「植毛は拒絶反応があるからやめた方がいい」というのが大間違いな理由
「髪の毛が薄くなってきた」
「なかなかAGA治療の効果が出ない」
と不安になり、植毛という方法を知った方は多いのではないでしょうか?
しかし植毛にはよくない噂もあり、実際に検索してみると
「後悔」「気持ち悪い」「抜ける」などネガティブな内容も。
今回は植毛の仕組みやメリットデメリットを説明しますので、植毛があなたにあった方法なのかの判断材料になれば幸いです。
もちろん植毛にも良い点があり、おすすめできる方もいらっしゃいます。最後まで読み、あなたに合った薄毛治療方法か判断していただければ幸いです。
植毛とは
植毛とは、薄毛になった部位に毛髪を埋め込み薄毛を改善する施術のことを指します。
詳しくは後述しますが、植毛には自分の頭皮組織を切り取って移植する「自毛植毛」と、人工毛を植える「人工毛植毛」の2種類です。
植毛と育毛・発毛・増毛の違い
薄くなった部位を改善する方法としては植毛以外にも、育毛・発毛といったものもこちらの方が一般的かもしれません)。
あなたが薄毛改善方法として本当に植毛を選ぶべきなのか、それぞれの特徴を紹介します。
育毛
育毛は文字どおり、髪の毛を育てること。現在生えている髪の毛の成長を促し太く長くすることによって、髪のボリュームを増やします。
具体的には、フケや痒みを抑え、頭皮環境を清潔・正常に整えることにより抜け毛を減らすというアプローチがメイン。しかし、育毛剤は医学的な発毛効果が認められておらず、あくまで予防といった役割しかありません。
髪の毛にとっての頭皮は、畑でいう土壌のようなものですから、頭皮環境が整うことによって、抜け毛が減ったり健康的な髪の毛が生えやすくなったりということはあるかもしれません。
ですが、多くの場合の薄毛の原因はホルモンバランスの影響ですから、この予防にどのような効果があるのか医学的な根拠はないのです。
よくテレビCMではいかにも髪の毛が生えてきそうなシャンプーを目にしまが、あれらも医薬品ではなく、あくまで頭皮の環境を整えるだけであり発毛効果がないことを理解しておきましょう。
発毛
発毛は、髪の毛を生やすことを目的にしており毛根から毛が生えるようにするのが目的です。
先ほど育毛では「髪の毛を生やす」という表現はだめだと書きましたが、発毛は髪の毛を生やす効果があるとうたうことができます。
この違いは、医薬品を利用しているかどうか。医療機関でしか処方できない「医薬成分」が配合された薬を使っているのが、発毛に効果があるものです。
主にミノキシジルやフィナステリドといった成分が配合された内服薬や外用薬を使い発毛を促進。育毛剤は予防的効果があるのに対し、発毛剤は薄毛になってしまった状態を改善できるという違いがあります。
増毛
育毛・発毛はあくまで地毛を増やすというアプローチでしたが、増毛は少し異なります。
増毛は人工毛を結びつけるか、人工毛を地肌に貼り付けるなどして髪のボリュームを出す方法。地毛が増えないという点ではエクステやウィッグ(かつら)といったものに近い手法かもしれません。
ちなみに、人工毛を結びつける方法には2種類あります。
- 地肌に編み込み用の土台を作りそこに人工毛を編み込んでいくもの
- 頭髪の根元に人工毛を結びつけていくもの
テレビCMで見かける、アートネーチャーのお試し増毛は後者の毛髪に結びつけていくものですね。
ウィッグ(かつら)と違うのは、着脱の必要がなく、ほぼ自分の髪の毛として過ごすことができ、激しいスポーツでも耐えることができる点です。
ただし増毛は髪が伸びることによって、当然つけた人工毛が浮いてきてしまいます。
そのため月に1度ほどメンテナンスを行う必要があり、金銭的な部分よりもこのメンテナンスの手間が続けるためのネックなのではないでしょうか。
植毛には2つの種類がある
植毛には「自毛植毛」と「人工毛増毛」2つの種類があります。
自毛植毛
自毛植毛とは自分の毛を頭皮に植えて毛を増やす方法。
以下の画像はハミルトンノーウッド分類という、男性の薄毛となる原因のAGA進行を分類わけしたものです。
AGAは、頭頂部と生え際から進行しますが、側頭部や後頭部は薄毛になりにくくなっています。
ですので、後頭部から採取した頭皮組織を、髪が薄くなった部分に移植するのですが、自毛植毛の素晴らしい点は植毛した部位に移植前部位の発毛力を持たすことができるという点です。
自分の体を使っているので生着率も80%を超え、移植した毛組織は1週間ほどで生着、その後は普段通り髪の毛を洗ったり運動も可能。
生着後は後頭部と同じように髪が生え、仮にその部位の髪の毛が抜けてしまっても組織が地肌に生着していれば生え変わり新しい髪が生えてきます。
つまり本来薄毛になりやすい(なっていた)頭頂部や生え際に、薄毛になりにくい後頭部の特徴を持たせることができるのです。
ただし術後は1ヶ月ほどで植毛した部分の周りの毛が抜け落ちるショックロスが起き、生着後発毛するまで6ヶ月ほどかかります。
そこから他の髪の毛と同じ長さになるまで待たないといけないと考えると、実際には髪が生え揃うまでには1~2年ほどの時間がかかると考えてください。
具体的に元々の髪の長さが6cmの場合で考えると、発毛効果が得られた5ヶ月後から毎月1cm伸びて6ヶ月後に6cm(毛髪は1ヶ月で1cm伸びます)。
発毛効果を得る期間6ヶ月 + 髪が伸びる期間6ヶ月(1cm/1ヶ月)=12ヶ月、という計算です。
人工毛植毛
人工毛植毛とは、人工の毛を頭皮に植えて毛を増やす方法のことです。
素材にはポリエステルやナイロンといった、体に拒絶反応が出にくいものを使用します。さらに表面には毛髪に近い色味・艶を出しキューティクルの構造も再現しているものもあり、ぱっと見では地毛にしか見えません。
人工毛植毛最大のメリットはすぐに髪の毛の量を増やすことができ、毛の長さも量も自在に選べると言うこと。
自毛植毛は生着し、地毛と馴染むまで長ければ1年ほどかかりますが、人工毛であれば植毛直後からボリュームアップを実感できます。
とはいえ人工毛植毛にもさまざまなデメリットが。
まず、人間の体にはウイルスや異物などを排除する免疫機能が備わっています。この免疫機能により、人工毛を異物とみなし体から排出しようとする結果、人工毛は徐々に抜け落ちていき、1年で6割以上が抜け落ちます。
この抜けた人工毛は通常の毛穴のように次の髪が生えてくることはありませんから、1年で1〜2回のメンテナンスとして新しい人工毛を植える必要が。
定期的に植毛しなければならないため、お財布にはもちろん、体にも大きな負担になるでしょう。
そして何より重要なのが人工毛の安全性についてです。
本来、自然な毛髪であれば少しづつ伸び生え変わるため毛穴の根本にある皮脂や汚れが押し出されてゆく自浄作用が働きます。
しかし、人工毛は成長しませんからこの生え変わりによる自浄作用は見込めません。さらに人工毛植毛というのは、通常の毛髪よりも深い位置に埋め込むため
- 深くに細菌が入り込む
- 千切れた人工毛が皮膚の中に残ってしまう
というリスクもあります。
細菌が人工毛に沿って皮膚の中に入ると、頭皮に炎症が起こる可能性もあり人工毛部分以外の頭髪にも悪影響を及ぼすことも。
自毛・人工毛のメリットデメリット
自毛・人工毛のメリットデメリットを簡単にまとめさせていただきました。
植毛の種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自毛植毛 | ・半永久的に発毛効果 ・拒絶反応が起こりにくい ・ヘアアレンジが楽しめる ・メンテナンスがゼロ | ・費用が高額 ・見た目が整うまで1年近くかかる |
人工毛植毛 | ・即効性がある ・短期的には期待通りの効果 ・見た目が自然な仕上がり ・費用が低額 | ・1年で6~8割が抜ける ・継続的なメンテナンスが必要 ・拒絶反応、感染症のリスク ・髪型変更ができない |
時間とお金さえあれば、自毛植毛の方が大きなデメリットはないように思えます。
どんな人でも植毛は有効か?
ここまでですと「自毛植毛が一番」となってしまいそうですが、スキンヘッドの状態になっている方も自毛植毛は有効なのでしょうか?
結論をいうと、スキンヘッドの状態によりますが、自毛植毛での対応は難しいでしょう。
スキンヘッドにされている方の中には、全体の毛髪が薄くなり全体を剃っている方もいれば、特定の部位に全く髪がないツルツルのスキンヘッドの状態の方もいらっしゃいます。
なぜ(部分的に)全く髪が生えなくなるかというと、これは毛周期の上限を迎えその部位の毛根が死滅してしまったためです。
死滅した毛根からは二度と髪の毛が生えてこないので、AGAの治療薬を使っても改善することはかなり難しいのですが、自毛植毛ならこの問題を改善することができます。
ただし自毛植毛は自分の毛髪を使うため、少ない部分からドナー株を取り広範囲に植毛するということは難しいのです。
また、ドナー株を採取した箇所・それを植えた箇所に傷が見えてしまいますので非常に目立ってしまいます。
以上のことから、薄毛の症状が少ないスキンヘッドであれば髪の毛を伸ばした状態で自毛植毛を行える可能性はありますが、さまざまなことを考えるとすぐに見た目が整う人工毛植毛が有効です。
ただし、人工毛植毛には大きなリスクが伴うとされています。次に日本皮膚科学会ガイドラインによる薄毛治療の推奨度を確認してみましょう。
日本皮膚科学会ガイドラインによる推奨度
植毛の大まかな手法や種類・メリットデメリットは理解できましたが、植毛は薄毛対策として最善の方法なのでしょうか?
日本皮膚科学会ガイドラインによると、
A~Dの推奨度は以下のように設定されています。
A.行うよう強く勧める
B.行うよう勧める
C1.行ってもよい
C2.行わないほうがよい
D.行うべきではない
自毛植毛の推奨度はB[行うよう勧める]となっており、行うことが進められています。しかし、より推奨される方法として、推奨度Aにフィナステリド・デュタステリド・ミノキシジルがあるという点に注目してください。
フィナステリド・デュタステリド・ミノキシジルも手術を伴わず利用できますので、やはり植毛を第一選択の薄毛治療方法と考える必要はなさそうです。
一方で人工毛植毛はD評価[行なうべきでない]となっております。具体的な人工毛植毛についての記述は以下のとおり
人工毛植毛術の有用性に関して,1 件の症例集積試験が実施されている.人工毛(biofibre®)を用いた,133 名の被験者を対象とした観察期間 3 年間の症例集積試験において72),91.4%の症例では人工毛の脱落が10%以下,7.8%の症例で15%,0.8%の症例で20%の脱落であったと報告されているものの,長期間にわたり利益が危険性を上回るとする根拠は乏しい.
(一部省略)日本国内で人工毛植毛術を施行することに医療法上の問題はないが,有害事象の発生を看過できないため,安全性に関する高い水準の根拠が得られるまでは,原則として人工毛植毛術を行うべきではない.
はっきりと、人工毛植毛は行うべきでないとありますね。
まとめ
今回薄毛治療としての植毛施術を説明してきましたが、医学的なガイドラインでは、自毛植毛は、推奨度B[行うよう勧める]、人工毛植毛は、推奨度D[行うべきではない]、です。
おそらく植毛で後悔している方の多くは、人工毛植毛を選択された方ではないかと思います。ただし、現在の日本では人工毛植毛を行うクリニックは少ないため、そこまで警戒する必要はなさそうです。
自毛植毛は考えても良いかもしれませんが、いずれにせよまずは推奨度の最も高いフィナステリド・デュタステリド・ミノキシジルといった内服薬・外用薬を試すことから始めるべきでしょう。
植毛を専門で行っているクリニックは稀にありますし、場合によっては植毛という選択肢がベストかもしれませんが、まずは一般的なAGAクリニックに相談にいかれることをお勧めいたします。
参考文献
1) 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf