皮膚の病気

足に赤くて痛いしこりができたら、結節性紅斑の可能性を考えましょう

結節性紅斑
藤井 麻美

結節性紅斑という病気を知っていますか?

結節性紅斑とは、500円玉程度の大きさの赤いしこりがいくつか皮膚にできる病気で、足の膝から下の脛の辺りにできることが多く、痛みを伴います。痛みが強く、歩くことも困難になり、日常生活に支障をきたす場合も。

また、その他に、発熱や関節痛などの全身症状を伴うこともしばしばあります。あまり日常で耳にすることのない病名ですが、皮膚科の外来をおこなっているとたまに見かける病気です。

余談ですが、歴史上で初めてこの病気が報告されたのは、かの有名な作曲家のモーツアルトだとも言われています1)

今回は、この結節性紅斑とは一体どのような病気なのかご説明

結節性紅斑はどんな病気?

結節性紅斑は、皮膚の下の脂肪、つまり皮下脂肪組織に炎症が起こる病気です。

10万人に1人から5人程度の確率で起こり、20〜30代の比較的若い年齢の方が多いとされていますが、全ての年齢の方にで起こります。女性の方が発症しやすく、男性の3〜6倍ほど多いです2)

季節は春と秋が多いという方もいれば、冬に多いという方も。

辺縁がはっきりしない1〜10cm程度の赤いしこり(わずかな盛り上がり)が左右対称に出現することが見た目の特徴で、そのしこりは自発痛や圧痛、熱感を伴います

結節性紅斑

膝より下のすねの部分にできることが多いですが、病気の勢いが強い重症例では太ももや腕、体幹にまでこのしこりが生じることが。

このような痛みを伴う赤いしこりが2〜6週間かけて出現し、それぞれが2〜4週間かけて瘢痕を残さず消退します。しかし、中には消退と再発を繰り返す方も。

再発を繰り返してしまった場合、炎症が長引いた影響で色素沈着を残すこともありますが、時間をかけて消えていくことが多いです2, 3, 4)

原因は過敏反応や基礎疾患

結節性紅斑の原因は、さまざまな刺激に対する過敏反応と言われています。しかし、詳しい発症機序は未だ不明です。

何らかの基礎疾患を背景として発症すると言われていますが、原因がわからないことも多く、実に半数以上が原因不明5)

わかっている原因として多いものには、次のようなものがあります。

  1. 感染症
  2. 炎症性腸疾患
  3. 自己免疫性疾患
  4. 悪性腫瘍
  5. 薬剤
  6. 妊娠

原因となる基礎疾患で最も多いのは、感染症です。その中でも溶連菌感染症が最も多く、原因のわかる結節性紅斑全体のうちの30%程度を占めます。

それ以外の感染症では、肺炎の原因となるマイコプラズマや腸炎の原因となるサルモネラ、結核、性感染症である梅毒などが。感染症以外の基礎疾患として、炎症性腸疾患、自己免疫性疾患、悪性腫瘍も6)

潰瘍性大腸炎やクローン病を代表とする炎症性腸疾患は、自分の免疫が腸の粘膜などを攻撃してしまう病気で、下痢や血便が起こります。自己免疫性疾患も同様に自身の免疫が異常をきたし、自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。

自己免疫疾患は数多くありますが、そのうちの1つであるベーチェット病は主に口の中や目、陰部に炎症を引き起こすことが特徴とされている病気で、その診断基準に結節性紅斑が含まれています。

ベーチェット病は、そのほかに欧米では全身の臓器に特殊な炎症をきたすサルコイドーシスも原因として多いとされていますが、日本国内ではあまり報告はありません7, 8)

悪性腫瘍の中では、悪性リンパ腫や白血病などの血液系の癌が原因として多いとされていますが、それ以外の臓器の癌でも結節性紅斑を引き起こすこともあり得ます9)

上記に示した基礎疾患以外に、薬剤が原因になることも。抗生物質やピルなどの経口避妊薬、胃薬やアレルギーの薬が原因として多く、薬に対する過敏反応と考えられています。

また、妊婦の約5%が結節性紅斑を発症。妊娠により増加したエストロゲンなどの女性ホルモンに対する過敏反応と考えられています10)

治療は大きく分けて5つ

結節性紅斑の主な治療を以下に示します。

  1. 安静、下肢挙上
  2. 非ステロイド性抗炎症薬
  3. ヨウ化カリウム
  4. ステロイド内服
  5. 基礎疾患の治療

安静、下肢挙上

結節性紅斑の治療でまず大事なのが、足に負荷をかけず安静を保つことです。できるだけ横になり足をあげ、熱感があるところなどを冷却することも有効。

非ステロイド性抗炎症薬

治療薬としては、結節性紅斑の炎症を抑える薬を主に使用します。軽症の場合は、ロキソニンを代表とする非ステロイド性抗炎症薬と安静でよくなる場合も。

ヨウ化カリウム

ヨウ化カリウムを治療に用いることもあります2)。これは甲状腺の病気に使用されることが多い薬で、結節性紅斑において基礎疾患の有無に関わらず症状を軽減する効果が。

過敏反応を抑制する効果があると言われていますが、詳しい機序はわかっていません。

ヨウ化カリウムがよく効く例では、内服して2、 3日程度で痛みや全身症状が改善します。そのため、非ステロイド性抗炎症薬とともに治療の初めから使用されることが多いです。

また、高齢や持病などで非ステロイド性抗炎症薬を飲むことが難しい方にも使いやすくなっています11)

ステロイド内服

非ステロイド性抗炎症薬で効果がない場合や、発熱、関節痛などの全身症状を伴う場合は、ステロイドの内服薬を使用します。ステロイドの内服をおこなった場合、1〜2週間ほどで症状が改善することが多いです。

基礎疾患の治療

ステロイドを内服しても症状が改善しない場合は、シクロスポリンやメトトレキサートなどの免疫抑制剤も考慮されますが、その場合は何らかの基礎疾患が隠れている可能性が高いため、そちらの診断を優先すべきです。

これらは主に結節性紅斑自体に対する治療法で、何か原因となる基礎疾患がある場合は、その原因の治療を行うと結節性紅斑も改善します。

感染症が原因であれば、抗生物質が有効となり、自己免疫性疾患が原因であればそれぞれの疾患に見合った量のステロイドや免疫抑制剤での治療を行い、原因疾患の改善に伴って結節性紅斑の症状も消退。

ただし、妊娠中の場合は上記の治療薬が使えないことが多いため安静と冷却のみで軽症の場合と同じように足を上げて安静を保ち、経過を見ることもあります。

結節性紅斑と間違いやすい病気

結節性紅斑と症状が似ており、区別が必要な病気もいくつかあります。

同じように足が赤く腫れて痛いものに、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や血栓性静脈炎が。いずれも細菌による感染症で、結節性紅斑は左右の足両方に症状が起こるのに対し、こちらは原則片方のみです。

蜂窩織炎
蜂窩織炎 引用元:Dermatologyinc

両方の足が腫れるものでよく見られるのが、うっ滞性皮膚炎。これは足のむくみや静脈瘤などによって足の血行が悪くなり、足が腫れて皮膚の色が変わってしまう病気です。

重症の場合、皮膚に血がまわらなくなり、深い傷(潰瘍)を形成することも。結節性紅斑は比較的急性に発症しますが、こちらは長い期間をかけて症状が悪くなっていきます。

また、結節性紅斑のみでは潰瘍はできません。うっ滞性皮膚炎の場合、長年のむくみなどが改善しない限り根本的に治ることはなく症状は長引くことが多いです。

結節性紅斑と非常によく似ているのが、バザン硬結性紅斑でこれは皮膚の結核。両方の足に硬いしこりが生じ、成人の女性に多く見られます。

バザン硬結性紅斑
バザン硬結性紅斑 引用元:eScholarship

結節性紅斑との違いは、潰瘍を形成し、治った後も瘢痕が残ってしまうことがあります。ただし、再発を繰り返す結節性紅斑は色素沈着を残すため、見た目のみでの判断が難しい時もす。

その場合、きちんと診断をつけるためにメスで小さく皮膚を切除し、顕微鏡で詳しく見る検査が必要になります2, 12)

まとめ

結節性紅斑は両方の足に痛みを伴う赤いしこりが生じる病気です。結節性紅斑自体は再発することはあるものの、それを繰り返しながらやがて治っていくことがほとんどで予後は良い疾患。

しかし、背景に重大な基礎疾患が隠れていることもあるため、結節性紅斑を疑うような症状を認めた場合はすみやかに皮膚科を受診しましょう。

皮膚科で結節性紅斑と診断がついた場合、背景に潜む基礎疾患がないかどうか調べることが必要です。少しでも疑った場合は我慢せず病院を受診することが大切。

参考文献

1) Caspar Franzen. Leopold Mozart and the First Description of Erythema Nodosum.Arch Dermatol. 2008 Aug;144(8):1049-1050. doi: 10.1001/archderm.144.8.1049.   

2) 今日の皮膚科治療指針 第5版. 佐藤伸一ら. 医学書院 2022年.

3) あたらしい皮膚科学 第3版. 清水宏. 中山書店 2018年.

4) 皮膚科学 第11版. 大塚藤男ら. 金芳堂 2022年. 

5) Mert A, et al. Erythema nodosum: an evaluation of 100 cases. Clin Exp Rheumatol. 2007 Jul-Aug;25(4):563-570.

6) Blake T, et al. Erythema nodosum – a review of an uncommon panniculitis. Dermatol Online J. 2014 Apr 16;20(4):22376.

7) Cohen PR, et al:Concurrent Sweet’s syndrome and erythema nodosum: a report, world literature review and mechanism of pathogenesis. J Rheumatol. 1992 May;19(5):814-820. 

8) 花岡佑真ら. 両下肢に結節性紅斑様皮疹が多発したSweet病の1例. 臨床皮膚科.  69(10) 755-759 2015 

9) 新井 円ら. 加療中に胃悪性リンパ腫が見つかった結節性紅斑の1例. Journal of Environmental Dermatology and Cutaneous Allergology 10 (2) 119-124, 2016.

10) Elkayam O, et al. Familial erythema nodosum. Arthritis Rheum. 1991 Sep;34(9):1177-1179. doi: 10.1002/art.1780340915.

11) 加藤 裕史ら. ヨードカリが奏効したErythema Nodosum Migransの1例. 皮膚科の臨床. 52(3):399-402, 2010. 

12) 中村 晃一郎. 結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患. 日本皮膚科学会雑誌 117(8):1287-1294, 2007.

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