あせも(汗疹)とは大量の発汗により汗の排出が不十分になる発疹
あせもは、医学的には汗疹(かんしん)といい、大量の汗をかいたときに、汗の正常な排出が妨げられることによって起こります。
首まわりや腋、ふともも、背中などに小さな水疱(水ぶくれ)や紅色丘疹(赤いぶつぶつ)ができ、子供ではしばしば湿疹となって、かゆみも。
シャワーなどで皮膚を清潔にして、涼しい環境で過ごすことによって自然と消えていく場合もありますが、湿疹となった場合は塗り薬などの治療が必要です。
汗疹の種類とそれぞれの症状、治療や家庭でできる対策についてご説明していきます。
あせも(汗疹)とは
あせも(汗疹)とは、大量の発汗に伴って、汗の正常な排出が妨げられることで起こる発疹です。
『汗管貯留症候群(かんかんちょりゅうしょうこうぐん) sweat retention syndrome』のひとつであり、汗管(かんかん)という汗を出すための管が詰まり、皮膚の中に汗がたまることで起こります。汗をかきやすい乳幼児、小児に多い病気ですが、成人にも発症。
汗疹の症状
大量に汗をかいたあとに、水滴のような透明の1㎜程度の小水疱や、数㎜程度の紅色丘疹(赤いぶつぶつ)が、首まわりや腋の下、ベルトや下着で締め付けがある部位、肘の内側や膝の裏側などの、汗をかきやすく蒸れやすい部位にあらわれます。
汗疹が進行すると、平たい大きなぶつぶつになることも。
透明で小さな水疱はかゆみなどの症状もなく、数日で乾いてカサカサとはがれ落ちることが多いですが、紅色丘疹になるとかゆみを伴い掻くことによって湿疹となり、じゅくじゅくしてきたり、かさぶたになったりします。
汗疹の原因
わたしたちの全身の皮膚には汗腺(かんせん)という汗をつくる器官が分布しています。汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の二種類がありますが、体温調節のためにかく汗は主にエクリン汗腺より分泌。
このエクリン汗腺の汗を排出する管が汗の成分やほこりなど詰まってしまい、行き場のない汗が皮膚の中にたまって周囲の組織を刺激して皮膚炎が起こります。
そのため、汗疹は汗が大量にでるような高温多湿の環境下で作業をする人や、発熱した時、スポーツ時におこりやすく、湿布や包帯、ギプス固定などで通気性が悪くなった部位に部分的にみられることも。
また、病気やケガなどでベッドに寝たきりに近い状態で過ごす人は、背中によく汗疹ができます。夏が最も多いですが、病院内では暖房もよく効いているので冬でもみられることが。
さらに、赤ちゃんや子供にもよく汗疹がみられます。わたしたちの体は、体温があがると自律神経が指令を出し、体温を下げるためにエクリン汗腺で汗が作られますが、赤ちゃんは自律神経の発達が未熟です。
汗をかきすぎたり、かけなかったりすることが多いので、赤ちゃんがいるご家庭では、部屋の温度や湿度を調整し、通気性のよい衣服を着せることで体温調節を助けてあげてください。
また、エクリン汗腺の数は生まれたときから変わらないため、子供は体が小さい分、汗腺が大人に比べて非常に高密度に存在し、汗をかきやすくそのぶんトラブルも起こりやすいです。
さらに、汗疹は汗がどの部位で溜まるかによって3種類にわけられています。皮膚の表面に近いほうから順に『水晶性汗疹』→『紅色汗疹』→『深在性汗疹』。
水晶性汗疹
水晶性汗疹(すいしょうせいかんしん)では、1㎜大程度の小さな水疱が多発。皮膚の一番外側にある角層内に汗がたまることにより起こります。
かゆみなどの炎症はなく、水疱は数日で破れて鱗屑(かさかさした皮膚のかけら)となり、自然に治癒。生まれたての赤ちゃんのおでこや、成人でも発熱などの際にみられます。
紅色汗疹
紅色汗疹(こうしょくかんしん)では、数㎜大の紅色の丘疹(赤いぶつぶつ)が首まわりや腋の下、ベルトや下着で締め付けがある部位、肘の内側や膝の裏側などの、汗をかきやすく蒸れやすい部位にあらわれます。
私たちが一般的に考える『あせも』はこの紅色汗疹をさすことが多いです。紅色汗疹では表皮の中で汗が詰まって、汗管からまわりの組織に汗が漏れでることで強いかゆみや炎症を引き起こします。
通気をよくして、汗をかかない環境で過ごすようにすると、数日で自然に治ってくことが多いですが、炎症やかゆみを抑える市販薬(OTC医薬品)を使用してみてもよいでしょう。
また、掻くのをなかなか我慢できない子供の場合、掻き壊すことで細菌感染を合併し、『とびひ』になることもあります。
深在性汗疹
深在性汗疹(しんざいせいかんしん)は紅色汗疹の重症型です。通常は熱帯地方でみられます。真皮上層に汗が溜まって、汗管が閉塞することによって起こります。広範囲にぶつぶつとした丘疹が多発。
発汗が止まってしまうため、体温が上昇し、熱中症を起こしやすいてため注意が必要です。実際の日常診療であまりみかけることはなく、私も皮膚科学の教科書でしかみたことがありません。
汗疱、異汗性湿疹
手のひらや足の裏はエクリン汗腺が多数存在し、汗をかきやすい部位です。手のひらや足の裏、指や趾(あしゆび)の側縁にできる、汗による小さな水疱を汗疱(かんぽう)といいます。
小さいものは盛り上がらず、皮膚の中にぷつぷつと透けてみえることも。かゆみや赤みがある場合は汗疱性湿疹(かんぽうせいしっしん)や異汗性湿疹(いかんせいしっしん)と呼ぶこともあります。
足にできた場合は水虫(白癬)の症状によく似ているので、患者さんは水虫を心配して受診されることも多いです。水虫のようにだれかにうつる病気ではなく、症状が軽い場合はスキンケアのみで、日焼けのあとのように皮むけして2~3週間で治っていきます。
季節の変わり目に多く、手のひらや足のうらに汗をかきやすい人(医学的には多汗症といいます)、子供や比較的若い人(40代くらいまで)に症状が。
汗疹の治療
軽症の汗疹は、こまめに入浴やシャワーなどで汗を洗い流し、皮膚を清潔に保つことで改善していくことが多いです。
汗疹がある部位を洗うときは、ナイロンタオルなどでゴシゴシこすると、そこらか細菌感染を起こしてとびび(伝染性膿痂疹)となることがあるので、泡で優しくなで洗いするようにしてください。
かゆみがある場合は、保冷剤や濡れタオルなどでその部分を冷やすようにしましょう。皮膚科では軽症の場合は、カラミンローション®という収れん(汗をおさえる)・保護作用のあるローションを処方します。
紅色汗疹になって、かゆみや赤みが強い場合はステロイド外用剤やかゆみを抑える抗ヒスタミン薬の内服を行うことも。
汗疹を掻きむしってしまい、じゅくじゅくとしたとびひになってしまった場合は抗生物質入りの外用剤や抗生物質の内服を行います。
家庭でできる対策
家庭でできる『あせも』対策としては、
- 汗をかいたらこまめに拭いたり、シャワーで洗い流したりして皮膚を清潔に保つ。
- 汗を吸い取って素早く逃がしてくれるような素材やデザインの衣類や寝具を選ぶ。通気性や吸湿性のよい木綿などがお勧め。
- 汗をかく時期には髪をまとめたり結ったりする。髪の毛がかかる額や首元などはあせものできやすい部位。また、素肌につけるアクセサリー類はあせもができるのを助長することがあるので注意。
- 高温多湿の環境では、エアコンをうまく活用。
などがあります。また、掻いたときに皮膚を傷つけないように、爪は短く切っておきましょう。
あせもの症状が軽い場合には、入浴したあとに保湿剤を塗る、または市販の塗り薬を使用することで軽快することもあります。皮膚科で処方されるカラミンローション®はドラッグストアなどで購入できます。
ただし、カラミンローション®で余計にかゆみが強くなる場合や、数日間塗り薬を使って経過をみても皮膚炎が悪化する場合には皮膚科を受診してください。
今回紹介するステロイド外用剤は、あまり強いものでなないため大人のあせもには効果が少し弱いかもしれませんが、あせもはお子さんの患者さんが多いと思われるため、あえて弱いステロイド(お子さんでも使用できるもの)をご紹介。
さらに、アトピー性皮膚炎がある人は皮膚炎が長期間続くことで皮膚の中の汗管も破壊され、汗が皮膚の中で漏れやすくなっているため、汗をかくと痒くなることがわかっています。
そのせいか普段から無意識のうちに汗をあまりかかないように避けている方が多いようです。
ただ、発汗機能は日頃から訓練をしていないと衰えてしまうため、塗り薬などで皮膚症状をコントロールしながら、発汗することを少しずつ増やしていくと、きちんと汗をかけるようになり、湿疹も痒みも改善することが。
できる範囲で発汗機能を高めていくことをお勧めします。
さらに、アトピー性皮膚炎の人以外でも近年は空調が効いた室内で過ごすことができるため、発汗の機能が衰えてしまっている人が増えているようです。適切な発汗ができなくなると、熱中症などのリスクがあがります。
汗は悪者ではなく、生きるために必要不可欠なものとして、上手に付き合っていきましょう。また、きちんと汗をかくことができるかどうかは自律神経が正常に機能しているかをみるよい指標になります。
発汗機能は時々汗をしっかりかくトレーニングをして、衰えないように維持していくことも大切です。軽く汗をかく程度適度な運動や、入浴などにより、いい汗をかけるような習慣を身に着けましょう。
まとめ
あせもは、大量の汗をかいたときに、汗の正常な排出が妨げられることによって起こります。汗をかきやすい夏によく見られますが、暖房のよく効いた環境下では冬でもみられることが。
シャワーなどで皮膚を清潔にして、涼しい環境で過ごすことによって自然と消えていく場合もありますが、湿疹になってしまった場合は市販の塗り薬を使う、または皮膚科を受診して治療を受けるようにしましょう。
汗によるトラブルは厄介なものでも、汗をかくこと自体は決して悪いことではありません。必要以上に汗をかかないようにするよりも、気持ち良く汗をかいて、その後適切にケアをしていくことが大切だと考えます。
参考文献
皮膚科学 第10版 大塚 藤男他 金芳堂