年をとってから後悔しないために AGAの治療は若いうちから検討を
みなさんは、男性型脱毛症、AGAというと40〜50歳代の病気と思っているかもしれません。薄毛についての大規模なアンケートでは、男性は38歳くらい、女性は42歳くらいから「薄毛が気になりだした」という結果があります1)。
20代の方からすると、まだまだ自分は大丈夫だと安心してしまうかもしれませんね。しかし、実は、若いからといってあまり安心できません。
実際に周りから薄毛が目立つようになるのに年数がかかるだけで、AGAは20代の若いうちからすでにはじまっているのです。AGAは20代の10人に1人ではじまり、年齢とともに徐々に増えていきます。
AGAの発症は、遺伝と男性ホルモン、年齢の影響を受けます。遺伝しないようにしたり男性ホルモンを出ないようにしたりするのは、非常に難しいことです。
唯一早めに対策できそうなのが年齢です。若いうちから頭皮ケアなどの予防を行いつつ、発症早期に治療をスタートすることで、AGAの進行も抑えることが。
薬の効果もAGAが進行してしまってからはじめるのと、早めに始めておくのでは違ってきます。早期発見・早期治療が大事なのは、どのような病気も同じですね。
自分はまだ若いから関係なさそうだ、と考えず、ぜひ若いうちから正しい知識を身につけて、AGAの予防と治療を行いましょう。
AGAと年齢|髪の薄さに気がついたそのときからの対策が勧められます
AGAは20歳代後半から30歳代にはじまり、40歳代以降には完成形になってしまいます2) 。20代で10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40%と年齢とともに高く。女性のFAGAの場合には、男性に比べると遅い発症で、ピークの年齢はより高齢になりますが、いずれにしろ年齢によって増加します。
年齢以外にも、遺伝的な影響を受けるため、若くからAGAが発症する人もいれば、40〜50代でも髪がフサフサの人もいます。何歳になったら絶対に発症するというものではありませんが、遺伝的にAGAになりそうな方や不安がある方は、早めに対策していただくのがよさそうです。
若いうちにAGA治療を行った方が良いでしょう
全ての人が、若いうちからAGA治療が必須というわけではありませんが、頭皮ケアはすべての方がしておいた方がよいでしょう。頭皮のトラブルは脱毛の原因になりますし、年齢による変化は誰しも起こり得ます。頭皮ケアは必要です。
また、予防をしてもAGAは完全には防ぐことはできません。AGAの治療を行う場合には、早期から治療をおこなった方が治療効果も高く、病気の進行を抑えることができます。なかなか完全にハゲてしまってから毛を生やすのは困難なことです。そうなる前の段階から治療をスタートしましょう。
AGAの初期の薄毛は、生え際からはじまります。抜け毛の増加や、毛の細さ、弱さを感じはじめるのも、初期の症状といえます。
生え際の変化だけでは、周囲からあまり気づかれませんが、すでにAGAははじまっているのです。AGAが進行すると生え際がハゲあがっていくM字ハゲが特徴的ですが、頭頂部の薄毛・脱毛も合併するようにな。頭頂部だけO型にハゲていくタイプのAGAもあります。
人の細胞分裂回数は有限
わたしたちの体の細胞には、一つ一つにすべて寿命があり、細胞が分裂できる回数には限度があります3) 。ある一定の回数分裂をすると分裂のスピードがゆるやかになり、最終的には分裂ができなく。これを細胞の老化といい、毛髪でも同じことが起こります。
毛を太くフサフサに保つ秘訣は、毛髪の細胞分裂を十分に行わせることですが、実はAGAでは分裂の寿命がきていなくてもそれが中途半端に終わってしまうことで、毛が育たず薄毛になってしまうのです。
頭髪には、毛包幹細胞という毛のいろいろな細胞になる能力のある幹細胞があり、その細胞が毛母細胞に変化して細胞分裂を行うことで成長します。
毛周期には2〜6年続く成長期、数週間程度の退行期、2〜4ヶ月程度の休止期がありますが、毛母細胞の細胞分裂は成長期に活発に。やがて退行期に入ると細胞分裂が止まり、休止期には毛母細胞もなくなってしまいます。
成長が止まった古い毛は抜けていき、休止期の途中から、毛包幹細胞から新たな毛母細胞が供給されて、成長期に入り、新たな毛が成長。
加齢はすべての人、すべての細胞に起こる変化ですが、頭髪でも同じです。年齢とともに成長期の細胞分裂も緩やかに、最終的には毛包幹細胞がなくなり毛の成長もなくなってしまいます4) 。
AGAでは、この加齢性変化に加えて、男性ホルモンの影響で頭髪の細胞分裂が活発におこる成長期が本来の2〜6年から半年〜1年程度に。そのため、成長期に活発な細胞分裂が十分に行われないために、年齢のわりに薄毛になり、最終的にはその細い毛も抜けてハゲてしまうのです。
AGA治療薬でAGA進行を抑える
AGA治療薬は、AGAの症状を改善させるだけではなく、脱毛の進行を抑える働きがあります。若いうちから長く継続することで治療のメリットを受けることが。
ミノキシジル外用薬とフィナステリド・デュタステリド内服が、現時点には科学的に根拠のあるAGA治療薬です2) 。ミノキシジルには毛母細胞などに影響し、休止期から成長期に移行させ、新しい毛の発生を促す発毛効果と、異常に短くなった成長期を元にもどして毛の成長を促す育毛効果があります5) 。
血行促進の効果もあるとされていますが、詳しい機序はまだ不明です。フィナステリド、デュタステリドは男性ホルモンのテストステロンをジヒドロテストステロンにする5α-リダクターゼという酵素を阻害します。ジヒドロテストステロンが低下すると、成長期の短縮が改善するため、育毛効果が。
機序は異なりますが、どちらの薬剤も育毛、発毛効果が実証されています。ただし、「発毛」といっても、減ってしまった毛包幹細胞を増やす効果はありません。幹細胞がゼロの状態になってしまうと、毛母細胞ができないので成長期が元にもどっても毛は生えてこないのです。
毛包幹細胞が減るかゼロになる前に治療を開始する必要があります。毛包幹細胞の枯渇は加齢の影響を強く受けるので5) 、加齢性の変化を受ける若いうちからAGA治療をはじめるのがよいでしょう。
また、細くなった毛を治す効果はありません。細くなった毛は一旦抜けて(治療後の初期脱毛)、その後、強く太い毛が徐々に生えてきます。初期脱毛を目立たせないためには、早めに治療を開始して、根気強く続けることです。
AGA治療は発毛、育毛効果があるだけではなく、毛周期が改善するのでAGAの進行を抑える効果もあります。男性の場合、男性ホルモンは必須のホルモンで影響をゼロにすることはできません。AGA治療を発症の早期から継続することで、男性ホルモンの悪影響から頭皮を守ることができます。
薄毛治療と一緒に薄毛予防も
若いうちはAGA治療薬を使うだけではなく、予防も同時に行いましょう。薄毛や脱毛はストレスや偏った食事による栄養不足、運動不足、睡眠不足などの生活習慣の乱れでも悪化します。
これらの生活習慣を整え、育毛シャンプーなどの自分の頭皮の状態にあったシャンプーを使って頭皮を清潔に保つ工夫をしてみましょう。
薄毛が気になりだしたら、一度専門医にご相談を
AGAは早期発見、早期治療、治療継続が大切です。放置して病状が進行したり、加齢の影響を受けたりしてしまうと、治りも悪く結果的に満足いく治療効果が得られない場合もあります。薄毛が気になり出したら早めに専門病院にご相談ください。
Q:年齢によってAGA発症リスクは変わりますか。
AGAは20代後半から30代前半で発症することが多く、発症リスクは年齢によって増加します。ただし、年齢だけの影響を受けるわけではなく、遺伝と男性ホルモンの影響も。10代で発症することもあれば40〜50代になっても特に薄毛、脱毛が目立たない場合もあります。
Q:受診することが恥ずかしいのですが・・・。
薄毛や脱毛の悩みはデリケートな問題で、受診をためらってしまうかもしれません。でも、ご安心ください。クリニックでは専門のカウンセラーや医師がプライバシーの保たれた個室で丁寧に診察をさせていただきます。周りにお悩みが聞こえたり治療の内容を知られてしまったりすることはありません。
医学の進歩でAGAのメカニズムが解明されつつあり、医薬品による治療薬で効果が高いものがいくつもあります。ぜひお気軽にご相談ください。
Q:不規則な仕事をしているため食事時間がばらばらです。内服時間は自分で変更してもいいですか?
フィナステリド、デュタステリドは1日1回の内服で、食事の前後どちらのタイミングでも服薬いただけます。ただし、毎日飲む時間がバラバラになると、血中濃度が安定しないためおすすめできません。
食事の時間がバラバラな場合には、「朝起床後に飲む」や「寝る前に飲む」と決めていただくのがよいでしょう。
Q:頭髪を清潔にするために、1日に何度もシャンプーをしています。
頭皮がベタベタする、汗をかきやすいなどの場合には、その都度洗髪していただいても問題ありません。ただし、シャンプーの後もベタつく症状がある場合には、シャンプーが合っていない可能性があります。すすぎ残しがある場合にも、ベタつきやフケの原因になります。
また、複数回の洗髪で頭皮が乾燥している場合には、回数が多すぎるサインです。シャンプーの洗浄力が高すぎる場合も、頭皮の乾燥が起こります。頭皮に強い乾燥や皮膚炎は脱毛の原因になることがあります。
Q:20歳未満ですがAGA治療ができますか?
20歳未満では、ミノキシジル外用、フィナステリド・デュタステリドの内服は、使用経験や長期使用時の安全性が確認できておらず、使用することはできません。
アデノシン外用、カプロニウム塩化物外用、t-フラバノン外用、サイトプリン、ペンタデカン外用、ケトコナゾール外用などは20歳未満でも使用することはできます。
市販の育毛剤や育毛シャンプーに含まれているものが多く、薬局などでも手に入れることができます。製品の注意事項などをよく読んで使っていただくのがよいでしょう。
20歳未満の脱毛の場合、AGA以外の原因や病気で脱毛を起こしていることもあります。自己判断せずに、まずはクリニックでご相談いただくのがよいでしょう。
まとめ
なぜ若いうちからAGAの治療を行った方が良いのかについて、解説しました。早期治療に加えて、頭皮ケアなどの予防を早めに行うことで、さらに治療の効果も得られやすいです。
生え際や頭頂部が薄くなってきたかも?と感じたら、ぜひ専門の医師にご相談ください。
参考文献
- ホットペッパービューティーアカデミー. 2021年薄毛調査報告書. https://hba.beauty.hotpepper.jp/wp/wp-content/uploads/2021/10/data_usuge_20211007.pdf
- 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
- 健康長寿ネット. 細胞の濾過の原因と症状.
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/saibou-kotai-rouka.html - 小友進. 毛髪再生とアンチエイジング. Drug Delivery System 24(2):109-116, 2009.
- 山田久陽ら. 男性型脱毛症治療薬の研究動向. 日薬理誌. 133(2):73-77, 2019.
- Matsumura H, et al. Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis. Science. 2016;351(6273):aad4395. doi: 10.1126/science.aad4395. Epub 2016 Feb 4.