男性型脱毛症

筋トレをすると薄毛になるって本当?

筋トレ 男性
藤井 麻美

日本人男性の30%程度が発症すると言われるAGA(男性型脱毛症)ですが1)

「筋トレをすると薄毛になってしまう」と聞いたことはありませんか?

読者の皆さんの中には、健康のために筋トレを行っている方もいらっしゃると思いますが、このような噂があると、「筋トレはしたいけれど薄毛になってしまうのは嫌だな…」と不安に思ってしまいますよね。

今回は、筋トレと薄毛の悪化は実際に関係があるのか、そして筋トレ自体が薄毛の原因になるのかというテーマについてお話していきたいと思います。

筋トレと薄毛について

男性の薄毛の話題においてよく聞かれるのが、今回お話する「筋トレをすると薄毛になってしまう」という噂です。

現在インターネットでさまざまな情報を入手できる時代ですが、筋トレと検索すると関連ワードとして「薄毛」、「抜け毛」などが。実際に、AGAの患者さんからもよく聞かれる質問でもあります。

本当に筋トレと薄毛には明らかな関係があるのでしょうか。結論から申し上げると、現時点で筋トレと薄毛の間に直接的な関連はないとされています。では、なぜ筋トレは薄毛と関連があるという噂が根強く残っているのでしょうか。

よくインターネットで指摘されている筋トレと薄毛が関係するとされる根拠には、以下のものがあります。

  • 筋トレをするとテストステロン(男性ホルモン)が増えるから。
  • 筋トレの時に摂取するプロテインの副作用で薄毛になるから。
  • 筋トレで用いられるサプリメントの一つであるクレアチンが男性ホルモンを増やすから。

これから、それぞれの原因が本当なのかについて解説していきます。

なぜ関連があるように思われていたか 

「筋トレをするとテストステロン(男性ホルモン)が増えるから薄毛になる。」

この噂を見たときに、なんとなく合ってそうなイメージがありませんか?

以下のように連想している人が多いのではないでしょうか。

筋トレ→筋トレする人は強そうで男性ホルモン多くでていそう。

→男性ホルモンは薄毛に関係していると聞いたことがある。

→筋トレしている人は男性ホルモン多いから薄毛になる。

この考え方は正しいのか、ここで筋トレとテストステロンについて少し解説していきます。

テストステロンは、通常精巣から分泌されるホルモンで、髪の毛への影響を与えるだけでなく、筋肉の蛋白質を合成する働きもあり、男性によって必要不可欠なものです。

以前は、精巣からしかテストステロンは分泌されていないと考えられていましたが、筋肉からも分泌されることがわかりました。そして、筋トレをするとテストステロンの分泌が増加することも知られています1)

では、筋トレで増加したテストステロンは、薄毛に直接影響を与えるのでしょうか?

こちらは、直接の影響はないと考えられています。ここで理解しやすいようにテストステロンと薄毛の関係について説明。

まず、テストステロンが薄毛になるメカニズムは以下の図にようになります。

AGA 仕組み イラスト

テストステロンが5αリダクターゼという酵素にくっつくと、ジヒドロテストステロンという強力な男性ホルモンへ変換されます。このジヒドロテストステロンが、薄毛と大きなかかわりがあるのです。

ジヒドロテストステロンは、TGF-βなどの脱毛因子を産生し、その結果、脱毛が促進されてしまいます。筋トレをすると、たしかにテストステロン自体は増えるのですが、増えた分のすべてが5αリダクターゼという酵素とくっついてジヒドロテストステロンになるわけではありません。

そのため、必ずしも筋トレをすると薄毛になるとは言えないということがわかります。

プロテインと抜け毛 

「筋トレの時に摂取するプロテインの副作用で薄毛になるよ。」

こちらの噂も、よく聞かれるものの一つです。おそらく先ほど説明した「筋トレをするとテストステロン(男性ホルモン)が増えるから薄毛になる」のイメージと同じで、筋トレする人はプロテインを飲んでいることが多いから、そのようなイメージがあるのではないかと思います。

プロテインは「たんぱく質」という意味です。人間にとって必要な3大栄養素の一つです。

プロテイン(たんぱく質)は髪の毛や筋肉を作るだけでなく、ホルモンや免疫に関わる物質などの材料にもなります。

では、実際にプロテインは薄毛に関係あるのでしょうか?

答えは、プロテインと薄毛は関係ありません。むしろ、適切なプロテインの摂取は髪の毛の発毛にとって良いことがあります。

プロテインが髪の毛にとってデメリットではなく、メリットとなりうるのはなぜなのか考えてみましょう。

まず先に断っておきますが、プロテインには、AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルのような効果はありません。育毛をサポートするという意味でのメリットとして捉えてください。

髪の毛の主な成分は、ケラチンと呼ばれるたんぱく質です。たんぱく質が不足しているとケラチンが不足し、髪の毛が細くなる、抜け毛が増えるといったことが生じる恐れが。そのため、適切なたんぱく質の補給は髪の毛にとって重要といえます。

クレアチンがジヒドロテストステロン(DHT)を高める可能性がある?

「筋トレで用いられるサプリメントのクレアチンが男性ホルモンを増やすから、薄毛になるのでは?」

筋トレをしている人はご存じの方もいらっしゃいますが、クレアチンというサプリメントが。クレアチンは、アミノ酸の1つで、その大部分が骨格筋でクレアチンリン酸という形で蓄えられています。

クレアチンリン酸とは、人間の活動(筋トレの時は筋肉を収縮させるとき)に必要なエネルギーを産生するのに必要な物質です。そのため、クレアチンはトレーニングをするときに、速やかにエネルギ-を作り出すのをサポートするサプリメントと言えます

では、クレアチンは実際男性ホルモンを増やしてしまうのでしょうか。ある研究で、大学生のラグビー選手がボランティアとして参加し、7日間のクレアチンを摂取した後に男性ホルモンを調べたところ、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンが増加したという結果がでました2)

この研究結果だけをみると、クレアチンには薄毛の原因であるジヒドロテストステロンを増やす可能性があると見られてしまいます。

しかし、この研究は20人しか対象として研究しておらず、一般的な結果というには人数が少なすぎます(一般的に、血圧の薬の効果をみるような研究は、数万人単位を対象として研究)。

さらに、薄毛はさまざまな要因で生じるものであり、クレアチンを摂取することで直接薄毛が進行するというわけではありません。もし筋トレをしていて薄毛を気にしてクレアチンを摂取することが心配な方は、プロテイン摂取をメインにしていくといいでしょう。

筋トレによるメリット

男性 ランニング

ここまで、筋トレやサプリメントが薄毛を関連があるのかについてお話してきましたが、筋トレをすることで髪の毛にとって何かメリットはないのでしょうか。

筋トレをすることのメリットは主に以下のことが挙げられます。

  • 血流の改善
  • ストレス解消
  • 生活習慣の改善

それでは、それぞれみていきましょう。

筋トレや有酸素運動で全身の血流改善 

筋トレや有酸素運動を行うと、心拍数が上昇します。つまり、心臓の動く回数が増えるので、全身に送られる血液の量が増え、その結果、頭皮の血流が良好となります。

頭皮の血流は大切で、髪の毛に必要な栄養素が血流に乗って運ばれるので、頭皮の血流が悪いと栄養素が不足し、髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたり。

適切な筋トレや有酸素運動を行うことで、頭皮に多くの血液が流れて栄養素もより多く髪の毛に届くことになり、頭皮環境がよくなることが期待できます。

一つ注意点が。筋トレや有酸素運動をした後に汗をかくと思いますが、汗をかいたままにしておかないようにしましょう。頭皮に雑菌が増殖して、皮膚炎の原因になることがあります。適宜シャワーを浴びるなど、清潔に保つように心がけてください。

ストレス解消

ストレスで抜け毛が増えるといわれていますが、その理由として、自律神経の乱れによる髪の毛の血流不良が原因と言われています。

人はストレスをうけると、自律神経のうち、交感神経をはたらかせ、交感神経は血管を収縮。血管が収縮すると血流量が減少し、その結果髪の毛への栄養が届きにくくなってしまいます。

運動は、ストレスを軽減するので、ぜひ無理のない範囲で運動を取り入れてください。ただし、過度の運動負荷はかえってストレスになり、逆効果になりますので注意しましょう。

生活習慣の改善

筋トレをしている、もしくはしようとしている人は、「筋肉をつけたい」、「ダイエットを行いたい」など、さまざまな目的があるかと思います。特に、ダイエット目的に筋トレする方において気をつけてもらいたいのが生活習慣です。

生活習慣は、髪の毛の環境に大きく影響します。摂取カロリーや脂肪の多い食事をとると、頭皮の皮脂が過剰に分泌。その結果、頭皮の皮脂が貯留し、髪の毛の血流が減ったり炎症の原因となります。

また、睡眠不足が続くことでも頭皮環境の悪化をまねくことも。

ですから、筋トレだけでなく生活習慣を改善することで、体の健康だけでなく髪の毛にとっても良いメリットが得られます。

筋トレと薄毛の関連がある場合も・・・

男性 調べる

最初に申し上げたように、筋トレと薄毛の間に直接的な関連はないとされています。しかし、人によっては直接的でないにしろ少し気をつけた方がいい場合も。では、具体的にどのような人が気をつけるべき人なのでしょうか。

答えは、遺伝的にアンドロゲンレセプターの感受性が高い方。アンドロゲンレセプターとは男性ホルモンの受容体(受け取る場所)のことです。

先ほど男性ホルモンと薄毛の関係の所で解説した図をもう一度載せます。

AGA  説明 イラスト

より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンは、男性ホルモン受容体とくっつくことで脱毛が促進。この男性ホルモン受容体のことをアンドロゲンレセプターといいます。

アンドロゲンレセプターの感受性が高い=男性ホルモン受容体がジヒドロテストステロンとくっつきやすいのです。

つまり、薄毛になりやすい体質ということになります。アンドロゲンレセプターの感受性が高い人は、ジヒドロテストステロンの量が増えるとAGAによる薄毛が進行する可能性があります。

アンドロゲンレセプターの感受性が高いかどうかは遺伝する体質です。気になる方は、クリニックや検査機関でAGA遺伝子検査をすることができます。自費にはなりますが、検査を行ってもいいかもしれません。

過度の食事制限

筋トレを行う方は、自己管理の一環として食事制限も同時に行う場合も多いと思います。ここで気をつけていただきたいのが、過度の食事制限は行わないということです。

特に、たんぱく質は髪の毛の主成分。たんぱく質が不足していると髪の毛の材料であるケラチンが不足し、髪の毛が細くなる、抜け毛が増えるといったことが生じる恐れがあります。

それ以外にも、髪の毛に大切とされる栄養素である鉄、ビタミンB群、亜鉛についても不足しないよう気をつけていきましょう。食事制限を行う予定の方は、栄養素不足の対策としてプロテインやサプリメントで補うようにしましょう。

筋トレしている間はフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルは使用してもいい? 

AGAの代表的な治療薬には、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルがあります。筋トレをしている間はこれらの薬を使っていてもいいのでしょうか。

筋トレしていても、AGAの治療薬を続けることには全く問題がありません。特に、フィナステリドやデュタステリドに関しては、筋トレ中は内服しておくといいかもしれません。

筋トレするとテストステロンが増えます。通常、テストステロンが増えてもそれが全てジヒドロテストステロンになるわけではありません。

しかし、アンドロゲンレセプターの感受性が高い人は、感受性が高くない人に比べてテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されやすく、薄毛のリスクがあるといえます。

フィナステリドやデュタステリドは、テストステロンからジヒドロテストステロンになることを防ぐ薬なので、テストステロンが増えてもジヒドロテストステロンは増えにくくなります。AGAの人は、筋トレ中にこれらの薬を内服しておいてもいいかもしれません。

まとめ

今回、筋トレと薄毛の関係についてお話しました。筋トレをしているからといって、薄毛が進行するわけではありません。また、運動による頭皮への血流改善などのメリットもあります。

人によっては、薄毛が進行してしまう可能性もあるかもしれませんので、プロテインやサプリメントでたんぱく質などの栄養素の不足がないようにすることが重要です。

また、フィナステリドやデュタステリドなどの内服を検討することも良いでしょう。

参考文献

  1. 相澤 勝治. アンドロゲン 筋肉におけるテストステロン産生とその代謝作用. The Lipid 29:305-310, 2018.
  2. van der Merwe J, et al. Three weeks of creatine monohydrate supplementation affects dihydrotestosterone to testosterone ratio in college-aged rugby players. Clin J Sport Med 19(5):399-404, 2009. doi: 10.1097/JSM.0b013e3181b8b52f.
記事URLをコピーしました