皮膚の病気

アミロイド苔癬とは?痒みのあるブツブツは発症のサインかもしれません

アミロイド苔癬
藤井 麻美

お風呂でゴシゴシこすってもとれないかゆみのある茶色いブツブツに悩んでいる方、「アミロイド苔癬」という病気はご存じですか?

寝ている間もかゆみが止まらず、満足に眠ることもできない、何の病気なのかわからない。このまま範囲が広がっていってしまって、はたして治るのか。

悩んでいるうちに徐々に数が増えてきて、強いかゆみもあるのでつらい日々をお過ごしかと思います。

アミロイド苔癬の悩みを抱えながらも皮膚科を受診することが難しい方へ、これらの悩みを少しでも解決できればと考え、この記事を作成しましたので、ぜひお読みください。

アミロイド苔癬はアトピー性皮膚炎との合併に注意

アミロイド苔癬は、アミロイドというタンパク質が沈着することが原因のアミロイドーシスのひとつです。

沈着するアミロイドはいろいろな物質の組み合わせでできています1) 。アミロイドーシスの中でも、アミロイド苔癬はケラチンから作られたアミロイドが原因です。

ケラチンとは、皮膚や髪の毛の成分のタンパク質のこと。このアミロイドが、皮膚に沈着してしまうことが「ブツブツ」ができてしまう原因です。

実際にブツブツの部分の皮膚をとって診断のために検査をしてみると、アミロイドに色がついて顕微鏡でその存在を確認することが。

このことからも、アミロイドが皮膚に沈着していることで、かゆみやブツブツといったつらい症状を引き起こしていることがわかります。

アミロイド苔癬は、長時間の皮膚の炎症と、それによって引き起こされる慢性的な摩擦によって起こるのです。

そのため、よく知られているアトピー性皮膚炎に合併することがあります。アトピー性皮膚炎も、皮膚に慢性的な炎症を引き起こすアレルギーの病気であるためです。

過去の調査では、成人アトピー性皮膚炎の0.8%にアミロイド苔癬が合併していました。また、通常高齢者に多いアミロイド苔癬ですが、アトピー性皮膚炎と合併した場合には発症年齢が若く、下肢に症状が多いと報告が2)

お風呂場でナイロンタオルでゴシゴシこすっていることが原因で、斑状アミロイドーシスというアミロイド苔癬の仲間の病気になることもあります。

かゆみの症状を放置してしまうと、止まらずに引っ掻いてしまって、アミロイド苔癬の状態を引き起こしてしまうことがあるのです。

アミロイド苔癬は、世界の人種別にみると南アフリカや中東の方々に加えて、私たちアジア人に多いとされています。皮膚アミロイドーシスの中でもさまざまな型が存在。

その中でも、アミロイド苔癬は最も数が多く、割合は皮膚アミロイドーシス全体の約67%となっており、患者さんの3人に2人はアミロイド苔癬と診断3) 。アトピー性皮膚炎などの聞いたことがある病気にも合併するため、頻度が高くなります。

症状は痒みのあるブツブツ

アミロイド苔癬は、四肢、特に下腿前面、前腕、背部によくみられます。この部位にできやすいのは、慢性的に掻いてしまうことによる摩擦が起きやすいからです。

アミロイド苔癬
引用元:Medscape

1つ1つの大きさは2-4mmの米粒大くらいまでで、丸く盛り上がった丘疹(ブツブツのこと)が多発します。触るとザラザラしていて、強いかゆみを伴うことが多いです2)

ほとんどの場合で片方から症状が出ることが多いですが、次第に両側に症状が進行していきます。他に見た目が似ている病気に毛孔性苔癬、結節性痒疹、ビダール苔癬、扁平苔癬といった病気も。

皮膚科でも診断に迷った際には、皮膚生検を行います。皮膚生検を行うことで、皮膚にアミロイドが沈着していることを確認できるからです。

似たような症状にお悩みの方はご自身で判断されずに、皮膚科に受診していただくと診断をしっかりつけて、腰を据えて治療に進めるかと思います。

全身性アミロイドーシスとの関連

また、全身に症状が出る全身性アミロイドーシスという病気もあります。「全身性」という名前の通りに、沈着する対象は腎臓、心臓、骨、神経など多彩です。

アミロイドが沈着することで臓器は正常に働きにくくなります。心不全症状、蛋白尿、下痢など、全身性アミロイドーシスは症状も多彩です4)

また、皮膚も臓器の1つであるということをご存じでしょうか。そのため、全身性アミロイドーシスの症状の1つとして、皮膚に症状が出てくることもあります。

「皮膚は全身を映す鏡である」といった言葉があるように、皮膚科の診療から全身の病気が見つかることも。全身性アミロイドーシスで原因疾患がある場合は、その治療を優先し、専門科へご紹介します。

皮膚症状のみがみられる皮膚アミロイドーシスは、「皮膚」という臓器にピンポイントにアミロイドが沈着する病気。今回の記事で紹介したアミロイド苔癬もこの皮膚アミロイドーシスの1つです。

アミロイド苔癬の治療

アミロイド苔癬の治療としては、長期間持続したかゆみをまず抑えることが最も重要です。そのため、かゆみを標的として、まずステロイドや免疫抑制薬の外用を治療として行います

アミロイド苔癬には、比較的高いランクのステロイド外用薬を使用することが多いです。

ステロイド外用薬は抗炎症作用に優れており、効果発現が早いといったメリットがあります。そのため、皮膚科でよく使用される薬です。虫刺されやあせもなどありふれた病気でも日常的に使用しています。

しかし、それらのすぐに改善が見込めるような病気と違って、アミロイド苔癬では長期の治療期間が必要となることも多いのが実情。そのため外用薬を塗った部位の皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用も気になるところです。

他の外用薬として、免疫抑制薬の外用薬もよく使われます5) 。「タクロリムス」という一般名の外用薬です。

タクロリムス

免疫抑制薬は、使用後数日間の火照りの副作用や、かき壊した部位に塗るとしみるといったデメリットが。また、免疫抑制薬を外用している際は海水浴や日焼けサロンといった極端な紫外線への曝露を避ける必要があります。

このように、使い方に注意が必要な薬ではありますが、ステロイド外用薬にみられる皮膚萎縮や毛細血管拡張といった副作用はありません。

2つともよく使われる薬であり、双方にメリットとデメリットがあるので、実際に診察をして使用する薬を判断。外用薬の効果が出てくると、かゆみが減ってきて、ブツブツが平らに。

かゆみが改善することで、皮膚をひっかいてしまったり、タオルでゴシゴシ洗う回数が減ります。そのような外からの刺激のことを「機械刺激」といい、機械刺激の軽減が治療に必要です。

機械刺激を減らしたり、外用薬の吸収率を上げるといった目的で外用薬を塗る際にODT療法(occlusive dressings technique)を行うこともあります。

ODT療法とは、軟膏またはクリームを外用した後にサランラップやリント布といったガーゼのようなもので皮膚を覆い密封する治療法のことで、別名で密封療法とも。

リント布

外用薬による治療で、治療前と比較して症状に改善がみられた場合は、外用薬のみで治療を行いますが、かゆみがなかなか治らない場合は、免疫抑制薬を内服していただくこともあります。

内服薬は外用薬に加えて、体に与える副作用も大きいので、やはり最初の治療の選択肢としてはステロイド外用薬や免疫抑制薬の外用薬であることが多いです。

しかし、症状があまりに強く、日常生活に支障をきたしている場合などは患者様と相談しながら、初期治療に免疫抑制薬を使用するケースも。

また、元々アトピー性皮膚炎などがある方は、摩擦を避ける必要があります。日常から肌の炎症やかゆみの状態を良好に保ち、アミロイド苔癬が発症する前の予防的な観点も必要です。

実際にアミロイド苔癬ができてしまった場合も、早期に受診していただくことで、症状が悪化する前に早めに治療介入ができます。

最近の話題

近年では、アミロイド苔癬と汗の関係性についてが注目されています。アミロイド苔癬のかたの皮膚が乾燥していたり、皮膚を掻いていない(摩擦が起きていない)部位にアミロイド苔癬ができているかたがいるからです。

2020年には、アミロイド苔癬のある部位は通常の部位に比べて発汗が弱いことが発表されています。皮膚に症状が出ている部分にヘパリン類似物質クリームを外用したことで、アミロイド苔癬が改善し、発汗障害も同時に改善したという研究も6)

まとめ

アミロイド苔癬とは、皮膚にケラチンからできたアミロイドが沈着してできる病気です。

背中や下腿など摩擦が起きやすい部位によく症状が出ます。非常に強いかゆみを伴っている場合が強く、アトピー性皮膚炎と合併することがよく知られています。

治療は、基本的にはステロイドや免疫抑制薬による外用療法です。近年では発汗障害との関連性から保湿薬を外用することの重要性に関しても注目されてきました。

アミロイド苔癬で発汗障害があることがわかったのは、まだ最近のことで今後さらに研究が進んでいくでしょう。

アミロイド苔癬は難治であり、治療期間も長期にわたることが多い病気。この記事で紹介したような症状にお悩みの方は、早期に皮膚科を受診し、治療を開始していただければ幸いです。

この記事を読んでいただいた方で皮膚のことで不安になることがございましたら、お一人で抱え込まずに、ぜひ当クリニックへご相談ください。

参考文献

1) 山下 太郎ら. アミロイドーシスの最近の知見. 皮膚病診療 40:1086-1092, 2018. 

2) 宇佐美 奈央ら. アトピー性皮膚炎に合併した皮膚アミロイドーシス. 皮膚病診療 34:45-48, 2012. 

3) Wang WJ, et al. Clinical and histopathological characteristics of primary cutaneous amyloidosis in 794 Chinese patients. Zhonghua Yi Xue Za Zhi (Taipei). 2001 Feb;64(2):101-107. 

4) 山田 正仁ら. アミロイドーシス診療ガイドライン 2010. 2010年. 

5) Castanedo-Cazares JP, et al. Lichen amyloidosis improved by 0.1% topical tacrolimus Dermatology. 2002;205(4):420-421. doi: 10.1159/000066426.

6) 青山 裕美. 【汗とかゆみ】アミロイド苔癬、痒疹のかゆみと汗 疾患に合わせた汗への対処法. 皮膚アレルギーフロンティア 18(1):21-25, 2020. 

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