男性型脱毛症

食生活から頭髪環境を改善するために AGAに関する食品成分について知ろう

バランスの良い食事
藤井 麻美

日本の成人男性のおよそ3人に1人、20代で約10%の方がAGAに悩んでいるという調査結果が1)

年齢とともにAGAの悩みや頻度も増加しますが、一般的にAGAは進行すると治療が難しくなります。AGAの予防や早期からの治療が大切です。

予防のために改善できるポイントとしては、食事と睡眠、運動などの生活習慣と禁煙。今回は、特にAGAを防ぐための食事について、どのような点に気をつければ良いのか、科学的に正しい食事について解説します。

頭髪の健康維持に関連する成分とは|海藻類を食べても薄毛予防にならない

残念ながら、AGAや抜け毛の予防、育毛・発毛に劇的に効果のある栄養素というものはありません。ただし、不足するとAGAや脱毛の原因になる栄養素はいくつか知られています。

亜鉛、鉄、蛋白の不足で薄毛や脱毛を引き起こすことが。また、高カロリー、高脂肪の食事による肥満も脱毛を起こすことがわかりました2)

頭髪を健康な状態に保つためには、バランスの取れた食事が必要です。食事から取った栄養分が使われる際、頭皮や髪の毛は優先順位としては高くはありません。

通常は、脳や心臓などの重要臓器や、筋肉などの活動性の高い部分への栄養が優先されます。不十分な食事や偏食の場合、頭皮や頭髪に届く栄養は足りずに、薄毛や脱毛になる可能性が。

バランスの取れた十分量な食事に加え、現時点では明らかな科学的根拠はないものの、AGAの予防効果が期待される成分がいくつかあります。それらをご紹介していきます。

ちなみに、「昆布やワカメを食べると薄毛や脱毛予防になる、治療効果がある」と俗に言われていますが、科学的根拠はなく、ビタミンやミネラルが豊富で、バランスの取れた食事に追加する食材としてはおすすめですが、明確にAGAの予防になるわけではありません。

頭髪の健康維持に関連する成分①:タンパク質

たんぱく質

私たちの体は16%ほど、水分を除けば半分以上が蛋白質。頭の毛も80〜90%とほとんどがケラチンというタンパク質からできています。タンパク質はアミノ酸からできていますが、アミノ酸は全部で20種類あり、ケラチンは約18種類のアミノ酸が結合し構成3)

それぞれのアミノ酸がバランス良く配合され、硬く強い髪の毛になります。低タンパク状態でアミノ酸が不足すると、脱毛の原因に。

腸からのタンパク質の喪失で低タンパク血症を起こし、脱毛や皮膚障害を起こすクロンカイトカナダ病という病気4) がありますが、この病気ではなくても、食事などで過度にタンパク制限している場合には、薄毛や脱毛が起こります。

タンパク質を構成するアミノ酸には、体内では合成できず食事から摂取が必要な必須アミノ酸が。必須アミノ酸にはイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの9種類5)

頭髪のケラチンは、必須アミノ酸9種類と、その他の非必須アミノ酸で作られているため、食事からの補給が絶対必要です。

タンパク質を多く含む食事としては、動物性のタンパク質は肉、魚、卵、乳製品、植物性タンパク質は大豆、納豆、豆腐があります。

食品ごとにアミノ酸の吸収率などに差があり、一般的には動物性タンパク質は吸収率が高いとされていますが、肉や魚は脂質も多く高脂質なため、過剰摂取は逆効果になります。

植物性タンパク質は、吸収率などは劣るものの、いくつか組み合わせて摂取することで、動物性タンパク質に劣らないアミノ酸を摂取することが。それぞれの良い点があるため、動物性、植物性をバランスよく摂取しましょう。

プロテインでのタンパク質の補充が、脱毛を予防する科学的根拠はありません。ただし、高齢者や過度の食事制限でタンパク質が不足している場合は、タンパク質の補給に効果が期待されます。基本的には、タンパク質やその他の栄養素は基本的には食事から得ることが良いでしょう。

頭髪の健康維持に関連する成分②:ビタミン

ビタミン サプリ

ビタミン群のうち、ビタミンBはタンパク質を体内で利用する時に必須な成分です6) 。特に、ビタミンB2、ビタミンB6に脱毛の予防効果が期待されます。

ビタミンB2は、リボフラビンと呼ばれ、タンパク質がエネルギー源に使われる時の酵素をサポートする補酵素として働きます。

頭髪だけではなく、頭の皮膚や爪などの細胞の再生にも関与する、「発育のビタミン」とも。魚介類、レバーや卵、藻類、野菜類、乳製品、種実類などに多く含まれています。

ビタミンB2は熱に強い性質がありますが、光とアルカリ性に弱い特徴が。他の野菜類や重曹と調理したり、保管の際に日光に晒されたりすると、ビタミンB2が分解されてしまいますので、注意しましょう。

ビタミンB6は、体内で非必須アミノ酸が合成される際のアミノ基転移反応や、脱炭素反応、ラセミ化などの反応の補酵素です。かつおやまぐろ、イワシ、鯖、レバー、肉、バナナ、キャベツ、ピーナッツ、大豆に豊富に含まれています。

ビタミンB2やB6は、欠乏するとどちらも脂漏性皮膚炎という頭皮や顔の皮脂が過剰になっておこる皮膚炎を起こす原因に。不足しないように食事で十分に補充しましょう。

ビタミンB群はいずれも水溶性ビタミンといって尿から排泄され、体内に蓄積されることはありませんが、サプリなどでの過剰摂取には注意が必要です。

特に、ビタミンB6は一種の神経伝達物質の合成にも働くため、過剰に摂取すると手足などのしびれ(感覚性ニューロパチー)を起こす原因になることが。

ビタミンB群のうち、ビオチンという成分も、欠乏すると脱毛や皮膚炎を起こします。

ビオチンは糖の代謝に必要な補酵素として働くため、欠乏し糖代謝が正常に行われないと、乳酸が産生し蓄積され、体に異常を。きのこ類、肉類、卵、魚介類に多く含まれています。

AGAの発症には男性ホルモンが関与していますが、その他の危険因子や機序の多くはまだ研究段階です7) 。加齢や肥満による酸化ストレスや活性酸素の影響により、毛のもととなる毛包幹細胞が枯渇することも、AGAの発生に関与していることがわかっています2)

ビタミンのうち、ビタミンCやビタミンEは抗酸化作用があるということが知られており、この抗酸化作用がAGAの発症予防に期待できるのではないかといわれていて8) 、まだ、確立された科学的な根拠はありませんが、今後研究などで明らかにされるかもしれません。

ビタミンCは、抗酸化作用以外にも、タンパク質代謝に関与し、頭皮などのコラーゲンの必須成分でもあります。果実、野菜類に豊富に含まれていますが、熱に弱いため、生での摂取や蒸して調理することで効率良く摂取することが。

ビタミンEは、ビタミンB群やビタミンCなどの水溶性ビタミンとは違い、脂溶性ビタミンに分類されます。ナッツ類や種子類、大豆油やキャノーラ油、コーン油などの植物油にも豊富に。

食事でビタミンEを摂取して過剰摂取になって健康被害がでたという報告はないようですが、高容量の摂取で血小板の凝集能力が下がり、脳出血リスクが上がるという報告があります9) 。摂取の量やタイミングには注意しましょう。

ビタミンAも、ビタミンEと同じく脂溶性ビタミンに分類されますが、細胞分裂を正常化し、頭皮や毛の維持に関与。レバーやうなぎなどに豊富に含まれています。ビタミンAは過剰に摂取すると体内の脂肪や肝臓に蓄積し、肝障害などを起こすことがあり注意が必要です。

頭髪の健康維持に関連する成分③:亜鉛

亜鉛

亜鉛不足は、脱毛の原因になります9) 。亜鉛は、必須微量元素・ミネラルで、免疫系、蛋白質の合成、傷の治癒過程、DNA合成、細胞の分裂など、さまざまな代謝経路に関与。体内で亜鉛の量は2〜3gで維持されていますが、この量を維持するために、毎日摂取する必要があります。

摂取できずに亜鉛が欠乏したり、吸収障害があったりすると、脱毛のほか、皮膚炎や口内炎、味覚異常などを起こします。ケラチンの合成にも関与するため、毛自体が弱くなり、抜けやすく。

牡蠣やうなぎ、赤身肉、鶏肉、豆類、ナッツ類、カニやロブスターなどの魚介類、全粒穀類、乳製品に多く含まれています。亜鉛が不足しないように亜鉛を含む食事をバランス良く取ることは必要ですが、過剰に取ることでの脱毛予防効果はありません。

亜鉛を過剰に摂取した場合、悪心、嘔吐、食欲不振などの症状が起こることがあります。長期的な影響も考えられるため、年齢により決められた許容上限摂取を超えないように注意が必要です。

頭髪の健康維持に関連する成分④:鉄

鉄 Fe

鉄は、多くの食品に含まれる鉱物です。肺から全身の臓器に酸素を運ぶ赤血球のタンパク質であるヘモグロビンと、筋肉などを形成するミオグロビンとして、必要不可欠な成分です9)

鉄の欠乏は、月経のある女性で起こりやすく、鉄欠乏は貧血の最多原因になります。貧血以外にも、薄毛や脱毛の原因にもなるため、鉄が不足しないように食事から摂取しましょう。

食事由来の鉄は、ヘム鉄と非ヘム鉄があります。ヘム鉄は赤身肉と魚介に、非ヘム鉄はナッツ類やインゲン豆、野菜などに豊富です。ヘム鉄の方が吸収されやすく、ほかの食品由来の栄養素からの影響を受けにくいと言われています。

ビタミンCを一緒に取ると非ヘム鉄の吸収率は上がるため、食べ合わせなどを工夫することで、効率良く吸収することが。

頭髪の健康維持に関連する成分⑤:イソフラボン

イソフラボン

イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンに似た構造をもち、体内で受容体に結合して弱い女性ホルモン様の作用をすることから、植物性エストロゲンと呼ばれています10)

この女性ホルモン様作用から、イソフラボンを摂取すると男性ホルモン(テストステロン)の値が下がり、男性ホルモンが発生に関与する前立腺がんを予防11) 。同じ理由で、イソフラボンにAGAの予防効果があるのではないかと期待されていますが、現時点では科学的な証明はなされていません。

イソフラボンのうち、ダイズイソフラボンは大豆や大豆製品(豆腐、納豆、油揚げなど)や味噌汁に豊富に含まれています。

頭髪の健康維持に悪影響となる食習慣とは|バランスが大事

ご紹介した栄養素や食事は、バランスよく摂取することが大切です。どれか一つに偏ったり、過剰に摂取したりすることによる脱毛予防効果はありません。よく言われる“バランス良く”の中でも、何を意識して摂取すればいいのかを理解していただければ幸いです。

そのほかに、AGAに悪影響を及ぼす食習慣について、解説しましょう。

頭髪の健康維持のために避けたいこと①:高カロリー・高脂質

高カロリー、高脂肪食は、糖尿病や心筋梗塞などの生活習慣病や、がん、認知症などのリスク因子、万病の元になり、脱毛の原因にも。高脂肪食により、頭皮の毛包にある毛母幹細胞がなくなってしまうことが動物実験でわかっており2) 、メカニズムも少しずつ解明されてきています。

頭髪の健康維持のために避けたいこと②:大量のアルコール摂取

アルコール

大量のアルコールを飲むことで、脱毛を予防する効果があるビタミンB群や、亜鉛の吸収が阻害されてしまいます。せっかく脱毛予防でさまざまな食品をバランスよく取っていても、過量飲酒をすることで、結果的に脱毛の予防効果を帳消しにしてしまうのです。

アルコールばかり飲んで食事を取らない場合には、ビタミン不足や亜鉛不足での脱毛に加え、アルコール性の脂肪肝や肝障害などの病気を起こす可能性も。長期にわたって大量のアルコールを摂取した場合、男性ホルモンの分泌が障害されます12)

男性ホルモンが低下すると、AGAによさそうに思えますが、AGAの直接原因は男性ホルモン(テストステロン)がジヒロドテストステロン(DHT)という強い活性を持つホルモンに変化することが原因で、テストステロンが低下しても発症の予防にはなりません。

むしろ、テストステロンが低下することで、性機能障害や認知機能低下などの男性更年期になってしまう可能性もあります13)

少量のアルコールでもすぐ酔ってしまうような体質の方は、大量でなくてもアルコールは避けた方が良いでしょう。そのような体質がなくても、大量のアルコール摂取は避け飲むのであれば、適量のアルコールを楽しむのがおすすめです。

頭髪の健康維持のために避けたいこと③:タバコ

タバコ

タバコは、脱毛や白髪の原因に14) 。タバコにより頭皮の毛包の成長サイクルが崩れ、タバコのニコチンが沈着し、悪影響を及ぼすのが原因といわれています。脱毛を予防するためには、禁煙を心がけましょう。

頭髪の健康維持のために避けたいこと④:過剰なダイエット

過度なダイエットや体重低下により体が飢餓状態になると、頭皮や毛に十分な栄養がいかずに脱毛が起こることがあります。頭髪の成分であるケラチンのもととなる複数の必須アミノ酸や、ビタミン、ミネラルが食べ物として補充できないことも、脱毛が進む原因に。

頭髪の健康維持のために避けたいこと⑤:就寝前の食事

就寝前の食事が脱毛に直接的に影響することはありませんが、就寝前に高脂質食やカロリーオーバーの食事をとるのは避けるべきでしょう。また、就寝前の食事で消化活動が眠りを妨げるため、睡眠障害になります15)

睡眠障害は脱毛に影響を及ぼす可能性が。寝る直前の食事や、コーヒー、緑茶、チョコレートなどのカフェインは避けるのが良いでしょう。アルコールを睡眠薬代わりに飲むのも、おすすめできません。

まとめ

AGAの進行を少しでも防ぐため、特に食生活で気をつけるべきポイントを解説しました。

劇的に効果のある食べ物や栄養素はありませんが、この記事が食生活を見直すきっかけになっていただければ良いなと思います。

参考文献

  1. 板見智. 日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査. 日本医事新報. 4209:27-29, 2004.
  2. 東京大学医科学研究所. 「高脂肪食などによる肥満が薄毛・脱毛を促進するメカニズムの解明」―幹細胞における炎症・再生シグナルの異常が毛包の萎縮を引き起こすー.
    https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00102.html
  3. 日本臨床医学発毛協会.
    http://www.hatumo.jp/mens/aga.html
  4. 難病情報センター. クロンカイト・カナダ症候群.
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/4607
  5. e-ヘルスネット. アミノ酸.
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-001.html
  6. 厚生労働省. 水溶性ビタミン.
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000067134.pdf
  7. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. 2017年. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
  8. 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター抗酸化研究室. https://antioxidantres.jp/column074/
  9. 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』.
  10. 国立研究開発法人. 医薬基盤・研究・栄養研究所.イソフラボン. https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail832lite.html
  11. がん対策研究所予防関連プロジェクト. 大豆製品・イソフラボン摂取量と前立腺がんとの関連について. https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/298.html
  12. e-ヘルスネット. アルコールの作用.
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-003.html
  13. 日本内分泌学会. 男性更年期障害.
    http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71
  14. Babadjouni A,et al. The Effects of Smoking on Hair Health: A Systematic Review.Skin Appendage Disord.;7(4):251-264,2021. doi: 10.1159/000512865.Epub 2021 Feb 24.
  15. e-ヘルスネット. 快眠と生活習慣.
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
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