AGAの治療はやめるとダメ?この先の人生で必要な薄毛対策をためにAGAの病態を理解しよう
AGAを治療しようかなと思っている方、そしてAGA治療中の方からよくいただく質問があります。
「AGAって一生治療しつづけなければいけないのですか?」
「治療を初めたら薄毛が目立たなくなり、今の状態で満足なのでそろそろ治療をやめてもいいですか?」
たしかに、AGAの治療を続けていくと、最近オンライン診療のクリニックも増えたとはいえ、受診の手間や経済的な問題も無視できないものになり、負担ですよね。
しかし、AGA治療は自己判断で中止すると、再び薄毛が進行し、元の状態に戻ってしまう病気です。
では、AGA治療は一度始めると絶対に一生治療を続けなければいけないものなのでしょうか。また、治療経過中に薬を減らしたり、終了することができるものなのでしょうか。
このような疑問は、AGAの治療を検討中、治療中の方は必ずといっていいほどお持ちになると思います。今回の記事では、これらの疑問について考えていきたいと思います。
AGA治療はいつまでするのですか?
薄毛で悩んでいる方にとって、AGAの治療をいつまで続けていく必要があるのかというのは、非常に気になる点で、患者さんから多く受ける質問の一つです。実際、AGA治療はいつまで続ける必要があるのでしょうか。
結論を先に伝えると、AGAの治療は「ご自身が薄毛になっても気にならないと思う時」まで続ける必要があります。なぜなら、AGAは薄毛が進行する病気であり、AGA治療は薄毛の進行を抑制するものの、根治させる治療ではないからです。
少し古いですが、AGAで悩んでいる患者さんにアンケートをとったデータが1) 。
AGA患者さんのうち、“病院に通院したいと思ってはいるが、実際は治療をしていない”という方が多かったという結果がありました。
治療をしていない理由として、「治療にかかる費用がどれくらいかわからない」「治療にどのぐらいの期間がかかるのかわからない」という不安で、通院をためらっているという回答。
AGAの治療を続けていくためには、まずAGAとはどのような状態なのか、そして治療方法はどのようなことをするのか、について理解することが大切です。治療を続ける必要性がわかれば、納得して治療を続けていくことができると思います。
AGAとは?AGAの治療はどのようなものがあるのですか?
まず、治療継続の必要性を理解するために、必要なAGAの知識とAGAの治療について簡単にお話します。
●AGAとは?
AGAは、男性型脱毛症のことでエージーエーと読み、英語のAndro Genetic Alopeciaの頭文字をとって名付けられました。
AGAはいきなり中高年で発症するのではなく、若い頃(30歳前後)から発症し、40歳以降に薄毛が目立ってくるのが特徴です。薄毛が徐々に目立ってくる進行性の病気ということがポイント。
AGAの発症には男性ホルモンと遺伝がかかわっており、男性ホルモンの影響を受けると、毛髪の成長サイクルが短くなって、成長が止まってしまいます。その結果、毛髪が十分成長しないまま(太くなれないまま)抜け落ちるのです。
遺伝は、毛髪の男性ホルモンからの影響の受けやすさにかかわっています。
●AGAの治療は?
現在、AGAの治療は以下の2つの薬がメインとなっており、ガイドラインでも推奨されています2) 。
1)フィナステリド、デュタステリド(5αリダクターゼ阻害薬)
2) ミノキシジル
●フィナステリド、デュタステリド(5αリダクターゼ阻害薬)
フィナステリド、デュタステリドともに5αリダクターゼ阻害薬と呼ばれるお薬です。
5αリダクターゼは、男性ホルモンであるテストステロンに作用し、より強力なジヒドロテストステロンへと変換させます。ジヒドロテストステロンは脱毛因子を産生し、その結果、脱毛が促進。
フィナステリド、デュタステリド(5αリダクターゼ阻害薬)は、5αリダクターゼの働きをブロックして脱毛を防ぐ効果があります。
●ミノキシジル
ミノキシジルは、血管を拡張させる効果があることから、血圧を下げる薬として開発。副作用として体毛が濃くなることが報告され、結果として現在は発毛剤として用いられています。
どうしてミノキシジルが発毛を促進させるかについては、はっきりとわかっていないですが、血管を拡張させて頭皮へ届く血流を増やす、髪の毛の成長を促す毛乳頭細胞を活性化させる、などです。
AGAの代表的な治療方法は、いずれの治療もAGAの進行を食い止めたり、発毛を促す効果はありますが、原因を根本から改善する根治療法ではありません。
あくまで薄毛の症状を改善する対症療法となります。ですから、薄毛の状態であることを気にする間は治療を継続する必要があります。
やめるとどうなる?
AGAの治療はあくまでも薄毛症状を改善する対症療法で、継続して治療を行う必要があります。しかし、患者さんの中には、ある程度効果がでたら自己判断で中止してしまう方もいらっしゃいます。
AGAは、薄毛が進行していく病気で、治療は症状を改善しているだけで原因を治療しているわけではありません。つまり、AGA治療は、本来どんどん薄毛が進行してしまう状態を薬で食い止めているだけです。
ですから、患者さんが頑張ってAGA治療を行った結果、薄毛が改善し、満足できる状態になっても、状態を維持していくために治療を続ける必要が。
治療をやめると、せっかく良くなった薄毛が再度進行して、その結果髪の毛がまた抜けて元通りに、もしくは年齢によって治療前以上に薄毛が進行してしまいます。
もしAGA治療を途中で中断したら、具体的にどれくらいで元通りになってしまうのでしょうか。
人の髪の毛の生え変わりのサイクルは概ね2-6年と言われています。AGAでは、そのサイクルが1年くらいに短縮してしまいます。
そのため、個人差はありますが、治療中止後の頭髪の推移は以下のように経過していく方が多い印象です。
- 治療中止1か月~ :抜け毛が増えてきたと感じるようになる。
- 治療中止3~6か月以降 :再び薄毛が目立ってくるようになる。
- 治療中止1年~ : 以前と同じ頭髪環境に戻る。
AGA治療をやめなければいけないとき
ここまでAGA治療は継続が必要なことをお伝えしてきましたが、時にAGA治療を中断しなくてはいけないこともあります。どのようなことが起きると中断したほうがいいのか、理由も含めて見ていきましょう。
まず治療を中止するべき状況は以下のようなときです。
副作用が重篤な場合
- 肝機能障害
フィナステリドやデュタステリドは肝臓で代謝される薬です。頻度は少ないのですが、肝臓の数値が著しく悪化した場合は中止したほうがいいでしょう。
一方、軽い数値の悪化では継続できるケースが多いです。
- 勃起機能不全、性欲減退
フィナステリドとデュタステリドは、5αリダクターゼをブロックして強力な男性ホルモンの産生を減らします。そのため、勃起機能不全や性欲減退の副作用もあるとされています。
しかし実際の頻度は少なく、あったとしても心因性(副作用でるのではという不安から来るもの)が原因であることが多い印象です。
- 頭皮の異常
ミノキシジルの外用薬は、塗布した場所のかゆみや発疹、皮膚炎が生じることがあります。ミノキシジルだけでなく、外用薬ではこのような副作用がみられることがありますが、多くの場合は軽症です。
このような場合には、頭皮の炎症を抑える塗り薬を使用して、改善がなければ医師へ相談してみましょう。
治療を続けていても効果を実感できない
AGAの治療をしっかり続けていても効果がほとんど感じられない、もしくは症状が悪化したという場合は、治療を続けるか、変更するか、中止するか方針を考える必要があります。必ず医師へ相談してください。
行っている治療が適切か、AGA以外の病気が原因ではないか判断してもらうといいでしょう。
AGA治療中に注意が必要な場合
その他にAGA治療に注意が必要なケースと対策についてお伝えします。
<妊活をしている、する予定がある>
フィナステリドやデュタステリドの有効成分は、赤ちゃんの生殖器の発育に悪影響を及ぼす恐れがあります。そのため、妊娠希望、妊娠中の女性が内服するのは禁忌です。
では男性は妊活の際に薬を内服してもいいかというと、薬の内服自体は継続可能ですが、取り扱いは気をつける必要があります。
具体的にお話していきましょう。
フィナステリドやデュタステリドの精液への移行性は、非常に低いです3), 4) 。
そのため、男性がこれらの薬を内服していても精液へ移行する量はごくわずかで、性行為によって女性の膣で吸収される量はさらに少ないので影響はほとんどありません。
一方、薬の取り扱いには注意が必要です。女性が薬剤に触れてしまうと、皮膚を通して体の中に吸収されてしまいます。その結果、赤ちゃんの生殖器の発育に悪影響を及ぼす恐れが。
通常、薬の表面はコーティングされているので、取り扱いで問題になることはありません。しかし、錠剤が欠けたりすると、欠けた部分から薬の有効成分が漏れてしまいますので女性が触れると危険です。錠剤は破損しないように、妊活中の女性が触らないように管理してください。
< 献血をするとき>
フィナステリドやデュタステリドを内服しているときは、献血できません。献血を行う場合は、休薬が必要となります。フィナステリドは1か月、デュタステリドであれば6か月休薬する必要が。
今回、中断しなくてはいけない理由について解説しましたが、自分自身で判断することは難しいこともあるかと思います。そのためAGA治療は医療機関で行い、判断に迷ったら相談してみるといいでしょう。
薬を減らせる可能性はあり
AGA治療は継続が必要ですが、ずっと同じ治療を続けなくてはいけないというわけではありません。経過によっては薬を減らすことも可能です。
AGAの治療は、「抜け毛を抑制する」フィナステリドやデュタステリド、「発毛を促す」ミノキシジルが代表的。通常これらの治療を組み合わせて行われることが多いと思います。つまり、抜け毛を抑制しながら、新たな発毛を促すというのがAGA治療の基本です。
もし毛量が増えて頭皮環境に満足した時に、これからは現状維持でもいいかなと思ったら、発毛を促すミノキシジルを減量して、脱毛を抑制するフィナステリドやデュタステリドのみに変更することも可能でしょう。通常、フィナステリドやデュタステリドを中止することはありません。
注意する点は、自己判断で薬を減量することはやめて欲しいということです。減量したいなと思った時は、医師に相談し、診察をしてから行うようにしましょう。
治療効果が出ないと思ったら
AGA治療をしっかり行っても効果がでないとお悩みの方がいるかもしれません。その場合、考えられる理由の一覧は以下の通りです。
治療期間が短い
AGAに対する治療効果が見られるのは、おおむね治療開始6か月後からといわれています。その理由は、AGA治療が乱れたヘアサイクルを改善することによって薄毛の進行を抑制および発毛を促すからです。ヘアサイクルは治療することで徐々に改善し、すぐに正常になるわけではありません。
治療効果があるかないかの判定は、少なくとも6か月治療してから行うことが望ましいといえます。
治療方法が正しいか
AGA治療薬の代表的なものはフィナステリドやデュタステリド内服、ミノキシジル外用です。治療は内服薬のみの方や、内服と外用薬を併用する方が。
効果は開始年齢や治療内容で個人差があります。治療効果を感じないときに見られるのが、AGAの進行度に見合ってない治療をしていることです。
具体的に言うと、AGAが進行している場合は、フィナステリドやデュタステリドの内服による抜け毛を減らす治療のみでは効果が乏しいことがあります。この場合は、ミノキシジル外用などを追加して発毛も促すことで効果が実感できることが。
たまに市販のミノキシジル外用薬のみを使用している方がいらっしゃいますが、AGAは抜け毛が進行する病気のため、ミノキシジル外用薬単独では効果があまり見られません。フィナステリドやデュタステリドを内服することが大切です。
治療法は自己判断せずに医療機関で相談してみるといいでしょう。
個人輸入などで入手した薬剤を使用していないか
AGA治療の方で時折みられるのが、費用や通院の手間を抑えるために個人輸入や専門業者から海外の医薬品を購入されるケースです。
海外からの医薬品を個人輸入するのは、効果・安全性ともに疑問が残るものですから、控えたほうがいいでしょう。フィナステリドやデュタステリドと銘打った薬が、実は違う成分が入っていたり、正規の薬より成分量が少ないといったトラブルが発生しています。
費用や通院の便から個人輸入を利用したい気持ちは理解できますが、必ず医療機関を受診して薬を処方してもらいましょう。最近は、オンライン診療を行う医療機関も増えてきています。
脱毛がAGA以外の原因ではないか
日本人男性におけるAGAの発症頻度は、全年齢を平均すると30%と報告されており、男性の脱毛はAGAであることが多いです。しかし、まれにAGA以外の原因で脱毛が生じることが。
AGAと鑑別すべき男性の脱毛症は以下のものが挙げられます5) 。
- 円形脱毛症
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ストレスや自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎などが原因で、頭皮への血流が悪化して生じると言われています。AGAの病変が頭皮全体に生じるタイプの場合に鑑別が必要です。
円形脱毛症では脱毛している部分が黄色く、切れ毛などの病的な毛がみられることがポイントです。
- 慢性休止期脱毛症
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薬剤、亜鉛欠乏、甲状腺疾患、ダイエットなどで髪の毛が休止期のまま脱毛する病態です。抜け毛を顕微鏡で観察すると棍棒状のような毛(休止期の毛で見られます)であることが特徴です。
また、脱毛パターンがAGAと異なり、後頭部を含めて全体的に脱毛していることが特徴でもあります。
- 瘢痕性脱毛症
-
頭頂部の炎症などが原因で起こります。脱毛部を観察すると毛包が消失しているのが特徴です。
AGA以外の原因による脱毛の場合は、いくらAGA治療を行っても脱毛は改善しません。自分の薄毛がAGAと自己判断せずに専門の医療機関で本当にAGAかどうかをまず確認してから治療を開始しましょう。
AGAと白髪は関係あるの?治療で白髪は生えにくくなるの?
患者さんから「AGAと白髪は関係ありますか?」「AGAの治療をすると薄毛だけでなく、白髪にも効果がありますか?」と聞かれることがあります。
結論から先に申し上げると「AGAと白髪は関係ありません」。
AGAと白髪の原因は、それぞれ異なるからです。AGAが起こるメカニズムは解説してありますので、ここでは白髪の原因について少し解説します。
髪の毛が黒いのはなぜかというと、メラニンという色素が髪の毛の中にたくさん含まれているからです。白髪はこのメラニンを作る働きのあるメラノサイトの機能が低下することで生じます。
AGAと白髪は全く別の機序で生じているので、AGAと白髪は関係がないということになります。そして、AGAの治療をしても白髪が生えにくくなるということはありません。
まとめ
多くのAGA患者さんが気になる治療継続の必要性や、治療の変更ができるのかについて説明しました。
薄毛を改善したいと感じている間は治療を継続することが必要です。経過によっては薬を減らすこともできます。正しいAGA治療を継続し、みなさんの薄毛の悩みが改善できれば幸いです。
正しい治療を行うためにも、自己判断で治療せずに専門の医療機関を受診することをおすすめします。
参考文献
- 板見 智. 医療機関への受診を躊躇している男性型脱毛症(AGA)対処者の実態調査. Progress in Medicine. 31: 1995-2000, 2011
- 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf.
- オルガノン株式会社. プロペシア インタビューフォーム. https://www.organonconnect.jp/static/mcijapan/images/if_propecia_tab.pdf.
- グラクソ・スミスクライン株式会社. ザガーロ インタビューフォーム. https://gskpro.com/content/dam/global/hcpportal/ja_JP/products-info/zagallo/zagallo-if.pdf.
- 内山 真樹ら. 男性型脱毛症の診断. 日本医事新報. 4930:28-34, 2018