皮膚の病気

天疱瘡と類天疱瘡って異なる病気なの?

落葉状天疱瘡
藤井 麻美

天疱瘡(てんぽうそう)と類天疱瘡(るいてんぽうそう)という病名を聞いたことがありますか?

どちらも水疱(水ぶくれ)ができる自己免疫性の疾患ですが、原因や治療法に違いが。

皮膚科領域では、日常生活で見慣れない漢字も多く登場し、「何て読んだら良いの?」と思うことも少なくありません。今回の場合も「類」という1文字が有るか無いかの違いで特徴が大きく異なってきます。

天疱瘡(てんぽうそう)と類天疱瘡(るいてんぽうそう)の違いをできるだけ分かりやすく解説しましょう。

皮膚の構造について

天疱瘡と類天疱瘡について解説する前に、意外と知らない皮膚の構造について解説していきましょう。

肌の構造

皮膚は身体の表面から身体の奥に向かって表皮(ひょうひ)・真皮(しんぴ)・皮下組織(ひかそしき)と分かれていて、表皮と真皮が接している部分を基底膜(きていまく)

さらに表皮は、角質層(かくしつそう)・顆粒層(かりゅうそう)・有棘層(ゆうきょくそう)・基底層(きていそう)の4層。表皮の厚さは平均すると約0.2mmで、構成する細胞の95%は角化(かくか)細胞です。角化細胞はケラチノサイトとも呼ばれています。

角化細胞と角化細胞を繋いでいるのがデスモソームで、基底層にある基底細胞と基底膜を繋いでいるのがヘミデスモソームです。

「へミ」とは英語で「hemi」と書き、「半分の」という意味が。ヘミデスモソームはデスモソームを半分にしたような構造になっているため、この名前が付いています。

原因の違い

皮膚の構造が分かったところで、続いて天疱瘡と類天疱瘡の原因の違いについて解説していきます。天疱瘡と類天疱瘡では、自己抗体という抗体が反応する部分に違いがあります。

天疱瘡の原因

天疱瘡は、角化細胞と角化細胞を繋いでいるデスモソームに対する自己抗体が産生されます。

デスモソームを構成する分子のうちで、表皮全層に分布しているデスモグレイン1に対する自己抗体が存在するのが落葉状(らくようじょう)天疱瘡で、表皮下層に分布しているデスモグレイン3に対する自己抗体が存在するのが尋常性(じんじょうせい)天疱瘡。

「落葉」とは落ち葉のことで、落ち葉のように表皮が剥がれ落ちることから名付けられました。尋常性とは皮膚科独特の表現で、「一般的にみられる」という意味です。

類天疱瘡の原因

類天疱瘡では、ヘミデスモソームに対する自己抗体が産生されます。主に皮膚に症状が出現する水疱性類天疱瘡と、主に粘膜に症状が出現する粘膜類天疱瘡に分類されます。

水疱性類天疱瘡の標的抗原は BP180(XVII 型コラーゲン:COL17)や BP230で、粘膜類天疱瘡の標的抗原はBP180(XVII 型コラーゲン)やラミニン332という物質です。

症状の違い

皮膚のどの部分を攻撃してしまうかで、原因と病名が異なることがわかりました。次は、天疱瘡と類天疱瘡の症状の違いについて説明していきます。

天疱瘡の症状

天疱瘡のうち、尋常性天疱瘡は中高年に好発(こうはつ・よく起きること)し、口腔内(口の中の)粘膜や全身で水疱やびらんができます。口腔内粘膜のびらんは有痛性(ゆうつうせい・痛みを伴うこと)であるのも特徴です。

口腔内びらん

落葉状天疱瘡は、破れやすい水疱ができ、これが乾燥して葉状の鱗屑(りんせつ)となり、落屑(らくせつ)となってぼろぼろと剥がれ落ちますが、口腔内に症状が出ることはまれです。

落葉状天疱瘡

※「びらん」とは、皮膚や粘膜の表皮が欠損し、その下にある組織が露出した状態のことで、一般的には「ただれている」などと表現されることもあります。

また、白く細かいかさぶたのような状態を鱗屑といい、それがフケのようにボロボロはがれ落ちると落屑となります。

類天疱瘡の症状

水疱性類天疱瘡は、近年の高齢化に伴い増加しています。年齢的には60歳以上、特に70歳代後半以上の高齢者に多いのですが、まれに18歳以下の若年者及び小児に起きる場合もあり、性差はありません。

類天疱瘡のうち、代表的な水疱性類天疱瘡では、比較的大型で破れにくい緊満性(きんまんせい)の水疱が表皮下に形成されます。「緊満性」とは中身が詰まってパンパンに張った状態という意味です。

水疱性類天疱瘡

経過や治療の違い

天疱瘡と類天疱瘡の経過や症状の違いについてはどうでしょう。一般的に、天疱瘡の方が重症度が高く、治療にも入院を要することが多いです。

前述した、落葉状天疱瘡で上昇する抗デスモグレイン1抗体と、尋常性天疱瘡で上昇する抗デスモグレイン3抗体は、保険適応で測定することが可能。

これらの抗体は診断にも有用ですが、その抗体価(抗体の量)はその後の病勢(びょうせい・病気の勢い)の評価にも有用です。

治療の初期には、水疱・びらんの範囲が治療効果指標になります。症状が治まり、水疱・びらんが消えたあとは、抗体価を指標にステロイド削減を考えていきます。

日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa30/q11.html

類天疱瘡の方が、天疱瘡と比較して早期に寛解状態(かんかいじょうたい・病気による症状が無くなった状態)になることが多いです。

一方で、高齢者に発症することが多く、ステロイド内服の副作用に注意が求められます。

また若年者に発症した類天疱瘡は治りにくい傾向があります。

ただ、最終的には、寛解する患者さんも多くいらっしゃるので、根気強く継続した治療が必要です。

日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「類天疱瘡」 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa15/q09.html

天疱瘡の経過と治療

尋常性天疱瘡の第一選択は、ステロイド全身投与(プレドニゾロン1mg/kg/日:1日に体重1kgに対して0.5mg投与するという意味)です。

プレドニゾロン

病気の勢いをPDAI(Pemphigus Disease Area Index)で評価しながら、ステロイドを漸減(ぜんげん=徐々に減らしていくこと)し、離脱や維持量投与を目指します。

難治性の場合には、免疫グロブリン大量静注療法(正常な免疫グロブリンを投与することで炎症を抑える治療法で、作用機序は複数の仮説が挙げられていますが、はっきりとは分かっていません。)。

さらに、血漿交換療法(血液の成分のうち自己抗体が含まれる血漿を交換する治療法)を併用。

局所はワセリンで保湿したり、ステロイド外用薬を用いて炎症を抑えたりします。

落葉状天疱瘡の治療は、尋常性天疱瘡の治療に準じますが、尋常性天疱瘡よりも症状が軽いことが多いです。ステロイドの投与量も少量で充分なことが多く、ステロイドの外用薬のみで有効な場合もあります。

類天疱瘡の経過と治療

水疱性類天疱瘡の治療にも、基本的にはステロイドを使用します。軽症の場合には、局所外用療法といい、ストロンゲストやベリーストロングという分類のステロイドの軟膏を皮膚に塗布。

これに加えて、テトラサイクリンやミノサイクリンという抗生剤を追加したり、DDS(ダプソン)の内服を追加したりします。

中等症や重症例と判定された症例や難治例では、ステロイドの内服によって治療を行います。

ステロイド単剤(たんざい・その薬剤のみで治療を行うこと)によって十分な効果が得られない場合には、免疫抑制剤、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法などを考慮する場合が。

天疱瘡と類天疱瘡の比較

どちらもステロイドを第一選択薬として使用しますが、天疱瘡のほうが重症度が高く入院を要する可能性が高いのに対して、類天疱瘡の方が比較的早期に寛解状態になりやすいです。

診断方法について

天疱瘡と類天疱瘡の診断方法について解説していきます。

天疱瘡の診断

天疱瘡は、

  • 臨床診断
  • 病理組織学的診断(病理組織による診断)
  • 免疫学的診断(病理組織を免疫染色という方法で染めて行う診断)

の3項目で診断します。

  • 臨床診断は、患者さんからの訴えや医師が観察した水疱などの臨床症状による診断です。
  • 病理組織学的診断は、皮膚生検(局所麻酔をした皮膚や粘膜の一部をメスで切り取って組織を採取する方法)で採取した組織を顕微鏡で観察して診断します。
  • 免疫学的診断は、皮膚生検で採取した組織を蛍光抗体法という方法で見えやすくして自己抗体の有無を観察します。

①目で見える臨床診断、②顕微鏡で見える病理診断、③自己抗体があることを証明する免疫学的な所見の3つがそろい、天疱瘡と診断されます。

 日本皮膚科学会ガイドライン:天疱瘡診療ガイドライン, 日皮会誌. 120(7),1443-1460, 2010. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913421_1.pdf

  • 臨床的診断項目
    1)皮膚に多発する、破れやすい弛緩性(しかんせい・破れやすい)水疱
    2)水疱に続発する(続いて起きる)進行性、難治性のびらん、あるいは鱗屑痂皮性局面(カサカサしたかさぶたのような皮膚)
    3)口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、あるいはびらん
    4)Nikolsky現象陽性(一見正常に見える皮膚を擦ると剥離や水疱が生じること)
  • 病理組織学的診断項目
    表皮細胞間接着障害(棘融解)による表皮内水疱を認める:デスモグレインが表皮細胞同士を接着しているので、デスモグレインに自己抗体が結合すると、病理組織で「棘融解(きょくゆうかい)」という現象が起きます。
  • 免疫学的診断項目
    1)病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部に IgG(ときに補体)の沈着を直接蛍光抗体法により認める。
    2)血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG自己抗体(抗デスモグレイン IgG自己抗体)を間接蛍光抗体法あるいは ELISA法により同定する。

類天疱瘡の診断

類天疱瘡も天疱瘡と同じように、

  • 臨床診断
  • 病理組織学的診断
  • 免疫学的診断

の3項目で診断します。

日本皮膚科学会ガイドライン:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドラインhttps://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf

  • 臨床的診断項目
    1)皮膚に多発する,破れやすい弛緩性水疱
    2)水疱に続発する進行性,難治性のびらん,あるいは鱗屑痂皮性局面(カサカサしたかさぶたのような皮膚)
    3)口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱,あるいはびらん
    4)Nikolsky現象陽性
  • 病理組織学的診断項目
    表皮細胞間接着障害(棘融解)による表皮内水疱を認める。
  • 免疫学的診断項目
    1)病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部に IgG(ときに補体)の沈着を直接蛍光抗体法により認める。
    2)血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG自己抗体(抗デスモグレイン IgG自己抗体)を間接蛍光抗体法あるいは ELISA法により同定する。

[判定及び診断]

  • ①項目のうち少なくとも 1項目と②項目を満たし,かつ③項目のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。
  • ①項目のうち 2項目以上を満たし、③項目の1)、2)を満たす症例を天疱瘡とする。

※IgGとは、抗体の一種です。

天疱瘡と類天疱瘡の組織学的な違い

天疱瘡の自己抗体は、表皮細胞と表皮細胞を繋ぐデスモグレインに対して産生されるので、水疱は表皮にできます。

一方で、類天疱瘡の自己抗体は、基底層にある基底細胞と基底膜を繋いでいるヘミデスモソームに対して産生されるので、水疱も表皮下水疱と呼ばれ、表皮の下層にできるのが特徴です。

天疱瘡の中でも落葉状天疱瘡は表皮上層〜角層下に水疱を形成しやすく、尋常性天疱瘡は基底層直上に形成されやすいという特徴があります。

注目されている新たな治療法

近年は、尋常性天疱瘡及び落葉状天疱瘡の治療薬として、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブなど)の有効性が報告されています。

 抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン®」難治性の尋常性天疱瘡及び落葉状天疱瘡に対する承認取得についてhttps://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211224170000_1181.html

CD20はB細胞表面に特異的発現をする分子です。抗CD20モノクローナル抗体はB細胞が、形質細胞に分化するのを阻害し、抗体産生を抑制。つまり、自分を攻撃してしまう抗体ができないようにするお薬です。

今後も、新たな治療法への期待が高まっています。

まとめ

名前の似ている天疱瘡と類天疱瘡の違いについて解説しました。

病理学的には、天疱瘡は細胞と細胞を横方向に繋いでいるデスモグレインに対する自己抗体が産生される病気で表皮に水疱ができやすいのが特徴。

類天疱瘡は基底層にある基底細胞と基底膜を繋いでいるヘミデスモソームに対する自己抗体が産生され、表皮下に水疱ができやすいのが特徴でした。

治療にはどちらもステロイドを第一選択薬として用いますが、天疱瘡のほうが重症度が高く入院を要する可能性が高いのに対して、類天疱瘡の方が比較的早期に寛解状態に。

ステロイド難治性の症例に対しては、新たな作用機序の薬も適応が進みつつあり、期待すべき分野です。

参考文献

1) Schmidt E, et al. Pemphigoid diseases. Lancet. 2013 Jan 26;381(9863):320-332. doi: 10.1016/S0140-6736(12)61140-4.Epub 2012 Dec 11.

2) 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「天疱瘡」 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa30/q11.html

3) 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「類天疱瘡」 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa15/q09.html

4) 日本皮膚科学会ガイドライン:天疱瘡診療ガイドライン, 日皮会誌. 120(7),1443-1460, 2010. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913421_1.pdf

5) 日本皮膚科学会ガイドライン:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドラインhttps://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf

6) 抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン®」難治性の尋常性天疱瘡及び落葉状天疱瘡に対する承認取得について
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211224170000_1181.html

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