女性の薄毛(FAGA)とは?男性のAGAとの違いを深ぼりします
薄毛や脱毛は、男性だけでなく女性にも起こります。男性のAGAに対して、女性に発症する薄毛として、FAGA(Female AGA)が。
最近の研究では、AGAと違う特徴があるため、FAGAの替わりにFemale pattern hari loss(FPHL)と呼ばれることも(今回はFAGAで統一)。女性のFAGAは、男性ほど一般的に認識されてはいませんが、実は閉経後の女性では3分の2の方が薄毛や脱毛に悩まされるといわれています。
薄毛の悩みがあるものの、誰にも相談できずにいる女性も多くいらっしゃるのではないでしょうか。薄毛や脱毛は見た目でわかるため、FAGAの悩みは精神的・社会的に大きな影響を及ぼす可能性が。
FAGAは、まだまだ研究段階で治療法も確立されたものはありませんが、いくつか有効な薬剤があります。
今回はFAGAについて詳しく解説していきましょう。
髪のボリュームが減ったなと感じたら、FAGAかもしれません
女性の薄毛、脱毛をFemale androgenetic alopecia (FAGA)といいます。Androgeneticとは、男性ホルモンであるアンドロゲンが発症に関与するという意味ですが、男性型のAGAは発症に男性ホルモンが強く影響。
一方、FAGAはAGAとは発症のメカニズムなどが異なることが最近わかってきました。そのため、FAGAではなく、Female pattern hari loss(FPHL)と呼ばれることもあります1) 。日本では、FAGAのほうに馴染みがあるかもしれませんが、FAGAもFPHLも女性型脱毛症を指す同義語です。
男性での脱毛は、通常こめかみの部分から始まり、後退した生え際は最終的にM字ハゲを作るのが典型的なAGAです。多くの場合は、生え際と一緒に頭頂部の髪も徐々に薄くなっていきます。
一方、女性のFAGAの場合には、髪の分け目のラインが徐々に薄くなっていき、頭頂部から全体的に薄毛が進行していきます2) 。男性のように完全に禿げてしまうことはまれです。発症時期も20歳代後半から30歳代に発症するAGAと違い、女性のFAGAは更年期に多発することが多く、発症年齢の違いもあります。
ただし、FAGAも思春期以降いつでも発症する可能性があり、20歳代などの若い女性でもFAGAが起こることが。
AGAは、男性ホルモンが毛包のミニチュア化を起こすことで発症するのに対して、FAGAは男性ホルモンだけでは説明できない部分もあります。FAGAでは、どの部分に男性ホルモンが関係しているのかはっきりわかっていません。
なんらかのメカニズムで頭髪の成長期が短縮し、ヘアサイクルがミニチュア化することはAGAもFAGAも共通しています。ヘアサイクルがミニチュア化することで、毛髪が十分に太く長く成長できないために薄毛に。
女性も体内には男性ホルモンが微量にありますが、普段は女性ホルモンとバランスをとって、男性ホルモンの機能が調節されています。
何らかの原因で女性ホルモンが低下したり、バランスが崩れたりしてしまうと、男性ホルモンの影響が強く出てFAGAが起こるとされているのです。
男性ホルモン?食生活?さまざま考えられるFAGAの原因
FAGAの原因には、栄養不足やホルモンバランスの乱れ、薬剤、肉体的・精神的ストレスなど、さまざまな可能性が考えられています。
明らかな栄養不足やなんらかの病気によりホルモンバランスが崩れている場合、甲状腺疾患や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患による二次性の薄毛・脱毛症とFAGAとは分けて診断する必要が。
なんらかの病気があり、二次性に脱毛症を起こしている場合には、原疾患の治療を行うことで症状が改善する場合があるためです。
食生活の乱れ
FAGAの発症メカニズムがはっきりしていないため、どの栄養素が不足するとFAGAを起こすかは明確ではありません。ただ、食生活が乱れて、鉄、亜鉛、タンパク質、ビタミンB群など、髪の発育に必要な栄養素が不足すると、薄毛・脱毛の原因に3) 。
これらの栄養素が不足した場合は、慢性休止期脱毛というびまん性脱毛症を起こします。FAGAとは別病態ですが、同時に起こることも。
栄養素の不足で脱毛が起こった場合には、栄養素を食事やサプリメントで補うことで症状が改善することがあります。栄養素の不足がない状態でこれらの成分をサプリメントなどで追加摂取した場合、脱毛症を予防する効果があるかはまだわかっていません。
ホルモンバランスの乱れ
アンドロゲンは男性ホルモンですが、女性の体内でも合成されて存在しています。アンドロゲンは卵巣、副腎、体脂肪や筋肉から作られて、女性ホルモンとバランスを取りつつ、性機能や脳機能、骨代謝、筋肉増強などのさまざまな働きをしています4) 。
ストレスや睡眠不足などでホルモンバランスが崩れると、薄毛・脱毛の原因になることが。
FAGAの発症に、どのように男性ホルモンが関与しているかはっきりしていませんが、特に若い女性のFAGAでは男性ホルモンの影響が強いといわれています5) 。
男性ホルモンのうち、テストステロンが頭皮にある5α-リダクターゼという還元酵素によりジヒドロテストステロン(DHT)という、より強力な男性ホルモンに変換されると、毛の成長期が短縮し、薄毛・脱毛が発生。
この毛の変化自体は、AGAもFAGAも共通の変化として見られ、疲れやストレス、睡眠不足、出産後などでホルモンバランスが崩れて男性ホルモンが優位になると、薄毛・脱毛が進行するのではないかといわれています。
病気で男性ホルモンが過剰分泌されておこる脱毛症も。多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣に多数の嚢胞性病変ができ、男性ホルモンが過剰に産生されてしまう病気ですが、脱毛症の原因になることがあります。
脱毛以外にも、男性ホルモン過剰の兆候である月経不順や、にきび、多毛などの症状も。脱毛症の治療の前に、まずは多嚢胞性卵巣症候群に対する治療を行います。ホルモンの異常値が正常化すると、脱毛症は改善する可能性が。
閉経後は、女性ホルモン値が低下しますが、通常はそれだけで男性ホルモンが過剰になることはありません。もともと女性の体内の男性ホルモンは、男性の約1/10程度しかないため、閉経後のFAGAは男性ホルモン過剰よりも、女性ホルモン低下による影響が強いと考えられています。
女性ホルモンは毛髪のハリやコシを維持する役割があり、この作用が効かないことでFAGAが進行するといわれていますが、はっきりしたメカニズムは不明です。
薬剤性
薬剤が原因で脱毛が起こる場合は、薬剤性脱毛症といいますが、薬剤性脱毛症も全体的が薄毛になるびまん性脱毛症を起こすため、FAGAと鑑別が必要です。
薬剤性脱毛は、大きく分けて、成長期脱毛症と休止期脱毛症が。
薬剤性脱毛の原因となる抗がん剤は、成長期脱毛症を起こします。成長期脱毛では、成長期の毛が抜けて、その後にびまん性に脱毛が起こり、成長期脱毛は、抗がん剤以外にも、放射線療法やタリウム、水銀、銅などの重金属による中毒症で起こることが。
休止期脱毛は、成長期の毛の発育が抑えられ、休止期が長くなってしまう脱毛症です。本来、頭髪の休止期の毛は全体の10%程度ですが、休止期脱毛では15%以上に増えしまいます。
休止期脱毛を起こす薬剤には、脂質異常症の治療薬、パーキンソン病の治療薬などが。経口避妊薬などのホルモン剤も、原因になることがあります。
ホルモン剤により、ホルモン環境が急激に変化することで、副腎でのアンドロゲン(男性ホルモン)の産生が増えてしまうことで脱毛が起こるのです。
薬剤が原因になっている脱毛症の場合にも、まずは薬剤の変更や中止が可能か検討しましょう。休止期脱毛は、数ヶ月持続しますが、原因となる薬剤がなくなれば脱毛症状は改善することがあります。
その他の脱毛症の原因
薬剤以外にも、休止期脱毛を起こす原因が知られています6) 。高熱や大きな怪我や手術、大量出血、強い精神的なストレスでも脱毛症が。
FAGAの診断自体には、明確な確定診断基準というものはありません。
背景に何か原因があり脱毛を起こしている場合もあるため、鑑別のために抜毛試験(髪の毛を毛束で引っ張って抜ける毛の本数を確認する試験)やダーモスコピー(頭皮や毛髪の太さを拡大して確認する検査)、血液検査を行う場合もあります。
FAGAの治療薬の中心はミノキシジル外用薬
FAGAの治療のうち、日本で承認されている薬剤としては、唯一ミノキシジル外用薬があります。ミノキシジル外用薬は、ガイドラインでもgrade A、「使用を強く推奨する」という推奨度で、研究による科学的根拠が1) 。
ミノキシジルは、髪の毛のもとの細胞に働きかけて細胞の増殖を促進させて成長期を維持したり、頭皮の血管を拡張して血流を促す作用があります。男性では、ミノキシジル5%が推奨されますが、女性のFAGAでは治療効果と副作用のバランスから、ミノキシジル1%が推奨されています。
ミノキシジルの副作用には、かゆみ、フケ、皮膚炎などがありますが、比較的安全に使用できる薬です。ただ、即効性のある薬剤ではないため、開始から数ヶ月は継続して効果を見る必要があります。
また、ミノキシジル外用開始後に初期脱毛といって、一見薬の開始で脱毛が悪化したかのようにみえる症状が出ることがあります。
こちらは、弱々しい異常な毛が抜けて、その後徐々に治療効果で強い毛が生えてくるように。初期脱毛で薬をやめてしまうと、抜けたまま生えてこなくなってしまいます。初期脱毛を乗り越えて、数ヶ月間治療に専念しましょう。
ミノキシジルの内服薬は、多毛症や胸痛、動悸、息切れなどの重大な新血管系障害が生じる可能性があり、副作用などの危険性が十分に検証されていません。ミノキシジルの服用は、AGA・FAGAの治療としては使用しないようにガイドラインでも推奨されています。
アデノシンの外用や、5%カルプロニウム塩化物の外用という選択肢もありますが、ガイドラインではFAGAに対しては、「行ってもよい」という推奨度です。
アデノシン成分が配合された育毛剤やシャンプーが薬局などでも購入可能。外用薬のため、かぶれなどの副作用に注意が必要ではありますが、試してしてみるのもよいでしょう。ミノキシジル外用との併用も可能です。
スピロノラクトンは、アルドステロン拮抗薬というタイプの利尿薬で、もとは高血圧や心不全の治療として使われている薬剤。アルドステロンは、男性ホルモンのアンドロゲンと同じステロイドホルモンで、スピロノラクトンにより男性ホルモンの作用を抑える効果が。
特に、ミノキシジルに反応しないFAGAや多嚢胞性卵巣症候群など、男性ホルモンが脱毛発症に影響している場合、スピロノラクトンで症状が改善する可能性が高まるとされています2) 。
副作用としては、体重増加や性欲減退、うつ病、疲労感などが。スピロノラクトンは、FAGAに対しては自費診療、多嚢胞性卵巣症候群の治療では保険診療が使えます。クリニックなどで医師に相談してみましょう。
パントガール®は、日本では国内未承認薬ですが、海外でびまん性の脱毛症に効果があるという報告があります7) 。パントガール®の内容は、毛髪を作るのに重要な栄養素であるビタミンB1、パントテン酸カルシウム、酵母、L-シスチン、ケラチン、パラアミノ安息香酸などです。
日本では有効性を評価した研究などはまだありませんが、大きな副作用は現時点では報告もないため一つの治療薬として試す価値はあるかもしれません。
なお、AGA治療で使われるフィナステリド、デュタステリドなどの男性ホルモンに影響する薬剤は、FAGAでは使用できません。治療効果が現時点では証明されておらず、妊娠女性への影響(男児の生殖器奇形)があることを考えると、女性には使うべきではありません。
Q:出産とFAGAは関連がありますか。
出産とFAGAに直接の関連はありませんが、出産後に脱毛症を起こすことがあります。出産後は、女性ホルモンの量が劇的に変化。
一般的に、エストロゲンは毛髪のツヤやコシを維持して毛を抜けにくくする効果があります。産後は上昇していたエストロゲン値が急激に低下するため、抜けにくくなっていた毛が一気に抜けて脱毛。
これを、出産後脱毛症、分娩後脱毛症といいますが、休止期脱毛の一種で、通常は3ヶ月程度で自然に改善します6) 。
産後はホルモンバランスの回復過程に時間を要し、育児による疲労や睡眠不足も。ホルモンバランスが回復していくと、自然に脱毛症も改善していきます、ご安心ください。
Q:夫がAGA治療中ですが、薬を貰って使用しても効果ありますか?
AGA治療の中心であるフィナステリド、デュタステリドの内服は、女性の脱毛症への効果は現時点でははっきりせず、使用は推奨されていません。また、特に妊娠中の女性の場合、赤ちゃんが男児だと生殖器の奇形を起こす可能性があります。子どもにも副作用のリスクが高いため、使用は禁忌です。
ミノキシジル外用薬はAGA・FAGA両方に効果がありますが、医薬品は医師の診察のもとでそれぞれに必要な薬剤が処方されています。自分以外に処方された薬剤の併用や譲渡はお控えください。
Q:妊娠中に使用してはいけない薬はありますか。
ミノキシジル外用は、妊娠中に使うことができません。成分が母乳へ移行するため、授乳中もミノキシジル外用は使えません。
フィナステリド、デュタステリドは、妊娠中は特に胎児の生殖器奇形のリスクがあるため、絶対に使用してはいけません。破損したり濡れたりしている錠剤からも成分が経皮的に吸収されるため、家族がAGA治療を行なっている場合などには、妊娠中は錠剤を触らないように注意しましょう。
Q:治療による副作用はありますか?
FAGA治療を行う場合は、薬の副作用が起こる可能性があります。使用する主な医薬品にはミノキシジル外用がありますが、こちらは塗った箇所のかぶれや赤みなどの局所的な副作用が主なものです。薬に対するアレルギー症状で全身的な症状がなければ、基本的には軽い副作用ばかり。
どの薬剤やサプリメントでも、副作用はあります。使用前に十分に説明を受けた上で、納得して使うようにしましょう。また、ミノキシジル外用は使用後に初期脱毛を起こします。
初期脱毛を知らないと、薬を使い始めてむしろ脱毛が増えてしまって、自己判断で中止してしまうことが。そうなると、脱毛だけが起こって、その後FAGAが進行して治療の効果は全く見られなくなってしまいます。
ミノキシジルは、少なくとも数ヶ月〜6ヶ月程度は治療を継続して、効果を判断しましょう。
まとめ
FAGAは詳しいメカニズムや男性ホルモンの関連など、不明な点が多く、治療薬としても使えるものはまだ限られています。また、同じ脱毛症でも、FAGA以外に何らかの原因があって脱毛症を起こしている場合もあり、それらの病気を鑑別することも重要です。
脱毛症でお悩みの際には、ぜひ病院でご相談ください。治療選択肢は少ないながらも、ミノキシジル外用薬など、科学的にも有効性が示された薬剤もあります。即効性がある治療ではありませんが、根気強く継続することで、改善が見られます。
クリニックで相談しつつ、気長に治療を行っていきましょう。
参考文献
- 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. 2017年.
- Harcard Heath Publishing. Treating female pattern hair loss. https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/treating-female-pattern-hair-loss
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