男性型脱毛症

植毛した髪の毛の寿命|みんなが気になる10年後にはどうなるの?

時間の経過
藤井 麻美

植毛自体は有効な薄毛治療方法ですが、内服薬による治療と比べ大変な治療ですので、植毛をする前に「植毛をしたら将来髪の毛がどうなるか知りたい」と思う患者さまもいらっしゃいます。

結論から言うと、自毛植毛であれば植毛した髪は10年程度で大きく減ることはありません。

なぜ植毛した髪は10年後も生えているのでしょうか?

今回はその理由に加え

  • 植毛した髪の経過
  • 植毛後のヘアサイクル
  • 植毛後に起こる可能性のある脱毛リスク

などについてご説明します。植毛を検討している方はぜひご覧ください。

植毛の種類と特徴

まず植毛を簡単に説明すると、頭皮に髪の毛を植える治療方法のこと。

植毛と言っても植える毛には大きくわけて「自毛」と「人工毛」の2種類があり、どちらを選ぶかによって大きく効果が異なります。

自毛植毛

自毛植毛はその言葉の通り自分の毛を頭皮に植える治療方法です。

AGA(男性型脱毛症)は、頭頂部もしくは前頭部(生え際)から進行していきますので、その部分に後頭部や側頭部から取った薄毛になりにくい組織を植えます。

自分の組織を移植するため、拒絶反応が少なく生着率は8割を超え、1週間ほどで生着。植毛した部分は移植前の部位と同じように発毛していきます。

Beehner は著書の中で複数の報告を検討し,自毛植毛術は 82.5%以上という高い生着率が得られることを記載している

男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版

ただし自毛植毛した髪の毛は大半が一度抜け落ちます。これは移植した細胞が生着する際にヘアサイクルがリセットされ、新しい毛を作ろうとするため。

ですので、生着した後に実際に髪が生え揃うまでは1~2年ほどの時間はかかります。

とはいえ、もともと薄毛になっていた部分に発毛効果を得ることができる自毛植毛は脱毛症診療ガイドラインで推奨される治療方法の中で上から2番目の推奨度B[行うよう勧める]とされる優れた治療方法です。

人工毛植毛

人工毛植毛ではポリエステルやナイロンといった、拒絶反応が出にくい人工の毛を頭皮に植える治療方法です。

人工毛は長さや色を自由に選んで植えることができるため、すぐに毛量アップを実感することが可能なのがメリット。

しかし異物を頭皮に植えているわけですから、体内の免疫機能が体から押し出そうとするため抜け落ちていきますし、一度抜ければその後新しく生えてくることはありません。

さらに抜けた跡には汚れや皮脂が溜まってしまい炎症を起こす場合も。そのため人工毛触毛では1年に1~2回人工毛を植え直す必要がでてくるので、結果的に体にも経済的にも負担の大きい治療方法です。

以上のことから、人工毛植毛は脱毛症診療ガイドラインの中で推奨される治療方法の中では、一番下の推奨度D[行うべきではない]となっています。

国内では人工毛植毛を推奨しているクリニックはほとんどなく、植毛といえば自毛植毛を指すのが一般的です。

<第三の植毛?「結毛式増毛」とは>

テレビCMでアデランスの「増毛」をみたことはありますか?増毛にもいろいろな種類があるのですが、アデランスの増毛は結毛式増毛と呼ばれるものです。

結毛式増毛とは、自分の髪の毛に人工毛を結びつけ髪の毛をボリュームアップさせる方法。

植毛との違いは施術後すぐに理想のヘアスタイルを手に入れられること、すぐに見た目を整えたい方には最も適した方法といえます。

さらに施術後にすぐに日常通りの生活を送ることができるのも大きなメリットです。頭皮に埋め込んでいませんので頭皮が痛むことも炎症をおこすこともありません。

しかし、結びつけている髪の毛は成長するため、結びつけている髪が浮いてきたり、ベースの髪が抜けると結びつけている髪も抜けてしまいます。

ですので自然なヘアスタイルを維持するためには1ヶ月1度程度のメンテナンスが必要です。

イメージ的には健康被害のないお手軽な人工毛植毛のような感じでしょうか。

ちなみに増毛は医療行為ではありませんので、医師以外の施術者でも実施できます。

短期的な効果しかない代わりにすぐに効果が出るのが良い点ですので、緊急性のあるタイミングなら結毛式増毛を選んでも良いかもしれません。

植毛の寿命とは?

先ほど植毛の種類を説明しましたが前述しました通り、植毛の寿命は自毛か人工毛で大きく異なります。

人工毛の場合は抜けていくだけですので、大体1年で残るのは植毛した量の4割程度。

一方の自毛植毛は、植毛している組織が生着すればその毛母細胞は通常の髪の毛のように髪の毛が生え変わってゆくため、一度抜けたらお終いではなく通常の髪の毛と同じ長さの寿命となります。

すると次は一般的な髪の寿命はどの程度なのか?という話になってきますよね。

ヘアサイクル

髪の毛の寿命にはいくつかの考え方がありますが、一般的には「ヘアサイクル(毛周期)」と呼ばれるものがあります。

ヘアサイクルは個人差がありますが、「成長期」「退行期」「休止期」の3期間をくりかえしており、この1サイクル(一回転)は2年から6年です。

毛周期 ヘアサイクル

ヘアサイクルの上限

この繰り返すヘアサイクルにも上限回数というものがあり、健康な毛髪であればサイクルの回数は15回ほどです。

そのため

  • 長ければ6年のサイクルを15回で90年の寿命
  • 短ければ2年のサイクルを15回で30年の寿命

と髪の毛の寿命に差が出てきます。

ただしAGAは以下のように、最後まで後頭部の髪の毛が残ることが多いため

AGAのハミルトンノーウッド分類

植毛した髪の寿命は比較的長いといえます。

「植毛した髪の毛の寿命は健康な髪の毛と同じぐらい」なのですが、人によって髪の寿命には差があり、何歳で植毛したのかにもよるために、「植毛した髪の毛の寿命は○〇年」と答えることはできません。

植毛した髪の毛の寿命を伸ばすために

植毛した髪の毛の寿命は「人による」というだいぶざっくりした回答になってしまいましたが、植毛した髪の毛の寿命は延ばせるのでしょうか?

注意すべきは

  • 生着率を高める
  • ヘアサイクルを長く(正常に)する

この2点です。その方法を紹介します。

必ず技術の高いクリニックで行う

当たり前ですが重要なことです。「自毛植毛なら髪の毛が生え変わるようになる」というのは、あくまで生着した毛母細胞だけの話。

例えば生着した毛を40年後まで8割保てたとしても500株しか生着させられなければ、1000株正着させて5割残っている方が、髪の毛の数は多くなりますよね。

500株×8割=400株
1000株×5割=500株
※株と毛の本数は異なりますがここではわかりやすく計算。

さらに気をつけなければないのがドナーロスです。

ドナー株(細胞)は摂取しても、それを移植部位に植えるまでの経過時間や保存状態によってドナーが死んでいってしまうことがあり(ドナーロス)、割合が多ければ多いほど生着する確率は下がります。

ドナーロスが少なく、植毛技術の高いクリニックを選ぶだけで仕上がりが異なりますので、技術力があり信頼できるクリニックを選びましょう。

生着するまでは慎重に生活をする

術後は3~4日間程度で植毛部分に血がにじみ、1週間ほどでかさぶたになります。

かさぶたが取れるまで2週間ほどかかりますが、その間患部が痒くなっても触るのは厳禁です。かさぶたとともに植毛した毛が抜け落ちてしまうとその部分の細胞が生着しない恐れもあります。

患部に刺激を与えないよう、植毛部分を触らないようにしましょう。

ヘアサイクルを正常に保つ努力する

移植した髪の毛はAGAによる影響を受けにくい毛母細胞から摘出した髪の毛ですが、それでもヘアサイクルが無限にあるというわけではありません。

1回のサイクルが短くなればヘアサイクルの上限に達し、薄毛になる可能性はありますので、頭皮環境・禁煙・睡眠・食事などに気をつけて生活をしてください。

AGAの治療を続けることも

植毛手術は薄毛を治す治療ですが、AGAの進行を全て止めるわけではありません。

そのため、植毛を行っても全体の毛量を維持するためフィナステリドを副作用のない量まで減らして、服用をする場合もあります。

植毛のタイミングや手法にも注意

ここまでで「植毛って基本的にはずっと髪の毛が生え変わるんだ〜。安心した」と思う方が多いでしょうが、髪の毛の寿命意外にも気をつけなければならないのが、どのタイミングでどの術式で植毛を行うか?ということです。

植毛方法には、メスを使って頭皮を切り取りその皮膚から株を取り出すFUT法と、頭部から直接株を取り出すFUE法という術式があります。

FUE法は日本国内で流行っている手法であり、メリットもありますがそれ以上に大きなデメリットの

  • 複数回の植毛ができない
  • ドナーの取れる数がFUTより少ない

という特徴があります。

AGAの進行は頭頂部か前頭部(生え際)またはその両方から進行しますので、生え際が後退したために植毛を受けて生え際の薄毛が改善したとしても、もしかするとその後頭頂部の薄毛が進行するかもしれません。

その場合、前髪がふさふさなのに、頭頂部だけが薄毛になるという可能性があります。

あなたがもう50代で「生え際だけが気になる」と言う場合や、逆に「頭頂部だけをなんとかしたい」という場合であればFUE法でも良いかもしれません。

これからどうなるかわからないのであればしっかり計画をたてて、植毛のタイミングや施術の手法を選ぶ必要があるでしょう。

まとめ

国内で行われている植毛手術の多くは自毛植毛です。植毛した髪の毛は正常な髪の毛と同じ寿命で、年齢にもよりますが10年以上は生え変わると考えてください。

ただし植毛をするなら頭皮環境・タイミングを考えた上で計画的に植毛を検討する必要があります。

もしかすると、植毛ではなく外用薬・内服薬治療の方が適しているということもあるかもしれませんので医療機関に相談のうえ、具体的な治療方法を選んでください。

参考文献

1) 日本皮膚科学会ガイドライン 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf

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