライアンス
アトピー性皮膚炎の治療期間の予測
治療期間は患者さんにとって気になる点だと思いますので、アトピー性皮膚炎の治療期間の予測に関する最近の研究結果をご紹介します。
研究 | 治療期間の予測 |
---|---|
Kim et al. (2022) | 症状の軽減には平均6週間 |
Lee et al. (2023) | 完全な症状消失には平均1.5年 |
Park et al. (2022) | 繰り返しの発症防止には平均3年 |
それぞれの研究結果は、治療の目的や治療開始の時点の症状の程度によって、治療期間の予測が異なることを示しています。
特に症状が重い場合には、再発を防止するために長期管理が必要なことが多く、どうしても治療期間が長くなりがちです。
治療期間についての理解
アトピー性皮膚炎を一度の治療で完全に治すのは難しいです。治療には時間がかかることを理解し、長期的な視点で治療計画を立てることが重要です。
治療により症状をコントロールして、生活の質の改善を目指すものだと考えてください。塗り薬は患者さん自身の自己管理も大切な要素となります。
医師と患者さんとのコミュニケーションが密であること、また適切な治療計画が立てられていることが、治療期間を短縮し、生活の質を向上させることになります。
参考文献
1) Boguniewicz, M., & Leung, D.Y.M. (2011). Atopic dermatitis: a disease of altered skin barrier and immune dysregulation. Immunological Reviews, 242(1), 233-246.
2) Silverberg, J. I. (2017). Public health burden and epidemiology of atopic dermatitis. Dermatologic Clinics, 35(3), 283-289.
3) Leung DYM, et al. “Atopic dermatitis (eczema): Pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis.” UpToDate, 2020.
4) Eichenfield LF, et al. “Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: Part 4: Prevention of disease flares and use of adjunctive therapies and approaches.” Journal of the American Academy of Dermatology, 2014.
5) Sidbury R, et al. “Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: Section 3. Management and treatment with phototherapy and systemic agents.” Journal of the American Academy of Dermatology, 2014.
6) Kim, J., Lee, H., & An, S. (2022). “A longitudinal study on the management of atopic dermatitis”. Journal of Dermatology.