白髪が多い人はハゲないというのは本当?ちまたの噂に惑わされないために覚えておきたい抜け毛と白髪の関係
「自分は若白髪だから、将来禿げなくてラッキーだ」
「白髪の人は、歳を取っても髪の毛がフサフサだ」
などという意見を聞いたことはないでしょうか?
「白髪が多いとハゲにくい」という噂には、医学的な根拠はありません。白髪やハゲは、見た目に直結することですから、これらの症状でお悩みの方も、なかなか他の人に相談しにくいですよね。
市販薬や自由診療でも、白髪やハゲに効果があると謳った商品がたくさんあります。それらの一部は、医学的な根拠がないにもかかわらず高額なものなどがあり、注意が必要です。
今回は、白髪やハゲについて、今わかっている医学的な事実を解説していきます。
白髪になる仕組みにはメラニンが関係しています
個人差はあるものの、50歳くらいまでにはほとんどの方に白髪ができます。
なぜ白髪ができるのでしょうか。まずは、毛ができる過程からご説明。
毛は、皮膚に埋まっている毛包と呼ばれる毛の奥の場所で作られ、毛包にある毛包幹細胞から毛母細胞が作り出され、毛の周期に応じて細胞分裂をして、角化という変化をすることで毛が伸びていきます1) 。
毛の成長に合わせて、色素幹細胞から色素細胞ができ、色素細胞で作られたメラニン色素という色味の成分が角化した細胞に。うつされたメラニン顆粒が毛の全体に分布することで、毛に色がつきます。
人種などにより、メラニンの種類や量が異なることで、髪の色は黒色、褐色、ブロンド、金髪、赤色などさまざまな色に。この毛のメラニンは、太陽光のUVにより細胞のDNAが傷つくのを防ぐ働きがあります2) 。
メラニンが作られ分布する過程で異常があった場合、毛は白毛化し、白髪に。具体的には、色素幹細胞が減る3) 、色素細胞でメラニンが作れない1), 4) 、メラニンが毛に行き渡らない5) などの場合です。
長年の紫外線の影響によるDNA障害や、遺伝子変異の蓄積などにより、色素幹細胞が減少することで白髪が増えるとされています。
その他にもメラニン色素の代謝経路に関与するチロジナーゼ活性の低下や、毛の表面を形成する皮質細胞との相互作用の障害があるのではないかとされていますが、はっきりとしたメカニズムはまだわかっていません。
20歳くらいから白髪が目立つ、いわゆる若白髪というものがありますが、こちらも家族性の傾向があり、遺伝の影響が考えられています。白髪が目立つ以外には症状はないので、病気というより体質に近いものでしょう。
また、同じように遺伝性であっても、アルビノといわれる生まれながらにメラニン色素の合成が低下、欠損している病気もあり、眼皮膚白皮症として難病指定されています。
アルビノの原因の遺伝子は20種類が明らかになっており、髪以外全身のメラニン色素がないため、皮膚、髪、眼の色調が薄くなります。その他の病気でも白髪ができることがあります。
別項で病気による白髪は解説しますが、アルビノや病気による白髪と、若白髪や加齢による白髪の「遺伝」に共通点があるかどうかは、今後の研究で明らかにされるところでしょう。
薄毛や抜け毛の原因とは。白髪との関係性は?
薄毛や抜け毛にはいくつか種類がありますが、一番頻度の多いものとしては、男性型脱毛、Androgenetic Alopecia(AGA)があります。50歳代以降の日本人男性の、40%ほどに発生するといわれています。
おでこの生え際や頭頂部の毛が、最初は一本一本が柔らかく細く短くなり、最終的に毛が抜けて生えてこなくなり、原因は遺伝性素因と男性ホルモンによる影響です6) 。
女性でも更年期以降に起こる女性型脱毛症というものがありますが、男性型とは少し原因や症状が現れる場所が異なります。
通常、男性ホルモンは髭などの体毛を濃くする働きがありますが、おでこの生え際や頭頂部では、逆に毛を軟らかくし、毛の成長する期間を短縮させる効果が。
AGAと白髪に共通しているのは、まずは、加齢による影響を受ける点です。加齢により脱毛症や白髪の頻度は増えます。最近、17型コラーゲンというコラーゲンの一種が、脱毛と白髪の両方の発生に関与していることがわかりました7) 。
17型コラーゲンは毛の産生に必要な毛包幹細胞と色素幹細胞の機能を維持する役割を担っています。17型コラーゲンが欠損すると、脱毛と白髪を起こすことがわかりました。
加齢や17型コラーゲン以外の原因、抜け毛と白髪の共通点はまだまだ研究段階です。よく、ストレスが原因で一気に白髪が増える、ハゲるのではという噂があります。
白髪に関しては、最近動物実験でストレスとの関連性がありそうということがわかりました8) 。脱毛に関しては、円形脱毛症で関連するかもしれない程度で、ストレスが原因でハゲる・AGAになるとはいえません9) 。
脱毛症には男性型、女性型以外にも円形脱毛症、膠原病や甲状腺の病気にともなっておこる脱毛、貧血や急激なダイエットなどが原因となる休止期脱毛などがあります。
円形脱毛症や他に原因があって二次的に脱毛が起こっている場合には、皮膚科や内科で治療を行うことで改善が期待できる場合が。また、男性型脱毛や女性型脱毛の場合には、自由診療ではあっても、内服薬や外用薬で治療が可能です。脱毛、薄毛でお困りの際には、一度皮膚科にご相談ください。
白髪が増える病気とは
加齢による白髪は、一般的には30代後半から50代後半にかけて始まり、50歳までに約半数が毛髪の50%程度で白髪になるといわれています10) 。加齢性の変化だと思っていたら、実は病気だったということも。ここでは白髪が増える病気について解説していきます。
まずは病気の一覧。
- ウェルナー症候群
- 甲状腺機能低下症
- 巨赤芽球性貧血
- 悪性貧血
順に詳しくみていきましょう。
ウェルナー症候群
ウェルナー症候群11), 12), 13) は遺伝性の早老症です。
20代から白髪や脱毛、両目の白内障、全身の筋力の低下などが起こり、実年齢より老けてみえます。老化にともなって合併しやすい糖尿病や脂質異常症、心筋梗塞、がんを合併し、それらの合併症で早くに命を落とすことも。
ウェルナー症候群の平均寿命は、かつて40歳代半ばとかなり短いものでしたが、合併症の治療の進歩もあり、平均寿命は10年ほど伸びています。ウェルナー症候群の原因はWRN遺伝子という遺伝子の異常であることがわかっていますが、なぜWNRの異常で老化が早く進んでしまうのかはわかっていません。
遺伝病ではありますが、ウェルナー症候群は両親から受けついだ2本のペアのWRN遺伝子が、2本とも異常がある時にだけ発症します。2本のうち1本の異常では症状は出ないので、両親は病気を発病していないことがほとんどです。日本では約2000人、5〜6万人に一人の頻度でおこる、まれな病気。
根本的な治療はまだなく、合併症に対してそれぞれ治療を行なっていきます。まれな病気ですが、20歳以降から白髪や脱毛などの毛髪の変化がでたり、白内障、皮膚や筋力の低下があったりする場合には、ウェルナー症候群を考える必要が。
特に若年性の白髪でお悩みがある場合は、皮膚科や内科にご相談いただくのがよいでしょう。
甲状腺機能低下症
甲状腺の病気である甲状腺機能低下症が、白髪の原因となることが。甲状腺ホルモンは毛球における毛母細胞や色素細胞の代謝に影響し、脱毛や白髪の原因になるといわれています。こちらの詳細なメカニズムはわかっていません。
甲状腺機能低下症に伴う脱毛は、休止期脱毛といって、毛がゼロになっているわけではなく、毛周期で毛の産生を止めている期間に入っているだけです。多くは甲状腺の治療を行うことで脱毛症状は改善します。
赤芽球性貧血 悪性貧血
ビタミンB12欠乏や、葉酸不足などで起こる、赤芽球性貧血14) 、悪性貧血も白髪の原因になります。
巨赤芽球性貧血は、血中の血液成分を作る骨髄という場所に、本来であれば存在しない巨赤芽球という異常な赤芽球が認められる病気です。赤芽球は本来であれば赤血球になるはずですが、異常の起こった巨赤芽球は赤血球になれません。そのため、赤血球が不足し、貧血。
ビタミンB12や葉酸の摂取不足、胃の手術後や萎縮性胃炎を伴う悪性貧血15) 、小腸の病気で吸収障害が起こった場合、先天性のビタミンB12代謝異常であるコバラミン輸送・代謝異常、葉酸代謝異常があると、赤芽球ができる過程でDNA合成が障害され、異常な巨赤芽球が作られます。
ビタミンB12や葉酸の吸収障害を起こす薬剤や、DNA合成を障害する薬剤でも発生。巨赤芽球性貧血では、貧血症状としての動悸、息切れ、疲れやすいという症状に加え、Hunter舌炎という特徴的な舌炎や下痢などの消化器症状、手足のしびれ、筋力低下、そして若年の白髪が症状の特徴です。
一般的に白髪は一度起こると改善しないといわれていますが、白髪化の初期では治療で改善することもあります1) 。また、加齢による白髪だと思っても、実際は悪性貧血によるもので、治療により20年来の白髪が黒髪に改善したという例も16) 。
加齢以外の原因があり、白髪ができる場合には、白髪以外にも多くは貧血の症状などを伴います。白髪以外の症状がある場合には、内科でご相談ください。
白髪を染めることは薄毛に影響する?
年齢とともに白髪が増えてきたら、白髪を隠したいと思う方もいらっしゃるでしょう。残念ながら、できてしまった白髪をもとに戻す特効薬はまだありません。できてしまった白髪を隠すには、白髪染めがよいでしょう。
白髪染めをしても、薄毛や脱毛、AGAには影響しません。ただし、毛染めでアレルギー症状や頭皮のトラブルがでる場合には、使用を中止しましょう。頭皮の炎症を放置しておくと、薄毛や脱毛に影響する可能性があります。
白髪染めの染毛のメカニズムをご説明します17) 。毛染めのアルカリ成分が髪を膨らませ、有効成分の酸化染料と過酸化水素が髪に浸透。髪に浸透した染料が過酸化水素で酸化すると、発色し、白髪が染まります。注意したいのが、成分によるアレルギー性の皮膚障害です18) 。
白髪染めには種類がたくさんありますが、ほとんど酸化染料が含まれています。この酸化染料は、アレルギーを引き起こしやすいといわれています。毛の根本を染めようとすると染料が頭皮に接触しますが、その際にアレルギー性接触皮膚炎を起こす場合が。
アレルギー性接触性皮膚炎は、これまでに同じ製剤を使って問題なかった場合でも、繰り返し使うことで発症することもあります。その経過で徐々に症状が強くなり、頭皮のかぶれ以外にも全身の皮膚炎や呼吸器症状などの重篤なアレルギー症状を起こすことも。
また、染料でアレルギー症状が出てしまった場合、白髪染め以外の成分でも同様の症状がでる、交差反応というものを起こす可能性もあります。
白髪染めの酸化染料と交差反応を起こすものとしては、歯医者などで用いる局所麻酔剤(ベンゾカイン、プロカイン)、美白剤(ハイドロキノン)などが19) 。白髪染めで症状が出てしまった場合には、白髪染め以外の製剤の使用にも注意が必要です。
アレルギー症状がでた場合には、速やかに皮膚科や内科にご相談ください。また、毛染めや交差反応を起こすものの使用も避けましょう。
白髪でもAGA治療ができる?
白髪でもAGA治療は可能です。AGA治療で薄毛の予防、増毛効果は十分にあります。ただし、AGA治療を行っても、白髪を黒色など元の色に戻すことはできません。
AGAの治療は、フィナステリド、デュタステリドの内服、ミノキシジルの外用、自家植毛術、低出力レーザ照射などが、科学的根拠のある治療です6) 。
フィナステリド、デュタステリドの内服と、ミノキシジルの塗り薬は、男性型脱毛症には十分な効果が認められています。内服や外用で効果が乏しい場合、自毛植毛術やLED、低出力レーザー照射、カルプロニウム塩酸物の内服などの選択肢が。
いずれも白髪でも行えるAGAの治療で、薄毛や脱毛でお困りの際にはAGA治療がおすすめです。円形脱毛症などの脱毛症や、頭皮に皮膚炎などの異常がある場合は、保険診療で治療を行うことができます。
男性型脱毛症、女性型脱毛症の治療は保険のきかない自由診療に。頭皮に痒みやその他のトラブルがなく、脱毛のみの治療であれば、自由診療も行なっている皮膚科や美容皮膚科でご相談いただくのがよいでしょう。
白髪に対するおすすめのヘアケア
加齢による白髪の場合、予防や進行を遅らせたり、白髪をもとに戻したりする治療薬は残念がながら、まだありません。色素幹細胞の存在と、その幹細胞を維持するための17型コラーゲンなどの物質や、メカニズムが解明されつつあり、今後研究が進めば、予防薬や治療薬が出てくる可能性も。
白髪になっても、毛の質を保つことはできます。髪の毛が切れやすく柔らかくなってしまうと、髪のボリュームが減って、最終的には薄毛や脱毛に。白髪で薄毛や脱毛となると、悩みが増えてしまいます。髪の質を保つためのポイントやヘアケアについても解説しましょう。
まず基本的なことですが、バランスのとれた食生活、適度な睡眠、適度な運動は白髪や脱毛などの頭皮の環境を正常に保つための重要なポイントです。特に、喫煙に関しては、脱毛症の原因や悪化因子、若年性の白髪に関連していることがわかっています20) 。白髪、脱毛の予防のためにも禁煙してください。
ヘアケアのポイントは、シャンプーはお湯でよくすすぐことです。シャンプー自体は頭皮の状態や好みによって使い分けていただければと思います。白髪を予防する効果は証明されていませんが、頭皮のことを考えると、洗浄力が高すぎるシャンプーは皮膚の刺激が強く、頭皮環境が悪化する可能性が。
脱毛については、2%ケトコナゾールシャンプーという抗カビ薬を含んだシャンプーが男性型脱毛症に有効だろうとされています6) 。頭皮のかゆみやフケのでる脂漏性皮膚炎でも、2%ケトコナゾールシャンプーは効果が。
どのようなシャンプーを使っても、すすぎは十分に行いましょう。すすぎが足りずにシャンプーなどの成分が頭皮に残ることでも、頭皮の状態は悪化してしまいます。
白髪に対するおすすめの食べ物
まずは無理な食事制限をせずに、バランスの整った健康的な食事が重要です。ビタミンB12欠乏、葉酸の不足で白髪ができやすくなりますが、悪性貧血や胃や腸の手術の後は、食事からビタミンB12や葉酸が吸収できなくなります。
これらの病気がなくても、ビタミンB12が豊富な魚や肉などを食べないベジタリアンは、ビタミンB12不足、妊婦は葉酸不足となりやすいとされ21) 、食事の改善や貧血、胃の治療を行うことで白髪が完全に治ることも。
チロシンは、メラニンのもとになるアミノ酸ということで、白髪予防効果があるのではとされていますが、残念ながら科学的な根拠はありません。
食事のバランスを整えつつ、不足しがちなビタミンB12や葉酸はサプリメントで追加するとよいかもしれません。
まとめ
今回は白髪を中心に髪の悩みについて解説をしていきました。
白髪の予防や進行を抑える明確な対策や治療はまだありませんが、AGAとの共通の原因も解明されつつあり、今後の研究に期待が大きいです。
また、白髪があってもAGAの治療は可能ですので、進行してしまう前にぜひ病院でご相談ください。
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