皮膚の病気

天疱瘡とはどんな病気?原因について徹底解説します

尋常性天疱瘡
藤井 麻美

皆さんは天疱瘡(てんぽうそう)という病気について聞いたことがありますか?

珍しい病気であるため、全く聞いたことがない、という方がほとんどなのではないでしょうか。また、自分や家族が診断され、医師から説明を受けたけれどどんな病気かよく分からなかった、という方もいらっしゃるのではと思います。

天疱瘡は、「自己免疫疾患」と呼ばれる病気の1つであり、原因や病態を理解するのが難しい病気の1つです。この記事では、天疱瘡の症状や病態、原因や治療について分かりやすく解説していきます。

天疱瘡は主に2つに分けられます

天疱瘡とは、体中の皮膚や粘膜に水疱(水ぶくれ)やびらん(皮膚や粘膜がはがれてその下の組織が露出した状態)が多数生じる病気であり、自己免疫性水疱性疾患と言われています。

天疱瘡には大きく分けて2つの分類があります。どちらも水疱やびらんを生じますが、生じる部位が異なります。

  • 尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)
  • 落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)

天疱瘡と診断される患者さんのうち、6割が尋常性天疱瘡、3割が落葉状天疱瘡に分類されるといわれています。

そのほかの1割は、腫瘍随伴性天疱瘡、増殖性天疱瘡、紅斑性天疱瘡など細かい分類がありますが、ここでは割愛します。

尋常性天疱瘡

口の中の口腔粘膜に、水疱やびらんが出来ることが特徴的です。

痛みやしみる感じを伴うため、ひどいときには食事をとったり飲み物を飲んだりすることが困難になることがあります。

口腔粘膜以外の粘膜にもできることがあり、代表的な部位としては唇、咽頭・喉頭(のどの粘膜)、食道、眼瞼結膜(瞼の粘膜)、膣に生じることも。

尋常性天疱瘡では、通常の皮膚にも水疱が生じることがあり、生じる場所は決まっておらず、全身どこにでもできます。

尋常性天疱瘡

皮膚の場合、一見正常に見える皮膚を強くこすったり、強い圧力をかけたりすると、その場所に容易に水疱ができるのが特徴です。この現象をニコルスキー現象といいます。

落葉状天疱瘡

尋常性天疱瘡とは異なり、口の中などの粘膜には水疱は生じず、皮膚だけに水疱やびらんができます。

尋常性天疱瘡よりも皮膚の浅い部位に生じるため、水疱が破れやすく、びらんやかさぶた、落屑(らくせつ=皮膚がフケのようにぽろぽろ剥がれる)のような症状をとることが多いです。

落葉状天疱瘡

尋常性天疱瘡と同様に、ニコルスキー現象が生じます。

<ここまでのポイント>

  • 尋常性天疱瘡は、口の中をはじめとする粘膜と、全身の皮膚に水疱やびらんができる。
  • 落葉状天疱瘡は皮膚のみに病変が生じる。
  • どちらも皮膚にニコルスキー現象が起きる。

天疱瘡の原因とは?

尋常性天疱瘡も落葉状天疱瘡もともに自己免疫疾患と呼ばれ、免疫機構が自分の体内にある物質に対して自己抗体を作り出し、攻撃してしまうことが原因です。

自己免疫疾患とはどのような病気なのでしょうか?

人の体には本来、細菌やウイルスなど外から入ってくる異物が体内に侵入したときに、それを攻撃して体の中から排除する機能が備わっています。これが免疫機構です。

免疫機能の優れている点の1つは、一度侵入してきた異物に対して抗体が作られるという点。抗体とは免疫機能が異物を攻撃するために作り出すいわば飛び道具のようなもので、免疫グロブリンともいわれるタンパク質です。

一度作られると体内に残り、2回目以降同じ異物が侵入したときに1回目より速やかに異物を排除しようとし、これを免疫記憶といいます。

例えば、一度麻疹(はしか)にかかると2回目以降麻疹にかかりにくくなったり症状が重症化しにくくなったりするのは、初めて麻疹のウイルスが体内に入ってきたときにそれに対する抗体が体の中で作られ、体内に残存するためです。

本来であれば上記のような反応は自分の体にはない異物のみにおこり、自分の体の細胞や物質には反応しないような仕組みになっています。

ところが、まれに免疫機構が誤って自分の体の細胞や物質を異物とみなして反応してしまい、自分の体に存在する物質に対して抗体が作られてしまうことがあります。これが、自己免疫疾患の原因です。この抗体のことを自己抗体といいます。

免疫機能が反応する対象はさまざまであり、それによって数多くの自己免疫疾患が発症。自己免疫疾患としてよく知られているものの1つに関節リウマチが。

天疱瘡では、皮膚や粘膜の表面を覆う表皮細胞の細胞同士をくっつけているデスモグレインという自分の体内に存在するタンパク質に対して自己抗体が作られてしまい、それがデスモグレインを攻撃することで細胞の間の接着が弱くなってしまいうのです。

皮膚や粘膜の表面に存在する表皮は、本来体の表面にかかる刺激から体の中を守るバリアとしての役目をしており、丈夫でなければなりません。

細胞が電車の車両だとしたら、デスモグレインは連結部分のような役割を果たすタンパク質です。これが攻撃されてしまうと、表皮の細胞同士がうまく連結できず、弱い力でも表皮の細胞はその強度を保てずバラバラになりやすくなってしまいます。

これが、天疱瘡では皮膚や粘膜に水疱やびらんが多発してしまう理由です。

尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡で病変が出る場所が異なるのは、それぞれ自己抗体が攻撃するデスモグレインの種類が異なるため。

尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3(Dsg3)に対して、落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1(Dsg1)に対して自己抗体が作られます。

尋常性天疱瘡

デスモグレイン1は皮膚にだけ存在。デスモグレイン3は主に口の中や食道の粘膜に存在しますが、皮膚にもわずかに存在しています。そのため、先に説明したように病変が出る場所が異なるのです。

<ポイント>

  • 天疱瘡は自己免疫疾患である。
  • 尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3に対して、落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1に対して自己抗体が作られる。
  • デスモグレイン1とデスモグレイン3は存在する場所が異なるため、病変が出る場所が異なる。

治療

天疱瘡の治療は原因が自己の免疫機構であるため、免疫を抑制することが必要になります。その内容としては、

  • ステロイド治療
  • 免疫抑制剤
  • 免疫グロブリン大量静注療法
  • 血漿交換療法

などがあります。

天疱瘡の治療では、まずステロイドの内服治療が。

ステロイドは別名副腎皮質ホルモン、コルチコステロイドなどとも呼ばれ、腎臓の上にある副腎という臓器から人の体内でも分泌されている物質。強い抗炎症作用と速やかな免疫抑制作用を持ち、天疱瘡治療の第一選択薬です。

このように強力かつ速やかな作用をもつステロイドですが、その反面副作用も多様。肥満、糖尿病、胃潰瘍、高血圧、骨粗鬆症、高脂血症、免疫力低下により感染症にかかりやすくなる、などの副作用に注意が必要です。

ステロイド内服のみで不十分と判断された場合には、免疫抑制剤、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法などを必要に応じて選択し、併用します。これらの治療は改善がみられるまで何度も繰り返すことが。

治療効果が得られたかどうかは、水疱やびらんが新しくできないこと、もともとあった病変が再び表皮で覆われてくることを確認します。

治療の目標は、その後ステロイド剤を徐々に減らしていき、無治療あるいは非常に少ないステロイドの量で寛解状態を維持することです。

寛解状態とは、一時的または永続的に症状がなくなっている状態のことで、天疱瘡では水疱やびらんが新たにできない状態を指します。

寛解状態の期間は、再発せずに長い間過ごすことができるかもしれませんが、症状がぶり返して再発する可能性も。

再発した場合は、最初の治療よりもステロイドの量を増量して治療を再開します。早い段階からその他の治療を併用したり、初回の治療でこれらを併用していた場合は、異なる治療を考慮することも。

天疱瘡の治療では、何よりも初期の治療が重要です。皮膚科専門医による治療は必須となります。皮膚科専門医の主治医の先生を見つけて、気になることを相談し、情報を共有しながら治療を進めていくことが重要です。

まとめ

天疱瘡は比較的珍しい病気であまり知られていないため、症状が出てきても口内炎や肌の荒れとして様子を見てしまったり、範囲が広まると恥ずかしさから人に相談しにくくなってしまったりと、受診が遅れがちになる病気だと思います。

天疱瘡も、他の病気と同じように早期発見、早期治療が非常に重要です。

この記事を読み、「この症状は天疱瘡かもしれない・・・」と思った場合は、皮膚科のかかりつけ医にお早めにご相談ください。

参考文献

1.  天疱瘡診療ガイドライン. 2010年. 
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913421_1.pdf

2.  公益社団法人日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A. 天疱瘡
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa30/index.html

3.  難病情報センター. 天疱瘡. 
https://www.nanbyou.or.jp/entry/153

4.  稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班. 
https://kinan.info/

5.  厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. 私は接種できますか?. 私は基礎疾患(持病)を持っていますが、ワクチンを接種することはできますか。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0031.html

6.  日本薬剤師会. 薬剤師から一般の方々に向けた新型コロナウイルスワクチンに関するFAQ. 
https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/faq0621.pdf

7.  公益社団法人日本皮膚科学会. 皮膚科Q&A. 類天疱瘡
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa15/index.html

8.  類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン 2017年. 
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf

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